住 所:〒154-8532 東京都世田谷区池尻1-2-24
(1) 放射線治療の特徴 | |
放射線治療は悪性腫瘍(がん)を主な治療対象としています。がん治療における放射線治療の役割は広く、完全にがんを治す目的の根治的治療から苦痛を取り除く目的の緩和的治療まで幅広い適応を有しています。がん患者さんの数は増加する一方で、がんの経過中に半数の方で放射線治療が必要になるとされており、さまざまな診療科と連携し多くの患者さんの治療に当たっています。対象となる病気にもよりますが、近年の放射線治療の進歩は目覚ましく、より根治性が向上し副作用が少なくなってきています。放射線治療は患者さんへの負担が比較的少なく、いわゆる「切らずに治す」ことが見込める治療法です。高齢であったり合併症をお持ちの方であっても、多くの場合で無理なく治療を受けていただくことができます。当院で行っている放射線治療は、リニアックという装置を用いて体外から放射線を照射する「外照射」と放射性薬品を投与して体内から放射線を照射する「内用療法」になります。 | |
(2) 放射線治療の流れ | |
@ 主科の先生から当科に御依頼をいただき、当科の外来を受診していただきます。外来日は火曜日と木曜日です。 A 当科の診察を受けていただき、放射線治療の適応があるかどうかを判断いたします。判断に必要な検査は適宜実施させていただきます。適応がある場合、医師から治療の説明を行い、看護師がオリエンテーションをいたします。 B 放射線治療計画を立案するために、治療する体勢を取ったうえでCTを撮影いたします。場合によっては身体の固定具を作成したりMRIなどの画像を撮影することもあります。 C 医師と放射線技師が治療計画の立案と検証作業を実施したのちに治療開始です。CT撮影 から治療開始までは、計画の複雑さによって変わりますが2〜7日程度を要します。 D 放射線治療は基本的に1日1回、15分間程度です。じっと横になっているだけで治療は終 わります。治療中は医師の診察を週2回受けていただきます。 E 放射線治療終了後は、当院に通院可能であれば定期的に経過を診させていただきます。 |
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(3) 当院の放射線治療の代表的疾患の成績 | |
当院では2009年に現在の新病院が開院した際に放射線治療装置のリニアック(Synergy, エレクタ社)を更新し、積極的に高精度な放射線治療に取り組んできました。そして新病院開院から10年間の放射線治療件数は1373件でした。そのうち高精度放射線治療と言われるものの内訳は、頭部の定位放射線治療が63件、体幹部放射線治療が215件(肺癌: 183件、肝癌:32件)、強度変調放射線治療155件(前立腺癌: 116件、その他の疾患: 39件)でした。じつに全体の3割以上を高精度放射線治療が占めています。 |
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●強度変調放射線治療 | |
放射線の当てる「強さ」を時間的空間的に変化させることで標的であるがんに放射線を集中させ、周囲の正常な臓器にはなるべく放射線を当てない技術を強度変調放射線治療(IMRT: Intensity Modulated Radiation Therapy)と言います。この治療法は治療時間がかなり長くなりがちなのが欠点でしたが、通常の治療とほとんど変わらない短時間で治療できる回転型の強度変調放射線治療(VMAT: Volmetric Modulated ArcTherapy)を当院ではかなり早い段階から導入しました。この技術で最も多く治療してきた病気は前立腺癌です。前立腺癌は放射線の投与量を上げることで成績が改善しますが、この技術によって正常臓器の副作用を抑えつつ、無理なく前立腺癌に放射線を多く当てることが可能になります。前立腺癌はいくつかの因子によって低リスク、中間リスク、高リスクに分類され、順に予後が悪くなります。当院での治療成績を下の図で示していますが、5年生化学的無再発率(治療から5年間経過時点までに、死亡あるいは腫瘍マーカーのPSAが再発と考えられる値を示すことが生じない割合)はそれぞれ100%,96%, 91%と良好な成績を出しております。 |
![]() 前立腺癌に対する強度変調放射線治療後の生化学的無再発生存曲線 |
●定位放射線治療 | |
限局した病変に放射線を多方向から集中させることで、局所的に極めて強い放射線を当てることにより、あたかも病変を「焼き切る」ような治療法です。1回あたりに多くの放射線を投与するため、 治療期間は短く約1週間程度です。頭部は長い治療の歴史を持ち、脳腫瘍や脳動静脈奇形などが適応になります。 体幹部の病気は徐々に適応が拡大中ですが、当院は現在まで肺癌と肝癌に本治療を行ってきました。もっとも多くの件数を治療したのが、早期の肺癌です。当院で原発性肺癌の体幹部定位放射線治療を受けた方の年齢中央値は79歳であり、かなり高齢で手術が困難な方がほとんどを占めます。体幹部の臓器は頭部と異なり、呼吸などで標的が動いてしまうのが問題となります。 当院では、4次元CTを用いて腫瘍が動く範囲をとらえて治療計画を立案しています。当院における 原発性肺癌に対する体幹部定位放射線治療後の局所制御率(ある観察期間において、治療した部位からの再発がなく経過した割合)を下の図で示しております。2年時点での局所制御率は約91%であり、諸家の報告と遜色ない成績です。 |
![]() 原発性肺癌に対する体幹部定位放射線治療後の局所制御曲線 |
(4) PET治療計画 | |
当院の放射線科では核医学部門と放射線治療部門が密接であり、核医学検査であるPET/CTの撮影室に放射線治療に必要な装置(治療用の平坦な寝台、位置照合用のレーザーなど)が取り付けてあります。したがって、「直接」PET/CT画像を用いた放射線治療計画を立案することができます。PETはがんの代謝情報を画像化する検査であり、CTの解剖学的情報のみでは情報が不充分な場合に有用です。昨今ではコンピューターソフトで異なる時期、異なる体勢で撮影された画像を変形して重ね合わせるDIR(Deformable Image Registration)という技術を用いることでPET/CTの画像を治療計画に用いることも可能となってきましたが、精度という点では直接PET/CTを治療計画に用いるに越したことはありません。たとえばリンパ腫という病気ではPET/CTを治療計画に用いることがほぼ必須化しており、その他の病気でもPET/CT計画が威力を発揮します。 |
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左: 肺癌の放射線治療後に再発した症例ですが、CTのみでは治療後の変化と腫瘍の区別がつきにくい状態です。 | |
中: 治療計画にPET/CTを用いることで、腫瘍の局在が明確になります。 | |
右: PET/CTで集積を認めた部位に対して治療計画を立案しました。 |
(5) 内用療法 | |
現在国内において保険診療で内用療法に使用できる放射線薬品は、バセドウ病および甲状腺癌に対する131 I(ヨウ化カリウム)、CD20陽性B細胞性リンパ腫に対する90Y(ゼヴァリン)、骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌に対する223Ra(ゾーフィゴ)の3種類です。いずれも当科外来が窓口となっております。 |