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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 軍事態勢

1 全般

米軍の運用は、軍種ごとではなく、軍種横断的に編成された統合軍の指揮のもとで行われており、統合軍は、機能によって編成された3つの機能統合軍と、地域によって編成された6つの地域統合軍から構成されている。このうち、太平洋軍については、18(平成30)年5月、マティス国防長官がインド太平洋軍に改名する旨発表した。

陸上戦力は、陸軍約47万人、海兵隊約18万人を擁し、ドイツ、韓国、日本などに戦力を前方展開している。陸軍は、オバマ前政権における減員方針を増員方針に転換させるとともに、敵を抑止し、必要な時には戦って勝利するため、即応性確保に必要な投資を行っていくことで、世界屈指の陸上戦力を維持する取組を行っている。海兵隊は、より小規模な部隊である特殊部隊と、より大規模な部隊である重武装の通常部隊との間をつなぐ「中量級」の部隊として、あらゆる脅威に対処することが可能な部隊を目指している。

海上戦力は、艦艇約940隻(うち潜水艦約70隻)約636万トンを擁し、東大西洋、地中海及びアフリカに第6艦隊、ペルシャ湾、紅海及び北西インド洋に第5艦隊、東太平洋に第3艦隊、南米及びカリブ海に第4艦隊、西太平洋及びインド洋に第7艦隊を展開している。また、18(平成30)年5月、リチャードソン海軍作戦部長は、米東海岸及び北大西洋を管轄する第2艦隊を設立する旨発表した。

航空戦力は、空軍、海軍と海兵隊を合わせて作戦機約3,570機を擁し、空母艦載機を洋上に展開するほか、ドイツ、英国、日本や韓国に戦術航空戦力の一部を前方展開している。

核戦力を含む戦略攻撃兵器については、オバマ前政権において米国は11(平成23)年2月に発効した新戦略兵器削減条約に基づく削減を進め、18(平成30)年2月に配備戦略弾頭19は1,350発、配備運搬手段は652基・機であると公表した20。米国はさらに、核兵器への依存を低減させるための新たな能力の一つとして、「通常兵器による迅速なグローバル打撃」(CPGS:Conventional Prompt Global Strike)構想を研究している21

さらに、サイバー空間での脅威の増大に対処するため、サイバー空間における作戦を統括するサイバー軍を創設した。サイバー軍は10(平成22)年5月に初期運用を開始、同年11月に本格運用を開始した。なお、18(平成30)年5月、戦略軍の隷下にあったサイバー軍は、統合軍に格上げされた22

また、18(平成30)年6月、トランプ大統領は、6番目の軍隊として宇宙軍を創設するために必要なプロセスを直ちに開始するよう国防省に指示した。

参照図表I-2-1-2(統合軍の構成)

図表I-2-1-2 統合軍の構成

2 アジア太平洋地域における現在の軍事態勢

太平洋国家である米国は、アジア太平洋地域に陸・海・空軍と海兵隊の統合軍であるインド太平洋軍を配置し、この地域の平和と安定のために、引き続き重要な役割を果たしている。インド太平洋軍は、最も広い地域を担当する地域統合軍であり、隷下には、統合部隊である在韓米軍や在日米軍などが存在している。また、インド太平洋軍は、地域に関する米軍の視野を広げるとともに、同盟国の米軍に対する理解を深めるため、地域の同盟国の要員を司令部に受け入れており、現在、カナダ及びオーストラリアからの人員が、それぞれ副部長級の幹部として勤務を行っている。

インド太平洋軍は、太平洋陸軍、太平洋艦隊、太平洋海兵隊、太平洋空軍などから構成されており23、それらの司令部は全てハワイに置かれている。

太平洋陸軍は、ハワイの第25歩兵師団、在韓米軍の陸軍構成部隊である韓国の第8軍、また、アラスカ陸軍などを隷下に置くほか、日本に第1軍団の前方司令部・在日米陸軍司令部など約2,600人を配置している24

太平洋艦隊は、西太平洋とインド洋などを担当する第7艦隊、東太平洋やベーリング海などを担当する第3艦隊などを有し、艦艇約200隻を擁している。このうち第7艦隊は、1個空母打撃群を中心に構成されており、日本、グアムを主要拠点として、領土、国民、シーレーン、同盟国その他米国の重要な国益を防衛することなどを任務とし、空母、水陸両用戦艦艇やイージス巡洋艦などを配備している。

太平洋海兵隊は、米本土と日本にそれぞれ1個海兵機動展開部隊を配置している。このうち、日本には第3海兵師団とF/A-18戦闘機などを装備する第1海兵航空団約1万8,000人が展開しているほか、重装備などを積載した事前集積船が西太平洋に配備されている25

太平洋空軍は3個空軍を有し、このうち、日本の第5空軍に3個航空団(F-16戦闘機、C-130輸送機などを装備)を、韓国の第7空軍に2個航空団(F-16戦闘機などを装備)を配備している。

参照図表I-2-1-3(米軍の配備状況及びアジア太平洋地域における米軍の最近の動向)

図表I-2-1-3 米軍の配備状況及びアジア太平洋地域における米軍の最近の動向

19 配備済みのICBM及び潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)に搭載した弾頭並びに配備済みの重爆撃機に搭載した核弾頭(配備済みの重爆撃機は1つの核弾頭としてカウント)

20 18(平成30)年2月5日現在の数値であるとしている。

21 同構想は、世界のいかなる場所に所在する目標に対しても、命中精度の高い非核長距離誘導ミサイルによって、敵のアクセス(接近)阻止(A2)能力を突破して迅速な打撃を与えようとするものである。

22 17(平成29)年8月、トランプ大統領はサイバー軍を統合軍に格上げすると発表していた。

23 18(平成30)年6月現在、太平洋軍からインド太平洋軍への改名に伴い、軍種別構成部隊が改名されたかは不明である。

24 本項で用いられている米軍の兵力数は、米国防省公刊資料(17(平成29)年12月31日現在)による現役実員数であり、部隊運用状況に応じて変動しうる。

25 脚注18参照