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第II部 わが国の安全保障・防衛政策と日米同盟

2 南スーダンPKOにおける新たな任務の付与

1 経緯

わが国は、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に、12(平成24)年1月から17(平成29)年5月末まで南スーダン派遣施設隊を派遣していた。平和安全法制の施行以降、政府として現地の情勢及び新たな任務の追加に向けた訓練の状況を踏まえて総合的に検討した結果、派遣施設隊第11次要員からいわゆる「駆け付け警護」の任務を付与するとともに、宿営地の共同防護を行わせることとし、16(平成28)年11月15日に、国家安全保障会議(九大臣会合)の決定を経て、「南スーダン国際平和協力業務実施計画」の変更を閣議決定した。

2 新任務付与に関する基本的な考え方

前述の閣議決定に際し、政府は、いわゆる「駆け付け警護」や宿営地の共同防護などに関する政府の基本的な考え方1を示した。その概要は次のとおりである。

(1)前提

南スーダンにおける治安の維持については、原則として南スーダン治安当局と南スーダン政府軍が責任を有しており、これをUNMISSの部隊が補完しているが、これは専らUNMISSの歩兵部隊が担うものである。わが国が派遣しているのは、自衛隊の施設部隊であり、治安維持は任務ではない。

(2)いわゆる「駆け付け警護」

「駆け付け警護」については、自衛隊の施設部隊の近傍でNGOなどの活動関係者が襲われ、他に速やかに対応できる国連部隊などが存在しない、といった極めて限定的な場面で、緊急の要請を受け、その人道性及び緊急性に鑑み、応急的かつ一時的な措置としてその能力の範囲内で行うものである。

過去には、自衛隊が、東ティモールやザイール(当時。現在のコンゴ民主共和国)に派遣されていたときにも、邦人から保護を要請されたことがあったが、自衛隊は、十分な訓練を受けておらず、法律上の任務や権限が限定されていた中でも、できる範囲で、現場に駆け付け、安全な場所まで輸送するなど、邦人保護のため、全力を尽くしてきた2

「駆け付け警護」はリスクを伴う任務であるが、万が一にも、邦人に不測の事態があり得る以上、①「駆け付け警護」という、しっかりとした任務と必要な権限をきちんと付与し、②事前に十分な訓練を行ったうえで、しっかりと体制を整えた方が、邦人の安全に資するだけではなく、自衛隊のリスクの低減に資する面もあると考えている。

自衛隊は自己防護のための能力を有するだけであり、あくまでもその能力の範囲で、可能な対応を行うものである。

他国の軍人は、通常自己防護のための能力を有しているが、それでも対応困難な危機に陥った場合、その保護のために出動するのは、基本的には南スーダン政府軍とUNMISSの歩兵部隊であり、そもそも治安維持に必要な能力を有していない施設部隊である自衛隊が、他国の軍人を「駆け付け警護」することは想定されないものと考えている。

これまでの活動実績を踏まえ、派遣施設隊第11次要員から南スーダンにおける活動地域を「ジュバ及びその周辺地域」に限定する。「駆け付け警護」の実施も、この活動地域内に限定される。

(3)宿営地の共同防護

国連PKOなどの現場では、複数の国の要員が協力して活動を行うことが通常となっており、南スーダンにおいても、一つの宿営地を、自衛隊の部隊のほか、ルワンダなど、いくつかの部隊が活動拠点としている。

これまでは、宿営地に武装集団による襲撃があった場合でも、自衛隊は共同して対応することはできず、平素の訓練にも参加できなかった。

しかし、同じ宿営地にいる以上、他国の要員がたおれてしまえば、自衛隊員が襲撃されるおそれがある。他国の要員と自衛隊員は、いわば運命共同体であり、共同して対処した方が、その安全を高めることができるほか、平素からの共同訓練を通じ、宿営地全体としての安全性向上にもつながるものと考えられる。

このように、宿営地の共同防護は、厳しい治安情勢のもとで、自己の安全を高めるためのものである。これにより、自衛隊は、より円滑かつ安全に活動を実施することができるようになり、自衛隊に対するリスクの低減に資するものと考えている。

参照本章2節5項2(国際平和協力業務)III部2章3節2項2(国連南スーダン共和国ミッション)

1 「新任務付与に関する基本的な考え方」(16(平成28)年11月15日内閣官房、内閣府、外務省及び防衛省発表)

2 安倍内閣総理大臣は国会において、「過去、自衛隊が東ティモールや当時のザイールに派遣されていたときにも、不測の事態に直面した邦人から保護を要請されたことがありました。自衛隊は、十分な訓練もなく、任務や権限が限定された中でも邦人保護に全力を尽くしてくれました。実際の現場においては、自衛隊が近くにいて、助ける能力があるにもかかわらず何もしないというわけにはいかないのが現実です(中略)。しかし、これまでは法制度がないため、そのしわ寄せは結果として現場の自衛隊員に押し付けられてきました。本来あってはならないことであります。」と答弁している。(16(平成28)年11月28日参議院本会議 安倍内閣総理大臣答弁)