Contents

第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

5 対外関係

1 全般

ロシアは、国際関係の多極化、グローバルパワーのアジア太平洋地域へのシフトのほか、国際関係において力がますます重要になってきているとの認識のもと、国益を実現していくことを対外政策の基本方針としている33。また、外交は国家安全保障戦略に基づき、国益の擁護のため、オープンで合理的かつ実利的に行うこととしており、無駄な対立は避け、世界各地にパートナー国をできる限り多数獲得するなど、多角的な外交を目指している34

このため、ロシアは、独立国家共同体(CIS:Commonwealth of Independent States)諸国との間で経済的な連携の強化を図っている35。また、ロシアは、世界経済の牽引役と認識するアジア太平洋諸国とも関係を強化すべきとしており36、昨今、中国とインドを関係強化を図るべき国として重視している。

一方、欧米諸国との間での協力関係の強化のための取組については、ウクライナ危機を受け、引き続き試練に直面しているが、シリア情勢をめぐっては、シリアの安定やISILをはじめとする国際テロ組織への対応の観点から、協力の可能性を模索している。

今後ロシアが、経済面を中心とした実利を重視した対外姿勢と、安全保障面を含む政治・外交的側面をどのようにバランスし、各国との関係をどう進展させていくか、注目される。

2 アジア諸国との関係

ロシアは、多方面にわたる対外政策の中で、アジア太平洋地域の意義が増大していると認識し、シベリア及び極東の社会・経済開発37や安全保障の観点からも同地域における地位の強化が戦略的に重要としている38。プーチン大統領は12(平成24)年5月の外交に関する大統領令で、東シベリア及び極東の社会経済的発展を加速するため、アジア太平洋地域の統合プロセスに参加していく方針を掲げ、中国39、インド、ベトナムのほか、わが国や韓国などとの関係発展に努めていくとしている。また、戦略的安定性及び対等な戦略的パートナーシップの実現のため、特に、中国との包括的パートナーシップ関係及び戦略的協力関係をグローバルかつ地域的な安定性維持のための重要な要素とみなし発展させるとともに、インドとの優先的な戦略的パートナーシップ関係に重要な役割を付与することとしている40

このような方針のもと、ロシアは、各種のアジア太平洋地域の枠組みに参加している41。なお、15(平成27)年以降、ロシア東方の経済発展の加速を促すとともに、太平洋地域の国際協力を拡大するための「東方経済フォーラム」がウラジオストクで開催されている。

中国との関係では、15(平成27)年にS-400地対空ミサイルやSu-35戦闘機といった新型装備の輸出契約を締結したほか、2012年以降、中露海軍共同演習「海上協力」を実施するなど、緊密な軍事協力を進めている。インドとの関係では、16(平成28)年にS-400地対空ミサイルやグリゴロヴィッチ級フリゲートといった新型装備の輸出契約を結んでおり、第5世代戦闘機や超音速巡航ミサイル「ブラモス」の共同開発も行っているほか、03(平成15)年以降、陸軍や海軍による露印共同演習「インドラ」を行うなど、幅広い軍事協力を継続させている42。また、わが国との関係では、互恵的協力を発展させるとしており、近年、政治、経済、安全保障など、多方面において働きかけを強めている。

3 ウクライナをめぐる情勢

14(平成26)年以降、ウクライナはロシアとの対立が続く中、それまでの非同盟主義を転換させ、NATO加盟に向けた取り組みを進めており、18(平成30)年3月、ポロシェンコ大統領はウクライナがNATO加盟に向けた行動計画(MAP)43に参加する意向である旨改めて述べた。ウクライナ東部においては、ウクライナ軍と分離派勢力との間で散発的な戦闘が続いており、14年(平成26)年4月以降、死亡者が1万人を超えたとされる。ミンスク合意に定めれられた分離派支配地域における地方選挙の実施や自治権拡大などの政治プロセスも滞っており、クリミア「併合」や不安定化したウクライナ東部の状況は固定化の様相を呈している。また、ウクライナ東部に係る国連ミッションを設置する提案(平和維持部隊などの派遣)をめぐっては、分離ライン沿いで活動させるとのロシアの主張に対し、米国などはロシアとウクライナとの国境を含む被占領地域全体で活動させることを主張しており、今後の動向が注目される。

4 シリアをめぐる情勢

15(平成27)年9月以降、ロシア軍は、シリア国内のタルトゥース海軍基地及びフメイミム航空基地を拠点として確保しつつ、戦闘爆撃機や長距離爆撃機による空爆のほか、カスピ海や地中海に展開した水上艦艇や潜水艦からの巡航ミサイル攻撃を実施してきている44。ロシア国防省は、16(平成28)年11月、地中海東部に展開した空母「アドミラル・クズネツォフ」がロシア海軍史上初めて、空母から艦載機を発艦させ地上の標的に対する攻撃を実施した旨発表した。この空母艦載機は2ヶ月間にわたる戦闘活動において420回出撃し、1,252箇所のテロリスト施設を空爆したとされるが、その多くは空母からの空爆開始から間もなくフメイミム航空基地に移動し、同基地から空爆を実施していたとの指摘もあり、空母としての作戦能力として評価すべきかは疑問の余地がある。

空母「アドミラル・クズネツォフ」

空母「アドミラル・クズネツォフ」の写真

【Jane's By IHS Markit】

〈諸元、性能〉

満載排水量:5万9,439トン

最大速力:30ノット(時速約56km)

搭載機:戦闘機・攻撃機最大20機

主要兵装:艦対艦ミサイル(最大射程550km)

〈概説〉

1990(平成2)年に就役し、ロシア海軍が現在保有する唯一の空母であり、艦載機はスキージャンプ方式により発艦。現在改修中とされ、21(平成33)年に復帰予定

シリア政府軍、反体制派、クルド人勢力及びISILによる戦闘が続いていた戦略的要衝のアレッポは、16(平成28)年12月にシリア政府軍が制圧し、同月末にシリア全土でロシア及びトルコ主導によるアサド政権と反体制派との間の停戦合意が発効した。17(平成29)年1月以降、ロシアはISIL及び「ハヤート・タハリール・シャム」(HTS)(旧ヌスラ戦線)との闘いを継続しつつ、トルコ及びイランとともにシリア和平協議をカザフスタンのアスタナで開催し、停戦監視機構や緊張緩和(de-escalation areas)の設置を表明するなど、将来的な政治的解決を見据えた取組もみせながら、中東での存在感を増してきている。

同年12月には、プーチン大統領がシリアの基地を訪問し、シリアにおけるテロとの戦いがおおむね解決されたこと、シリア内の2つの基地を今後も恒常的に運用していくこと、シリアのロシア軍部隊の大半をロシアへ再配置させることを決定したことなどを発表した。ロシアはシリアにおける軍事作戦を縮小させつつ、政治的解決に向けたプロセスをより重視していくとみられ、引き続き、シリアをはじめとする中東への影響力拡大に向けた動きが注目される。

参照3章1節(国際テロリズム・地域紛争などの動向)

ロシアによる軍事介入の目的は、①ロシアと友好的なアサド政権の存続、②シリアにおけるロシア軍基地などの権益の防衛、③ISILをはじめとする国際テロ組織による脅威への対応及び④中東地域での影響力確保などが考えられ、これまでのところ、アサド政権による支配地域の回復とロシアの権益擁護に資してきているとみられる。また、巡航ミサイルや戦略爆撃機による攻撃はロシアによる長距離精密打撃能力を誇示することとなった。ロシアの軍事介入がアサド政権の帰趨に重大な影響を与えていることや、ロシアとトルコやイランなど周辺国との連携拡大を考慮すると、今後のシリアの安定や、政治的解決プロセスにおけるロシアの影響力は無視できないものとなっている。

5 独立国家共同体との関係

ロシアは、CISとの二国間・多国間協力の発展を外交政策の最優先事項としている。また、自国の死活的利益がCISの領内に集中しているとし45、ウクライナ(クリミア)、モルドバ(トランスニストリア46)、アルメニア、タジキスタン及びキルギスのほか、09(平成21)年8月にCISを脱退したジョージア(南オセチア、アブハジア)47にロシア軍を駐留させ、14(平成26)年11月には、アブハジアと同盟及び戦略的パートナーシップに関する条約を、15(平成27)年には、南オセチアと同盟と統合に関する条約を締結するなど48、軍事的影響力の確保に努めている49

中央アジア・コーカサス地域においては、イスラム武装勢力の活動の活発化に伴い、テロ対策を中心とした軍事協力を進め、01(平成13)年5月、CISの集団安全保障条約機構(CSTO:Collective Security Treaty Organization)50の枠組みにおいて合同緊急展開部隊を創設した。また、09(平成21)年6月には、CISの合同緊急展開部隊の機能を強化した常設の合同作戦対応部隊を創設している51

このほか、ロシア及び中央アジア各国は、アフガニスタンの治安悪化が中央アジア地域の不安定化を招くことを懸念して、アフガニスタン支援を行うとともに、アフガニスタン国境の警備強化について対策を検討している52

6 米国との関係

プーチン大統領は、米国との経済面での協力関係の強化を目指しつつ、一方で、ロシアが「米国によるロシアの戦略的利益侵害の試み」と認識するものに対しては、米国に対抗してきた。

ロシアは、米国のMD欧州配備計画は自国の核抑止能力に否定的影響を与える可能性があるとして強く反発しており、16(平成21)年5月、ルーマニアでの米国のMDシステムの運用開始を受けて、プーチン大統領は、イランによる核やミサイルの脅威がなくなったにもかかわらず欧州でMDシステム配備が続けられているとし、戦略的な戦力の均衡を維持する上で、必要なことはすべて行う旨述べた。

ロシアは米国のMDシステムの欧州・アジア太平洋地域への配備がグローバルかつ地域の安定性を損なうと認識しており、米国のMDシステムに対する懸念を表明しつつ、MDシステムを確実に突破できるミサイルなどの戦略核戦力の強化を追求している。

ウクライナ情勢をめぐるロシアの動きを受けて、米国は14(平成26)年3月、ロシアとの軍事交流の中断を発表し53、ミサイル駆逐艦を黒海に派遣するほか、ウクライナ政府に対し非殺傷兵器などの提供を行った54。18(平成30)年3月、米国務省はウクライナへの対戦車ミサイル売却を承認し、議会に通知したが、ロシア外務省は同ミサイルの売却はウクライナでの紛争に解決をもたらさないなどと反発した。

シリア情勢をめぐっては、17(平成29)年11月に発表された米露首脳の共同声明では、ISIL掃討に向けた米露の協力、国連主導による紛争の政治的解決、暫定的な安全地帯の重要性などを確認するなど、前向きな動きも一部で見られた。しかし、アサド政権が化学兵器を使用したとして、17(平成29)年4月に米国が、また、18(平成30)年4月にも米英仏がシリアへのミサイル攻撃を実施すると、米露は相互に非難し合うなど、対立が続いている。18(平成30)年7月に開催された米露首脳会談においては、悪化した米露関係の改善を図るとの認識の下、軍縮問題のほか、北朝鮮やシリアをはじめとする国際情勢について協議が行われたが、関係改善の見通しは依然不透明である。

参照3章1節(国際テロリズム・地域紛争などの動向)

7 欧州・NATOとの関係

NATOとの関係については、これまでNATO・ロシア理事会(NRC:NATO-Russia Council)の枠組みを通じ、ロシアは、一定の意思決定に参加するなど、共通の関心分野において対等なパートナーとして行動してきたが、ウクライナ危機を受けて、NATOや欧州各国は、NRCの大使級会合を除き、軍事面を含むロシアとの実務協力を停止するとともに55、ウクライナ政府と連携しながら、ロシアに対し厳しい外交姿勢を継続している。

実務協力の停止以前の10(平成22)年11月、リスボンで開催されたNRC首脳会合は、ロシアとNATOは真の現代化された戦略的パートナーシップの構築に向けて協力を進めていくとし、両者の間で、ミサイル防衛(MD)、アフガニスタン、対テロ協力、海賊対策といった分野で対話や協力の模索が続けられてきた。しかし、MD協力については、11(平成23)年6月のNRC国防相会合における協議の中で、NATOとロシアがそれぞれ保有する独立した二つのシステムのもと、情報・データの交換のみを内容とするMD協力を主張するNATOと、ロシアとNATOによる統一的なシステムのもと、各国の担当空域を設定して一体的運用を行う「セクターMD」を目指すロシアの立場の違いが浮き彫りとなるなど、両者の協力には進展がみられなかった。

また、ロシアとNATOとの間では、欧州通常戦力(CFE:Conventional Armed Forces in Europe)適合条約をめぐる問題も未解決である56

さらに、ウクライナ危機により、冷戦後初めて、NATOの東部国境に脅威が存在する状況となり、東欧及びバルト諸国のNATO加盟国の一部が自国の安全に懸念を覚えていることもあり、NATOは、集団防衛の実効性の確保に向けた取組などを続けている57

ロシアはウクライナとの国境付近に2個師団、ベラルーシとの国境付近に1個師団を配置していることを明らかにしているほか、17(平成29)年9月に戦略指揮参謀部演習「ザーパド2017」を西部軍管区及びベラルーシで実施した58。同年10月、NATO側は同演習についてNATO・ロシア理事会でも取り上げ、ロシアの事前発表よりも、実際の参加兵士の人数が大きく上回り、また、実施領域が広かった点などを指摘したが、懸念されたロシアによる隣国への侵攻やベラルーシにおける部隊残置はみられなかった。

16(平成28)年11月に発表されたロシアの対外政策構想では、米国及びその同盟国による封じ込め政策が地域及びグローバルな安定性を損ねるものであり、ロシアはNATO拡大に対して否定的な見解を維持するとしている。

8 武器輸出

ロシアは、軍事産業基盤の維持、経済的利益のほかに、外交政策への寄与といった観点から武器輸出を積極的に推進しているとみられ、輸出額も近年増加傾向にある59。また、07(平成19)年1月、武器輸出権限を国営企業「ロスオボロンエクスポルト」に独占的に付与し、引き続き、輸出体制の整備に努めている。さらにロシアは、軍事産業を国家の軍事組織の一部と位置づけ、スホーイ、ミグ、ツポレフといった航空機企業の統合を図るなど、その充実・発展に取り組んでいる。

ロシアは、インド、中国、アルジェリア、ASEAN諸国、ベネズエラなどに戦闘機や艦艇などを輸出している60。中国との間では、新型のSu-35戦闘機や地対空ミサイル・システム「S-400」を売却する契約を締結しており、Su-35戦闘機61については既に16(平成28)年末から引き渡しが開始され、18(平成30)年までに合計24機を中国に納入する予定である。この取引が成立した背景として、中国は兵器の国産化を進めているものの、最先端の装備についてはロシアからの技術導入を引き続き必要としている一方、ロシアはウクライナ危機に起因する外交的孤立化の回避や、武器輸出による経済的利益の獲得を目指していたため、中露双方の利害が一致したとの指摘がなされている62

33 「ロシア連邦対外政策構想」(16(平成28)年11月)

34 「ロシア連邦国家安全保障戦略」(15(平成27)年12月)で「ロシアは国益を擁護するためオープンで合理的かつ実利的な外交政策を実施、無駄な対立(新たな軍拡競争を含む。)を回避する。(中略)ロシア連邦の目標は世界の様々な地域において対等なパートナー国をできる限り多数獲得することである」と述べている。

35 11(平成23)年10月、CIS8か国(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウクライナ、モルドバ及びアルメニア)がCIS自由貿易圏創設条約に調印した。

36 ラヴロフ外相の露中印外相会合時の記者会見(16(平成28)年4月)

37 ロシアは現在、シベリアやサハリンの資源開発などを進めている。

38 「ロシア連邦対外政策構想」(16(平成28)年11月発表)。なお、プーチン首相(当時)は12(平成24)年2月に発表した外交政策に関する選挙綱領的論文で、アジア太平洋地域全体の重要性が高まっているとの認識を示している。

39 中国との関係については、I部2章3節3参照

40 「ロシア連邦国家安全保障戦略」(15(平成27)年12月)で「ロシア連邦は、中華人民共和国との包括的パートナーシップ関係及び戦略的協力関係をグローバルな及び地域的安定性を維持する重要な要素と見なし、それを発展させる。ロシア連邦は、インド共和国との優先的な戦略的パートナーシップに重要な役割を与える」と述べている。

41 アジア太平洋経済協力(APEC)、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)、上海協力機構(SCO:Shanghai Cooperation Organization)、11(平成23)年からは東アジア首脳会議(EAS:East Asia Summit)などの地域的な枠組みへ参加してきている。

42 このほか、15(平成27)年3月には、ロシアよりリース方式により導入したアクラ級攻撃型原子力潜水艦1隻に加え、さらに1隻をリース方式で供与するよう、インドからロシアに要請したとの報道もある。

43 NATO加盟に向けた行動計画(MAP)とは、加盟を希望する国に対して助言や支援を行うNATOのプログラム。ただし、同計画への参加は将来的なNATOへの加盟を前もって決定するものではない。

44 ロシアはシリアでの作戦開始以降、航空部隊を約3万4,000回出撃させ、装甲車両など8,000両、兵器・弾薬生産工場718箇所、戦闘員6万318人を破壊又は排除した旨、17(平成29)年12月のロシア国防省評議会拡大会合で発表している。

45 メドヴェージェフ大統領(当時)は、ジョージア紛争後の08(平成20)年8月、外交の5原則の一つとして、ロシアには特権的利害を有する地域があるとの認識を示した。

46 ドニエストル川の東岸地域のトランスニストリアでは、1990(平成2)年、ロシア系住民がモルドバからの分離・独立を宣言したが、国際社会はこれを承認していない。ロシアによるクリミア「併合」を受けて14(平成26)年3月、トランスニストリア「議会」は、トランスニストリアの編入を認めるようロシアに要請した。また、プーチン大統領は同年3月、オバマ大統領(当時)との電話会談でトランスニストリアが封鎖状態にあると非難している。なお、トランスニストリアには約1,500人のロシア軍部隊が駐留している。

47 ジョージアは08(平成20)年8月のジョージア紛争を経て、09(平成21)年8月、CISから脱退したが、ロシアはジョージア領内の南オセチアとアブハジアの独立を一方的に承認したほか、これらの地域に引き続き軍を駐留させている。なお、12(平成24)年10月のジョージア議会選挙で対露関係の改善を公約とした野党連合「ジョージアの夢」が反露的な政策を採る与党「統一国民運動」に勝利し、13(平成25)年10月の大統領選挙では「ジョージアの夢」が擁立したマルグヴェラシヴィリ氏が当選し、同年11月に大統領に就任した。なお、マルグヴェラシヴィリ大統領は、就任式での演説でロシアとの対話を深化させる用意があると述べ、ロシアとの関係改善を図る一方で親欧米路線も継続していくとの考えを示している。

48 14(平成26)年12月に改訂された「軍事ドクトリン」には、共通の防衛及び安全保障を目的とするアブハジア共和国及び南オセチア共和国との協力を促進すると記されている。

49 CIS諸国の中には、ベラルーシやカザフスタンなどロシアとの関係を重視する国がある一方、ロシアとの関係に距離を置こうとする動きもみられ、既にCISを脱退したジョージア、CIS脱退を表明しているウクライナのほか、アゼルバイジャン、モルドバなどの国々は、安全保障や経済面でロシアへの依存度低下を目指し、おおむね欧米志向の政策をとってきた。なお、12(平成24)年9月、キルギスとロシアは、17(平成29)年に期限を迎えるキルギス国内のロシア軍基地の使用期間を、さらに15年間延長することに合意している。12(平成24)年10月、タジキスタンとロシアは、タジキスタン国内の第201ロシア軍基地の使用期限を42(平成54)年まで延長することに合意した。13(平成25)年12月には、ベラルーシにロシア空軍のSu-27戦闘機が初めて配備された。

50 1992(平成4)年5月にウズベキスタンのタシケントにおいてアルメニア、カザフスタン、キルギスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンの6か国首脳が集団安全保障条約(CST:Collective Security Treaty)に署名した。1993(平成5)年にはアゼルバイジャン、ジョージア、ベラルーシの3か国が加わり、同条約は94(平成6)年4月に発効した。しかし、1999(平成11)年にアゼルバイジャン、ジョージア、ウズベキスタンは同条約を更新することなく脱退した。02(平成14)年5月にCSTは集団安全保障条約機構に改編された。なお、06(平成18)年8月にウズベキスタンはCSTOに復帰したが、12(平成24)年6月にCSTOへの参加停止を通告、事実上、同機構を脱退した。

51 CSTOは、10(平成22)年6月のキルギス南部における民族衝突に際してキルギスからの平和維持の要請に十分に対応できなかったことを教訓として、危機対応の体制の効率化について議論している。また、11(平成23)年12月のCSTO首脳会議は、加盟国が自国に第三国の基地を設置する場合、全ての加盟国の了承を要するとして、外国軍隊の加盟国への駐留を牽制した。なお、CSTO共同演習「ヴザイモディストヴィエ(協同作戦)」が09(平成21)年以降、毎年実施されている。

52 13(平成25)年12月のロシア国防省評議会拡大会合において、プーチン大統領は、14(平成26)年に国際治安支援部隊(ISAF:International Security Assistance Force)がアフガニスタンから撤収することは、同国のみならず中央アジアの不安定要素であり、ロシアの国益及び安全保障にとって脅威となる可能性があると述べている。

53 14(平成26)年3月、米国防省のカービー報道官(当時)は、ロシアによるクリミア半島占拠を受け、ロシア軍との合同演習や当局者協議、軍艦の寄港など、一切の軍事交流を中断すると発表した。

54 米国はウクライナに、防弾チョッキ、ヘルメット、車両、暗視・熱源監視装置、重工兵資材、高性能ラジオ、巡視艇、食料、テント、対迫撃砲レーダー、制服、救急処置装置などを提供している。

55 ウクライナ情勢をめぐり、NATOはロシアへの非難声明を発出し、東欧・バルト諸国に軍事力を追加的に展開しているが、加盟国内部ではロシアへの対応に温度差がある。

56 1999(平成11)年の欧州安全保障協力機構(OSCE:Organization for Security and Co-operation in Europe)イスタンブール首脳会議において、従来のブロック別保有上限の国別・領域別保有制限への変更、CFE適合条約発効までの現行CFE条約の遵守などが合意された。ロシアは、自国がCFE適合条約に批准したにもかかわらず、NATO諸国がジョージアとモルドバからロシア軍が撤退しないことなどを理由としてCFE適合条約を批准しないことを不満とし、07(平成19)年12月、CFE条約の履行停止を行い、同条約に基づく査察などが停止された。現時点では、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの4か国のみが批准しており、CFE適合条約は未発効である。このほか、ロシアは、NATOを中心とする既存の安全保障の枠組みを脱却し、新たな欧州・大西洋地域における安全保障の基本原則を定める新たな欧州安全保障条約を提案している。

57 NATOの取組については2章8節参照

58 ロシア戦略指揮参謀部演習は参謀本部による指導の下、戦闘訓練の総括として、各軍管区が持ち回る形で毎年実施。17(平成29)年は、西部軍管区及びベラルーシにおいて「ザーパド2017」が実施され、ロシア国防省発表によれば、約1万2,700人の人員、艦艇10隻、航空機・ヘリ70機、戦車250両などが参加したとされる。

59 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)によれば、13(平成25)年から17(平成29)年の間のロシアの武器輸出は、08(平成20)年から12(平成24)年の間に比べて7%減少している。また、ロシアは武器輸出の世界シェアで米国に次ぐ2位(22%)となっている。

60 インドネシアとの間ではこれまでSu-27戦闘機を5機、Su-30戦闘機を11機引き渡したほか、16(平成28)年にはSu-35戦闘機11機の売却契約が行われたと報道された。マレーシアとの間ではこれまでSu-30戦闘機を18機、ベトナムとの間ではこれまでSu-27戦闘機を12機及びSu-30戦闘機を36機引き渡している。ベトナムについては、キロ級潜水艦の売却契約が行われたと伝えられており、17(平成29)年1月までに同潜水艦6隻すべてを引き渡した。インドについては、13(平成25)年11月、ロシア北部のセヴェロドヴィンスクで改修を終えた空母「アドミラル・ゴルシコフ」がインド側に引き渡され、「ヴィクラマディチャ」と改称された。なお、同艦は14(平成26)年1月にインドに到着している。また、これまでアルジェリアとの間でSu-30戦闘機を52機(推定)、ベネズエラとの間でSu-30戦闘機を24機引き渡している。中国については、Su-27戦闘機、Su-30戦闘機、ソブレメンヌイ級駆逐艦、キロ級潜水艦などが輸出されているが、中国の武器国産化の進展などを背景に近年取引額が低下傾向にあるとの指摘もあるものの、補修用の航空機エンジンなどの輸出は継続している。イランについては、16(平成28)年4月より、地対空ミサイル・システム「S-300」の輸出が開始された。

61 報道によれば、Su-35戦闘機24機を約20億ドル、S-400発射機32基を約30億ドルで輸出する契約が締結され、17(平成29)年までに合計14機のSu-35戦闘機が納入された。

62 15(平成27)年9月、プーチン大統領は通信社のインタビューに答え、「露中関係は現在、その歴史の中で最高水準に達しており、かつ活発に発展している」と述べた。