教育訓練・その他活動

2022年

領域横断作戦とマルチ・ドメイン・オペレーションを踏まえた連携 ~ヤマサクラ81~

1はじめに
 令和3年12月1日から同年12月13日の間、令和3年度日米共同方面隊指揮所演習、通称「YS-81(ヤマサクラ81)」が、伊丹駐屯地を始めとして、朝霞駐屯地、座間駐屯地、相浦駐屯地等で実施されました。
 YSは、我が国を取り巻く安全保障環境に適応し得るよう、演習内容を進化させつつ発展を遂げてきた陸自最大規模の日米共同演習であり、40年目の節目となる今回のYS-81においては、陸、海、空という従来の領域に宇宙、サイバー及び電磁波といった新領域を加えた陸上自衛隊の領域横断作戦と米陸軍のマルチ・ドメイン・オペレーションを踏まえた日米の連携向上を焦点として演習を実施しました。
  本演習には、陸上自衛隊から陸上総隊、中部方面隊等の人員約3,500名、米軍から第1軍団、第25歩兵師団、第3海兵機動展開旅団等の人員約1,500名(米国本土での参加者を含む。)が参加しました。コロナ禍で行われた演習ではあったものの、約300名の米軍及びその関係者が来日するとともに、豪軍から約30名がオブザーバーとして参加しました。

2YSの意義
 日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンを共有する日米両国は、日米同盟に基づく相互運用性を強化し、我が国への脅威に対する抑止及び対処の実効性を向上することが求められています。
 40年にわたり実施されてきたYSは、強固な日米同盟を象徴する訓練の一つであるとともに、陸上総隊司令部、方面総監部等の上級司令部を主体とした大規模な指揮幕僚活動を日米共同で演練できる貴重な機会です。また、近年においては陸上自衛隊の領域横断作戦と米陸軍のマルチ・ドメイン・オペレーションを踏まえた日米の連携向上に係る絶好の訓練機会であり、日米両国にとって極めて重要な演習です。

3YSの沿革と進化
 第1回目のYS-1は、冷戦中の1982(昭和57)年2月、東富士演習場に隣接する滝ケ原駐屯地を使用して、約一週間実施されました。YSを開始した当初は、陸軍種単独による本格的な武力紛争状態への対処を念頭においたシナリオを作成し、総合戦闘力の発揮を重視した戦い方に係る訓練を実施していました。
一方で、2001年に米国で9.11同時多発テロが発生した頃からは、国際情勢や米軍の教義の変化等を踏まえ、対テロ、国民保護、陸・海・空自衛隊による統合運用、サイバー攻撃対処等、様々な要素を訓練に取り込みつつ、訓練内容を毎年進化させています。 近年では、陸上総隊及び教育訓練研究本部が新編されたことから、訓練目的についても、従来の「方面隊の演習」から、陸上総隊司令部及び方面総監部を中心とした「陸上自衛隊の演習」へと発展しています。

4領域横断作戦とマルチ・ドメイン・オペレーションを踏まえた連携
 陸上自衛隊は、我が国の防衛に必要な抑止力・対処力を強化するため、領域横断作戦に必要な能力を強化しており、部隊の新編・改編や装備品の取得・改良に加え、様々な訓練・演習において部隊・隊員の練度を向上させています。  特に、YSでは、日米共同の指揮所演習という枠組みにおいて、陸上自衛隊の領域横断作戦と米陸軍のマルチ・ドメイン・オペレーションを踏まえた連携向上に係る訓練を実施しており、作戦司令部における指揮幕僚活動を日米が共同で行い、日米の相互理解を促進するとともに、作戦構想やそれに至る調整要領を日米でシンクロナイズさせ、日米の相互運用性を向上させています。

日米共同の作戦会議の様子


 また、YSと同様に陸上自衛隊の領域横断作戦と米陸軍のマルチ・ドメイン・オペレーションを踏まえた連携向上を狙いとした訓練であるオリエント・シールド21(令和3年6~7月に中部方面隊が担任)を通じて得られた日米共同による敵部隊や敵艦船等に対するターゲティングに係る教訓も本訓練に反映し、着実にその成果を累積しています。

陸自MLRSと米陸軍HIMARSの共同実射訓練(OS21)


 加えて、時期を同じくして、国内における米海兵隊との実動訓練「レゾリュート・ドラゴン21」や米国における米軍との実動訓練「ライジング・サンダー21」において陸上自衛隊と米陸軍・米海兵隊との連携を強化する中、YSを通じて米軍と更なる連携の強化を図ることにより、日米による抑止力・対処力を一層強化するとともに我が国の安全及びインド太平洋地域の平和と安定にも寄与することができました。

5「エンドステート」を踏まえたキャンペーン・デザインの設計
 陸上自衛隊の作戦司令部たる陸上総隊司令部や方面総監部の最も重要な指揮幕僚活動は、様々なオペレーションからなる軍事作戦全体(キャンペーン)をデザインすることであり、指揮官は、まず始めに戦略目的を達成するための軍事的な目標、いわゆる「エンドステート」を設定し、その達成に向けて作戦アプローチを組み立てます。
 YSでは、日米の各級指揮官が共同の「エンドステート」を設定して戦略レベルのキャンペーン・デザイン及び作戦レベルのオペレーショナル・デザインを設計するとともに、日米で密接に連携しつつ、作戦の終始を通じて柔軟かつ適時に当初設計したキャンペーン・デザインを見直す等、日米共同の指揮幕僚活動を演練することにより、その能力向上を図ることができました。

吉田陸幕長(日側統裁官)による現地指導


6おわりに
 YS-81は、昨年のYS-79に引き続き、コロナ禍における各種制約がある中での訓練実施となりましたが、VTC等を活用し、日米の関係者の尽力により成功裡に終えることができました。
 陸上自衛隊と米陸軍は日米同盟の実効性や相互運用性を向上させるため、粛々とそして着実に練度を向上させており、こうした弛まぬ努力が我が国の防衛のみならず、インド太平洋地域の平和と安定を確固たるものにしています。
 本訓練を通して得られた数多くの成果を蓄積し、更に向上させていくことが重要であり、陸上自衛隊は、YS-81で培った日米共同作戦遂行時の連携要領等の成果を他の訓練・演習等に反映しつつ、陸上自衛隊の領域横断作戦と米陸軍のマルチ・ドメイン・オペレーションを踏まえた連携の更なる向上を図っていきます。

ライアン米第25歩兵師団長と野澤中方総監(当時)


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