書道の部

平成30年度 全自衛隊美術展入賞作品

総評(中村 伸夫氏のコメント)

同じ傾向の作品はなく、審査は絶対評価をすれば良いという点で、本当の意味での審査になったと思います。

ただ例年、「刻字」や「篆刻」の出品がありましたが、今回はなく、また「かな」の作品も少なかったことは残念です。漢字は中国の文字ですが、「かな」は世界的にも認められた、純粋な日本の文字であり、いわばひとつの重要な伝統文化であるので大事にすべきです。また、書の形式というのは、掛け軸が発明されてから、縦に字を並べるのが通常となってきました。

この美術展の過去の作品の中には扇に書いた作品や、対句の言葉を左と右の2枚の軸にして書いたものなど、もう少し様々な書の形式の作品がありました。今回はすべて横長または縦長なので、もっと様々な表現の形式に挑戦すると、自分の新しい可能性が生まれたり、もっと楽しく書が学べて良いと思います。

人間は自分がどんな人間なのか、意外とわからないものです。ですから、表現したものを客観視して、自分はこんな字を書く人間なのかということがわかるということが、書の面白さでもあります。

内閣総理大臣賞

「蜀素帖(しょくそじょう)」

「蜀素帖(しょくそじょう)」
習志野駐屯地業務
事務官 磯谷 真美

講評

蜀素帖は、今から約900年ほど前の中国の文人が、ある政治家から絹を渡され、その絹に自分の一番良い書で書いて欲しいと頼まれたものです。現在、この名品は台湾の故宮博物院に所蔵されています。

原本は横長の巻物ですが、この作品はそれをあえて縦の掛軸に書いて非常に成功しています。筆は、鉛筆やボールペンと違い、扱いにくいものです。それをうまく制御してその良さを引き立てています。丁寧に書かれていますし、筆の動きや特徴も表されており、小筆でよくそれを再現しています。

立派な書であり、今回の最高賞として申し分のない素晴らしい作品です。

文部科学大臣賞

「春日雨風(はるのひあめかぜ)」

「春日雨風(はるのひあめかぜ)」
第6航空団
2等空曹 的野 誠

講評

大きな筆を開いたり閉じたりして書いており、「残」という字などは、わざと筆を開いています。筆を開くとかすれ、同時に表現が薄っぺらになりがちですが、この作品の字は筆が開いている中に芯が通っています。かすれの上手い人は筆遣いの上手い人で、かすれというのは刷毛で掃くような言葉ですが、書のかすれというのは、芯が通っていることが大事です。3行目の「飄」も、かすれているが芯が通っています。よほど訓練しないと、このようなかすれはでません。

黒と白とかすれと、そして、書いていない余白が微妙に響きあっています。書ではそれが大事です。書かない部分をどのように見せるか、何もないと真っ白ですが、筆で書いた瞬間に何もないところが生き物になります。生き物をどういう風に響き合わせて、書いていないところにどういう目に見えない関係を作るか、5行もあると難しいものですが、上手くいっています。

防衛大臣賞

「椰子の実(やしのみ)」

「椰子の実(やしのみ)」
第9航空団
2等空曹 矢内 佑弥

講評

横に何行も、段違いに複数の列で書くことはなかなかありません。もし横に書くのであれば、一列だけで書くことが多いです。

島崎藤村の詩の言葉を分けて書いて、言葉の意味を、それも表現に何か関わらせて創りたいという、意図がよくわかります。構成そのものも斬新であり、後ろの薄墨の背景も海辺の波打ち際の海岸の表現となっており、書と中々うまく合っています。文字の表情も独特で自分の字で書いています。誰が見てもきれいな古い伝統的な字ではなく、自分の好きな字だけを追求し、それが自分のものさしになっています。人が作った歴史的な優れたものさしをすべてほったらかして、最初から最後まで、自分のものさしだけを使い、ここまでやれれば大したものです。

ただ、掛軸でなく、額の方がよかったと思います。額の方が書風に合うと思いますし、掛け軸は割と伝統的なイメージがあるため、額であればよりインパクトがあったのではないかと思います。

防衛大臣賞(元隊員等・家族の部)

「青春(せいしゅん)」

「青春(せいしゅん)」
五十嵐 久美子

講評

わかりやすい詩をわかりやすい書風で書いてあります。

あえて1行を下揃えせず、上だけ揃えて、意味の切れ目のところで改行しています。例えば「初めて老いる」のあとに「歳月は」と書けばよいところを、あえて書いていません。詩の翻訳のとおりにあえて書いたのではないでしょうか。全体としてうまく起承転結がよくできています。

また、後半の一番大事なところを密度感もって書いています。これは読んでもらう詩なので、詩の重要なところをあえて強調しています。すんなり入っていって意味が盛り上がるところで、書も盛り上げています。

これも筆使いが自分のものであり、普段の自分の文字の書き方をそのまま書として書いて上手くいっている例だと思います。

通常は日常と違う要素を入れないと書にはなりません。あえて日常的に書いていることに面白さがあります。「理想」「情熱」「精神」「夢」のキーワードを少し大きめに書いており、これもこの方の意図だと思います。

入選

隊員等の部:1点

「近代詩 石川啄木の詩より」

「近代詩 石川啄木の詩より」
高知地方協力本部
准陸尉 須藤 勝則

元隊員等・家族の部:1点

「請阿室音頭(うけあむろおんど)」

「請阿室音頭(うけあむろおんど)」
元陸上自衛官
池田 豊