防衛白書ダイジェスト 平成29年版 日本の防衛

概観

わが国を取り巻く安全保障環境は、様々な課題や不安定要因がより顕在化・先鋭化してきており、一層厳しさを増している。

アジア太平洋地域の安全保障環境

グローバルな安全保障環境

国際社会の対応

安全保障上の課題や不安定要因は、複雑かつ多様で広範にわたっており、一国のみでの対応はますます困難なものとなっている。

大規模かつ急速な埋立て及び滑走路・格納庫などの施設建設が進むミスチーフ礁(16(平成28)年7月)【CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / Digital Globe】

▲大規模かつ急速な埋立て及び滑走路・格納庫などの施設建設が進むミスチーフ礁(16(平成28)年7月)【CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / Digital Globe】

最近のわが国周辺の安全保障関連事象

▲最近のわが国周辺の安全保障関連事象

米国

  1. グローバルなパワーバランスの変化や、ウクライナや南シナ海を巡る力を背景とした現状変更の試み、国際テロ組織による活動の活発化、新たな段階の脅威となっている北朝鮮による核兵器・弾道ミサイルの開発や運用能力の向上など、新たな安全保障環境のもと、米国の世界への関わり方が大きく変化してきた。17(平成29)年1月に発足したトランプ政権は、「米国第一」の統治ビジョンの下、力による平和を掲げ、軍の再建や同盟の重視などの方針を打ち出している。
  2. 同政権では包括的な安全保障・国防戦略はまだ示されていないものの、政権発足直後にはISIL(IslamicState of Iraq and the Levant)打倒を最優先課題としたほか、アジア太平洋地域の安全保障を引き続き重視する姿勢を明示している。中でも、北朝鮮問題は世界で最も差し迫った安全保障上の問題との認識のもと、北朝鮮政策の見直しを行った上で、「全ての選択肢はテーブルの上にある」とし、軍事的プレゼンスを強化している。
  3. また、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したと判断し、シリア軍に対する攻撃を実施したほか、アフガニスタンで活動するISILには実戦で初めて大規模爆風爆弾を使用した。このほか、イラン、中国、ロシアに対する安全保障上の懸念を示している。
  4. このため、米国は、米国及び同盟国の利益を脅かすことを試みる国家や組織を安全保障上の脅威として認識しており、中でも、北朝鮮やISIL、さらに大量破壊兵器の拡散・使用を優先的に対処すべき問題と位置づけていると考えられる。
  5. トランプ政権はこうした認識のもと、米軍再建の取組として、より大規模で優れた統合戦力の整備を目標としており、現政権下で策定が進められる新たな国家防衛戦略の内容が注目される。
アジア太平洋地域における米軍の最近の動向

▲アジア太平洋地域における米軍の最近の動向

北朝鮮

全般

北朝鮮の軍事的な動きは、わが国はもとより、地域・国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている。特に、2回の核実験を強行し、20発以上の弾道ミサイルを発射した昨年来、北朝鮮による核・弾道ミサイルの開発及び運用能力の向上は新たな段階の脅威となっている。

大量破壊兵器・弾道ミサイルの開発

  1. 北朝鮮は、体制を維持するうえでの不可欠な抑止力として核兵器開発を推進しているとみられる。
  2. 北朝鮮は16(平成28)年9月に5回目の核実験を強行した。これまで既に5回の核実験を行ったことなどを踏まえれば、核兵器計画が相当に進んでいるものと考えらえる。
  3. 過去5回の核実験を通じた技術的成熟が見込まれることなどを踏まえれば、北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性が考えられる。
  4. 北朝鮮は、化学剤を生産できる複数の施設を維持し、すでに相当量の化学剤などを保有しているとみられるほか、生物兵器についても一定の生産基盤を有しているとみられる。また、弾道ミサイルに生物兵器や化学兵器を搭載し得る可能性も否定できないとみられている。
  5. 北朝鮮は、弾道ミサイル開発に高い優先度を与えていると考えられ、これまで各種の弾道ミサイルの発射を繰り返してきているが、特に16(同28)年には、20発以上という過去に例を見ない頻度で発射を行い、また、17(同29)年に入ってからも、新型とみられるものを含め、引き続き発射を繰り返している。
  6. 最近の北朝鮮による弾道ミサイル発射の動向については、
    • 第一に、弾道ミサイルの長射程化を図っているものとみられる。
    • 第二に、実戦配備済みの弾道ミサイルについて、飽和攻撃のために必要な正確性及び運用能力の向上を企図している可能性がある。
    • 第三に、任意の地点からの発射が可能な、発射台付き車両(TEL:Transporter-Erector-Launcher)からの発射や、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)の発射を繰り返しているほか、固体燃料化を進めている可能性があるが、これにより、発射の兆候把握を困難にするための秘匿性や即時性を高め、奇襲的な攻撃能力の向上を図っているものとみられる。
    • 第四に、発射形態の多様化を図っている可能性がある。ロフテッド軌道と推定される発射形態が確認されたが、一般論として、ロフテッド軌道で発射された場合、迎撃がより困難になると考えられる。
  7. 17(同29)年に入ってから、北朝鮮は、4種類の新型弾道ミサイルを発射している。
    • 2月12日及び5月21日に発射されたSLBMを地上発射型に改良したとみられる新型弾道ミサイルは、通常よりもやや高い軌道で発射されたものと推定され、仮に通常の軌道で発射されたとすれば、その射程は1,000kmを越えると見込まれ、北朝鮮が、当該弾道ミサイルの「部隊実戦配備」に言及していることも踏まえれば、わが国を射程に入れる固体燃料を使用した新型弾道ミサイルが新たに配備される可能性が考えられる。
    • 5月14日に発射された新型弾道ミサイルについては、ロフテッド軌道で発射されたものと推定されるが、仮に通常の軌道で発射されたとすれば、その射程は、現時点では、最大で約5,000kmに達すると見込まれ、あらためて弾道ミサイルの長射程化が懸念される。
    • 5月29日に発射されたスカッドミサイルを改良したとみられる新型弾道ミサイルについて、北朝鮮は、金正恩党委員長が、敵の艦船等の個別目標を精密打撃することが可能な弾道ミサイル開発を指示したと発表していることから、弾道ミサイルによる攻撃の正確性の向上を企図しているとみられる。
    • 7月4日に発射された弾道ミサイルについては、その飛翔高度・距離等を踏まえれば、最大射程が少なくとも5,500kmを超えるとみられることから、ICBM級の弾道ミサイルであると考えられ、また、北朝鮮は、この発射により、弾頭の大気圏再突入技術を実証した旨発表していることから、長射程の弾道ミサイルの実用化を目指していると考えられる。
  8. 北朝鮮が核兵器計画を継続する姿勢を崩していないことを踏まえれば、時間の経過とともに、わが国が射程内に入る核弾頭搭載弾道ミサイルが配備されるリスクが増大していくものと考えられ、関連動向に注目していく必要がある。
  9. 仮に北朝鮮が弾道ミサイルの長射程化や核兵器の小型化・弾頭化を実現し、米国に対する戦略的抑止力を確保したと過信・誤認をした場合、地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となり得る。
北朝鮮の弾道ミサイルの射程

▲北朝鮮の弾道ミサイルの射程

内政

  1. 11(平成23)年の金正日(キム・ジョンイル)国防委員会委員長死去後、金正恩(キム・ジョンウン)氏を軍・党・国家組織のトップとする金正恩体制となってから5年が経過
  2. 北朝鮮は36年ぶりとなる第7回党大会を16(同28)年5月に開催。自国を「核保有国」と位置づけ、並進路線の堅持など核・ミサイル開発を継続する姿勢を内外に示した。
  3. 党大会の開催は、党に軸足を置いた国家運営を重視する金正恩党委員長による統治体制が組織・人事面などにおいて名実ともに本格化したことを示している可能性がある。しかし、幹部の頻繁な処刑や降格・解任に伴う萎縮効果により、北朝鮮が十分な外交的勘案がなされないまま軍事的挑発行動に走る可能性も含め、不確実性が増しているとも考えられる。

対外関係

  1. 米国のトランプ政権の対北朝鮮政策については、経済制裁及び外交手段の強化を通じ、北朝鮮が核・ミサイル及びその拡散計画を放棄するよう圧力をかけることを目的とすることが表明されたが、これに対し北朝鮮は、米国による核の脅威に対抗するためには、独自の核抑止力が必要であるとの従来の主張を繰り返すとともに、弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、核・ミサイル開発のための活動を継続していく姿勢を崩していない。
  2. 17(平成29)年5月に発足した韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、対北朝鮮政策について、対話の可能性は開かれているが、挑発には強力に対応していく旨の立場を表明しており、新政権による新たな対北朝鮮政策が、緊張関係の高まっている南北関係にどのような影響を与えるか注目していく必要がある。
  3. 中国は北朝鮮にとってきわめて重要な政治的・経済的パートナーであり、北朝鮮に対して一定の影響力を維持していると考えられる。中国は、17(同29)年末までの間、北朝鮮産石炭の輸入を暫定的に停止する旨発表したが、安保理決議の実効性を確保する上で、中国の役割は極めて重要であり、引き続き、中朝関係に注目していく必要がある。

中国

全般

  1. 中国は、国際社会における自らの責任を認識し、国際的な規範を共有・遵守するとともに、地域やグローバルな課題に対して、より協調的な形で積極的な役割を果たすことが引き続き強く期待されている。
  2. 中国は、「平和的発展」を唱えながらも、特に海洋における利害が対立する問題をめぐって、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応を継続させており、その中には不測の事態を招きかねない危険な行為もみられる。さらに、力を背景とした現状変更については、その既成事実化を着実に進めるなど、自らの一方的な主張を妥協なく実現しようとする姿勢を継続的に示しており、このような行動が、わが国を含む地域・国際社会の安全保障環境に与える影響について強く懸念される。
  3. 中国共産党第18期六中全会(16(平成28)年10月)コミュニケで「全面的な党の厳格統治」が言及されるなど、第19回党大会に向け、党・軍内部の腐敗問題への対応は今後も継続するとみられる。第18期六中全会では習近平総書記が「核心」と位置づけられるなど、現体制の権力基盤を一層強固なものにする姿勢も見られ、今後の動向が注目される。
  4. 中国は周辺地域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、当該地域での軍事活動を阻害する非対称的な軍事能力(いわゆる「アクセス(接近)阻止/エリア(領域)拒否」(「A2/AD(Anti-access/area-denial)」能力)の強化に取り組んでいるとみられる。

軍事

  1. 中国は軍事力を広範かつ急速に強化し、さらに、東シナ海や南シナ海をはじめとする海空域などにおいて、質・量ともに活動を急速に拡大・活発化させている。このような中国の軍事動向などは、軍事や安全保障に関する透明性の不足とあいまって、わが国として強く懸念しており、今後も強い関心を持って注視していく必要がある。また、地域・国際社会の安全保障上も懸念されるところとなっている。
  2. 中国は、従来から、国防予算の内訳の詳細などについて明らかにしていない。16(平成28)年12月には、空自戦闘機による対領空侵犯措置に関し、空自戦闘機が近距離での妨害を行ったなどと事実に反する主張を行っている。中国が自らの軍事活動に関して事実に即した説明を行うとともに、国防政策や軍事力の透明性を向上させていくことがますます重要になっており、具体的かつ正確な情報開示などを通じて、中国が軍事に関する透明性を高めていくことが強く望まれる。
  3. 公表国防費は、1989年度から毎年速いペースで増加している。公表国防費の名目上の規模は2007年度から10年間で約3倍となっているが、中国経済の成長の鈍化が今後の中国の国防費にどのような影響を及ぼすか注目される。
  4. 中国は、現在、建国以来最大規模とも評される軍改革に取り組んでおり、軍改革は急速に具体化している。急速な軍改革によって軍内部に不満が募っているとの見方もあり、実施状況とともに、わが国を含む地域の安全保障への影響も含め、改革の成果がどのように現れてくるかが注目される。
  5. 中国は、対艦弾道ミサイル(DF-21D及びDF-26)及び長射程の巡航ミサイル(DH-10(CJ-10))の戦力化を通じて、「A2/AD」能力の強化を目指していると考えられる。また、ミサイル防衛網突破が可能となる打撃力獲得のため、極超音速滑空兵器WU-14の開発を急速に推進しているとみられる。
  6. 国産空母の進水式が17(同29)年4月に行われた。さらに、国産空母2隻目を建造中との指摘がある。また、いわゆる海上民兵が中国の海洋権益擁護のための尖兵的役割を果たしているとの指摘があり、こうした非対称的戦力にも注目していく必要がある。
  7. 16(同28)年12月には、Su-35戦闘機の最初の4機をロシアの国営軍事企業から受領したとされているほか、次世代戦闘機との指摘もあるJ-20の試験配備を開始したとされている。
  8. 17(同29)年1月、袁誉柏(えん・よはく)海軍中将が、陸軍種以外で初めて戦区司令員に任命された。これまで陸軍種のみが務めてきた役職であることから、人事面からも統合に向けた動きが進展していると考えられる。
中国の公表国防費の推移

▲中国の公表国防費の推移

わが国周辺海空域における活動状況

  1. 中国海軍の艦艇部隊による太平洋への進出は高い頻度で継続していることなどから、外洋での運用能力の向上も目指しているものと考えられる。16(平成28)年12月には、空母「遼寧」の西太平洋進出が初めて確認され、海上戦力の能力向上や、より遠方への戦力投射能力の向上を示すものとして注目される。中国海上戦力の日本海における活動も、今後活発化する可能性がある。中国海軍艦艇は東シナ海においても継続的かつ活発に活動している。近年、その活動海域は南方向に拡大する傾向にあり、わが国尖閣諸島に近い海域で恒常的に活動している。
  2. 中国公船の動向としては、13(同25)年10月以降、尖閣諸島周辺の領海への定型的侵入を繰り返し行っている。中国公船によるわが国の領海への侵入を企図した運用態勢の強化は着実に進んでおり、中国公船のわが国周辺海域での運用能力も向上していると考えられる。16(同28)年8月上旬、5日間にわたり多数の公船及び漁船が領海侵入を繰り返すなどする事案が発生した。
  3. 空自による中国機に対する緊急発進回数は急激な増加傾向にあり、 平成28(2016)年度には過去最多を更新した。また、16(同28)年1月末に中国軍用機が初めて日本海で活動しており、今後も活動が活発化する可能性がある。近年、東シナ海における中国軍用機の活動範囲は東及び南方向に拡大する傾向にあり、沖縄本島をはじめとする南西諸島により近接した空域において活発な活動が確認されるようになっている。
  4. 中国の領土などを防衛するために、可能な限り遠方の海空域で敵の作戦を阻止することや、中国が独自に領有権を主張している島嶼の周辺海空域において、自国の領有権に関する主張を強めることなどが、海洋における活動目標であると考えられる。
  5. 石油や天然ガス採掘のための海洋プラットフォームのうち、1基のプラットフォーム上に、16(同28)年6月下旬、対水上レーダー及び監視カメラの設置が確認されるなど、これらの機材の利用目的も含め、プラットフォームに係る中国の今後の動向が注目されるところである。

南シナ海及び「遠海」における活動の状況

  1. 中国は、南沙諸島にある7つの地形において、14(平成26)年以降、大規模かつ急速な埋立活動を強行し、16(同28)年7月の比中仲裁判断において、その埋立てなどの活動の違法性が認定された後も、砲台といった軍事施設のほか、軍事目的に利用し得る各種インフラ整備を引き続き推進している。南シナ海における軍の活動も拡大している。16(同28)年9月には中露共同演習「海上協力」が初めて南シナ海で実施された。
  2. 中国海軍は、近年、インド洋などのより遠方の海域で作戦を遂行する能力を着々と向上させている。中国は、ジブチのドラレ新港において、軍の後方支援を提供するための施設建設を進めている。また、「一帯一路」構想のもと、インド洋諸国において港湾インフラ建設を支援するなどしており、地域における影響力の拡大に加え、中国海軍のインド洋などにおける作戦遂行能力はより一層向上する可能性がある。
わが国周辺海域における最近の中国の活動のイメージ図

▲わが国周辺海域における最近の中国の活動のイメージ図

ロシア

  1. ロシアは、最近の厳しい経済状況を受け、徐々に国防費の確保が難しくなりつつあるなか、引き続き軍の近代化に努めるとともに、軍の活動を活発化させ、その活動領域を拡大する傾向がみられる。
  2. ウクライナ情勢をめぐって、ロシアによる一方的な現状変更の結果は固定化の様相を示しているほか、ロシア軍はウクライナやベラルーシとの国境付近に新たな師団を配置していることを明らかにしている。また、アサド政権と反体制派との停戦合意や和平協議を仲介するなど、中東への影響力拡大に向けた動きも注目される。
  3. ロシアは、海上戦略抑止態勢の強化の一環として、20(平成32)年までに太平洋艦隊にボレイ級弾道ミサイル原子力潜水艦を4隻配備する計画であり、昨年までに同潜水艦を2隻配備している。
  4. ロシアは、北方領土(択捉島及び国後島)における軍事施設地区の整備を進めているほか、地対艦ミサイル配備を発表しており、事実上の占拠のもとで、昨今、その活動をより活発化させている。

東南アジア

  1. 東南アジア各国は、近年、経済成長などを背景として国防費を増額させ、第4世代戦闘機や潜水艦など、海・空軍の主要装備品の導入などの軍の近代化を進めている。
  2. 南シナ海においては、領有権などをめぐって中国との間で主張が対立し、地域の緊張が高まる中、一方的な現状変更及びその既成事実化に対する国際社会による深刻な懸念が急速に広まりつつある。関係国の一部では、国際法に基づく問題解決に向けた努力もなされており、引き続き、問題解決に向けた協議の行方が注目される。
中国による一方的で大規模かつ急速な施設建設の一例(ファイアリークロス礁)【CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / Digital Globe】

▶中国による一方的で大規模かつ急速な施設建設の一例(ファイアリークロス礁)【CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / Digital Globe】

欧州

  1. 欧州では、NATOやEUといった多国間の枠組みを更に強化・拡大しつつ、欧州域外の活動にも積極的に取り組んでいる。
  2. ロシアによる力を背景とした現状変更や国際テロリズムに対応するなか、NATO加盟国は14(平成26)年、国防支出を24(同36)年までに対GDP比2%以上の額とすることで合意した。
  3. 17(平成29)年に英国からEU離脱の意思について正式な通知がなされており、EUの求心力低下を含め今後の動向が注目される。

地域紛争・国際テロなどの動向

  1. 近年、世界各地で発生している紛争は、民族、宗教、領土、資源などの様々な問題に起因して発生している。また、国家統治の空白地域がテロ組織の活動の温床となる例も多くみられるほか、テロ組織の中には国境や地域を越えて活動するものもあり、引き続き国際社会にとって差し迫った安全保障上の課題となっている。
  2. 社会への不満などを背景に、イラク・レバントのイスラム国(ISIL)をはじめとする国際テロ組織の過激思想に共感を抱く若者が増え、国際テロ組織の活動に参加しているほか、自国においていわゆる「ホーム・グロウン型」・「ローン・ウルフ型」のテロ活動を行う事例が増えている。このような過激思想の世界的な拡散は、邦人7人が犠牲となった16(平成28)年7月のバングラデシュでのテロ事案などにみられるように、テロの脅威をグローバルに拡散させつつある。わが国自身の問題として正面から捉えなければならない状況となっている。
  3. 国際テロ組織の中には、拠点から遠く離れた地域においてもテロを実行する能力を持つ組織も存在し、これらテロ組織はソーシャル・メディアなどサイバー空間を活用するなどして、武器や資金の獲得のためのグローバルなネットワークを形成している。中には、高度な広報戦略により、組織の宣伝や戦闘員の勧誘、テロの呼びかけを巧みに行う組織も存在するほか、サイバー攻撃を行う可能性が指摘されているテロ組織も存在する。

海洋

  1. 東シナ海・南シナ海においては、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づき、自国の権利を一方的に主張し、又は行動する事例が多く見られるようになっている。
  2. 中国はいわゆる「九段線」の根拠としての「歴史的権利」を主張しているが、比中仲裁判断ではそのような「歴史的権利」は否定されている。
  3. 北極海沿岸諸国は、資源開発や航路利用などの権益確保に向けた動きを活発化させており、ロシアをはじめとした北極圏国の一部は、自国の権益確保や領域の防衛を目的に、軍事力の新たな配置などを進める動きも示している。また、北極海は従来から、戦略核戦力の展開及び通過ルートであることに加え、将来的には海上戦力の展開や軍事力の機動展開に使用されることが考えられ、戦略的重要性が高まっている。
  4. 中国による自国のシーレーンの安全確保を重視する姿勢は、中国海軍がより遠方の海域で継続的に作戦を遂行する能力の向上を目指していることとも関係していると考えられる。アデン湾に面するジブチにおいて、軍の後方支援を提供するための施設建設を進めているほか、インド洋諸国において港湾インフラ建設を支援するなどしている。
ロシア海軍が現在建造中とされる多目的砕氷哨戒艦(イメージ図)【Jane’s By IHS Marit】

▶ロシア海軍が現在建造中とされる多目的砕氷哨戒艦(イメージ図)【Jane’s By IHS Marit】

宇宙空間

  1. 主要国は、C4ISR機能の強化などを目的として、軍事施設・目標偵察用の画像偵察衛星、弾道ミサイルなどの発射を感知する早期警戒衛星、軍事通信・電波収集用の電波情報収集衛星、軍事通信用の通信衛星、艦艇・航空機の航法や武器システムの精度向上などに利用する測位衛星をはじめ、各種衛星の能力向上や打上げに努めている。
  2. 一方、中国やロシアなどによる対衛星兵器の開発やスペースデブリの飛散などは、各国の人工衛星などの宇宙資産に対する脅威として注目されており、宇宙空間の安定的利用に対するリスクが、各国にとって安全保障上の重要な課題の一つとなっている。

※C4ISR:Command(指揮),Control(統制),Communication(通信),Computer(コンピュータ),Intelligence(情報),Surveillance(監視) and Reconnaissance(偵察)の略

サイバー

  1. 軍隊にとっての情報通信ネットワークへの依存度が一層増大する中、サイバー攻撃は敵の弱点を突く非対称的な戦略として位置づけられ、多くの外国軍隊がサイバー空間における攻撃能力を開発しているとされている。
  2. 諸外国の政府機関や軍隊などの情報通信ネットワークに対するサイバー攻撃が多発しており、中国、ロシア、北朝鮮などの政府機関などの関与が指摘されているほか、サイバー攻撃も日に日に高度化・巧妙化しており、今やサイバーセキュリティは、各国にとっての安全保障上の重要な課題の一つとなっている。
  3. 国際社会においては、サイバー空間における法の支配の促進を目指す動きがある。

軍事科学技術と防衛生産・技術基盤

  1. 米国など高度に近代化された軍隊を有する主要国は、より精密で効果的な攻撃を行えるよう、兵器の破壊力の向上、精密誘導技術、C4ISRを含む情報関連技術、無人化技術(無人機など)、極超音速技術を重視している。
  2. 米国では、様々な国防省関連機関が企業、大学などの研究に対し大規模なファンディングなどによる資金提供を行っている。
  3. 欧米諸国では、高度化・複雑化に伴う装備品の開発・生産コストの高騰に対応するため、防衛産業の合併・統合や同盟国・友好国間での装備・技術協力を推進している。