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第II部 わが国の安全保障・防衛政策と日米同盟

3 公共の秩序の維持や武力攻撃に至らない侵害への対処など

1 治安出動
(1)命令による治安出動

内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもっては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができ、原則として、出動を命じた日から20日以内に国会に付議して、その承認を求めなければならない。

(2)要請による治安出動

都道府県知事は、治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める場合には、当該都道府県公安委員会と協議の上、内閣総理大臣に対し、部隊等の出動を要請することができる。内閣総理大臣は、出動の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等の出動を命ずることができる。

(3)武器使用権限など

自衛官の職務の執行に際し、警察官職務執行法(「警職法」)が準用され、同法第7条に基づき武器を使用18することができる。このほか、一定の要件19を満たす場合には、事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる20

参照III部1章2節4項(ゲリラや特殊部隊などによる攻撃への対応)

2 海上警備行動
(1)概要

防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる。

(2)武器使用権限など

自衛官の職務の執行に際し、警職法第7条の規定が準用され、武器を使用することができる。また、海上保安庁法の一部の規定21が準用され、付近にある人及び船舶に対する協力要請や船舶に対する立入検査などの権限を行使することができるほか、一定の要件を満たした場合に船舶を停船させるために武器を使用することができる。

参照III部1章2節1項(周辺海空域における安全確保)

3 海賊対処行動
(1)概要

防衛大臣は、海賊行為に対処するため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において海賊行為に対処するため必要な行動を命ずることができる。承認を受けようとするときは、対処要項を作成して内閣総理大臣に提出する。

(2)武器使用権限

自衛官の職務の執行に際し、警職法第7条に基づき、武器を使用することができるほか、民間船舶に接近するなどの海賊行為を行っている船舶の進行を停止するために他の手段がない場合、その事態に応じ合理的に必要な限度において武器を使用することができる。

参照III部2章2節1項(海賊対処への取組)

4 弾道ミサイル等に対する破壊措置

わが国に対する武力攻撃として弾道ミサイルなど22が飛来する、又は存立危機事態において弾道ミサイルなどが飛来する場合であって、「新三要件」が満たされるときには、自衛隊は、防衛出動により対処することができる。一方、わが国に弾道ミサイルなどが飛来するものの、武力攻撃と認められない場合は、防衛大臣は、次の措置をとることができる。

(1)防衛大臣は、弾道ミサイルなどがわが国に飛来するおそれがあり、その落下によるわが国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると判断する場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、弾道ミサイルなどがわが国に向けて現に飛来したときには、当該弾道ミサイルなどをわが国領域又は公海の上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる。

(2)また、前述(1)の場合のほか、発射に関する情報がほとんど得られなかった場合などのように、事態が急変し、防衛大臣が内閣総理大臣の承認を得る時間がない場合も考えられる。防衛大臣は、このような場合に備え、平素から緊急対処要領を作成して内閣総理大臣の承認を受けておくことができ、防衛大臣はこの緊急対処要領に従い、一定の期間を定めたうえで、あらかじめ自衛隊の部隊に対し、弾道ミサイルなどがわが国に向けて現に飛来したときには、当該弾道ミサイルなどをわが国領域又は公海の上空において破壊する措置をとるべき旨を命令しておくことができる。

参照図表II-3-2-5(弾道ミサイルなどへの対処の流れ)、III部1章2節3項(弾道ミサイル攻撃などへの対応)

図表II-3-2-5 弾道ミサイルなどへの対処の流れ

5 領空侵犯に対する措置

防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、領空侵犯機を着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるために必要な措置(誘導、無線などによる警告、武器の使用23など)を講じさせることができる。

参照III部1章2節1項(周辺海空域における安全確保)

6 在外邦人等の保護措置・輸送

これまで、外国における緊急事態に際しての在外邦人等の保護に当たっては、生命又は身体の保護を要する在外邦人等を安全な地域に「輸送」することに限られ、たとえテロリストの襲撃などを受けた場合であっても、武器使用を伴う在外邦人等の救出はできなかった。このようなことを踏まえ、先般の法改正により、生命又は身体に危害が加えられるおそれがある在外邦人等について、輸送だけでなく、警護、救出などの「保護措置」も次の要件のもとで可能とした。

(1)手続

外務大臣からの依頼を受け、外務大臣と協議し、内閣総理大臣の承認を得て、防衛大臣の命令により実施

(2)実施要件

次の全てを満たす場合に保護措置を行うことが可能

ア 保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行われることがないと認められること

イ 自衛隊が当該保護措置(武器の使用を含む。)を行うことについて、当該外国など24の同意があること

ウ 予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行うための部隊等と当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること

(3)武器使用権限

自衛官は、保護措置を行う職務の実施に際し、自己若しくは当該保護措置の対象である邦人等の生命若しくは身体の防護又はその職務を妨害する行為の排除のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合に、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器の使用が可能(いわゆる「任務遂行型の武器使用権限25」を含むもの。ただし、人への危害が許容されるのは、正当防衛・緊急避難に該当する場合のみ)

参照III部1章2節9項(在外邦人等の保護措置及び輸送への対応)

7 米軍等の部隊の武器等の防護

先般の法改正により、自衛隊法に第95条の2の規定を追加し、自衛隊と連携してわが国の防衛に資する活動に現に従事している米軍等の部隊の武器等を防護できることとした。16(平成28)年12月には、本条の基本的な考え方、本条の運用に際しての内閣の関与などについて定める「自衛隊法第95条の2の運用に関する指針」が、国家安全保障会議において決定された。

(1)対象

米軍その他の外国の軍隊その他これに類する組織の部隊であって、自衛隊と連携してわが国の防衛に資する活動(共同訓練を含み、現に戦闘行為が行われている現場で行われるものを除く。)に現に従事しているものの武器等

(2)手続など

米軍等からの要請があった場合で防衛大臣が必要と認める場合に限り、自衛官が警護を実施

(3)武器使用権限

自衛官は、前述(1)の武器等を職務上警護するに当たり、人又は武器等を防護するため必要と認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる(ただし、人への危害が許容されるのは、正当防衛・緊急避難に該当する場合のみ)。

参照3節3項(米軍等の部隊の武器等防護(自衛隊法第95条の2)の運用開始)

8 米軍に対する物品役務の提供の拡大

先般の法改正により、米軍に対する物品又は役務の提供に関して、対象となる米軍の範囲や物品の範囲を次のとおり拡大した。

(1)対象となる米軍の範囲

ア 次の行動又は活動を実施する自衛隊の部隊等と共に現場に所在して同種の活動を行う米軍を対象に追加

  • 在日米軍基地などの施設及び区域の警護
  • 海賊対処行動
  • 弾道ミサイル等を破壊する措置をとるため必要な行動
  • 機雷その他の爆発性の危険物の除去及びこれらの処理
  • 外国における緊急事態に際しての在外邦人等の保護措置
  • 外国の軍隊の動向に関する情報その他のわが国の防衛に資する情報の収集のための船舶又は航空機による活動

イ 日米の二国間訓練に参加する米軍に加え、日米を含む3か国以上の多国間訓練に参加する米軍を対象に追加

ウ 自衛隊施設に一時的に滞在する米軍に加え、自衛隊の部隊等が日常的な活動のため米軍施設に一時的に滞在する場合に共に現場に所在する米軍を対象に追加

(2)提供の対象となる物品の範囲

弾薬を追加(武器は引き続き含まない。)

参照3節4項(新たな日米物品役務相互提供協定(ACSA)などの締結)

18 警職法第7条(武器の使用)においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。ただし、正当防衛や緊急避難などに該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならないとされている。

19 ここでいう「一定の要件」とは、職務上警護する人などが暴行・侵害を受け又は受けようとする明白な危険があり、武器を使用するほか、他にこれを排除する適当な手段がない場合などを指す。

20 治安出動においては、海上保安庁法第16条、同法第17条第1項、同法第18条及び同法第20条第2項の規定が準用されている。

21 海上保安庁法第16条、同法第17条第1項、同法第18条及び同法第20条第2項

22 弾道ミサイルその他その落下により、人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であって、航空機以外のものをいう。

23 武器の使用について明文の規定はないが、「必要な措置」の中に含まれると解される。

24 国際連合の総会又は安全保障理事会の決議に従って、当該外国において施政を行う機関がある場合にあっては、当該機関

25 いわゆる「自己保存型の武器使用権限」が、自己等(自己、共に現場に所在する隊員又は自己の管理の下に入った者)を防護するためにのみ武器の使用が認められるものをいうのに対し、いわゆる「任務遂行型の武器使用権限」は、そのような自己保存を超えて、例えば他人の生命、身体等を防護するため、又はその任務を妨害する行為を排除するために武器の使用が認められるものをいう。