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第II部 わが国の安全保障・防衛政策と日米同盟

5 国際社会の平和と安定への貢献に関する枠組み

1 国際平和共同対処事態への対応

先般の法整備においては、国際社会の平和及び安全の確保のため、国際平和共同対処事態に際し、わが国が国際社会の平和と安全のために活動する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等を行うことができるよう、新たに国際平和支援法を制定した。かつて、わが国は旧テロ対策特別措置法・旧補給支援特別措置法28や旧イラク人道復興支援特別措置法29といった特別措置法(特措法)を制定し、インド洋における洋上補給活動等やイラクにおける人道復興支援活動等を行っていた。しかしながら、あらゆる事態への切れ目のない対応を可能にするという観点からは、具体的な必要性が発生してから改めて立法措置を行うよりも、一般法として整備することにより、国際社会の平和と安全のために活動する他国軍隊に対する支援活動をより迅速かつ効果的に行うことが可能となり、国際社会の平和及び安全に主体的かつ積極的に寄与することができるようになるものと考えている。

KEYWORD国際平和共同対処事態とは

国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国連憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、わが国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの

(1)要件

わが国が行う協力支援活動等の対象となる諸外国の軍隊等の活動について、次のいずれかの国連決議(総会又は安全保障理事会)の存在を要件としている。

ア 支援対象となる外国が国際社会の平和及び安全を脅かす事態に対処するための活動を行うことを決定、要請、勧告、又は認める決議

イ アのほか、当該事態が平和に対する脅威又は平和の破壊であるとの認識を示すとともに、当該事態に関連して国連加盟国の取組を求める決議

(2)対応措置

国際平和共同対処事態に際し、次の対応措置を実施することができることとしている。

ア 協力支援活動

諸外国の軍隊等に対する物品及び役務(補給、輸送、修理・整備、医療、通信、空港・港湾業務、基地業務、宿泊、保管、施設の利用、訓練業務及び建設)の提供

なお、重要影響事態安全確保法と同様、武器の提供は行わないものの、「弾薬の提供」と「戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備」を実施できることとしている。

イ 捜索救助活動

ウ 船舶検査活動(船舶検査活動法に規定するもの)

これまでは、周辺事態においてのみ船舶検査活動を実施し得るものとされていた30。しかし、船舶検査活動法が制定された00(平成12)年以降、国際社会において、大量破壊兵器や国際テロ組織の武器などの国境を越えた移動といった国際的脅威に対処するための船舶による検査活動の例が積み重ねられてきていることにかんがみ、国際平和支援法に規定する国際平和共同対処事態においても船舶検査活動が実施できることとした。

(3)武力行使との一体化に対する回避措置など

他国の武力の行使との一体化を回避するとともに、自衛隊員の安全を確保するため、次の措置を規定

  • 「現に戦闘行為が行われている現場」では活動を実施しない。ただし、遭難者が既に発見され、救助を開始しているときは、部隊等の安全が確保される限り当該遭難者にかかる捜索救助活動を継続できる。
  • 自衛隊の部隊等の長などは、活動の実施場所又はその近傍において戦闘行為が行われるに至った場合、又はそれが予測される場合には活動の一時休止などを行う。
  • 防衛大臣は実施区域を指定し、その区域の全部又は一部において、活動を円滑かつ安全に実施することが困難であると認める場合などには、速やかにその指定を変更し、又は、そこで実施されている活動の中断を命じなければならない。
(4)国会承認

事前の国会承認については例外なく求め、各議院の議決に7日以内(国会の休会中の期間を除く。)の努力義務を設けた。また、対応措置の開始から2年を超える場合には再承認が必要としている。

(5)武器使用権限

国際平和共同対処事態に際しての協力支援活動としての役務の提供又は捜索救助活動の実施において、自衛官は、いわゆる「自己保存型の武器使用」が可能である。また、宿営地に所在する者の生命又は身体を防護するための措置をとる諸外国の軍隊等の要員と共同して、武器を使用することができる。

2 国際平和協力業務

1992(平成4)年に制定された国際平和協力法は、わが国が国連を中心とした国際平和のための努力に積極的に寄与するため、国際連合平和維持活動(国連PKO)、人道的な国際救援活動、国際的な選挙監視活動の3つの活動に対し、適切かつ迅速な協力を行うための体制を整備するとともに、これらの活動に対する物資協力のための措置等を講ずることとしていた。また、これらの活動への参加に当たっての基本方針として、いわゆるPKO「参加5原則」が規定されている。

KEYWORDいわゆるPKO「参加5原則」とは

①紛争当事者の間で停戦の合意が成立していること、②国連平和維持隊が活動する地域の属する国及び紛争当事者が当該国連平和維持隊の活動及び当該国連平和維持隊へのわが国の参加に同意していること、③当該国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的な立場を厳守すること、④上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、わが国から参加した部隊は撤収することができること、⑤武器使用は要員の生命などの防護のための必要最小限のものを基本とすること。なお、先般の法改正に伴い、⑤については、「受け入れ同意が安定的に維持されると認められる場合、いわゆる「自己保存型の武器使用」及び自衛隊法第95条(武器等防護のための武器使用)を超えるものとして、いわゆる「安全確保業務」及びいわゆる「駆け付け警護」の実施に当たり武器使用が可能」とされた。

法制定当時は、国連が統括する国連PKOの枠組みのもとで伝統的な国家間紛争における停戦監視などを実施することを想定していた。しかし、国際社会が対処する紛争の性質が国内における衝突や、国家間の武力紛争と国内における衝突の混合型へと変化したことを受け、国際的な平和協力活動においても、紛争当事国の国造りに対する支援やこれを実施するために必要な安全な環境の創出が重要な役割となってきている。また、国連が統括しない枠組みでも国際的な平和協力活動が幅広く実施されるようになった31

こうした国際的な平和協力活動の多様化や質的変化を踏まえ、先般の法改正では、わが国として国際協調主義に基づく「積極的平和主義」のもと、国際社会の平和と安定により一層貢献するため、国連PKO等において実施できる業務の拡充や武器使用権限の見直しなどを行うとともに、国連が統括しない人道復興支援や安全確保などの活動(「国際連携平和安全活動」)にも十分かつ積極的に参加することができるよう、同活動にかかる規定を新設した。

(1)参加要件

ア 国連PKO

参加5原則の枠組みを維持しつつ、いわゆる「安全確保業務」及びいわゆる「駆け付け警護」の実施に当たっては、国連PKO等の活動が行われる地域の属する国などの受入れ同意について、当該業務などが行われる期間を通じた安定的維持を要件とした。

イ 国際連携平和安全活動

これまでの3つの活動(国連PKO、人道的な国際救援活動、国際的な選挙監視活動)に加えて協力が可能とされた国際連携平和安全活動は、その性格、内容などが国連PKOと類似したものであるため参加5原則を満たしたうえで、次のいずれかが存在する場合に参加可能とした。

  1. ① 国連の総会、安全保障理事会又は経済社会理事会が行う決議
  2. ② 次の国際機関が行う要請
  • 国連
  • 国連の総会によって設立された機関又は国連の専門機関で、国連難民高等弁務官事務所その他政令で定めるもの
  • 当該活動にかかる実績若しくは専門的能力を有する国連憲章第52条に規定する地域的機関又は多国間の条約により設立された機関で、欧州連合その他政令で定めるもの
  1. ③ 当該活動が行われる地域の属する国の要請(国連憲章第7条1に規定する国連の主要機関のいずれかの支持を受けたものに限る)
(2)業務内容

国連PKO等における業務について、これまでの停戦監視、被災民救援などの業務に加え、主に次の業務を追加・拡充した。

  • 防護を必要とする住民、被災民などの生命、身体及び財産に対する危害の防止及び抑止その他特定の区域の保安のための監視、駐留、巡回、検問及び警護(いわゆる「安全確保業務」)の追加
  • 活動関係者の生命又は身体に対する不測の侵害又は危難が生じ、又は生ずるおそれがある場合に、緊急の要請に対応して行う当該活動関係者の生命及び身体の保護(いわゆる「駆け付け警護」)の追加
  • 国の防衛に関する組織などの設立又は再建を援助するための助言又は指導などの業務の拡充
  • 活動を統括・調整する組織において行う業務の実施に必要な企画、立案、調整又は情報の収集整理(司令部業務)の拡充
(3)武器使用権限

ア 自己保存型の武器使用権限の拡充(宿営地の共同防護)

国連PKOなどの宿営地は、参加国の要員が宿営地外で活動するとき以外の生活の拠点であり、宿営地はその中に所在する者の生命又は身体の安全を図るいわば最後の拠点である。宿営地への襲撃など不測の事態においては、当該宿営地に宿営する自衛官がたとえ直接的な攻撃の対象とはなっていなくても、当該自衛官と他国の要員が相互に連携して防護し合い、共通の危険に対処することが不可欠となる。このことを踏まえ、先般の法改正では、いわゆる「自己保存型の武器使用」として、宿営地に宿営する者の防護という目的での武器使用を認めることとした32

イ いわゆる「駆け付け警護」のための武器使用権限

いわゆる「駆け付け警護」を行う場合は、その業務を行うに際し、自己又はその保護しようとする活動関係者の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器の使用を認めることとした(ただし、人への危害が許容されるのは、正当防衛・緊急避難に該当する場合のみ)。

ウ いわゆる「安全確保業務」のための武器使用権限

いわゆる「安全確保業務」を行う場合は、その業務を行うに際し、自己若しくは他人の生命、身体若しくは財産の防護又はその業務を妨害する行為の排除のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器の使用を認めることとした(ただし、人への危害が許容されるのは、正当防衛・緊急避難に該当する場合のみ)。

(4)国会承認

これまでの自衛隊の部隊等が行う停戦監視業務に加え、いわゆる「安全確保業務」についても事前の国会承認を原則とした(閉会中や衆議院が解散されている場合の事後承認は可)。

(5)隊員の安全確保

隊員の安全配慮規定を追加するとともに、実施要領において規定すべき事項に隊員の安全を確保する措置を追加した。

(6)その他の主要な改正事項
  • 自衛官の国連への派遣(国連PKOの司令官などの派遣)

    国連の要請に応じ、国連の業務であって、国連PKOに参加する自衛隊の部隊等又は外国軍隊の部隊により実施される業務の統括に関するものに従事させるため、内閣総理大臣の同意を得て、自衛官を派遣することを可能33とした。

  • 大規模災害に対処する米軍等に対する物品又は役務の提供34

    自衛隊の部隊等と共に同一の地域に所在して大規模な災害に対処する米国・オーストラリアの軍隊から応急の措置として要請があった場合は、国際平和協力業務などの実施に支障のない範囲で、物品又は役務の提供を可能とした35

3 国際緊急援助活動

海外の地域、特に開発途上にある地域において大規模な災害などが発生し、被災国政府又は国際機関からの派遣の要請があった場合に、外務大臣は、派遣が適当であると認めるときは、要請の内容などを勘案して防衛省を含む関係行政機関の長及び国家公安委員会と協議を行う。

外務大臣は、上記の協議を行った場合において、特に必要があると認めるときは、自衛隊の部隊などによる活動に関し、協力を求めるため、防衛大臣と協議を行う。

防衛大臣は、協議に基づき、自衛隊の部隊などに、救助活動、医療活動、人員又は物資の輸送を行わせることができる36

28 テロ対策特別措置法の正式な法律の名称は、「平成13年9月11日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法」
補給支援特別措置法の正式な法律の名称は、「テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法」

29 正式な法律の名称は、「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」

30 船舶検査活動法の制定当時、周辺事態の場合以外における船舶検査活動の実施については、別途の検討課題として位置付けていた(00(平成12)年11月28日 参議院外交防衛委員会 河野外務大臣(当時)答弁)。

31 欧州連合の要請に基づいて実施されたアチェ監視ミッション(AMM)や、国連事務総長の支持があり、領域国の要請に基づいて実施されたソロモン諸島地域支援ミッション(RAMSI)などがある。

32 最後の拠点である宿営地を防護する武装した要員は、いわば相互に身を委ねあって対処する関係にあるといった特殊な事情が存在するため、自己保存型の武器使用権限が認められる。

33 この自衛官の派遣は、派遣される自衛官が従事することとなる業務にかかる国連PKOが行われる地域の属する国及び紛争当事者の当該国連PKOが行われることについての同意(紛争当事者が存在しない場合にあっては、当該国連PKOが行われる地域の属する国の同意)が当該派遣の期間を通じて安定的に維持されると認められ、かつ、当該派遣を中断する事情が生ずる見込みがないと認められる場合に限ることとしている。

34 10(平成22)年のハイチ大震災を受け、防衛省・自衛隊はハイチPKO(MINUSTAH)に参加したが、ハイチにおいて国連PKOの枠外で災害救援活動に従事する米軍に対し、国内法上の根拠が存在せず、物品役務の提供を見送ったことがある。

35 17(平成29)年6月の国際平和協力法の改正により、英国の軍隊も対象に含めることとされた。

36 被災国内において、治安の状況などによる危険が存在し、国際緊急援助活動又はこれにかかる輸送を行う人員の生命、身体、当該活動にかかる機材などを防護するために武器の使用が必要と認められる場合には、国際緊急援助隊を派遣しないこととしている。したがって、被災国内で国際緊急援助活動などを行う人員の生命、身体、当該活動にかかる機材などの防護のために、当該国内において武器を携行することはない。