第8回アジア安全保障会議(平成21年5月30日 浜田防衛大臣のシンガポール訪問)

 浜田防衛大臣は、第8回アジア安全保障会議に出席し、「主要国とアジアの安全保障:協力か対立か」と題してスピーチするとともに、ベトナム、豪州、米国、モンゴル、シンガポールの各国国防相との二国間会談及び初の日米韓3か国会談を実施しました。また、シンガポール首相及び内閣顧問への表敬、英国国防政務官からの表敬受けを実施しました。


浜田防衛大臣スピーチ(平成21年5月30日、シンガポール)

English

第8回IISSアジア安全保障会議(シャングリラ会合)における
浜田靖一防衛大臣スピーチ
「主要国とアジアの安全保障:協力か対立か」
(平成21年5月30日、シンガポール)

【1 冒頭発言】

 チップマン所長、
 御来賓の皆様、
 アジア太平洋地域で唯一の国防大臣級の多国間対話の場として他にない意義のあるこの会合において講演する機会を頂き、光栄に存じます。国際戦略研究所及びシンガポール政府関係者の皆様に深い感謝の意を表します。

 本日は、先ず、最近の東アジアの安全保障環境の変化を概観した後、この地域を安定させるため「主要国」はどのような責任を果たしていくべきか、その中で我が国の役割や課題をどう考えているかについてお話ししたいと思います。

【2 東アジアの安全保障環境の変化】

 皆様、
 まず、現状認識として、最近の東アジアの安全保障環境の変化についてお話しします。この地域においては、冷戦終結後、国家間の相互依存が深化し、二国間、三国間、多国間の連携・協力関係の強化が図られる一方で、依然として統一問題や領土問題といった伝統的な安全保障上の諸問題が残っています。また、この地域でも国際テロ組織等の非国家主体が重大な脅威になるとともに、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散等がグローバル化を背景に差し迫った課題となってきました。

 こうした中、我が国は、新たな脅威や多様な事態への実効的対応を重視するとともに、国際社会の平和と安定と各国の平和と安全の密接な結びつきを認識し、国際平和協力活動に積極的に取り組んできました。我が国は、イラクの人道復興支援のほか、インド洋での海上阻止活動を実施する各国艦船に対する補給支援活動を通じた国際テロを取り除くための取組や、アフガニスタンの治安改善や経済発展への支援等に政府全体で取り組んできました。また、アジアにおける様々な大規模災害に際し、被災国政府又は国際機関からの要請を受けて救援活動を実施してきました。

 9.11テロ以降も東アジアの安全保障情勢には、協力の機運の高まりに加え、注目すべき3つの変化が出てきています。第一に、海賊や災害のほか、感染症、更には気候変動といったグローバルな安全保障上の脅威や不安定要因が多様化、複雑化、重層化し、この地域にも影響を与えています。第二に、主要国のこれまでの持続的な経済成長を反映して、急速な軍の近代化や軍事活動の活発化が見られます。第三に、北朝鮮による核実験やミサイルの長射程化が地域の大きな不安定要因となっています。

 北朝鮮は、5日前に2回目の地下核実験の実施を発表しました。北朝鮮による核実験は、弾道ミサイル能力の増強と併せ考えれば、北東アジアのみならず国際社会全体の平和と安全を著しく害するものとして断じて容認できません。かかる行為は国連安保理決議第1718号や六者会合共同声明に違反しています。北朝鮮が即時に大量破壊兵器及び弾道ミサイル計画を放棄することを改めて求めるとともに、国連安保理が強力な新決議を近く採択し、国際社会がその履行に向けて一致した措置をとることを期待します。

【3 主要国の3つの責任】

 皆様、
 アジアは成長と繁栄の可能性に満ちた地域です。不安定要因の存在や軍備の増強はこの地域の将来を不透明にする材料かも知れません。しかし、その一方で各国が共同の利益に基づき互恵的な関係を築くよう協力する機運も生まれています。かかる傾向を強め、かつてこの地域でも経験したような衝突が起こることのないよう努力していく必要があります。

 すなわち、どのようにして、摩擦や対立を減らし、建設的な協力を進めていくかがこの地域の大きな課題であると考えます。国際社会における平和と安定に対する責任は、あらゆる国が能力と資源に応じて共有すべきものです。同時に、能力と資源を有する主要国は、地域の安定のために一層大きな責任を果たさなければなりません。その責任には、主要国間の信頼強化、グローバルな課題の解決に向けた協力、地域の対処能力の強化への貢献という3つがあると思います。

(第一の責任:主要国間の信頼強化)

 第一の責任である主要国間の信頼強化については、まず同盟国のみならず各国の国防当局間の対話と交流を促進し、常態化していくべきです。

 我が国は、隣国の中国・韓国、地域の重要なパートナーである豪州・インドを始めとする二国間の防衛交流や、防衛省による国際会議の主催等多国間の安全保障対話を進め、関係各国との信頼強化を図っています。私は最近豪州、中国、韓国の国防大臣と会談し、防衛交流に関する覚書への署名や共同発表を行って、一層の関係強化を文書で確認し合いました。このようなハイレベル交流を推進力としながら、実務者協議、若手幹部交流、共同訓練、艦艇や航空機の相互訪問、PKOセンターへの講師派遣、留学生の交換、研究交流等、あらゆるレベルでの交流を拡大・深化していくべきです。

 また、こうした交流は不可欠ですが、それだけで十分であるわけではありません。主要国間の信頼強化のためには、各国は、戦略的意図の表明にとどまらず説得力ある根拠に基づいて、軍備の透明性を双方向的な形で一層向上させる必要があります。軍備の保有状況や将来の方向性、武器移転、国防費、政策決定過程等の不透明性は不信感と猜疑の原因です。不確実性を解消し予見可能性を高めることにより、軍備競争や破滅的な誤算のリスクを大きく減少することは主要国の大きな責任であります。

(第二の責任:グローバルな課題の解決に向けた協力)

 主要国の責任の第二は、グローバルな安全保障上の課題の解決に向けて協力することです。これには先に述べたテロ、海賊、災害、感染症、気候変動といった様々な分野が含まれますが、ここでは、重要なグローバルな課題の一つである核軍縮・不拡散に焦点を当てたいと思います。この問題には核戦力を保有する主要国が率先垂範することが求められています。

 我が国は、米国が核兵器のない世界の追求を宣言し、包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准する意思を表明したことを強く支持します。また、米国とロシアが新たな核軍縮交渉を開始することを歓迎します。我が国が先に発表した「世界的核軍縮のための11の指標」で述べているように、世界的核軍縮を前進させるためにも、中国及びその他の核保有国も核軍縮措置を行うことが重要です。核兵器国を含むすべてのCTBT発効要件国が同条約を批准し、核実験が行われなくなる日が近い将来に訪れることを強く期待しています。

 我が国は、唯一の被爆国として、軍縮・不拡散分野で従来から積極的に取り組んできています。来年は核拡散防止条約(NPT)再検討会議を控えておりますが、北朝鮮の核実験も踏まえると、最も大切なことは、ルールを守る国が不安を感じ、ルールを破る国が利益を得るような状況を作らないよう、主要国が真剣に努力しなければならないということです。そうした国際的努力の第一線で、我が国はNPT体制の強化を図るため積極的に貢献していく考えです。また、アジアにおける大量破壊兵器の不拡散体制強化のため、拡散に対する安全保障構想(PSI)への各国の理解を促すとともに、PSI共同訓練にも引き続き取り組んでいきたいと思います。

(第三の責任:地域の対処能力の強化への貢献)

 主要国の責任の第三は、地域の対処能力の強化に貢献することです。この地域では災害救援、海上安全保障、平和維持・平和構築といった課題を共有する意識が育ちつつあります。ASEAN地域フォーラム(ARF)等の多国間の場を共通の安全保障上の課題に対する実際的協力と問題解決の枠組みに育てるよう協力すること、また、地域全体の問題対処能力向上に向けた各国の能力構築を支援することが重要です。

 今月初めに、ARFの枠組みで初めての災害救援実動演習がフィリピンで行われました。これはARFを行動志向的な場に進展させていく画期的な一歩です。我が国自衛隊は、本演習に医療、防疫、給水、海上救難、航空輸送の分野で参加し、他の参加国と連携して活動しました。この演習を共催したフィリピン及び米国の努力に敬意を表するとともに、我が国はこの種の活動の継続的な実施と拡充に協力し、地域の対処能力の向上に寄与してまいります。

 こうした活動の一層の推進のため、アジア太平洋地域において、トラックⅡ対話だけではなく、域内のあらゆる国が参加する国防大臣級の多国間対話の枠組みが構築されてもよいと思います。

【4 我が国の今後の取組】

 皆様、
 我が国も地域の「主要国」の一つとして今述べた3つの責任をしっかり果たしてまいります。その際には次の2つの観点を踏まえていきたいと思います。

(周辺国への積極的関与)

 第一に、周辺国への積極的関与を通じた協調と協力の醸成です。最初に述べたような最近の東アジアの安全保障情勢の変化を考慮すれば、我が国自身が周辺国への積極的な関与を通じて地域環境・秩序の一層の安定化を図るための能動的な取組を行うことが必要となっています。

 周辺国への積極的な関与に当たっては、安全保障環境改善のための国際社会の取組が重層的に拡大している中、周辺国が安全保障分野において責任ある建設的な役割を果たすよう促すとともに、関係国間の対立を排除し、協調と協力を醸成していくことが重要です。協調と協力を醸成する観点から、我が国と周辺国の防衛当局間で、災害救援の合同訓練や大規模災害時の部隊派遣・受入、偶発事故防止のための枠組み作り、あるいは非伝統的な安全保障上の課題に対する多国間地域協力の共同イニシアティブといった能動的な取組を今後大幅に強化していきたいと考えます。現在、我が国政府は5年振りの「防衛計画の大綱」の修正に向けた作業を行っていますが、以上御説明したような考え方は、この作業にも反映させていく考えです。

(信頼できる親身なパートナー)

 第二に、文化の違いや受入国のセンシティビティ、現地住民のニーズ等に配慮する対等で信頼できるパートナーとなるということです。

 我が国が国際平和協力に当たって常に大切にしてきたことは、国際社会の共通課題とニーズの理解、受入国政府との良好な意思疎通、軍事力による支援と開発支援との連携、そして日米同盟とアジア外交との共鳴であります。自衛隊も、これまでの海外活動から、地元住民の尊重と地元のニーズに応える努力、厳格な規律と専門能力の発揮、国際的なパートナーとの緊密な連絡・協力の重要性を学んできました。こうしたアプローチは活動地域の安定化への近道であると考えており、我が国は地域における信頼できる親身なパートナーとして、グローバルな課題の解決に建設的な役割を果たすことを目指したいと考えます。

(今後の課題)

 皆様、
 我が国が従来にも増して国際的な役割に積極的に取り組むためには、検討を要する課題もあります。その一つは、政策立案能力の強化です。冒頭に述べた環境変化の中で3つの責任を適切に果たしていくためには、地域にとって魅力ある政策を立案し、効果的に発信することが重要となっています。これに加え、国際平和のために国際社会が協力して行う活動が大規模・多機能化・長期化する中で、国際活動を持続的に実施していくための自衛隊の体制整備は大きな課題です。幅広い国際的な平和活動に迅速かつ効果的に対応するための一般的な国内法制の策定も重要です。

 また、災害対処や平和維持等の分野における各国国防当局の能力構築に対し人材育成のみならず装備・技術協力の面を含めて一層寄与するために、国際紛争を助長しないという理念に立ちながら何ができるかも検討の必要があります。更に、我が国の防衛・安全確保に加えて国際的な役割を拡充していくために、人材の面を含め十分な資源配分を確保するための措置が必要であると考えます。

 我が国にはアジアの安定のために発揮できる力がまだまだあります。同盟国との関係、周辺国との関係をより高い次元に引き上げつつ、地域の平和と安定に積極的に寄与するため、本日御参加の皆様とともに共同の責任を果たしていきたいと考えます。

第8回アジア安全保障会議結果概要について

平成21年6月1日

 5月30日、浜田防衛大臣は標記会合に出席するとともに、参加国の国防大臣との二国間会談等を行ったところ、概要次のとおり。

1.スピーチ

「主要国とアジアの安全保障:協力か対立か」と題し、概要以下のスピーチを実施。

○ 東アジアの安全保障情勢の変化

東アジアにおいては、伝統的諸問題が残るとともに、非国家主体による脅威や大量破壊兵器・弾道ミサイルの拡散が差し迫った課題。
近年の東アジアの安全保障情勢には、協力の機運の高まりに加え、① 海賊、災害に加え感染症等グローバルな安全保障上の脅威の多様化・複雑化・重層化、② 主要国の経済成長を反映した急速な軍の近代化や軍事活動の活発化、③ 北朝鮮の核実験やミサイルの長射程化といった注目すべき変化がある。
北朝鮮による核実験は、北東アジアのみならず国際社会全体の平和と安定を著しく害するものとして断じて容認できない。安保理が強力な新決議を近く採択し、国際社会がその履行に向け一致した措置をとることを期待。

○ 主要国の3つの責任

いかに摩擦や対立を減らし、建設的な協力を進めるかがこの地域の大きな課題。
主要国には、① あらゆるレベルの防衛交流の促進や軍備の透明性向上を通じた主要国間の信頼強化、② 核軍縮・不拡散への核保有国の率先垂範などグローバルな安全保障課題の解決に向けた協力、③ ARF等の枠組みの発展への協力や各国の能力構築への支援などを通じた地域の対処能力強化への貢献の3つの責任がある。

○ 今後の我が国の取組

我が国も地域の「主要国」の一つとして、① 周辺国への積極的関与、② 対等で信頼できるパートナーといった観点を踏まえ、上記責任をしっかり果たしていきたい。
我が国の課題は、従来にも増して国際的な役割に積極的に取り組むための政策立案や体制整備、国際平和協力の一般法の策定、装備・技術面を含めた各国の能力構築に対する寄与、国際的な役割を拡充するための十分な資源配分の確保。
地域の平和と安定に積極的に寄与するため、共同の責任を果たしていきたい。

 なお、スピーチ後の質疑応答において、核抑止、弾道ミサイルの脅威について質問があり、浜田大臣より適宜応答。

2.各国国防相等との会談

 ベトナム、豪州、米国、モンゴル、シンガポールの国防大臣と個別に会談したほか、米国及び韓国との初の3か国防衛相会談を実施。また、シンガポール首相及び内閣顧問への表敬、英国国防政務官からの表敬受を実施。

(1)日ベトナム防衛相会談(タイン国防大臣)

双方は、ハイレベル交流など各種交流の進展を評価するとともに、今後の防衛交流の方向性を明確にするため、防衛交流覚書の策定作業を開始し、相互訪問や教育分野などでの交流を強化していくことで一致。

(2)日豪防衛相会談(フィッツギブン国防大臣)

北朝鮮の核実験について、当方より我が国の立場について説明し、両国が一体となって対応していくことで一致。また、ロジスティックス協力に関する検討の加速、共同訓練の拡充、日米豪3か国の協力の強化で一致。さらに、豪国防白書について意見交換を行ったほか、ソマリア沖・アデン湾における海賊対策について双方の対応を説明し、国際社会として力を合わせていく良い機会であることを確認。

(3)英国防政務官による表敬(テイラー国防政務官)

北朝鮮の核実験について、当方より我が国の立場について説明。先方より、英国も日本の懸念を共有している旨発言があり、国際社会が一体となって対応する必要があることで一致。また、ソマリア沖・アデン湾における海賊対策について、当方より我が国の対応を説明。先方より、我が国の取組を評価するとともに、国際平和協力活動において引き続き協力していくことで一致。

(4)日モンゴル防衛相会談(ボルド国防大臣)

北朝鮮の核実験について、浜田大臣のスピーチに言及しつつ、先方より、モンゴルとしてもこの問題に取り組んでいく準備がある旨発言があり、今後とも、北朝鮮問題を含め意見交換を行っていくとともに、防大への留学生受入など各種防衛交流を推進することで一致。

(5)日米防衛相会談(ゲイツ国防長官)

北朝鮮の核実験、米軍再編、F-Xについて、別紙1のとおり協議。

(6)日米韓防衛相会談(ゲイツ米国国防長官、李相憙(イ・サンヒ)韓国国防部長官)

初の日米韓3か国防衛相会談の開催を歓迎・評価するとともに、北朝鮮の核実験への対応、3か国の緊密な協力の重要性等について、別紙2のとおり協議。

(7)シンガポール内閣顧問表敬(リー・クアンユー内閣顧問)

アジア太平洋地域諸国の防衛大臣が集まる場として、シャングリラ会合の重要性が一層高まっているとの認識を共有。政治、経済を含め幅広く意見交換を行うとともに、この地域における米国の関与及び日米関係の重要性を確認。

(8)シンガポール首相表敬(リー・シェンロン首相)

北朝鮮の核実験について、国際社会は北朝鮮の核保有を断じて容認してはならず、連携してこの問題に取り組むべきことで一致。当方より、シャングリラ会合の重要性を強調するとともに、同会合発展のため協力したい旨発言。

(9)日シンガポール防衛相会談(テオ・チーヒン副首相兼国防大臣)

当方より、シャングリラ会合に対するシンガポールの尽力を評価。双方は、防衛交流の現状を評価するとともに、更なる発展のため、防衛交流覚書の策定作業を開始することで一致。先方より、補給支援活動とソマリア沖・アデン湾における海賊対策に対する我が国の取組を評価。海上の安全保障について協力していくことで一致。

3.総括

 アジア太平洋地域を中心とする多数の国々が参加する第8回アジア安全保障会議に我が国の防衛大臣が出席し、北朝鮮の核実験への断固たる対応を含め、アジアの安全保障に関する我が国の考え方を発信するとともに、各国国防大臣等との間で、北朝鮮の核実験への対応や防衛交流等について意見交換できたことは極めて有意義。

会議・首脳会談等の記録

第8回アジア安全保障会議
第8回アジア安全保障会議
第8回アジア安全保障会議
日ベトナム防衛相会談(平成21年5月30日(土)、於:シンガポール)
第8回アジア安全保障会議
日豪防衛相会談(平成21年5月30日(土)、於:シンガポール)
第8回アジア安全保障会議
日米防衛相会談(平成21年5月30日(土)、於:シンガポール)
第8回アジア安全保障会議
日モンゴル防衛相会談(平成21年5月30日(土)、於:シンガポール)
第8回アジア安全保障会議
日米韓防衛相会談(平成21年5月30日(土)、於:シンガポール)

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