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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

5 イランの核問題

イランの核問題は、国際的な不拡散体制における重大な課題である。02(平成14)年、イランが長期間にわたり、IAEAに申告することなく核兵器の開発につながり得るウラン濃縮などの活動を行っていたことが明らかとなった。03(平成15)年以降、イランに対し、ウラン濃縮活動の停止などを求めるIAEA理事会決議及び国連安保理決議が採択されてきたにもかかわらず、イランはウラン濃縮関連活動を継続していた。

しかし、13(平成25)年6月、イランの大統領選挙においてローハニ候補が選出され、E3+3(英仏独米中露)との協議を進めた結果、13(平成25)年11月、核問題の包括的な解決に向けた「共同作業計画」(JPOA:Joint Plan of Action)の発表に至り、14(平成26)年1月から同計画の第一段階の措置の履行が開始された37

15(平成27)年4月2日には、スイス・ローザンヌで行われた協議の結果、最終合意の主要な要素について合意に至り、同年7月14日、ウィーンにおいてイランの核問題に関する最終合意「包括的共同作業計画」(JCPOA:Joint Comprehensive Plan of Action)が発表された。これを受け、同年7月20日にはJCPOAを承認する国連安保理決議第2231号が採択された。本合意においては、イラン側が濃縮ウランの貯蔵量及び遠心分離機の数の削減や、兵器級プルトニウム製造の禁止、IAEAによる査察などを受け入れる代わりに、過去の国連安保理決議の規定が終了し、また、米国・EUによる核関連の独自制裁の適用の停止又は解除がなされることとされた38

16(平成28)年1月16日、IAEAがイランによるJCPOAの履行開始に必要な措置の完了を確認する報告書を発表したことを受け、米国はイランに対する核関連制裁を停止し、EUは一部制裁を終了したほか、安保理決議第2231号に基づき、イランの核問題に係る過去の国連安保理決議の規定が終了した。

その後も、IAEAは、イランが合意を順守していることを累次確認しているが、トランプ米大統領は18(平成30)年5月、現在のイランとの合意では、完全に履行されたとしても短期間で核兵器を完成させる寸前までたどり着ける、また、弾道ミサイル開発への対応に失敗しているなどと述べ、米国は合意から離脱する旨表明し、制裁の再開に向けた作業を開始すると発表した。トランプ大統領は、イランの核の脅威への真の包括的かつ永続的な解決を同盟国と模索するとしており、今後の米国の動向が注目される。

37 第一段階の措置は、6か月間にわたり、イランが、(1)現存する濃度約20%の濃縮ウランの備蓄のうち、半分を酸化物として保持し、残りを5%未満に希釈する、(2)5%を超えるウラン濃縮を行わない、(3)ウラン濃縮施設や重水炉における活動を進展させない、(4)IAEAによる監視強化を受け入れることなどを実施する見返りとして、EU3+3が限定的な制裁緩和を行うことなどを内容とする。

38 JCPOAにおけるイランに対する主な核関連の制約としては、ウラン濃縮関連では、ウラン濃縮のための遠心分離機を5,060基以下に限定すること、ウラン濃縮の上限を3.67%にするとともに、保有する濃縮ウランを300kgに限定すること、プルトニウム製造に関しては、アラク重水炉は兵器級プルトニウムを製造しないよう再設計・改修し、使用済核燃料は国外へ搬出すること、研究開発を含め使用済核燃料の再処理は行わず、再処理施設も建設しないことなどが含まれる。ケリー米国務長官(当時)によれば、本合意により、イランのブレークアウトタイム(核兵器1個分の核燃料の製造にかかる期間)は、JCPOA以前の90日以下から、1年以上になる。また、JCPOAはあくまで核問題に係る合意であるため、国際テロ、ミサイル、人権問題などに係る制裁は停止又は解除されるものに含まれない。これに対し、イスラエルのネタニヤフ首相は15(平成27)年10月の国連総会の一般討論演説において、イランの核合意は戦争の可能性を高めているとして激しく非難した。また、米国においては、議会の過半数を占める共和党が合意に反対していたが、大統領の拒否権を覆す上下両院での3分の2以上の不承認支持には至らず、合意の不承認は回避された。