防衛力整備計画
Ⅸ いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤

1 防衛生産基盤の強化

 我が国の防衛産業は装備品のライフサイクルの各段階を担っており、装備品と防衛産業は一体不可分であり、防衛生産・技術基盤はいわば防衛力そのものと位置付けられるものである。

 企業にとって、防衛事業は高度な要求性能や保全措置への対応に多大な経営資源の投入を必要とする一方で、収益性は調達制度上の水準より低く、現状では、販路が自衛隊に限られ成長が期待されないなど産業としての魅力が乏しいこと、サプライチェーン上のリスクやサイバー攻撃といった様々なリスクが顕在化しているなど、多様な課題を抱えている。

 これらの課題に対応するため、各企業の防衛事業に対する品質管理、コスト管理、納期管理等を評価して企業のコストや利益を適正に算定する方式を導入し、防衛産業の魅力化を図る。また、企画提案方式等、企業の予見可能性を図りつつ、国内基盤を維持・強化する観点を一層重視した装備品の取得方式を採用していく。有償援助(FMS)調達する装備品についても、国内企業の参画を促進するための取組を行うとともに、合理化・効率化に努める。

 様々なリスクへの対応や防衛生産基盤の維持・強化のため、製造等設備の高度化、サイバーセキュリティ強化、サプライチェーン強靱化、事業承継といった企業の取組に対し、適切な財政措置、金融支援等を行う。

 サプライチェーンリスクを把握するため、サプライチェーン調査を実施する。新規参入を促進することでサプライチェーン強靱化と民生先端技術の取り込みを図る。さらに、同盟国・同志国等の防衛当局と協力してサプライチェーンの相互補完を目指す。これにより、安定的な調達に資するサプライチェーンの強靱化を行っていく。

 サイバー攻撃を含む諸外国の情報活動等からの情報保護は、防衛生産及び国際装備・技術協力の前提であり、防衛産業サイバーセキュリティ基準の防衛産業における着実な実施、防衛産業保全マニュアルを策定・適用するための施策を講じるとともに、産業保全制度の強化を行う。また、特許出願非公開制度等の経済安全保障施策と連携した機微技術管理を実施する。

2 防衛技術基盤の強化

 将来の戦い方に必要な研究開発事業を特定し、装備品の取得までの全体像を整理することにより、研究開発プロセスにおける各種取組による早期装備化を実現する。将来の戦い方を実現するための装備品を統合運用の観点から体系的に整理した統合装備体系も踏まえ、将来の戦い方に直結する以下⑴から⑹までの装備・技術分野に集中的に投資を行うとともに、従来装備品の能力向上等も含めた研究開発プロセスの効率化や新しい手法の導入により、研究開発に要する期間を短縮し、早期装備化につなげていく。その際、成果の見込みが低い研究開発については、速やかに事業廃止する仕組みを構築する。

 将来にわたって技術的優越を確保し、他国に先駆け、先進的な能力を実現するため、民生先端技術を幅広く取り込む研究開発や海外技術を活用するための国際共同研究開発を含む技術協力を追求及び実施するとともに、防衛用途に直結し得る技術を対象に重点的に投資し、早期の技術獲得を目指す。その際、関係省庁におけるプロジェクトとの連携、その成果の積極活用を進める。

 以上を踏まえ、政策部門、運用部門及び技術部門が一体となった体制で、将来の戦い方の検討と先端技術の活用に係る施策を推進する。

 我が国の科学技術力を結集する観点から、防衛省が重視する技術分野や研究開発の見通しを戦略的に発信し、企業等の予見可能性を高める。加えて、防衛イノベーションや画期的な装備品等を生み出す機能を抜本的に強化するため、防衛装備庁の研究開発関連組織のスクラップ・アンド・ビルドにより、2024年度以降に新たな研究機関を防衛装備庁に創設するほか、研究開発体制の充実強化を実行する。さらに、先端技術に関する取組を効果的に実施する観点から、国内の研究機関のほか、米国・オーストラリア・英国といった同盟国・同志国との技術協力を強力に推進する。

 開発段階から装備移転を見越した装備品の開発や、自衛隊独自仕様の見直しを推進する。装備品の開発に当たっては、量産段階・維持整備段階のコスト低減を考慮する。また、弾薬や車両等の従来技術について、その生産・技術基盤を維持するための措置を講じる。

  1.  スタンド・オフ防衛能力
    我が国に侵攻してくる艦艇、上陸部隊等に対して、脅威圏の外から対処する能力を獲得する。
    1.  12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型・艦艇発射型・航空機発射型)について開発を継続し、地上発射型については2025年度まで、艦艇発射型については2026年度まで、航空機発射型については2028年度までの開発完了を目指す。
    2.  高い隠密性を有して行動できる潜水艦から発射可能な潜水艦発射型スタンド・オフ防衛能力の構築を進める。
    3.  高高度・高速滑空飛しょうし、地上目標に命中する島嶼防衛用高速滑空弾の研究を継続し、早期装備型について2025年度までの事業完了を目指すとともに、本土等のより遠方から、島嶼部に侵攻する相手部隊等を撃破するための島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)を開発する。
    4.  極超音速の速度域で飛行することにより迎撃を困難にする極超音速誘導弾について、研究を推進し2031年度までの事業完了を目指すとともに、派生型の開発についても検討する。
    5.  長射程化、低レーダー反射断面積(RCS)化、高機動化を図りつつ、モジュール化による多機能性を有した島嶼防衛用新対艦誘導弾を研究する。
  2.  極超音速滑空兵器(HGV)等対処能力
     既存装備品での探知や迎撃が困難である極超音速滑空兵器(HGV)等に対処するための技術を獲得する。
    1.  巡航ミサイル等に加えて、極超音速滑空兵器(HGV)や弾道ミサイル対処を可能とする03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上型を開発する。
    2.  極超音速で高高度を高い機動性を有しながら飛しょうする極超音速滑空兵器(HGV)に対処する、極超音速滑空兵器(HGV)対処用誘導弾システムの調査及び研究を実施する。
  3.  ドローン・スウォーム攻撃等対処能力
     脅威が急速に高まっているドローン・スウォームの経空脅威に対して、経済的かつ効果的に対処するための技術を獲得し、早期装備化を目指す。
    1.  小型無人機(UAV)等の経空脅威を迎撃する高出力レーザーの各種研究を継続する。
    2.  高出力マイクロ波(HPM)を照射して小型無人機(UAV)等を無力化する技術の研究を継続する。
  4.  無人アセット
     防衛装備品の無人化・省人化を推進するため、既存の装備体系・人員配置を見直しつつ、無人水中航走体(UUV)等に係る技術を獲得する。
    1.  管制型試験無人水中航走体(UUV)から被管制用無人水中航走体(UUV)を管制する技術等の研究を実施し、水中領域における作戦機能を強化する。
    2.  有人車両から複数の無人戦闘車両(UGV)をコントロールする運用支援技術や自律的な走行技術等に関する研究を実施する。
    3.  水上艦艇の更なる省人化・無人化を実現するため、無人水上航走体(USV)に関する技術等の研究を継続する。
  5.  次期戦闘機に関する取組
    1.  次期戦闘機の英国及びイタリアとの共同開発を着実に推進し、2035年度までの開発完了を目指す。次期戦闘機等の有人機と連携する戦闘支援無人機(UAV)についても研究開発を推進する。
    2.  これらの研究開発に際しては、我が国主導を実現すべく、数に勝る敵に有効に対処できる能力を保持することを前提に、将来にわたって適時適切な能力向上が可能となる改修の自由や高い即応性等を実現する国内生産・技術基盤を確保するものとする。
  6.  その他抑止力・対処力の強化
    1.  各種経空脅威への対処能力向上のための将来レールガンに関する研究を継続する。
    2.  脅威となるレーダー等の電波器材に誤情報を付与して複数の脅威が存在すると誤認させる欺まん装置技術に関する研究を実施する。
    3.  複雑かつ高速に推移する戦闘様相に対して、人工知能(AI)により行動方針を分析し、指揮官の意思決定を支援する技術を装備品に反映するための研究を行う。
    4.  情報収集能力等を向上した多用機(EP-3)の後継機となる次期電子情報収集機について必要な検討を実施の上、研究開発を進める。
    5.  警戒監視中の艦艇等から迅速に機雷を敷設するため、小型かつ遠隔から管制が可能な新型小型機雷を開発する。
    6.  極超音速誘導弾の要素研究の成果を活用した極超音速地対空誘導弾の研究開発に着手する。

3 防衛装備移転の推進

 防衛装備移転については、同盟国・同志国との実効的な連携を構築し、力による一方的な現状変更や我が国への侵攻を抑止するための外交・防衛政策の戦略的な手段となるのみならず、防衛装備品の販路拡大を通じた、防衛産業の成長性の確保にも効果的である。このため、政府が主導し、官民の一層の連携の下に装備品の適切な海外移転を推進するとともに、基金を創設し、必要に応じた企業支援を行っていく。

4 各種措置と制度整備の推進

 以上のような政策を実施するため、必要な予算措置等、これに必要な法整備、及び政府系金融機関等の活用による政策性の高い事業への資金供給を行うとともに、その執行状況を不断に検証し、必要に応じて制度を見直していく。