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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について

 当院におけるクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から搬送された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)104症例のまとめです。

背 景
 当院は第一種感染症指定医療機関として、2020年1月30日より武漢からの帰国チャーター便の有症状搭乗者を皮切りにCOVID-19疑い症例及び確定症例の受け入れを行い、2020年3月5日までにダイヤモンドプリンセス号船内感染症例と都内探知症例を含む計112症例(うち1症例はPCR陰性であるが臨床診断)を経験した。このうち2月25日まで観察し、報告に同意の得られたダイヤモンドプリンセス号からの搬送104症例について報告する。
 なお、本報告は、COVID-19が現在進行中である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症であり、その経験・知見を可能な限り医療従事者と共有することが社会的に意義あるものと判断されることから当院ホームページに掲載するものである。

症例の特徴
 症例の特徴を表1に示す。患者の平均年齢は68歳で男女比はほぼ半々であった。国籍は17の国と地域と多様であった。48%に基礎疾患あり、高血圧が最も多かった。クルーズ船の乗員と乗客が混在しており、乗員は30〜50代が中心で、乗客は70代が中心であった。乗客の健常時のADLは自立しており、総じて「普段は元気な高齢者」という印象であった。なお、104症例全例が、船内の検疫における咽頭スワブPCR検査でSARS-CoV-2陽性を指摘されていた。


臨床症状、所見、治療、重症度
 入院時及び観察全期間における臨床症状、所見、治療(酸素投与の有無)、重症度を表2に示す。無症候性陽性者の割合が高く、軽症例が41.3%、重症例は26.9%であった。入院時に有症状であった症例のうち最も多かった症状は発熱で全体の28.8%であった。全観察期間を通して最も多かった症状は咳嗽で全体の41.3%であった。酸素投与が必要となった症例は13.5%であり、そのうちの約半数がいわゆるネーザルハイフローやNPPV注1などの高流量酸素投与を必要とした。気管挿管による人工呼吸管理を必要としたのは1例であった。観察期間を通して全く症状や所見を認めなかった症例は全体の31.7%で観察期間中の死亡はなかった。
注1) NPPV:Noninvasiv Positive Pressure Vetilation非侵襲的陽圧換気療法


考 察
 当院に搬送された症例は、無症状あるいは軽微な症状を有するPCR陽性者が非常に多かった。軽微な症状を有する者についても、そのほとんどが一般診療の基準に照らし合わせれば、医療機関を受診するような病状ではなかった。当院の症例はダイヤモンドプリンセス号で感染した患者の一部ではあるが、このことからは、無症状あるいは医療機関を受診しない程度の軽微な症状のSARS-CoV-2感染者は多数存在すると考えられる。2020年2月27日にWHOのテドロス・アダノム事務局長はCOVID-19について「鼻汁はあまり出ない。90%の人は発熱し、70%は空咳を伴う」とその症状の特徴を述べたが、これは有症状者に限った話と捉えるべきである。この背後には多数の無症状、または、軽微な症状のみの者がいると考えざるを得ず、事務局長が指摘する症状がなければCOVID-19ではない、あるいは可能性が下がると言えるものではない。すなわち、プライマリケアの場において必要とされる症状スクリーニングによる臨床診断の精度向上は、非常に困難である。

 
 無症状の感染者であっても、胸部単純CT検査にて異常影が観察されることがある【1】。当院でも来院時のCT検査では全体の67.0%、無症候性陽性者及び軽微な症状を有する症例に限定しても、約半数に異常陰影を認めた。陰影は両側末梢胸膜下に生じるすりガラス様陰影が特徴で、胸部単純レントゲン写真では異常を指摘できない症例が多かった(Fig1,Fig2)。無症候性陽性者及び軽微な症状を有する症例で、CT検査で異常影を認めたうち、約3分の2はそのまま症状が変化することなく軽快し、約3分の1は症状が増悪した。増悪する場合の画像変化は、経過とともにすりガラス様陰影の範囲が広がり、徐々に濃厚なair-space consolidationを呈することであった(Fig3)。我々は無症状あるいは軽微な症状にもかかわらずCT検査で異常陰影を認める病態を「Silent Pneumonia」と呼んでいる(Fig4)。「Silent Pneumonia」から「Apparent」になる際は、発熱や咳嗽の増悪や呼吸困難の出現ではなく、高齢者ではSpO2の低下、若年者では頻呼吸の出現で気付くことが多かった。
 また、症状増悪は初発から7〜10日目であることが多く、比較的病状はゆっくりと進行した。このため疾患の増悪に気付きにくい恐れがあり、このことが、高齢者の死亡率上昇に関係している可能性も考えられた。COVID-19の死亡のリスクファクターとして年齢と基礎疾患の有無とする報告が多いが【2,3】、クルーズ船以外の症例を含めた自験例では、重症で救命できた症例の中には、基礎疾患もなく、年齢もそれほど高齢でない症例が少なからず見られている。しかしながら、これらの症例に共通する因子は不明であった。





 「Silent pneumonia」に関連して、無症候性を含む軽症者でも画像変化が認められることから、CT検査がPCR検査よりも感度が高いという報告がある【4,5】。当院で経験した症例においても、無症候性を含む軽症者のCT検査で異常所見が認められている。また、クルーズ船内で濃厚接触となる同室の家族や友人等がPCR陽性で、本人もCT検査で明らかに他の症例と類似する両側末梢のすりガラス様陰影を認めるにもかかわらず、PCRが陰性となる症例を一定数経験した。そのような症例において、繰り返しPCRを実施すると陽性になる症例もあれば最後まで陰性のままの症例もあった。また、退院確認時の2回連続のPCR検査も、1度目は陰性であるにもかかわらず、2回目が陽性となる症例を数多く経験した。これらの経験から、PCR検査の感度はさほど高くないのではないかと考えられた。明確な検討はできていないまでも、感覚的には70%程度の感度ではないかと思われた。しかしながら、当院のように全例CT検査注2を行うかどうか、判断は難しいところである。
 注2) 当院では病院施設の構造上、一般患者とCOVID-19患者の動線を区別するため、一般撮影ではなくCT検査を実施した。

 血液生化学検査所見では、COVID-19群と非COVID-19群において、CRP、LDH、AST、eGFR、Naに有意な差があり、リンパ球減少が観察されるとの報告がある【6】。しかしながら、当院では、無症状あるいは軽症例では、検査値異常を認めないことが多かった。また、他疾患との鑑別においても特に有用と考えられるような所見は得られなかった。一方、当院においても重症例ではリンパ球減少が認められた。我々の症例からは、接触歴や渡航歴を有しCOVID-19が強く疑われる症例では、AST、LDHの上昇とリンパ球数減少が揃えば、PCRでも陽性となる可能性が高いと考えられた。

 当院で経験したクルーズ船からの症例の約86.5%は軽症のまま軽快した。しかしながら13.5%の症例に酸素投与が必要であり、その半数は高流量酸素投与が必要であった。重症化に関しては、発症から7-10日目から緩徐に進行するものがほとんどであったが、病勢のピークアウトにも時間がかかり、その後の軽快も非常にゆるやかな印象である。当院においては、観察期間中幸いにも死亡例はなかった。中等症〜重症化しても適切な酸素投与を実施するなどの対応をとれれば救命可能な症例は多いと考えられた。なお、重症症例においては、ロピナビル/リトナビル(商品名:カレトラ)、ファビピラビル(商品名:アビガン)、シクレソニド(商品名:オルベスコ)、ペグインターフェロン アルファ-2a(商品名:ペガシス)、リバビリン(商品名:レベトール)等を患者及び家族の同意を得た上で、院内において適応外使用についての所定の手続きをとり、日本感染症学会の「COVID-19 に対する抗ウイルス薬による治療の考え方 第 1 版 (2020 年 2 月 26 日)」を踏まえて使用した。しかしながら、使用症例が少数であること、重症例にしか使用していないことから、その効果について言及することは困難である。

 当院は、これまで第一種感染症指定医療機関として平素から感染症患者受入れ訓練を実施するとともに、防衛省の医療機関として首都直下型地震等を想定した大量傷者受入れ訓練を実施してきた。今回の100例を超える感染症患者の受入れにおいては、この2つの訓練のノウハウを活用し対応した。また、平素、感染症診療に携わっていないスタッフの動員に対しては、病院ICT注3スタッフのみならず全国の自衛隊病院感染管理認定看護師の協力を得て、N95マスクフィットテストやPPE注4着脱訓練を行い、ゾーニング要領を徹底して感染管理の質の維持に努めた。ダイヤモンドプリンセス号からの患者は全員退院したが、スタッフの発症あるいはPCR検査陽性は確認されなかった。この事実からは感染管理の重要性が明らかであるとともに、COVID-19確定症例とわかって対応していれば院内感染は起こりにくい可能性も示唆される。現在までに報告されている院内感染事例はCOVID-19の診断がなされる前に生起していることが多く、院内感染を防ぐためにはいかに疑い、診断するかが大きく関わってくると考えられる。なお、当院では多数の患者を受け入れたため、陰圧室は不足し、患者の多くは陰圧機能のない一般病室に収容した。このため、ウイルス量が多く、ネーザルハイフローや人工呼吸器などのエアロゾル発生機器・手技を多く必要とするであろう重症例から陰圧室を使用し、ゾーニングを徹底した。標準予防策に加えて接触感染予防策、飛沫感染予防策を実施し、マスクは原則N95マスクを使用した。アイガードの徹底に加えて脱衣に熟練を要するいわゆるワンピース型PPEは用いず、アイソレーションガウン使用を標準とした。さらに挿管時にはPAPR注5も装着した。
注3) ICT:Infection Control Team 感染対策チーム
注4) PPE:Personal Protective Equipment 個人防護用具
注5) PAPR:Powerd Air Purifying Respirator 電動ファン付呼吸用保護具

 今回クルーズ船の乗員乗客として、日本も含めて計17の国と地域という多様な国籍の患者を短期間に多数受け入れた。このため、患者とのコミュニケーション及び各国駐日大使館との調整・病状説明等に膨大な通訳所要が発生し、全国の自衛隊部隊等から通訳の支援を受け対応した。入院症例は軽症者が多かったため、本国との連絡手段を確保するとともに母国語で情報収集したいとの要望に応える必要がありwifiルーターを設置した。病院食に対しても様々な要望があり、献立を工夫する等、患者サービスの向上に努めた。また、PCR検査の実施においては、提出から結果の確認まで最長1週間待たされる等、困難を極めた。そのような折、国立感染症研究所及び陸上自衛隊対特殊武器衛生隊にPCR検査の面で非常に大きな助力をいただいた。今回の受入れを乗り切ることができた要因の一つであると考えている。
 
 今回のCOVID-19症例の多数受け入れは当院にとって大きな挑戦であったとともに、しばらくは継続すると予測されるCOVID-19への対応も含めた今後に向けて大きな経験、財産となった。これから来るであろうCOVID-19の拡大期、蔓延期に向けて、ホームページに目を通していただいた医療従事者の皆様に当院の経験が少しでも役立てば幸いである。  
自衛隊中央病院感染対処隊診療部
新型コロナウイルス感染症対応チーム一同
チーム長:自衛隊中央病院第2内科部長・感染症内科
1等海佐 田村 格 

【参考文献】
1) Shi H, Han X, Jiang N, et al. Radiological findings from 81 patients with COVID-19 pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study. Lancet Infect Dis. 2020 Feb 24.
2) Guan WJ, Ni ZY, Hu Y, et al. Clinical characteristics of coronavirus disease 2019 in China. N Engl J Med. 2020 Feb 28.
3) Liang W, Guan W, Chen R, et al. Cancer patients in SARS-CoV-2 infection: a nationwide analysis in China. Lancet Oncol. 2020 Feb 14.
4)Fang Y, Zhang H, Xie J, et al. Sensitivity of Chest CT for COVID-19: Comparison to RT-PCR. Radiology. 2020 Feb 19.
5)Ai T, Yang Z, Hou H, et al. Correlation of Chest CT and RT-PCR Testing in Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in China: A Report of 1014 Cases. Radiology. 2020 Feb 26.
6) Yishan Z, Zhen H, Guoping Y, et al. Comparative study of the lymphocyte change between COVID-19 and non-COVID-19 pneumonia cases suggesting uncontrolled inflammation might not be the main reason of tissue injury. medRxiv preprint. 2020 Feb 28.