第53回自衛隊高級幹部会同における河野大臣訓示

 本日午前に、最高指揮官である安倍晋三内閣総理大臣に御臨席頂き、自衛隊高級幹部会同を開催できましたことを誠に喜ばしく思います。

 9月11日に防衛大臣を拝命し、25万人の防衛省・自衛隊の諸君と共に、我が国の防衛という崇高な任務を担うことを、大変光栄に感じると同時に、その重責に身が引き締まる思いです。

 日夜任務に精励する諸君に対し、改めて敬意と感謝を表したいと思います。

 今日も大勢の隊員が、警戒監視をはじめさまざまな任務に、そしていざというときのための訓練にあたっています。有事には我が身を省みず、国民を、国を守るために真っ先に出動する諸君には国民が大きな信頼を寄せています。

 日曜日には千葉県で台風15号の被害に遭った方々への給水や入浴の支援、倒木の除去などにあたる隊員の激励に行きました。

 いざというときに駆けつけて、被災した人に寄り添い、助ける自衛隊員一人一人の姿が、国民からの信頼をさらに堅いものにしています。

 熊本の震災当時、私は防災担当大臣をしておりました。自衛隊に支援物資の輸送から瓦礫の収集、入浴支援まで幅広い業務を担当してもらい、復旧に向けて力強い支援を続けてもらったこと、今でも感謝しています。

 昨年、総理の代理でフランスのパリ祭に出席しました。自衛隊員が日の丸を掲げながらシャンゼリゼを行進するのを見て、本当に誇らしく思いました。

 また、南スーダンに出張した折には、UNMISSの司令部で厳しい環境の中で勤務する、四人の隊員に会いました。我が国の生命線であるシーレーンの安全確保のための重要な取組であるソマリア沖・アデン湾での海賊対処行動やシナイ半島でエジプト・イスラエル間の停戦監視を実施するMFOなど、海外でも自衛隊は、平和と安定のために、地道にしっかりと取り組んでいます。

 自衛隊が、国民の期待に、信頼にしっかりと応え続けていくためには、隊員一人一人が、自分の将来の姿をしっかりと描くことができる、将来を見据えて自らを成長させようと努力することができる、そういう組織であり続けなければならないし、自分はそういう組織の一員であるということを、胸を張って言える自衛隊でなければなりません。

 少子高齢化がこれからも続く日本で、防衛力の中核となる人材を確保し、その士気を高め、能力を向上させていくことは喫緊の課題です。

 新しい宇宙・サイバー・電磁波といった領域では、特に専門的な知識や技術を持った人材を集め、育てていくことが必要です。

 日米同盟をはじめ、二国間、多国間の安全保障協力が進む中では、多様な相手を理解し、自身の考えを言葉で伝えることのできる幹部がますます必要になります。

 いまや誰もが子育てや介護といった問題に直面する時代です。私の息子も多くの若者と同様、スマートフォンを手放せない世代です。

 時代が変わりつつある中で、幅広い層から多様な、そして優秀な人材を集めるためには、世の中や世代の変化に合わせて制度やルールを見直していく必要があります。

 「築城十年落城一日」という言葉があります。

 防衛省・自衛隊の六十五年の歩みを通じて、積み上げてきた信頼は、自衛隊の大きな財産です。この信頼を損なうことがあってはなりません。

 そのためには、防衛省・自衛隊が常に規律正しい存在であり続けることが必要です。幹部諸君におかれては、服務指導や情報保全に関する指導を徹底するとともに、文書管理・情報公開といった基本動作といえる業務の適切な実施をお願いします。

 運用時の安全確保も、引き続き非常に重要な課題です。事故は、国民の安全を脅かすとともに、自衛隊員の生命にも関わる問題です。厳しい任務や訓練にあっても、決して安全を軽視することなく、事故をなくすための方策を考え抜き、不断の努力を続けてください。

 また、防衛行政を行う上で、地元の皆様の声に真摯に向き合い、丁寧かつ正確に説明を尽くすことが必要不可欠です。私が先頭に立って、それぞれの地域の皆様からの信頼の回復に全力で取り組みます。

 今、我々には、変化への適応が求められています。変化は時に痛みを伴いますが、部隊・機関を率いる幹部諸君におかれては、この変化の先頭に立つ覚悟をもっていただきたいと思います。

 諸君が日々実感しているとおり、我が国を取り巻く安全保障環境は、極めて速いスピードで変化し、一層厳しさを増しています。

 その変化に対応し、国民の生命と平和な暮らしを守り抜くためには、平時から有事までのあらゆる段階で柔軟かつ戦略的な活動を常に継続的に実施できる「多次元統合防衛力」を、従来と抜本的に異なる速度で実現しなければなりません。

 そのためには、予算と人員をこれまで以上に効率的・合理的に活用することが不可欠です。既存の予算・人員の配分に捉われず、資源を柔軟かつ重点的に配分すると共に、陸・海・空の統合の一層の推進を進め、組織・装備の最適化を進める必要があります。

  幹部諸君におかれては、従来の陸・海・空という区分や既存の予算・人員を前提とする発想を脱却し、防衛省・自衛隊で一丸となって、真に実効的な防衛力の構築に全力で取り組んで頂きたいと思います。

 日本の安全保障の要は日米同盟です。
 日米間では、安倍総理大臣とトランプ大統領の間で高い頻度で会談が行われています。

 私もこれまで外務大臣としてマイク・ポンペオ国務長官と14回の外相会談、16回の外相電話会談を行いました。

 防衛大臣も、この1年の間に、国防長官との会談をたびたび実施し、北朝鮮問題をはじめとする諸課題について緊密に認識と方針をすり合わせています。

 平和安全法制の整備により可能となった米艦艇や航空機の警護の件数は、平成29年の2回から、平成30年は16回に増加しました。これは、お互いの深い信頼関係と絆に基づき日米同盟が着実に強化されていることの一つの証です。

 今後も引き続き、こうした取り組みを進め、ガイドラインの実効性を確保し、日米同盟の抑止力・対処力の強化に努めていきましょう。

 同時に、沖縄をはじめとする地元の負担軽減のための取組や米軍の安全な運用の確保に係る取組を着実に進めていくことが重要です。先般、米軍機が施設外で起こした事故に関するガイドラインを改正し、より効果的、迅速かつ的確に対応することが可能となりました。今後も一層の努力をしていきます。

 国際社会におけるパワーバランスの変化は、既存の秩序に対する挑戦を強めています。

 基本的価値や安全保障上の利益を共有する多くの国々との二国間、多国間での協力の強化は、我が国の安全保障にとって不可欠です。
 2+2を米国だけでなく、イギリス、フランス、オーストラリアとも実施し、さらにインドやインドネシアそしてロシアとも取り組んでいきます。

 自由で開かれたインド太平洋地域を維持するために、オーストラリア、インド、ASEAN諸国、太平洋島嶼国やニュージーランド、またスリランカ等の南アジア、さらにはインド太平洋への関与を強めているイギリスやフランスなどと、防衛協力・交流を着実に拡大させていきます。

 我が国の周辺では、北朝鮮が依然として我が国全域を射程におさめる弾道ミサイルを数百発保有し、実戦配備しています。本年5月から9月にかけて、相次いで、短距離弾道ミサイルを発射し、ミサイル関連技術の高度化の実現を図り、我が国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっています。

 国連安保理決議の実効性を高めていくために、北朝鮮の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、米国に加え、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、フランスと緊密に情報共有をしながら、警戒監視活動を強化していきます。

 中国は、依然として透明性を欠いたまま軍事力を広範かつ急速に強化し、我が国周辺の海空域における活動を拡大、活発化させています。

 また、LAWSあるいはAIを搭載した自律型ロボット兵器のような革命的な最先端技術の開発に各国が注力するなど、技術の変化が安全保障の在り方を根本的に変えようとしています。

 こうしたこれまでに直面したことのない安全保障環境の中で、我が国は、引き続き平和国家として更に力強く歩んでいかねばなりません。

 そのためには、我が国自身が、国民の生命・身体・財産と領土・領海・領空を主体的・自主的な努力によって守る体制を抜本的に強化し、自らが果たし得る役割の拡大を進めなければなりません。

 このような認識の下、昨年末、専守防衛を前提に、従来の延長線上ではない、真に実効的な防衛力のあるべき姿を示す、新たな防衛大綱と中期防を策定したところです。

 我が国の安全を確保するための最終的な担保は我が国自身の防衛力にほかなりません。

  私自身、防衛大臣として、全身全霊をもって困難に立ち向かう決意です。自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣の指揮の下、我が国と世界の平和と安定のため、そして国民を守るという崇高な任務の遂行のため、諸君の一層の奮励努力を期待し、私の訓示といたします。

令和元年九月十七日
防衛大臣 河野 太郎