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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 パキスタン

1 全般

パキスタンは、南アジア地域の大国であるインドと、情勢が不安定なアフガニスタンに挟まれ、中国及びイランとも国境を接するという地政学的に重要かつ複雑な環境に位置している。特に、アフガニスタンとの国境地域ではイスラム過激派が国境を超えて活動を行っており、テロとの闘いにおけるパキスタンの動向には国際的な関心が高い。

パキスタン政府は、アフガニスタンにおける米国の活動に協力しているが、これに対する国内の反米感情の高まりやイスラム過激派による報復テロの発生により、国内治安情勢が悪化するなど、困難な政権運営を余儀なくされている。シャリフ首相(当時)は、武装勢力との対話方針を掲げ和平協議を行う一方、14(平成26)年6月、武装勢力に対する軍事作戦も実施した。

さらに、同年のペシャワールでの学校襲撃事件を受け、軍による掃討作戦の継続・強化を表明した。その後、テロによる被害は大きく減少したとされるものの、例えば、16(平成28)年1月には、ペシャワール北東に位置するチャルサダにおいて大学を標的とした襲撃事件が発生し、多数の学生らが死傷するなど、その後もテロが散発的に発生している。

2 軍事

パキスタンは、インドの核に対抗するために自国が核抑止力を保持することは、安全保障と自衛の観点から必要不可欠であるとの立場をとっている。また、過去にはいわゆるカーン・ネットワークが核関連物資や技術の拡散に関与していた12

パキスタンは、核弾頭を搭載可能な弾道ミサイル及び巡航ミサイルの開発も進めており、近年、試験発射を行っている。15(平成27)年には、弾道ミサイル「シャヒーン3」の発射試験を3月と12月の2回にわたり実施したほか、16(平成28)年1月には巡航ミサイル「ラード」の航空機からの発射試験を行った。また、17(平成29)年1月には、MIRV化されたとする弾道ミサイル「アバビール」の発射試験を行うとともに、前年に続き、18(平成30)年3月にも、潜水艦発射型の巡航ミサイル「バーブル」の発射試験を行っており、ミサイルの戦力化を着実に進めているとみられる13

パキスタンは世界第9位の兵器輸入国であり、その7割が中国からの輸入であると指摘されている14。中国からは、スウォード級フリゲート4隻を導入したほか、JF-17戦闘機の共同開発を行い、自国生産により69機導入している。最近も新たにフリゲート4隻や潜水艦8隻を購入する交渉を行っているとされる。米国からは、11(平成23)年までにF-16C/D戦闘機計18機を導入しているものの、近年の関係悪化により、兵器の輸入は減少傾向にあると指摘15されている。

3 対外関係
(1)インドとの関係

参照2章7節1項3((1)パキスタンとの関係)

(2)米国との関係

パキスタンは、アフガニスタンにおける米軍の活動を支援するほか、アフガニスタンとの国境地域においてイスラム過激派の掃討作戦を行うなど、テロとの闘いに協力している。これを評価し、04(平成16)年、米国はパキスタンを「主要な非NATO同盟国」に指定した。

10(平成22)年以降、両国が行っていた戦略対話や米国による対パキスタン軍事支援は、11(平成23)年5月の米軍によるパキスタン領内におけるウサマ・ビン・ラーディン掃討作戦をめぐる米パ関係の悪化により中断していたが、13(平成25)年10月、オバマ米大統領(当時)とシャリフ首相(当時)による首脳会談などにおいてそれらの再開が確認され、14(平成26)年1月には3年ぶりの戦略対話も実施された。

一方で、パキスタンは米国に対し、国内でのイスラム過激派に対する無人機攻撃の即時停止などを求めて、たびたび抗議を行っている16

これに対し米国は、パキスタンがアフガニスタンで活動するイスラム過激派の安全地帯を容認していることが、米国への脅威となっているとして、パキスタンを非難してきた。17(平成29)年8月、トランプ米大統領は、米国を標的にするテロリストをかくまうような国とのパートナーシップは成立し得ないとの立場を示し、同月、パキスタンへの対外軍事援助2億500万ドルの停止を発表した。これに続き、18(平成30)年1月には、パキスタンへの安全保障関連の援助の停止が発表された。この停止は、パキスタンがアフガニスタンのタリバンなどのテロ組織に対し、断固とした措置を講ずるまで継続されるとしており、両国の今後の対応が注目される。

(3)中国との関係

参照2章3節3項5((3)南アジア諸国との関係)

12 パキスタンは、1970(昭和45)年代から核開発を開始したとみられており、1998(平成10)年、バルチスタン州チャガイ近郊において同国初の核実験を行った。また、パキスタンの核開発を主導していたカーン博士らにより、北朝鮮、イラン、リビアに主にウラン濃縮技術を中心とするパキスタンの核関連技術が移転されていたことが、04(平成16)年に明らかになった。

13 パキスタンの各種ミサイルについては、以下のように指摘されている。
「ナスル」(ハトフ9):射程約70km、移動型で1段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル
「ガズナビ」(ハトフ3):射程約290km、移動型で1段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル
「シャヒーン1」(ハトフ4):射程約750km、移動型で1段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル
「ガウリ」(ハトフ5):射程約1,300~1,800km、移動型で1段式液体燃料推進方式の弾道ミサイル
「シャヒーン3」(ハトフ6):射程約2,750km、移動型で2段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル
「アバビール」:射程約2,200km、新型の弾道ミサイル
「ラード」(ハトフ8):射程約350kmの巡航ミサイル
「バーブル」(ハトフ7):射程約750kmの超音速巡航ミサイル

14 SIPRIによる。

15 SIPRIによる。

16 11(平成23)年11月、NATO軍によるパキスタン国境哨所の空爆によってパキスタン軍兵士が死傷する事件が発生し、これに強く反発したパキスタンは、同国内のアフガニスタンへの国際治安支援部隊(ISAF:International Security Assistance Force)の補給路を封鎖するなどの措置をとった。このほか、13(平成25)年9月に開催された与野党党首による全党会議において、米国による無人機攻撃が明確な国際法違反であると非難する決議を採択したと伝えられている。