令和3年 岸防衛大臣 年頭の辞

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令和3年 岸防衛大臣 年頭の辞

はじめに

 防衛大臣の岸 信夫です。
 令和3年の年頭に当たり、自衛隊の全隊員諸君に対し、新年のお慶びを申し上げます。

 「国民の命と平和な暮らしを守り抜く。」

 この崇高な使命を全うするため、この年末年始を含め、24時間365日、数多くの隊員諸君が一瞬の隙も無い警戒監視を続け、いかなる事態が起ころうとも、すぐに万全の対応が取れる態勢を維持しています。

 もちろん、国内だけではありません。灼熱のソマリア沖・アデン湾においても、中東地域やシナイ半島においても、そして極寒の南氷洋(なんぴょうよう)においても、ご家族のもとを離れ、実直に任務を遂行している隊員諸君がいます。

 また、昨年は、台風や豪雨のような自然災害に加えて、鳥インフルエンザなどの家畜伝染病、新型コロナウイルスも猛威を振るいました。このような中にあって、隊員諸君は、度重なる災害派遣活動において、自らの危険を顧みず、真っ先に現場に駆け付け、献身的な救助活動や被災された方々の心に寄り添った生活支援を行いました。

 それぞれの持ち場で、強い使命感と責任感をもち、日々、全力で自らの職責を果たしている全国25万人の隊員諸君のことを私は片時も忘れることはありません。
防衛大臣として、諸君に心からの敬意と感謝の意を表します。

我が国を取り巻く安全保障環境

 私が防衛大臣に着任して早4カ月になります。この間に様々な報告を受ける中で、我が国を取り巻く安全保障環境が、一層厳しさと不確実性を増していることを改めて感じています。

 北朝鮮は、我が国を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有している状況に全く変わりはなく、弾道ミサイル等を相次いで発射することで、関連技術や運用能力の向上を図っています。このような活動は、我が国として断じて看過できるものではなく、国際社会全体にとっても深刻な課題です。また、ますます手法を巧妙にしながら、国連安保理決議違反の「瀬取り」を含む違法な海上活動を継続しています。

 そして中国は、透明性を欠いたまま継続的に高い水準で国防費を増加させ、軍事力を広範かつ急速に強化し、我が国周辺海空域における活動を質・量ともに急速に拡大・活発化させています。新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により国際的な協調・連携が必要な中において、中国が、依然として我が国周辺海空域における活動を活発化させる状況は、断じて見過ごすことは出来ません。

 さらに、ゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術の開発に各国が注力するなど、目まぐるしいテクノロジーの深化が、安全保障の在り方を根本的に変えようとしています。

 このような厳しい安全保障環境の中、国民の命と平和な暮らしを守り抜き、国民の負託に全力で応えていくために、本年も防衛省・自衛隊が一丸となり取り組んでいきましょう。

我が国自身の防衛体制の強化

 自らの手で自らを守り抜く気概なき国を、誰も守ってくれるはずはありません。我が国の安全を確保するための最終的な担保は、我が国自身の防衛力です。

 これまでに直面したことのない安全保障環境の中にあっても、国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができる真に実効的な防衛力の構築を、防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画に基づき、迅速に進める必要があります。
 イージス・アショアの代替案については、厳しさを増す我が国を取り巻く安全保障環境により柔軟かつ効果的に対応していくため、イージス・システム搭載艦2隻を整備し、海上自衛隊においてこれを保持することなどについて閣議決定を行いました。今後の検討にあたっても、これまで同様、防衛省全体で取り組んでまいりたいと考えています。
 抑止力の強化については、昨年9月の内閣総理大臣の談話で述べられた問題意識のもと、引き続き政府において検討を進めていきます。
 スタンド・オフ防衛能力の強化については、開発中の地対艦誘導弾を長射程化し、スタンド・オフ・ミサイルとして開発することとし、このための経費を令和3年度予算案に計上しています。自衛隊員の安全を確保しつつ、相手の脅威圏の外から対処する能力を強化するために、着実に事業を進めていきます。
 また、将来にわたって我が国の航空優勢を確保するためには、我が国主導で、第5世代機を超える次期戦闘機を開発していかなければなりません。昨年は、10月末に三菱重工業と契約し開発に着手するとともに、防衛副大臣を長とする推進委員会を設定しました。F-2戦闘機の退役・減勢が始まる2035年頃に、次期戦闘機の量産初号機が配備できるよう、本年も一層強力にこの事業を進めていきます。 
 そして、少子高齢化の進む厳しい環境の中、防衛省・自衛隊の明日(あす)を担う人材の確保・育成も、喫緊の課題です。宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域での優位性を保持するために、専門性の高い人材を確保し、また、国際的な安全保障協力を進めるために、多様な相手を理解し、自身の考えを言葉で伝えることのできる人材を確保することが、これまで以上に重要となっています。今後も、人的基盤の強化に資する取組をしっかりと講じていきます。

日米同盟の強化

 我が国自身の努力とともに、我が国の安全保障の基軸である日米同盟の強化も、より一層前に進めなければなりません。
 昨年、日米安全保障条約は、署名から60年を迎えました。まさに脈々と続く絆の同盟です。
 私も昨年11月に、ミラー米国防長官代行との電話会談を実施し、東シナ海・南シナ海や北朝鮮をはじめとするインド太平洋地域の情勢について、日米が引き続き緊密に連携していくことを確認しました。今年はバイデン新政権が発足しますが、今後も引き続き日米ガイドラインに基づいて、整合する両国の戦略を具体化するため、様々なレベルで、そして様々な分野において、日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化を進めていきます。

 同時に、米軍基地の所在する地元の基地負担を着実に軽減していく必要があります。特に沖縄については、負担軽減を目に見える形で実現するため、普天間飛行場の一日も早い移設・返還などに全力で取り組まなければなりません。また、在日米軍の安定的な駐留とその即応性の維持には、地元の理解と協力が不可欠であるとの共通認識のもと、米側と協力し、米軍の安全な運用の確保にしっかりと取り組んでいく必要があります。

安全保障協力の強化

 また、米国以外の諸外国、とりわけ、民主主義や法の支配といった基本的価値や安全保障上の利益を共有する多くの国々との二国間、多国間での協力の強化は、我が国の安全保障にとって不可欠です。
 「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを踏まえ、地域の特性や相手国の実情を考慮しながら、共同訓練、能力構築支援、防衛装備・技術協力等の手段を活用しつつ、防衛協力・交流に取り組み、インド太平洋地域をはじめとする国際社会全体の安定と繁栄に貢献していきます。
 同時に、グローバルな安全保障上の課題についても、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動、エジプト・イスラエル間の停戦監視活動等を行う多国籍部隊・監視団及び南スーダンPKOへの司令部要員の派遣など、国際社会の平和と安定のための取組を引き続き推進していきます。

結びに

 ここまで私が述べてきた取組や課題は、どれも容易に達成できるものではありませんが、防衛大臣として、常に私自身が、全隊員の先頭に立ち、諸君と一丸となって立ち向かっていく所存です。
 諸君一人一人におかれても、日本の平和と安全は、自らの双肩にかかっているという気概を強く持ち、それぞれの持ち場で職責を全うしてください。諸君の奮励努力を大いに期待しています。

 一方で、新型コロナウイルス感染症のリスクは、依然として諸君の周りに存在していることを改めて認識してください。
 私からも常々伝えているように、隊員諸君の感染は、部隊の能力発揮に直接影響を及ぼし、任務遂行に支障を来すものです。
 「自分だけは大丈夫」という甘い考えや気の緩みは絶対に許してはなりません。各自の行動を改めて厳しく律して下さい。また、各部隊等指揮官におかれては、感染拡大リスクを高めることのないよう、引き続き隊員に対して高い感染予防意識を持って行動するよう指導を徹底し、コロナ禍にあっても常に国民の負託にこたえられる態勢を維持してください。

 最後に、隊員諸君、そしてご家族の皆様のますますのご健康とご多幸を心からお祈りするとともに、本年が、防衛省・自衛隊にとって更に充実した年となることを祈念して、私の年頭の挨拶といたします。

令和3年1月12日
防衛大臣 岸 信夫