自衛隊インビテ−ション
(1月放送内容)



テ−マ:戦闘機の生産技術基盤について

パ−ソナリティ−:

 今日は、東北防衛局長の齋藤雅一局長にお話をお伺いしたいと思います。
  局長には、「戦闘機の生産技術基盤」についてのお話をお伺いできると聞いておりますが、このテーマを取り上げた背景を教えて頂ければと思います。
  局長よろしくお願いいたします。
 
齋藤局長:
  よろしくお願いします。私が防衛省で初めて課長を務めた課が防衛省経理装備局航空機課というところでありまして、平成208月から229月まで2年余り勤めされていただきました。
  その時に、この「戦闘機の生産技術基盤」をどう考えるかが非常に重要な政策課題でありましたことから、是非ご紹介したく今回取り上げさせて頂きました。

パ−ソナリティ−:
 そもそも防衛省の航空機課というところはどういう仕事をされているんでしょうか?


齋藤局長:

  はい、ここは防衛省内部部局で自衛隊の航空機やその搭載火器等の調達や開発の基本を所掌する課です。皆さんあまりご存じありませんが、自衛隊は陸海空を合わせて約1500機という日本で最多の航空機を保有する組織です。
 この航空機は1機1機がいわゆる国有財産であり、機種選定から始まりその後用途廃止に至るまでのいわば「ゆりかごから墓場まで」生じる様々な行政課題を私の課で担当していました。


パーソナリティー:

 1500機というのは本当にすごい数ですね。


齋藤局長:
  はい。数だけでなく種類も半端ではありません。その中には固定翼機と回転翼機、つまりヘリコプターがあり、またミッション別に練習機や偵察機、救難機、輸送機など様々なタイプの航空機があります。例えば今政府専用機で使っているB747などもあります。
  現代戦において航空機の果たす役割は極めて大きく、昔で言えば「制空権」、今は「航空優勢」といいますが、これなしに戦いに勝つことはあり得ません。
  航空優勢確保の中核となるのが何と言っても戦闘機でありまして、日本は現在F-15F-2F-43種類の戦闘機を運用していますが、この戦闘機の生産技術基盤の在り方をどのように考えていくかが、今後の防空を考える上で防衛省として重要な課題でした。


パーソナリティー:

戦闘機などの航空機の調達はどのようにされているのでしょうか。


齋藤局長:

はい。大きく分けますと外国で作られたモノを買ってくる輸入か自国で生産する国産かに分かれます。国産でも自国で開発したものを生産する場合もあれば、外国で開発されたモノを権利の使用料であるライセンスフィーを払って自国で生産するライセンス生産というのもあります。
 戦闘機は一旦機種を決めたら何十年とその機種を使い続けることになりますので、何よりも性能が第一です。戦闘機は最先端技術の塊であり、これを開発できる国は米国、ロシア、イギリス、フランス、中国などごく一部に限られています。

  戦闘機の研究開発には莫大な費用がかかりますが、やはりこの分野では米国が世界を一歩リードしており、同盟国である米国との相互運用性も考え主力戦闘機はこれまで主として米国製を使ってきました。
 
ただ、これを単に輸入としてしまいますと、例えば修理だとかにも時間がかかり戦闘機の可動率にも大きく影響してきますので、ライセンスフィーを払ってライセンス国産してきました。
  また、もう退役しましたが支援戦闘機F−1などは国産ですし、その後継機F-2はいろんな経緯はありましたが米国との共同開発です。ポイントはライセンス生産もありますが、我が国では長年にわたり戦闘機を三菱重工業を中心とした国内企業で生産してきたと言うことです。


パーソナリティー:

今までは米国製を導入することが多かったわけですね。また退役しつつあるF-4の後にも米国製のF-35が選ばれたと聞いています。
  そうした中で戦闘機の生産技術基盤はどのように考えられていたのでしょうか?今後も米国などの外国から買い続けて何か問題はないのでしょうか?


齋藤局長:

そうですね。実は、私が課長を務めていた時、まだF-4の後継が決まっていない一方で、唯一生産中だったF-2の生産が平成23年度に終了する予定になっておりまして、戦後脈々と続いてきた戦闘機の国内生産に空白期間が生じることが確実視されておりました。
  因みに、戦闘機の生産に携わる企業の数は1000を超えますが、その中には先行きは暗いと撤退する企業も出始めていたのです。
 
そこで、このまま漫然何にも手を打たない場合に我が国の戦闘機の生産技術基盤がどのような影響を受けるのかを防衛省として把握しようと言うことで平成21年に「戦闘機の生産技術基盤のあり方に関する懇談会」を立ち上げ、後に特許庁長官になられた岩井防衛参事官に座長になって頂き航空機課がその事務局を務めました。
  ここでは戦闘機の生産に携わる企業のヒヤリングなどを集中的に行い、後に防衛大臣にもなられた森本敏先生などの有識者の意見もお伺いして同年12月に中間とりまとめを行い公表しました。


パーソナリティー:
 とりまとめではどんな報告がなされたのでしょうか?

齋藤局長:

 一言で言いますと戦闘機生産の空白期間ができた場合、これまで生産技術基盤が担ってきた「高可動率の維持」、「我が国の運用に適した能力向上」、「安全性の確保」の3つに大きな影響が出てしまうというものでした。
 
先程、戦闘機は一旦機種選定したら何十年も使い続けるというお話しをしましたが、例えばF-4などは最初に生産されたのが1969年ですから、かれこれ40年以上この機種を使っているわけです。
 こうした戦闘機を時代に合った能力を備えさせつつ、しかも最先端技術の塊である精密機械を高い可動率で動かし、かつ国民に重大な影響を与える事故を起こさせない・・・・このような大事な役割を防衛生産基盤が担ってきたわけですが、これに重大な穴が空きかねないというものです。

パーソナリティー:
 それは大変なことになりますね。では防衛省はどんな対策を打ち出されたのでしょうか。

齋藤局長:

 大きく分けて3つありまして、一つは戦闘機の運用上国内に残さなければならない基盤を整理しようと言うこと、二つ目が「将来戦闘機研究開発ビジョン」を作ろうと言うこと、三つめが防衛航空機産業自体を活性化しようと言うことで自衛隊開発機の民間転用を推進しようといった対策を打ち出しました。

パーソナリティー:
 戦闘機の生産技術基盤とこのビジョンはどういう関係があるのでしょうか?

齋藤局長:

 生産技術基盤を担うのは防衛産業を構成する企業でありそしてその従業員である技術者です。生産空白期間が長引けば、防衛省の仕事では利益が得られないわけですから企業は採算の観点から技術者を他部門に振り替えてしまいますし、極端な場合、企業は戦闘機の生産から撤退してしまいます。
  
一旦流失した人員を戻すことは容易ではありませんし、優秀な技術者となればなおさらです。ここで我が国が戦闘機を自前で作ると決めれば話は簡単なのですが、戦闘機の開発となると莫大な費用がかかることから国家としての大きな判断となります。
  
他方で、だからといって手をこまねいていては戦闘機を研究開発できる能力が我が国から失われてしまいます。そこで我が国が将来戦闘機の機種を決定する際に研究開発も選択肢として考慮できるようにしようと言うことで作成することとしたのがこのビジョンです。
 
中間とりまとめ後、防衛省と防衛産業が一緒になってこのビジョンを半年あまりで作ったわけですが、このビジョンには防衛省が引き続き戦闘機の研究開発に強くコミットしていることを省内外に示し、防衛省サイドでは研究開発の一層の効率的効果的な実施を期するとともに、防衛産業に引き続き防衛事業に参画を促す効果を狙ったものです。
 
このビジョンができた時、航空自衛隊や防衛省の技術サイド、防衛産業の方々から「こういうものが欲しかったんですよ」と言う声を聞いたときは有り難かったですね。
 このビジョンも含め基盤を維持するための施策の詳細について限られた時間でお話しすることはできませんので、先程申し上げた中間とりまとめを防衛省のHPからアクセスして興味のある方には是非ご覧頂きたいと思います。

パーソナリティー:
  はい、ありがとうございます。こちらに興味のある方は、是非こちらにアクセスして御覧になっていただきたいと思います。
 今日は、東北防衛局齋藤雅一局長に、「戦闘機の生産技術基盤」についてのお話をお伺いしました。齋藤局長には今後も引き続き幅広くお話を伺っていきたいと思います。今日はありがとうございました。

齋藤局長:

 ありがとうございました。

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