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第5話:F2操縦課程


 F2の爆音が河瀬達、学生を出迎えた。ここはF2操縦士の登竜門、宮城県松島基地。F2戦闘機の操縦法を学んだ後、基本的な空中戦を学ぶ教育部隊である。教官は皆、第1戦で活躍している現役のF2パイロットである。ほとんどの操縦教官がF2飛行時間1000時間のワッペンをつけていた。


 河瀬「生でみるF2はやっぱかっこいいな。念願のF2かぁ。やったろうじゃねーか」心のなかで、そう独りささやき、松島基地の正門をくぐった。


 F2操縦課程は、フライト学科、シミュレーターにはじまり、単機による離着陸訓練、編隊飛行訓練へと進む。後半から空中戦技が開始される。 河瀬は準備8割の姿勢で訓練に臨む。大きなスケッチブックにF2戦闘機の機動図や理論を整理し実機で訓練する。そんなサイクルの毎日だ。


 1対1の空中戦



 「1対1の空中戦、通称ワンバイワンACMに必要な基本原則は3つ。1つ目はエネルギー管理。戦闘機の速度と高度を適切に管理し、最大のパフォーマンスを発揮すること」
 「はい」
 「2つ目は状況認識。自機の位置、敵の位置、太陽や山の位置など戦場の状況を常に把握し、敵の動きを予測すること。3つ目は機動戦術。敵機からの回避機動、攻撃機動のための戦術、いわゆるタクティカルな旋回機動を巧みに使用すること。高エネルギーで高い戦闘性能を有した戦闘機はキャノピー to キャノピーで機動するのもその原則だ」



 キャノピー to キャノピーとは、常に自分のキャノピーを相手のキャノピー側へ最大旋回させる機動をいう。


 「教官、ところで、今の時代、ワンバイワンACMの近距離戦闘訓練って、本当にやる意味あるんですか? 1対1は、映画の世界だけで実戦ではないのでは?」


 河瀬は航空雑誌でよんだことのある中途半端な知識で教官へ質問した。


 「確かに、レーダーミサイルの性能が向上している今、近距離戦のワンバイワンの状況は生起しにくい。しかし、空対空ミサイルの性能を重視するあまり、中距離戦闘をもって戦闘の大方が決するものと決めつけ、偏った空中戦闘訓練を行ってはならない。敵から間合いを詰められ、ビジュアルレンジまで決戦が持ち込まれる可能性があることを想定した訓練も必要だ。ここはF2の基本戦技を教える課程なのでワンバイワンACMまでしか教えないが、このワンバイワンACMはこの先の応用空中戦技のベースにもなる」


 河瀬はとりあえず、教官の教えに納得した。


 河瀬は、初めて使用する空対空レーダーに戸惑いながらも、これまで通り空中戦技のフェーズにおいても学科、シミュレーター、実機の訓練を、既定の訓練回数のみでクリアー、ここでも抜群の操縦センスは光っていた。


 F2戦技課程の卒業検定課目は教官とのワンバイワンACMであるが、合格基準は安全に基本空中戦技ができれば合格で、勝敗は関係ない。しかし、河瀬はそんな合格より教官に勝つことを優先し、最終検定に臨んだ。河瀬らしい選択だった。


 河瀬学生、F2操縦課程 最終検定の日 海は青く澄み渡り、太陽が空を金色に染めていた。


 最終検定は、F2ファイターウェポンパッチを肩につけるエースパイロットが相手だった。検定教官は河瀬がこれまで、抜群の操縦センスで常に成績上位であることを確認し、通常の仮想敵機機動より、少し厳しい敵機機動をすることを計画した。


 最終検定フライトが始まった。



 「太陽を背に機動するのが定石だ。よし、このまま上昇し敵の上方から攻撃機動を行うぞ」
 「敵はどこだ。わからない。レーダーにも捕捉できない。リクエスト ターゲット ポジション」
 「ターゲット350、20、アルト アンノウン」
 「ネガティブ」
 「ターゲット350、13、アルト アンノウン」
 「レーダーコンタクト、ターゲット350、13、10タウザンド」
 「THAT‘s ユア ターゲット」
 「ターゲット タリホー。ナウ マージ」
 「さぁ~て、河瀬、どうする? この機動への対処はできるか? では、お手並み拝見といくか。」



 教官はスロットルをアフターバーナー全開とし一気に上昇機動を開始した。マージの瞬間、教官は何か違和感というより不気味な殺気というか、怖いもの知らずが真剣をもって刃向かってくる、そんな空気を覚えた。戦闘機の機動はパイロットの性格がそのまま現れるものだ。


 「クッっソ、負けるね~。 うっ、あっ??」


 マージの数秒後、勝敗が明らかになる。河瀬はマージ前の目視に集中しすぎた結果、自機のエネルギー管理を疎かにしてしまった。敵が自分より低高度にいたため、降下機動し敵に向かう際、無意識にパワーを絞りスピードブレーキをオープンとし、エネルギーを失った。一方、敵は一機に上昇し、河瀬の上方へとリ・ポジショニング、お互いの位置関係が逆転した状態で戦闘が開始された。河瀬はマージ時に失ったエネルギーをカバーすることができないまま空中戦闘を強要され、F2の最大パフォーマンスを発揮することができなかった。



 「クっソ、ディフェンスか。 ブレーク。フレアー」
 「う~ん、河瀬、甘いな。FOX2、コンティニュー」



 戦闘は継続する。


 「ブレークターン。ブレークターン、フレアー、フレアー、くっそ、やられる」


 低高度で速度エネルギーがなくなり、ディフェンスになると、もう、なす術がない。蛇ににらまれたカエル状態である。教官機が徐々に河瀬機を詰める。その距離約1500フィート。教官機のノーズが一瞬、河瀬の航空機へと向く。



 「ガンズ、トラッキング。河瀬キル。ノックイット・オフ」
 「・・・ノックイット・オフ」



 河瀬はマージ後2分、教官機に撃墜され、河瀬のF2最終検定は終了した。


 着陸後、お互いのヘッドアップディスプレイを移すビデオ録画を確認しながらデブリが始まった。いつもはクールで何事に動揺しない河瀬が、うつむいたまま黙って教官のアドバイスを熱心にノートにとっていた。決して腐っていたわけではない。教官のアドバイスを一言一言、すべてを吸収しようとしていた。空中戦は、いわゆる参考書がない世界。ちまたにあふれる雑誌に、空中戦の真髄は掲載されていない。そんなこと軍事組織の常識だ。空中戦は先輩から盗むもの。教官のVTR映像を見て、自分で盗むしか上達の道がないことを河瀬は学んでいた。



 「河瀬は、マージ直後、空中戦の原則から逸脱しているのに気付いたか?」  「・・原則逸脱? 気づきませんでした」



確かにマージ前までは、河瀬は上方にいた。しかしマージ直前、敵が一気に上昇した結果、次の瞬間、河瀬が下方、敵が上方にいるシチュエーションへと変わった。つまり上下が入れ替わっていた。



 「河瀬は、マージ直後、敵が上方にいたのにも関わらず、降下を継続しそのままエネルギーを失った。その後、最大パフォーマンスを発揮できないままディフェンスになりガン攻撃で被撃墜となった」
 「はい」
 「空中戦で必要なことは相手の心を早く、確実に、そして深く読むことだ。なぜ、敵が下方から来ているのか? なぜマージ直前に一気に上昇しているのか? 青い海、金色の雲を背景が与える影響? 相手の心を読むことで次の一手が打てる。空中戦の状況は、秒で変わるぞ」



 河瀬はいいわけができない現実を突きつけられた。教官のビデオ映像には、河瀬が搭乗するF2が大きく映り、ガンピパーが河瀬機のコックピットにしっかりと乗っていた。そこには6時方向へ振り向く、河瀬自身の姿があるように見えた。


 河瀬のF2操縦課程の最終フライト ワンバイワンACMは河瀬の敗北という結果だったが、最終検定は合格となった。


 最終検定で負けたはずの河瀬だが、眼光の鋭さと心の奥に秘めた闘志だけは健在だった。また、最終検定で敗北という結果であったが、教官は河瀬が持つ抜群の空中センスとファイティング スピリットは認めていた。


 教官は河瀬の検定結果を、隊長室へ報告へいった。



 「(ノック音×3回)隊長、入ります」
 「おう」
 「河瀬の最終検定は合格です(・・・)」
 「おう、了解。ほかに何かあるのか?」
 「具体的ではないんですが、私には何か河瀬に感じるものがあります。それが何なのかよくわかりません」
 「う~ん。お前もそう思うか。俺も何か感じていたところだ」
 「・・あえていうなら、築城基地、第8飛行隊にいる、私の同期、浜1尉、タックネーム:ビーチの若い時にそっくりなんです。浜も操縦学生時代、性格的に尖っていました。教官に反抗し、酷いグレードをもらったことも見たことがあります。しかし、空中戦では抜群のセンスを発揮していました」
 「皆が知っている8飛行隊の浜・ビーチ、あの10年に一人の逸材か(・・・)」



 数日後、飛行隊長から卒業後の進路が発表された。



 「河瀬学生、築城基地 第8航空団 第8飛行隊勤務を命ずる」
 「はい!」