教育訓練・その他活動

2021年

多次元統合防衛力の中核をなす領域横断作戦の能力を向上させよ ~オリエント・シールド21~

1はじめに
 令和3年3月26日、第38代陸上幕僚長として着任した吉田陸将は、最初の定例記者会見の場において、「我が国の安全保障環境に対する認識は、自衛隊創隊以来、最も厳しい状況と認識している」と述べた。そして、「この厳しい安全保障環境に対応するのみならず、見通しうる長期的な将来にわたって我が国の安全を担保し、国民の負託にこたえる強靭な陸上自衛隊を創造していく」ことを強調した。また、「防衛計画の大綱に基づいた多次元統合防衛力を実現する中核となるのが領域横断作戦の能力の向上である」とも述べた。
 かかる陸上幕僚長の指針の下、令和3年6月24日から同年7月9日の間、今年度初の日米陸軍種同士による共同訓練『オリエント・シールド21』が、北は北海道矢臼別演習場から南は奄美大島の奄美駐屯地という国内の広範囲において実施された。
 本訓練は、「陸自の領域横断作戦と米陸軍のマルチ・ドメイン・オペレーションの連携」を焦点とし、日米の隊員約3000名(陸自が約1400名、米陸軍が約1600名(在日米陸軍約600名を含む。))による日本国内における陸自と米陸軍が実施する最大規模の実動訓練である。なお、陸自からは、中部方面隊を基幹とし、北部方面隊第1特科団第4特科群、陸上総隊中央特殊武器防護隊等が、米陸軍からは、第40歩兵師団司令部、第28歩兵連隊第1大隊、第17砲兵旅団、第38防空砲兵旅団、第25戦闘航空旅団、第8憲兵旅団、第340化学中隊、第5安全保障部隊支援旅団等が参加した。

日米両訓練担任官による訓練開始式(伊丹駐屯地)


2陸自の領域横断作戦と米陸軍のマルチ・ドメイン・オペレーションとの連携
 オリエント・シールドが開始された1982年以降、陸自と米陸軍は、戦術レベルの実動訓練として、陸自普通科連隊基幹と米陸軍歩兵大隊基幹の部隊が共同訓練を実施してきた。しかしながら、2019年に実施したオリエント・シールド19以降は、現代の戦闘様相の変化に伴い、参加部隊を陸自方面隊基幹と米陸軍師団基幹へと拡大させ、指揮機関訓練と実動訓練を融合させた作戦レベルの訓練として進化してきている。
 この様に進化を遂げる中で、本訓練における焦点は、前述したように「陸自の領域横断作戦と米陸軍のマルチ・ドメイン・オペレーションの連携」である。本訓練の担任官である中部方面総監野澤陸将は訓練開始式における統裁官訓示において、要望事項の1つに「新たな戦い方のコンセプトにおける連携を検証・強化せよ」を挙げ、「領域横断的な戦いは中部方面隊にとっても具現すべき課題である」とし、「本訓練を通じて新たなコンセプトを検証するとともに日米が互いに学びあうことで高い相互運用性を獲得せよ」と強調した。
 担任官の要望事項を具現化すべく、約2週間にわたり伊丹駐屯地における指揮機関訓練では、領域横断作戦とマルチ・ドメイン・オペレーションの連携要領具体化のため、日米の両司令部が相互の作戦について情報共有し、認識を統一させることで司令部レベルでの作戦に係る連携の強化を図った。 また、矢臼別演習場では、陸自第1特科団第4特科群と米陸軍第17砲兵旅団第94砲兵連隊第1砲兵大隊が、陸自MLRSと米陸軍HIMARSによる初の共同実射訓練を実施した。この際、両訓練部隊は共同指揮所を設け、射撃目標・射撃要領等について緊密な連携を図り、現場レベルでの連携を強化した。

米陸軍HIMARSによる実射の景況(矢臼別演習場)


 さらに、米陸軍ペトリオット部隊が初展開した奄美大島では、奄美駐屯地において陸自第8高射特科群と米陸軍第38防空砲兵旅団第1防空砲兵連隊第1防空砲兵大隊が陸自中SAMと米陸軍ペトリオットにより共同対空戦闘訓練を実施した。本訓練は、日米陸軍種の防空部隊(対空戦闘部隊)によるA2AD環境シナリオ下における総合ミサイル防空の一環としての訓練であり、島嶼部での日米防空部隊間の共同対空戦闘能力を向上させた。
 なお、共同対空戦闘訓練を視察した吉田陸上幕僚長とヴァウル在日米陸軍司令官は、現地における共同記者会見において、吉田陸上幕僚長が「この訓練を通じてより強固になった日米同盟の姿を内外に発信する大変良い機会となった。我が国を取り巻く安全保障環境がますます厳しさを増す中、共同訓練を通じ、日米陸軍種同士の連携を強化し、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化することにより、今後とも我が国の安全及びインド太平洋地域の平和と安定に力を尽くしていきたい」と述べるとともに、ヴァウル在日米陸軍司令官が「オリエント・シールド21が示していることは、地域の潜在敵対勢力に対する我々の共同能力の高さであり、日本のいずれの地域にも戦力を投射し一体的な防衛ができることであり、かつ、日米が協力して自由で開かれたインド太平洋を守る意志があるということである。また、米本土から約1000名の兵士が日本の各地で共同訓練していることは、日米のパートナーとしての友好関係が鉄の強さであることの象徴」と述べ、現在の日米の関係が極めて堅固であることに加え、更なる日米連携の重要性及び日本防衛の強固な意志を強調した。

吉田陸幕長とヴァウル在日米陸軍司令官による共同記者会見(奄美駐屯地)


3戦術レベルにおける共同作戦・戦闘時の相互連携要領の具体化
 一方、あいば野演習場では、陸自第15即応機動連隊と米陸軍第3歩兵師団第28歩兵連隊第1歩兵大隊が共同での市街地戦闘、空中機動(ヘリボン)等を含む攻撃の場面における共同戦闘訓練を実施し、普通科部隊を基幹とした戦術レベルでの相互連携に係る能力を向上させた。また、同演習場において実施した陸自第14特殊武器防護隊、中央特殊武器防護隊等と米陸軍第340化学中隊による共同除染訓練では、敵の特殊武器攻撃により地域や部隊が汚染された際の対処要領、大量の傷病者が発生した際の対応要領等について練度を向上させた。


陸自ヘリにより空中機動した米陸軍(あいば野演習場)

共同での除染要領について調整する日米の隊員(あいば野演習場)

 また、経ヶ岬通信所では、陸自第7普通科連隊と米陸軍第8憲兵旅団等が共同での基地警備に係る訓練を実施し、軍事施設等に不審者が侵入した際の対処要領、施設内に落下したドローンへの対処要領等について演練し、相互連携を強化した。

基地に侵入した不審者を制圧する日米の隊員(経ヶ岬通信所)


4おわりに
 今般のオリエント・シールド21は、あいにくのコロナ禍で実施されることとなったが、米陸軍兵士たちの入国後の停留や日米双方の複数回にわたるPCR検査及び基本的な感染防止対策の徹底により1人の新型コロナ罹患者を出すこともなく、日米約3000名の隊員が一丸となって任務を遂行した。その結果、陸自の領域横断作戦と米陸軍のマルチ・ドメイン・オペレーションの連携及び戦術レベルでの相互連携を強化させるのみならず、日米安全保障体制の実効性及び信頼性の向上に資するものとなった。
 その背景には、新型コロナに対する水際対策として、来日後の2週間の停留という制約があったにもかかわらず、約1000名の米陸軍の兵士が米本土から参加したことは堅固な日米同盟の証左とも言い得る。
 本訓練を通して得られた数多くの成果を次に繋げ更に向上させていくことが重要であることは論をまたない。年末には、日米共同方面隊指揮所演習(ヤマサクラ(YS))を控えている。陸上自衛隊は、オリエント・シールド21で培った日米共同作戦遂行時の連携要領等の成果を反映しつつ、更なる運用の実効性の向上及び領域横断作戦能力の向上を図っていく所存である。

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