平成25年度 防衛省シンポジウムの概要3「パネルディスカッション」

参加者

モデレーター

島田 敏男
NHK解説主幹

パネリスト(五十音順)

神谷 万丈
防衛大学校教授
齋藤 隆
防衛省顧問(元統合幕僚長)
増田 好平
防衛省顧問(元防衛事務次官)
森本 敏
拓殖大学特任教授(前防衛大臣)

【新たな防衛計画の大綱についての評価と課題】

森本氏:防衛大臣の時に防衛大綱を見直そうとしたのですが、その時は諦めた経緯があったものの、今回の新大綱を見ると、この3年のあいだの安全保障環境の変化に対してより現実的で実効性の高い防衛力の方向と目標を示すものとなっており、良くできていると思う。特に、日本の南西方面からくるリスクに対して、島嶼防衛に重点を置いた防衛になっていることは注目に値するところですが、さらに、今回の大綱で陸自が思い切った決断をされた結果、従来にない意欲的な組織変更を目指した重点配置になっている点も注目されます。今後の課題については、防衛大綱は防衛力のあり方と方向を示すものだが、その前提としての防衛のあり方について国家安全保障戦略に基づき防衛戦略を決める必要があり、今回の大綱を見ると防衛力なのか、防衛のあり方なのか判別しにくいところがあり、混同を招きやすいのではないかと思う。今後は、今回の大綱で示された装備品について、限られた予算の中でどのようなプライオリティーをもって装備していくのかということが最大の問題ではないかと考える。

齋藤氏:評価できるのは、訓練・演習を戦略的に活用していくという点である。防衛力というものを外交の手段として、政治の道具として使っていくことを明示していることは重要。二点目は、能力発揮の基盤という下流のところの書き込みが非常に充実している。課題としては、いかに実現していくかというところだと思う。次の点は、質と量の確保。整備するにあたって限られた資源の中で選択と集中が求められる。

増田氏:評価できる点は、南西諸島の防衛についてどの国かとは明示していないが、読めばはっきりとわかるように真摯に今の安全保障環境に対して対応している点。もう一点は、人事制度の改革について。22年度大綱のときには若干人件費の節約について重視した内容になっていたが、今回は人をマンパワーとして戦力の一つとして重視しているのが評価できる。課題としては、新しい装備について既にあるものを買ってくることが多くて、これからの時代に自ら技術開発していくという視点が少し弱い。もう一つは宇宙とサイバーについて、大綱内に項目が立ったのは評価できるが、その中身についてもう少し踏み込んでも良かった。例えば、第4の自衛隊、宇宙軍とかサイバー部隊を作るとか。

神谷氏:評価できる点は、国家安全保障戦略という文書とセットで出されたこと。今の外交・安全保障政策が何を目指すのかを明示した上で防衛力のあり方を考えようとしている、点が重要だと思う。キーワードとなるのが、積極的平和主義。従来の日本は経済大国になっても軍事大国にはならないという考えで、それ自体は悪くはないが、二点消極的な点があった。一つは、日本が二度と平和を壊さないという誓いはあったが、平和を作るために何をするのかという視点に欠けていたこと。もう一つは、平和のために軍事力というものにどういう役割を与えるのか、これを考えたがらない点。軍事力は一面ではあぶないものだが、一面では秩序をたもち平和を守る為には必要なものであるとして、それに見合う防衛力を考えている点がこの大綱の好ましいところだと思う。課題としては、日本人にその考え方を受け入れる素地があるのかということ。意識転換ができるかどうか。軍事力という一面では危険なものを使いこなさないと、結局秩序や平和は保てないという意識が持てるかどうか、こういう勇気が国民全般、そして政治指導者に持てるかどうかが課題となる。

【装備品の優先順位付け】

島田氏:森本さんが仰る必要な装備品の優先順位付について、皆さんの御意見を伺いたい。

森本氏:防衛予算の中の人件費以外の物品費は正面装備と後方というものに分けられる。今回の経費配分の中では、正面については陸が減って、その分が海・空に回っている状況。かなり装備品の優先順位が防衛方針を踏まえた形になっていると思う。

島田氏:南西諸島防衛重視となると抑止力として航空母艦を持つべきではないかという意見があるがどうか。

齋藤氏:航空母艦と一言で言いますが色々な種類がある。米海軍が持っている正規空母(フラット6万トン近くある)、中国が持っているスキージャンプ方式、などがある。日本としては、アメリカのような正規空母を持つことは到底現実的ではない。予算をかければできるだろうが、予算をそこだけにかけなければならず防衛力としてバランスの欠けたものとなってしまう。ただ、正規空母ではなくて、航空機をある程度運用できる装備は必要だと思う。特に南西諸島において固定的な飛行場を確保できない状況の中、あれだけの空域をカバーするためのものは必要。

島田氏:装備の優先順位について、今の中期防のものだとまだ足りないと思うか。

森本氏:今回の新大綱および中期防は今まで既に芽が出ているもののグレードアップが多い。例えば、イージス艦は増勢するがその他の主要装備はAWACS、哨戒機、早期警戒機、次期戦闘機、ミサイル防衛など新しいタイプの導入が多い。いずれもえらく高い。三幕それぞれがどのようにプライオリティーを考えるのかが第一義だが、それに任せっきりにするのではなくトータルの防衛力が適切なものになっているのかという問題がある。そのための要素として、自衛隊として統合運用をすすめるためにどういう装備体型を優先するのか、また、日本の防衛だけでなくて、米国が国防予算を減らしていくなかでリバランスを進めるとしても全体のプレゼンスが減っていくことを念頭に入れて日米同盟の防衛パートナーシップをすすめ米国の機能や役割を補充するようなものを優先させるために何が必要かということが挙げられる。

【日米関係について】

島田氏:12月26日の安倍総理の靖国参拝以降、日米関係がどうも軋みがでているという見方があるがどうか。

神谷氏:大変難しい話。現在の日米関係というのは、一面うまくいっているように見えて、一面以前では思いもよらないことが起きてきて動揺している。一昨年の秋頃では、日米同盟の将来を決めるのは、日本がしっかりやるべきことをやれるかどうかが全てだと言われていた。安倍政権になってやることは随分できるようになり、前に考えられていた懸案事項は減ったが、思いもよらないところから、例えば靖国であったり、アメリカがアジアへのリバランスと言いながら、何だか腰が引けたようなことをして、日本からするといったいどれくらい信用できるのか不安が出てきているという問題などが出てきている。これらにどうやって対応していくのかということが重要になってくると思う。そのためには、まずは意志の疎通を図ること、あと日本側からもっと新しい安全保障政策の政策意図をきちんと発信していくことが大事。靖国問題では、掛け違いがあったのではないか。日米関係の軋みは、日本だけが悪いのではなく、例えばリバランスというものがしっかりとしたものに裏打ちされていないように見えるところは、逆にアメリカからもっと発信してもらわないといけない。

【宇宙とサイバーについて】

島田氏:話を変えて、増田さんが宇宙とサイバーの話を発言されていたが、その点の最新の問題意識で付け加えることはないか。

増田氏:サイバーについて言うと、我が国に対するサイバー攻撃から守ることは誰の仕事かということが、まだ議論が固まっていない。要するに自衛隊がするのか、そうするとサイバー攻撃は武力攻撃になるのか否か整理しないといけない。そこがまだ固まっていないので、自衛隊がするサイバー対策というと自分の通信施設をどう守るかということが基本的には中心になってしまっている。その議論を整理することが重要。宇宙について言うと、法律が変わって宇宙について安全保障のために使うということが許容される法体系になった。その中で具体的に何がというところが未だあまり出てきていないことが課題。

齋藤氏:サイバーの問題で少し違う視点で話をしたい。国家安全保障戦略の中で宇宙、サイバー、エネルギー等について戦略的に使っていくという骨子があるが、その国家安全保障戦略を踏まえ、今大綱ができ、今度エネルギー基本法も見直しがされる。その中でまだサイバー基本計画というものが出来ていない。新大綱の中でもサイバーについて述べられているが、それは自衛隊の中だけの話に留まっている。サイバーの問題というのは国家全体でコラボレーションしていかないと絶対にできない問題。そう言う意味で、国家安全保障戦略の中で基本法を作り、全体に傘をかけるということが近々の課題。

島田氏:宇宙に絞って考えると、怪しい不審な人工衛星というものを補足する能力や、そこからの妨害工作をどう阻止するかといったことがイメージされるが、この宇宙というものを安全保障上で考えるとどの点がポイントとなるか。

森本氏:宇宙空間は各国の領域が決まっておらず、宇宙条約では他国の宇宙活動を妨害阻止していけないということが原則的に決まっているだけである。日本は、今までは宇宙の利用は科学技術、文科省の視点で捉えていたが、世界各国は宇宙を軍事的な活用の場と見ている。我が国が取り組んできた宇宙政策はこの点が非常に欠けていた。軍事的に宇宙空間をどのように使うかということについて通信や情報衛星だけでなく幅の広い宇宙の使い方を考える必要がある。国家安全保障戦略に基づき防衛戦略を作る際、サイバーや宇宙についてどう取り組むのかという指針を示すことがあるべき姿ではないか。

【オバマ政権について】

島田氏:南西諸島問題に時間を割いてみようと思う。その話題の前に、まずアメリカのオバマ政権は中国についてどう思っているのか、日本にどのような役割を期待しているのか。

神谷氏:オバマ政権というものはもともと民主党リベラルであり、中国について働きかけ、関与というものをやっていけば自分たちのほうに引き寄せることが出来るだろうと思っていた。ところが2010年の尖閣諸島の問題などを契機に、どうも中国は思ったように反応してくれないので、関与だけでなくいざという時のヘッジということが重要だと少し重点を変更させた。そこでリバランスというのは明らかにその延長線上の話のはずなのだが、尖閣諸島でアメリカが望まない日本と中国の紛争に巻き込まれるかもしれないという恐怖も浮かんできた。また、財政難で割ける資源が限られているということがあって、中国に働きかけて引き寄せる方に戻ってきているというのが去年の割と早い時期からの状況である。あまり日本では報道されなかったが、昨年の11月に、スーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官がアジア演説を行った時も、新たな大国間関係を築くというような中国に寄っているかのようなフレーズが出てきたので日本では心配している。日米関係は大事だとは言いつつ、それをどう実体化していくのかというのはなかなか難しい局面に差し掛かっている。

【尖閣問題について】

島田氏:仮に尖閣諸島に他国の軍、もしくは軍でなくても他関係組織が尖閣諸島に上陸したとき自衛隊がとりうるオプションとしてはどのようなものがあるのか。

齋藤氏:ケース設定が非常に難しい問題。まず他国の軍隊が来るその前の段階がある。海上保安庁が色々と活動をしているが、手が足りなくなった時に海上自衛隊が警備活動を発動することがあるかもしれない。そのような時に権限としてはどうなのか。時々誤解されるのは、自衛隊が出ていったのだからそれなりのことができるのではないかと思われているかもしれません。そこはそうではなくて海上保安庁法に従うのであって、20条にある航船、いわゆる軍艦については処置ができないというようになっている。このあたりが領域警備の問題の中で穴となっている。そこをどう埋めるかが課題。そして次にそれを抜けたあとで、小さな部隊、武装民兵、軍とも民ともなんとも完全には判断のつかないという形でやってくるというのが考えられる。そのような時にどこまで対応できるかという問題。防衛出動できればそれなりのことはできるが、それを満たすための要件に合致するのかどうか、そういう問題が出てくる。法的な問題がある。

島田氏:領域警備の法整備がなされていなかった。その辺りのことはどうか。

森本氏:尖閣問題で言えば、自衛隊が警戒監視活動をするが第一義的には法執行機関としての海上保安庁、警察・公安が対応することになっている。それでは対応できない時に海上警備行動をとる。それでも駄目なら治安出動をとる。そこまでは警察作用である。さらに武力攻撃が行われた場合は防衛出動を行う。これは国防作用である。問題は、海上警備行動から治安出動までの一連の警察作用をやっているときに、武力攻撃とはみなされない急迫不正の侵害があった場合、自衛権行使の要件を満たさないため法の隙間が出来る可能性がある。これをどうやって埋め、どう対応していくかがまさに安全保障上のグレーゾーンの対応ということになる。仮にこれの方向性を整理したとしても、これを法律に落とし込む必要があり、これが今年後半の政府の大きな役目ではないかと思う。

島田氏:最近良く報道される集団的自衛権行使の話の前に、個別自衛権の発動があり、その前の警察権に基づく活動があり、それでもまだ隙間があるという問題。これは以前から指摘されていたが、今までの防衛省・政府の検討の中ではあまり具体的な話は進んでいなかったのか。

増田氏:グレーゾーンの問題は本当に難しい。私が言えることはこれから詰めていくことが求められる。ただ、実務的な感覚で言った時に、法律要件としての武力攻撃に満たない行動をおこされたときにどうするのかという問題については、今の法体系では手段がないので何もしないのかというと、そうではなくて、今の法体系をいかに柔軟に考えて活動をするのかということが大事になると個人的には思う。

【米軍のリバランスについて】

島田氏:リバランスの話があったが、今のオバマ政権では仮に中国が強い行動に出たときに、日本に大きな犠牲を強いることを求めてくるのか。

神谷氏:これはケースバイケース。まずアメリカが、尖閣で紛争になったときに巻き込まれたくないと思うこと自体は、非常に自然なこと。どこの国だってよその国の好まない紛争に巻き込まれるのは嫌である。従ってそれを非難するというのは当たらない。ただ、同盟関係というのは相手の紛争に巻き込まれることを約束し合うのが普通の形である。日米同盟の場合は、日本に集団的自衛権の不行使があるからアメリカの紛争に巻き込まれることがないことに難しさがあるのだが、少なくともアメリカは日本の紛争に巻き込まれる約束をしているという上で日米同盟がなりたっており、アメリカも約束を破るわけにはいかない。アメリカは簡単に約束を破るということになると世界の他の同盟国の信用も失うわけで、そう簡単にアメリカが日本を見捨てる事はないと思う。ただ、ここ一年ないし二年の間に、それまではアメリカは日本の紛争にアメリカが巻き込まれることは真面目に考えたことはほぼなかったはずだが、そういう可能性が、アメリカ人の目から見ると日本人が思っている以上にありえることに見えている。このあたり、日本は気をつけて対中政策をしていかないといけない。一方で強い警戒を持ちながら、一方でそれをちらしていくということを同時にやっていくようなバランスを持たないと、日米関係に変なギクシャクを生むことになる。

【ミサイルディフェンスについて】

島田氏:最近は中国に目が向きがちだが、いつ何が起こるかわからない朝鮮半島のことを考えると、ミサイルディフェンスについては新しい大綱、中期防でも粛々と強化していくという流れは出来たように見える。ここで留意しなければならない点をどこだとお考えか。

森本氏:北朝鮮の弾道ミサイルの開発が確実に進んでいるのは実績が示している。いずれか近い日に核弾頭が乗ることを考えれば、より確実に、より長距離に、高高度に飛んでくるミサイルを領域内外で撃破できる効率の良いシステムを持たないといけない。そのためには今の日本のミサイル防衛は質・量ともに足らない。質を増やすためには、高高度で飛んでくるミサイルを撃破できる能力を持つということ。量は、今はごく限定されたものにしか対応できない。この質と量の問題について、米国の能力とどのように役割分担していくか、将来はおそらく日米韓の協力をどうやって実効性を持たせるかということが課題。

島田氏:弾道ミサイルを打ち落とすための実用化、そして飽和攻撃という、いわゆるミサイルがたくさん飛んできた時の対応というのはどうお考えか。

齋藤氏:高高度のミサイル対応については、まさにイージス艦が持っているものよりも一回り大きい日米が共同開発をしているものが入ってくれば、能力を発揮できることは間違いない。ただし、量の問題については、一本一本高いものなのでそれほど潤沢には配備できない。飽和攻撃ということを考えると、防御だけではやはり相当難しい、効用曲線の限界に来ていると思う。そうなると事前に基地をたたけるという能力が必要であるというのが自然の流れだと思うが、敵地攻撃というのは難しい問題で、例えばトマホークを持ったからといってすぐにできるものではない。日米双方で相当協議し情報量を持たないとやれるものではない。打ち上げ花火になるだけで、自己満足になるだけとなってしまう。

【敵基地攻撃能力について】

島田氏:敵基地攻撃能力については以前から議論があったが、衛星を含め情報の一体化ということがなければ実現できないと言われているが、そのあたりは今も変わっていないか。

増田氏:我が国の弾道ミサイル防衛システムが、アメリカの情報に依存しないとできないかというと必ずしもそうではない。我が方の情報もそれなりにある。ただ、もちろんアメリカとの情報の共有が実践的にはクリティカルになる。齋藤さんが言ったように、アメリカとの協議は重要であるし、今年の末までに日米ガイドラインの見直しを行うという動きの中で、この点も踏まえて欲しい。付け加えると、敵基地攻撃能力を我が国が持つ/持たないの議論については、アメリカとの意思疎通をよく測って行う必要がある。

島田氏:今度の日米ガイドラインについては少なくとも検討項目として出てくるだろうと思っているわけか。

増田氏:そう思っている。

島田氏:このような敵基地攻撃能力というところまで日米が一体化して朝鮮半島のアクシデントに備えるというような流れに今の民主党オバマ政権のもとでなっていくのか。

神谷氏:それは日本以上に積極的になる可能性はある。アメリカには、先ほどの尖閣諸島の紛争に巻き込まれる恐れがあるという問題とは別に、北朝鮮に対する脅威感がある。いよいよミサイルがアメリカに届くようになってきている。オバマ大統領は否定したが、アメリカのインテリジェンスの一部からは北朝鮮が既に中距離弾頭ミサイルには載せられるような弾頭の小型化に成功したのではないかという話もある。そうなると、北朝鮮というのはまさにアメリカ自身の問題になってくるわけだ。これまでは核問題というとイランの話を中心にしてきたが、最近は日曜朝のアメリカの討論番組では北朝鮮がよく出ている。そのあたりに、日米の、日本は中国に目を向きがち、アメリカは北朝鮮に向きがちという認識のギャップが生まれることが懸念される。一つ付け加えると、今敵基地攻撃能力をいくら唱えたところですぐにできるわけではない。兵器を買えばすぐにできるというわけではなくて、態勢を整備して初めて実行力ができる。その理解が日本では薄いのかもしれない。仮に今からやろうとしてもかなり時間がかかる。その間何で埋めるのかというと日米である。宇宙、サイバー、北朝鮮、中国と様々な問題がある中で全部日本だけできるわけはない。そのあたり同盟国のアメリカの協力は不可欠で、アメリカも一方でリバランスと言いながら予算が足りないと喘いでいるのであるから日本との協力は不可欠なはず。その点、冷静に見つめて両国として今一番何が重要なのか両政府で真剣に考える必要がある。

島田氏:このリバランスの話だが、アメリカは日本にどの程度防衛予算を増やすことを求めようとしているのか。

森本氏:防衛予算で議論するのはあまり適切ではない。NATOのスマートディフェンスの考え方にあるように、各国が防衛の任務をお互いにシェアしながら地域の安全を守るということをやっている。これをアジアに求めると例えば、日米同盟だけでなく多分最初にオーストラリアとか、将来は韓国とかASEANが入ってもらう必要があると思うが、多国間で取り組んでいく。わかりやすく言えば、例えば、日本は空中給油機をたくさん買ってこの地域の各国の空中給油を日本が全てまかなう。その代わり日本に足りない分をほかの国に補ってもらう。そういう役割分担を決める。それに必要な経費がどれくらいで、それで削減できる経費がどれくらいかトータルで判断して防衛費と防衛構想を考えていくというのが正しいのだろうと思う。

【集団的自衛権について】

島田氏:同盟の拡大ということに触れる、森本前大臣の御発言だが、ここで大きなテーマとなっている集団的自衛権についての話題に移りたい。

増田氏:今の安保法制懇の中での議論も含めて、今の自衛権のなかで我が国ができることというのがあり、一方で今の国力、安全保障環境を見るとこのままではいけないのではないかという見方がある。そこでは結局憲法をどう扱うのかというアプローチになってくる。もう一つは、今の憲法だとここまでいるという範囲の中で何ができるかというアプローチ、二つある。私はどちらかというと前者の方が望ましいと思う。また、同盟国のアメリカがここまでしなくていいよということを日本がしようとするならば同盟国の関係に問題が生じるので、そのあたりは注意が必要で、しっかりと協議することが必要。

島田氏:自衛隊にとって国民の幅広い理解を得た上で活動することが理想で、ここ最近はそれに近い形になってきている。ここでまたステップアップすることになる集団的自衛権の行使について、安倍政権も国会答弁等で、今までできなかったことを原則できるようにするだけと言っている。このあたりの切り替えの必要性は現場を預かっていた経験からどうか。

齋藤氏:昔、自衛隊が国際会議に出るだけで、集団的自衛権に抵触するのではないかという議論があった。これも集団的自衛権ではないと一つ一つクリアしていった。今ではどんどん国際会議に出て行くようになっている。ただ、まだまだ問題は多く、周辺事態のところは今のままではにっちもさっちも行かない。インド洋の補給支援活動だったりした時も特措法で行ったりしたが、ある意味、周辺事態のレギュレーションよりはるかに進んでいることをやってきた。このあたりを踏まえてもう一度周辺事態の法規制を見直してもらいたい。

島田氏:集団的自衛権の話では理屈の世界と、現実的な必要性の世界の話がある。この前中曽根元総理がテレビの番組で話していたが、この問題は他の方法ではもうどうにもならないから憲法解釈を変更する、という必要性に迫られない限り扱ってはいけない、そのくらい難しい問題なのだと言っていた。このあたりいかがか。

森本氏:私もその通りだと思う。今の議論は予算で言うと満額要求に等しいものを求めている。政治の現実では満額は達成できないのだと思う。現実に国民が持っている意識、国内の政治状況、それから景気・財政などをトータルで考えて、最低限、国民が納得する落としどころはどこかということを考える必要がある。一番ハードルが高いのは集団安全保障措置への参加だと思う。とても今の段階で、国連安保理に基づき多国籍軍が編成される中に日本が参加することによるリスクをとることは多くの国民は賛成しない。ただ、今まで話にあった、領域を警備したり、非戦闘員を助けたり、かけつけ警護をしたり、輸送をしたりというのはできるだろうと思っている。落としどころは一番下のグレイゾーンへの対応は実現すると考えている。二番目の集団的自衛権は難しい、三番目の集団安全保障措置への参加は到底無理。その落としどころを政府・与党ではなく、立法府である国会できちっと議論して決めて欲しい。

島田氏:神谷氏は先程積極的平和主義について言及されていたが、その場合の集団的自衛権の行使また集団的安全保障措置への参加についてどのようにお考えか。

神谷氏:日本人は先の大戦で懲り懲りしたわけで、軍事力という危ないものはなるべく触れないようにしようという考えだった。特に、最近は北朝鮮の問題であったり、中国の問題で、日本の問題については自衛隊の防衛力が必要だという認識が広まった。日本の国境を一歩出て国際平和のためにとなると、やはりそんな危ないことはと思いがちである。そこをなんとかしないと積極的平和主義も何も無いわけ。ここでよくある間違った認識は、今は要するにあらゆることはできないと言っているところで、集団的自衛権の行使を認めるといったら何でもできるようになるかのようなことを単純に言う人がいるが、そういうことではなくて、実際には必要なことをできるようにするということである。その必要なことというのは、積極的平和主義が妥当だとすれば、平和を作り出すために日本にもできると妥当だということを他の国でもできるようにすること。これはつまり、できることはできるようにした上で改めてそこに枠をはめていこうという話である。今は枠が先にはまっていて、そこからこぼれたら何もできないと言っているのだが、そうではなく必要なことは出来る様にして、しかし何が必要かについては厳しく考えていくという姿勢に転換する必要がある。

島田氏:この問題は自民党が与党に戻る前から党内で議論がされていて、よく言われる自民対公明というよりも、自民の中でも議論をしている状況で、これからの世界情勢を見て議論がどのように展開していくか、不透明な部分がある。これが今年の政治の先行きをかなり占うことになるということで、大きな注目点になっている。先程森本さんが仰っていた一番難しいという、集団安全保障措置、国連の決議に基づく多国籍軍への参加、湾岸戦争のような姿、このような状況になった時を想定すると、日本はどのような形での関わり方、バリエーションで言うとどのようなことが考えられるか。

増田氏:想像の世界なのだが、私は個人的にはハードルはそれほど高いのかな、と思っている。色々とバリエーションがあるので全てが駄目だということではないと思うし、わが国では常任理事国になりたいという方針があるので、今の国連憲章の下でそのようなことをやっていく必要があるのではないかと思う。

齋藤氏:私は、この問題を三つに分けようと思う。一つは日本の有事、防衛出動のときの集団的自衛権の話、これについては、日本は戦っているわけで疑問を挟む余地はない。日米協力して取り組む。その次として、周辺事態、これについても基本は日米共同でやっていく。そして三番目、多国籍軍への問題。この問題について私は増田さんとはちょっと違って、基本的にはこの問題は憲法をきちっと見直すことをしてその議論の末に行うことだと思う。議論がこれすべてを包含して一緒くたにすると、もう何がなんだかわからない状況になる。私は現場にいた人間として、とりあえず周辺事態のところをきちっとしていくことが重要であり、あまり猶予のない課題。

神谷氏:日本は民主主義国なので、国民が反対することはできない。集団的自衛権、そして集団安全保障の話に踏み込むのであれば、それはやはり国民の賛同が得られた場合であって、そこは指導者が正々堂々と国民に訴え掛けることが必要だと思う。最近の日本の国民は、指導者が勇気を持って必要性を説けば、痛みを伴うことであっても受け入れる。消費税の問題でもTPPの問題でもそうである。安全保障についても同じアプローチが必要だと思う。集団的自衛権は国連憲章にも書いてあって自衛権の一部だが、集団安全保障になると私もやはり一歩グレードが高いように思う。なぜならば平和のために必要だからと本格的に日本がいくとなると、戦いに参加することになり、日本の自衛官が死んだり傷ついたりするかもしれない。日本の自衛官が参加する戦闘ではお互いにそういう犠牲がでる。そこまで腹をくくって、しかし必要なことは必要だと言えるかどうか。私は実は必要なことは必要だと日本人は言っているのだと思う。湾岸戦争当時、日本は自衛隊を出せなかったわけだが当時の日本人は国際社会がクウェートを助けなくていいと思っていたかというと、そのようなことはない。だとすれば、日本だけがそこから除外されていいのかということになる。

森本氏:日本は国連に参加している限り、国連安保理に基づき多国籍軍のようなものに参加することは国家の義務だと思う。しかし、戦後日本の自衛隊が作られてから、領域外で、自衛官が死ぬような戦闘に加わることを想定し、隊員が入ってきているかというと必ずしもそうではない。個々の隊員の意識や、部隊の手順、訓練、装備だとか色々なことを考えると、実際に集団安全保障に参加するとなると自衛隊が国際部隊に参加して誰の指揮を受けどういう任務につかされるかわからないわけで、集団的自衛権の行使とは全然違う複雑な様相の中に入っていく。国民がこれによりリスクと得られる国益をどう捉えるかというのが問題であり、以前廃案になった国連協力法のようなものがいる。その第一段階は少なくとも後方支援、その次は戦闘部隊に参加する。この二つの問題は区別して考える必要がある。最初にできるのは、やはりフルスケールの後方支援までは国民が納得するかもしれないが、戦闘部隊で血を流すというのは今の段階では多くの国民は賛成しないと思う。

島田氏:ハードルの高いことを国としてやろうとするのであれば、国民に憲法改正について合意を作ってもらわなければならない、というのは私も全く同感である。それは政治の世界での責任のあるテーマだと思う。今の国内の憲法改正をめぐる議論というのも、憲法解釈のことが前面にでているので少し印象が薄いが、そのくらいに一気呵成にという訳にはいかないテーマだと思う。一つ、普天間基地の代替基地への移設の問題。海兵隊司令部のグアムへの移転についてどうお考えか。アメリカ軍の想定する前線の後退というようにも受け止められるわけだが。その場合、日本周辺が衝突ラインとなる可能性があると思われているか。

齋藤氏:私はグアムの移転が、後方に下がったとは見ていない。ミリタリーの作戦の常識として、必要であれば下がり、体制を立て直すというのが常識なので、ただそこにいればいいという問題ではない。

島田氏:新防衛大綱では戦車の配備数を削減した。代わりに機動戦闘車を導入するが、戦車は敵が上陸作戦を考える際に同等以上の戦車を持つ必要があるという意味で抑止力効果は相当ある。はたして機動戦闘車でもそのような効果を期待できるのか。

増田氏:抑止力という概念を世界でみようとすれば、今回戦車を九州と北海道に集め、機動戦闘車で代替することも含めて今の共有認識ではそれで対応できると考えているからそのようにしているのだと思う。

【安全保障政策全体について】

島田氏:安全保障政策全体に対する質問。東アジア情勢の不安定さが増す中で、今の日米安保に加えて今後どのようなことに重点をおく必要があるのか。

神谷氏:まさに多岐にわたる。日米+αということを考えないといけない。韓国、オーストラリア、インド、などが言われているが、韓国はちょっと残念な状況があるので当面はちょっと手が出せないが、そういう国々との協力。そして中国という国も、一面では、伝統的な意味で警戒を要する脅威だが、一面では手を握り合い一緒に経済発展をしたい相手であるという非常に複雑な相手。やはり関係をなるべくリーズナブルなところにしていく必要がある。韓国について言うと、考えないといけないのはソフトパワーという話。力には、アメやムチで言う事を聞かせる伝統的なハードパワーと、相手を自分に引きつけ自分の意志が通しやすくするというソフトパワーがある。防衛計画の大綱というのはそのハードパワーをこれからどう整備していくかということであって、日本の国力充実にはソフトパワーの発想も大事だ。歴史問題のハンドリングについてもソフトパワーをどうやったら極大化できるかという観点から見ることも必要。そうすると、靖国訪問についても計算式が変わってくるのではないかと思う。最後は政治の決断だが、もう少し広い日本の国力充実という観点から、そういう問題を見ていく必要があるのではないか。

【日本版NSCについて】

島田氏:日本版NSCというものができたが、防衛省がやる外務省がやるということだけではなくて、国の安全保障というのは、それを司る組織の人たちが総力でやらないといけないテーマである。このNSCというものにそこまで期待していいのか。

森本氏:組織というのはなかなか難しくて、本来の作った目的から、政治の現実の中で独り歩きして別の機能を持ってくるということがありうるので、非常に気を付けないといけない。現に、NSCは関係大臣会合の審議に必要な政策の原案を作って大臣会議に資する事務局の機能だと思っていたけれども、現実はなかなかそれだけではなく、例えば武器輸出についても、最後にNSCの判断に身を委ねるとか、これからグレーゾーンで総理が決断する暇がないときにNSCが必要な審議をしてオプション出しをするといった、非常にオペレーショナルな、国家の意思決定の運用に関わる機能を持ってくる。それが広がってくる。政府内でどこも調整してくれない場合にはNSCにやらせればいいではないかといった安易なマンデートを与えるというやり方をすると、NSCが別の生き物になってくる。そこは、我々は非常に気を付けないといけない。

【防衛産業:装備品の国産化について】

島田氏:今日は会場に防衛産業の方も多く集まっていると聞いているので、その関連で一つ。防衛装備品のアメリカの依存というのは外交上不利な場面を招かないとも限らない。そこで将来の装備品の国内開発、国産化というのも打ち出すべきではないか、という御意見があるがどうか。

齋藤氏:野田政権の時から国際共同開発ということが行われた。基本的には純国産というものとライセンス国産と共同開発というものは、広い意味で国産と言えると考える。国産の概念をきちっと整理し直さないといけない。

【日本を守るということ】

島田氏:日本を守るということについて一般の国民ができること、求められることは何か。

神谷氏:普通の国民が、国を守ることを四六時中、毎日考えている国があったとすれば、そのこと自体がおかしなことであって不健全な社会だと思う。そうならないようにするのが、政府の防衛当局者、自衛官、我々専門家の役割だと思う。今の日本は戦後やってきたことのいいことろも見えているが悪いことも見えてきている。そこで積極的平和主義という言葉も出てきたが、そういうときに先入観を排して何が日本のためになるか考えていくという姿勢を皆が共有することが大事だと思う。

増田氏:軍事技術の革新により、軍事活動が専門化してくるわけで、一般の国民の方が物理的なかたちで何かするというのは難しい。しかし、そういう中だからこそ気持ち的なサポートが大事だ。万が一戦闘が起こった時の自衛官の方が心配するのは、国内で家族がどういうふうに思われているかということ。さらに言うと、メディアも進歩して、戦闘が可視化されてきており見ている方もこうしたほうがいいのではないかとか意見が出てくる。そういう時に少なくとも基本的なところで国のために戦ってもらっているのだと評価をし、サポートをすることが大事。

齋藤氏:私はOB。自衛隊だけで国が守れるという時代は終わっている。特に自衛官OBをいかに活用するか、ノウハウを持っている人を活かす機会を作ることが必要。

森本氏:国を守るということを我々の生活のレベルで見直してみると三つある。一つは私生活を確実に安全に過ごすことができるようにするということ。自分で火事をおこしたり、泥棒にはいられるような隙を見せるような生活をしないように、家族をきちっと守り育てること。二つは、何か災害・被害があったときに進んで支援・協力・援助するという態度を示すことで、何かあった時に国民の総力をあげられるように態勢作りをする。最後は、非常事態になった時に個々の国民が我が儘言うのを防ぐ。例えば、俺は毎日電気使いたい、水を使いたい、食事したいといったわがままをいうことを控え、厳しい環境に置かれた時に自らの欲心を捨てて節度を持って生活することを常に心がけておく、これが結局国を守ることにつながると思う。

モデレーター総括

最後に、今回の議論は多岐にわたりましたが、その中で集団的自衛権の行使、集団安全保障措置への参加といった、これまで日本がしてこなかったことに一歩踏み込むとすればそれはまさに政治の責任である。シビリアンコントロールということをもう一度考え直す必要がある。78年前の今日、226事件です。戦前日本の、シビリアンコントロールが未成熟だったことを示す歴史というものが78年前の今日あった。それと違う姿を示しながら、明日以降どのようにこの国が具体的な発信をして合意形成していくのか。今年は大きな国政選挙はないと言われているが、選挙以上にこれからの日本の進路についての国民の判断が問われる時代だと思う。ここに来場された皆様は各方面で色々と発言、発信をされる方々である。壇上のパネリストの皆様と一緒に、日本の国民の間にあるさまざまな意見を全てぶつけ合わせた上で、結論を出すために時間かけて出していく。私は陸上自衛隊のほふく前進という言葉が大好きなのだが、一歩一歩這うようにだけど前に進んでいく。その進んでいく目標の先を間違えるなということでもある。この議論を今後も重ねていければと思う。

パネルディスカッションの様子 その1 パネルディスカッションの様子 その2 パネルディスカッションの様子 その3 パネルディスカッションの様子 その4 パネルディスカッションの様子 その5 パネルディスカッションの様子 その6

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