みちのくWeb - 陸上自衛隊東北方面隊

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下北・上北の大雨災害へ災害派遣
「陸の孤島」孤立した住民支援のため第9師団出動

現地指導を行う亀山師団長(風間浦村)

現地指導を行う亀山師団長(風間浦村)

 令和3年8月10日、台風9号から勢力を落とした温帯低気圧に伴う大雨は青森県下北・上北地方に大きな被害を与えた。上北地方の七戸町では2216世帯が断水を、下北地方のむつ市大畑では小赤川橋が崩落、また風間浦村では土砂崩れにより地域の動脈であり付近住民の生活の要である国道279号線が諸所寸断されました。
 第9師団は、県の要請に基づき第5普通科連隊に災害派遣を命じました。連隊長の降籏(ふりはた)1佐は8月2日に着任したばかりであったが、部隊を掌握し、むつ市及び風間浦村を隊区に持つ第3中隊が本任務に適任と判断しました。連隊作戦会議において命令を下達したのち、第3中隊長に対し「頼むぞ」と声をかけ、第3中隊長の横山3佐は落ち着いて「はい」と答えました。
 横山3佐は、第1空挺団の小隊長時代に東日本大震災において災害派遣の経験がありました。その時の経験から今回の派遣は即時救援を伴わない応急復旧から始まる災害派遣であり、被災者支援と隊員の安全確保について判断しなければならないと考えていました。むつ市側から小赤川橋まで先行させた運用訓練幹部から、現地は暗く雨も降り続いていると報告を受け、孤立住民の事を考えると一刻も早く風間浦村へ到着したかったが、住民は避難しており生命の危険はないことと、夜間の渡河は隊員に危険が生じる可能性があることから、翌日の早朝明るくなってから、現地偵察することを決断しました。翌11日午前4時から自ら小赤川橋の様子を偵察した際は、崩落を免れた車道部分が足を乗せただけで崩れ去り、下に流れる濁流にのみこまれる可能性がある事から昨夜の判断は正しかったことを実感しました。
 その後、現地の消防や警察と調整を行い孤立した住民への救援物資輸送を開始しました。翌12日からは、むつ市側への避難を希望する住民の小赤川橋の通行補助を開始しました。

物資輸送を行う第3中隊(むつ市)

物資輸送を行う第3中隊(むつ市)

 今回の支援においては、担当地区に対する派遣ということもあり、実家が被災した隊員のケアについても留意しました。青森県むつ市出身の大倉3曹(3中隊)は「実家が大きな被害がなかったものの被災し、自分が生まれ育った地域にすこしでも貢献したい」という思いから、本災害派遣に参加しました。こういった隊員に対する身上把握をしつつ迎えた13日、師団長による現地指導に際し、亀山師団長が隊員一人一人に話しかけ、労うことで中隊員が感激している姿を見て、横山3佐は何より一番のケアを頂いたと感じました。こうして横山3佐率いる第3中隊は、現地における支援要領を確立して14日に第2中隊へ任務を申し送りました。
 任務を引き継いだ第2中隊長の古澤3佐が着意したのは、交代後すぐ支援が開始できるようにする事と、第3中隊隊区において第3中隊が地元と築きあげた信頼を壊してはならないという事でした。古澤3佐は派遣前から現地の状況を把握し、それを中隊に示して到着後ただちに任務を遂行できるようにしました。
 任務開始後は、住民等の通行補助において住民に話しかけるといったきめ細やかな配慮を各分隊長の判断で実施し、住民の信頼を勝ち得ました。これは第2中隊における本災害派遣参加隊員の半数が東日本大震災の災害派遣経験者だったからこそ成しえたものです。未経験の隊員についても経験者から指導を受けながら支援に当たりました。未経験者の一人である工藤士長は「初めは戸惑いましたが、被災地の一刻も早い復興に向け頑張りました」と語っていました。
住民の通行補助を行う第2中隊(むつ市)

住民の通行補助を行う第2中隊(むつ市)

 現地の状況の把握という点で、今派遣における特色は無人偵察機スキャンイーグル(正式名称UAV(中域用))による被災地の上空からの偵察です。これは現地の荒天が続いておりヘリコプターによる上空からの偵察が困難であったため、神町駐屯地に所在する第6師団第6情報隊(隊長・神谷2佐)の配属を受け実現しました。第6情報隊は被災地上空にUAV(中域用)を飛行させ、上空からの偵察を実施して被災地の空撮映像を提供しました。
 これは実任務としては陸自初の試みでした。現地において運用に当たった無人偵察機班の班長である八巻2尉は、「被災地の一刻も早い復旧を願いながら被害状況の情報収集を行いました。任務完遂できたのは、これまで積み上げてきた訓練の賜物だと思います」と語りました。
UAV(中域用)の飛行(むつ市)

UAV(中域用)の飛行(むつ市)

 他にも第9師団は七戸町における給水活動(第5普通科連隊第4中隊)、小赤川橋の仮設橋整備の支障となる流木の除去(第9施設大隊)及び下風呂地区の国道279号に堆積した汚泥除去補助(第5普通科連隊第1中隊)を実施し、17日午後7時に県の要請により災害派遣を終了し撤収しました。
 引き続き、第9師団は、本災害派遣の経験を生かして地域と強固な絆を築きつつ即動必遂していきます。

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