Contents

第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

防衛白書トップ > 第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 > 第3章 国際社会の課題 > 第5節 サイバー空間をめぐる動向 > 1 サイバー空間と安全保障

第5節 サイバー空間をめぐる動向

1 サイバー空間と安全保障

近年の情報通信技術(ICT:Information and Communications Technology)の発展により、インターネットなどの情報通信ネットワークは人々の生活のあらゆる側面において必要不可欠なものになっている。一方、重要インフラの情報通信ネットワークに対するサイバー攻撃1は、人々の生活に深刻な影響をもたらしうるものである。

サイバー攻撃の種類としては、情報通信ネットワークへの不正アクセスやメール送信などを通じたウィルスの送り込みによる機能妨害や情報の改ざん・窃取、大量のデータの同時送信による情報通信ネットワークの機能阻害などのほか、電力システムなどの重要インフラへのシステムダウンや乗っ取りを目的とした攻撃などがあげられる。また、インターネット関連技術は日進月歩であり、サイバー攻撃2も日に日に高度化、巧妙化している。

軍隊にとって情報通信は、指揮中枢から末端部隊に至る指揮統制のための基盤であり、ICTの発展によって情報通信ネットワークへの軍隊の依存度が一層増大している。また、軍隊は任務遂行上、電力をはじめとする様々な重要インフラに依存しており、これらの重要インフラに対するサイバー攻撃が、任務の大きな阻害要因になり得る。そのため、サイバー攻撃は敵の軍隊の弱点につけこんで、敵の強みを低減できる非対称的な戦略として位置づけられつつあり、多くの外国軍隊がサイバー空間における攻撃能力を開発しているとされている。特に、中国及びロシアは、ネットワーク化された部隊の妨害やインフラの破壊などのために、軍のサイバー攻撃能力を強化していると指摘されている3

また、国家などに害を加えようと意図する主体(非国家主体を含む)は、物理的な手法による直接攻撃よりも、サイバー空間を通じた攻撃を選択する方がより容易である場合が多いと認識している可能性が高い4。さらに、情報収集目的のために他国の情報通信ネットワークへの侵入が行われているとの指摘があり、より多くの機微な情報がサイバー空間に保管されるようになるにつれ、こうしたサイバー攻撃による情報窃取の被害はより重大なものとなってきている。

1 サイバー攻撃の標的には、大きくは国家間などの地球規模のほか、国や政府機関、地域社会、経済界やインフラ、企業、個人まで様々なものがある。そのためサイバー攻撃への対策は、それぞれの規模に対して最適な対策が必要であると言われている。

2 12(平成24)年9月、「防衛省・自衛隊によるサイバー空間の安定的・効果的な利用に向けて」では、サイバー攻撃の特徴として①多様性:実行者、手法、目的、状況などが多様であること、②匿名性:実行者の隠蔽(いんぺい)・偽装が容易であること、③隠密性:攻撃の存在を察知し難いものや、被害発生の認識すら困難であること、④攻撃側の優位性:手法によっては攻撃手段の入手が容易であることや、ソフトウェアのぜい弱性を完全に排除することが困難であること、⑤抑止の困難性:報復攻撃や防御側の対策による抑止効果が小さいことなどがあげられている。

3 米国防情報局長官世界脅威評価(18(平成30)年3月)による。

4 16(平成28)年2月、オバマ米大統領(当時)が発表した「サイバーセキュリティ国家行動計画」による。