第18回IISSアジア安全保障会議(シャングリラ会合)防衛大臣スピーチ(仮訳)

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2019年6月1日(土):第2全体セッション
朝鮮半島の安全保障:次のステップ

冒頭挨拶

 チップマン所長、ご列席の皆様、このたびは、皆様方にお話しする機会をいただき、非常に光栄に思っております。ご招待に感謝するとともに、準備に携わられた方々、特に国際戦略研究所及びシンガポール政府の皆様にお礼を申し上げます。シャングリラ会合は、アジア太平洋地域の安全保障に関心を有する諸国間の対話の場として、日本にとっても極めて有意義なものです。

 さて、朝鮮半島の安全保障に関する私のスピーチに移る前に、インド太平洋の安全保障に関するシャナハン国防長官代行の包括的なスピーチに触れたいと思います。第1セッションでシャナハン国防長官代行が主要点を披瀝された「インド太平洋戦略レポート」に示されるように、米国が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のビジョンに強くコミットしていることを歓迎するとともに、ご列席の皆様にも同ビジョンの理念は賛同いただけるものと確信いたしております。

 FOIPの眼目は、インド太平洋地域において法の支配を確固とし、その下で、平和と安定、そして経済的繁栄を、地域諸国が手を携えて追求することにあります。本セッションのテーマである朝鮮半島の安全保障も、そのビジョンの不可欠の一部です。

朝鮮半島をめぐる現状認識

 およそ1年前、ここシンガポールの地において歴史に残る米朝首脳会談が開催されました。朝鮮半島の非核化に向け、北朝鮮の具体的な行動を促していくとの米国政府の姿勢に、改めて強固な支持を表明いたします。

 北朝鮮は、米朝首脳会談の意義を理解し、国際社会の真摯な努力に応え、現下の機会を活かすように努めなくてはなりません。この点、約1ヶ月前に北朝鮮が行った短距離弾道ミサイルの発射は、累次の国連安保理決議に違反するものであり、極めて遺憾です。

 さて、北朝鮮の非核化という国際的な課題を巡って、安保理決議に従い北朝鮮が保有する全ての大量破壊兵器およびあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ不可逆的な方法による廃棄(CVID)を求めるという我が国の立場には、全く変わりはありません。ここで改めて確認すべきは、北朝鮮の核・ミサイル能力に本質的な変化は生じていないという厳然たる事実です。具体的には、北朝鮮は我が国全域を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有して実戦配備するとともに、米国本土や欧州諸国までをも射程に収め得る弾道ミサイルを保有しています。さらに、生物・化学兵器を含む大量破壊兵器の拡散というグローバルな安全保障上のリスクも、依然として除かれてはおりません。

 こうした事実を踏まえると、現状に潜む最大のリスクは、次の一点に存すると言えます。すなわち、昨年来の米朝プロセスの重要な基礎であるはずの北朝鮮の非核化に向けた国際社会の団結が、北朝鮮がCVIDに向けた具体的な取組を実施する前に緩むことです。今こそ、北朝鮮の非核化に向けて、一連の国連安保理決議を完全に履行し、米朝プロセスを後押しすることが、極めて重要なのです。

北朝鮮の非核化、望ましい地域秩序の形成に向けた日本の取組

 さて、それでは以上のような現状認識を踏まえて、北朝鮮の非核化を実現し、さらには手を携えて望ましい地域秩序を築いていくには、どのような手が打たれるべきでしょうか。以下で、防衛大臣としての見方をご紹介いたします。

 まず強調させていただきたいのは、日本にとって、朝鮮半島の平和と安定が極めて重要であるという事実です。従来から明らかにしているとおり、日本は、北朝鮮の非核化が外交を通じて平和的に実現されることを強く期待しております。

 この点を踏まえて申し上げれば、北朝鮮の非核化に向けた国防当局の役割とは、かかる外交努力を力強く下支えし、後押しすることです。すなわち第一に、確たる抑止力を維持することです。我が国は今後とも、弾道ミサイル警戒訓練等の共同訓練の実施をはじめ、日米、日米韓三カ国の一層の連携強化に向けて精力的に取り組んで参ります。また、確たる抑止力をもって地域の安定化を図る上では、現状においてはもちろんのこと、見通しうる将来にわたっても、北東アジアにおける米国のプレゼンスが不可欠であることには、疑いを差し挟む余地がありません。

 このように、北朝鮮の非核化に向けて国防当局が果たすべき第一義的な役割は確たる抑止力の維持ですが、国連安保理決議の実効性を維持することも国防当局の重要な役割です。ここでは、国連安保理決議の実効性を維持していくための具体的な取組として、二つのアプローチを並行して進めることの重要性を強調したいと思います。すなわち、制裁逃れに対する国際的な監視の強化と、制裁の完全履行に向けた地域諸国による個別的な取組の強化の二つです。いわば、グローバルに監視の眼を光らせ、ローカルに制裁の確実な履行に努めることが求められているのです。これら二つのアプローチは車の両輪であり、どちらが欠けても十全の効果を発揮し得ません。

 我が国は、いわゆる「瀬取り」に対処すべく海上自衛隊及び海上保安庁による洋上での警戒監視を行い、疑わしい船舶に「呼びかけ」を行う活動を継続しており、「瀬取り」を行っている船舶を発見した場合には対外公表を行っています。

 心強いことに、国際的な監視体制の強化に向け、すでに有志各国が力を合わせて活動しています。太平洋に共に面する米豪NZ加のみならず、英仏をはじめとする欧州諸国も、「瀬取り」監視への協力に乗り出しています。その取組は、北朝鮮問題にとどまらない国際公益への貢献であり、地域の安全保障環境の透明性を高め、ひいては大量破壊兵器の拡散等、国際的な平和と安全を脅かす活動の防止に資する多国間海洋監視のモデルケースとなり得るものです。有志各国の強固な結束に敬意を表しつつ、今後一層、協力の輪が広がることを期待いたします。

 こうして国際的な監視体制の強化に力強い前進がみられる一方、北朝鮮に対する関連の国連安保理決議を完全に履行する上で、地域諸国には更なる取組が求められています。北朝鮮問題に直接的な関わりを持つ韓国、中国、ロシア、そして世界的な物資輸送ルートの要衝に位置する東南アジアの沿岸国には、国際公益を見据えた一層の連帯を呼びかける次第です。

 ここまで、防衛大臣という立場から、確たる抑止力の維持と国連安保理決議の実効性維持という国防当局にとっての二つの課題について、対処の方策を述べてまいりました。かかる取組が、外交プロセスの後押しとなることを確信しております。日本として、こうした取組を継続していく決意です。

 北朝鮮との関係に関する日本政府の方針は、拉致、核・ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指していくというものであり、この方針は変わりません。北朝鮮には、豊富な資源があり、勤勉な労働力があります。北朝鮮が正しい道を歩むのであれば、明るい未来を描くことができます。北朝鮮が有する潜在性を解き放つため、日本は助力を惜しみません。

まとめ

 ご列席の皆様、いま国際社会に求められているのは、不測の事態への予防措置を万全に講じつつ、交渉をまとめるための環境を整備する努力であります。そこに向けた国際社会の団結を呼びかけて、私のスピーチの結語とさせていただきます。

 発言の機会に改めて感謝申し上げます。活発な議論が交わされるものと楽しみにしております。