防衛省・東北防衛局がおくる日本の防衛Q&A
(12月放送内容)



 

テ−マ:将来戦闘機研究開発ビジョンについて(その1)

 

 

パ−ソナリティ−:

 
  今回のテーマは、「将来戦闘機研究開発ビジョン(その1)」についてお話を伺いたいと思います。局長、本日もよろしくお願いいたします。  

齋藤局長:
 
  よろしくお願いします。
 


パーソナリティー:

 
 さて今回のテーマなんですが、一般の人には「将来戦闘機研究開発ビジョン」と言われても、なかなかピンと来ないと思うんですが、始めに今回は何故このテーマを取り上げたのかを教えて頂けますか?


齋藤局長:

 
  はい、私が初めて防衛省で課長を務めたところが防衛省経理装備局航空機課というところで、平成208月から229月まで丸2年在籍しましたが、私が課長の時にこのビジョンを策定したため大変思い入れがあり今回取り上げさせて頂きました。  

パーソナリティー:
 
  なるほど、当時の齋藤課長時代に策定されたんですね。
  でも、防衛省の航空機課というところはどういうお仕事をされているんでしょうか?
 


齋藤局長:

 

 はい、ここは自衛隊の航空機やその搭載火器等の調達や開発の基本を所掌する課です。あまり知られていませんが、自衛隊は陸海空を合わせて約1500機という日本で最多の航空機を保有していますが、航空機は11機がいわゆる国有財産であり、いわばその出産前に加え「ゆりかごから墓場まで」生じる様々な行政課題を私の課で担当していました。

 


パーソナリティー:

 

  1500機というのはすごい数ですね。

 

齋藤局長:
 

  その中には固定翼機と、回転翼機つまりヘリコプターがあり、またミッション別に練習機や偵察機など様々なタイプの航空機があります。現代戦において航空機の果たす役割は極めて大きく、昔で言えば「制空権」、今は「航空優勢」といいますが、これなくして戦いに勝つことはあり得ません。
  航空優勢確保の中核となるのが何と言っても戦闘機で、日本は現在F-15F-2F-43種類の戦闘機を運用していますが、この戦闘機の調達のあり方をどのように考えていくかが今後の防空を考える上で我が国としても重要な課題であるわけです。

 

パーソナリティー:
 
 なるほど。では、戦闘機などの航空機の調達はどのようにされているのでしょうか。  

齋藤局長:
 

  はい。大きく分けますと外国で作られたモノを買ってくる輸入か自国で生産する国産かに分かれます。国産でも自国で開発したものを生産する場合もあれば、外国で開発されたモノを権利の使用料であるライセンスフィーを払って自国で生産するライセンス生産というのもあります。

 

パーソナリティー:
 なるほど。それでは日本の戦闘機はどのように調達してきたのでしょうか?

齋藤局長:
  戦闘機は、一旦機種を決めたら何十年とその機を使い続けることになりますので、何よりも性能が第一です。戦闘機というものは最先端技術の塊であり、これを開発できる国は米国、ロシア、イギリス、フランス、中国などごく一部に限られています。戦闘機の研究開発には莫大な費用がかかりますが、やはりこの分野では米国が世界を一歩リードしていまして、同盟国である米国との相互運用性も考え主力戦闘機はこれまで主として米国製を使ってきました。
  ただ、これを単に輸入としてしまいますと、例えば修理だとかにも時間がかかり戦闘機の可動率にも大きく影響してきますので、ライセンスフィーを払ってライセンス国産してきました。
 
また、もう退役しましたが支援戦闘機F−1などは国産ですし、その後継機F-2は米国との共同開発です。ポイントはライセンス生産もありますが、我が国では長年にわたり戦闘機を三菱重工業を中心とした国内企業で生産してきたと言うことです。

パーソナリティー:

はい。これまでは米国製を導入することが多かったわけですね。また退役しつつあるF-4の後続に米国製のF-35が選ばれたと聞いています。
 そうした中で、どうして「将来戦闘機研究開発ビジョン」を作られたのでしょうか?今後も米国などの外国から買い続ければ続ければ良いようにも思えますが。


齋藤局長:

そう思われるのも無理ありません。実は、私が課長を務めていた当時、まだF-4の後継が決まっていない一方で、唯一生産中だったF-2の生産が平成23年度に終了することになっており、戦闘機生産の空白期間が生じることが確実視されておりました。
  因みに、戦闘機の生産に携わる企業の数は1000を超えていまして、そのまま漫然何にも手を打たない場合に、我が国の戦闘機の生産技術基盤がどのような影響を受けるのかを防衛省として把握しようと言うことで、平成21年に「戦闘機の生産技術基盤のあり方に関する懇談会」を立ち上げまして航空機課がその事務局を務めました。
  ここでは戦闘機の生産に携わる企業のヒヤリングなどを集中的に行い、後に防衛大臣にもなられた森本敏先生などの有識者の意見もお伺いして同年12月に中間とりまとめを行い公表しました。


パーソナリティー:

 とりまとめではどんな報告がなされたのでしょうか?


齋藤局長:

  一言で言いますと戦闘機生産の空白期間ができた場合、これまで生産技術基盤が担ってきた@高可動率の維持、A我が国の運用に適した能力向上、B安全性の確保という3つに大きな影響が出てしまうというものでした。
 
先程、戦闘機は一旦機種選定したら何十年も使い続けるというお話しをしましたが、例えばF-4などは最初に生産されたのが1969年ですから、かれこれ40年以上この機種を使っているわけです。
  こうした戦闘機を時代に合った能力を備えさせつつ、しかも最先端技術の塊である精密機械を高い可動率で動かし、かつ国民に重大な影響を与える事故を起こさせない・・・このような大事な役割を防衛生産基盤が担ってきたわけですが、これに重大な穴が空きかねないというものです。
 こうしたことで様々な対策を打ち出したわけですが、そのうちの一つが「将来戦闘機研究開発ビジョン」でした。

パーソナリティー:
  戦闘機の生産技術基盤とこのビジョンはどういう関係があるのでしょうか?


齋藤局長:

 はい。生産技術基盤を担うのは防衛産業を構成する企業であり、そしてその従業員である技術者です。生産空白期間が長引きますと、防衛省の仕事では利益が得られないわけですから、企業は採算の観点から技術者を他部門に振り替えてしまいますし、極端な場合、企業は戦闘機の生産から撤退してしまいます。
  一旦流失した人員を戻すことは容易ではありませんし、優秀な技術者となればなおさらです。ここで我が国が戦闘機を自前で作ると決めれば話は簡単なのですが、戦闘機の開発となると莫大な費用がかかることから国家としての大きな判断となります。
 
他方で、だからといって無為無策で手をこまねいていては戦闘機を研究開発できる能力が我が国から失われてしまいます。そこで我が国が将来戦闘機の機種を決定する際に研究開発も選択肢として考慮できるようにしようと言うことで作成することとしたのがこのビジョンです。
  中間とりまとめ後、防衛省と防衛産業が一緒になってこのビジョンを半年あまりで作ったわけですが、このビジョンには、防衛省が引き続き戦闘機の研究開発に強くコミットしていることを省内外に示し、防衛省サイドでは研究開発の一層の効率的効果的な実施を期するとともに、防衛産業に引き続き防衛事業に参画を促す効果を狙ったものです。


パーソナリティー:

 なるほど、そういうビジョンがあると防衛省やそして企業にとっても努力目標ができてさあ頑張ろうという気になりますよね。


齋藤局長:

  そうなんですね。このビジョンができた時、航空自衛隊や防衛省の技術サイド、防衛産業の方々から「こういうものが欲しかったんですよ」と言う声を聞いたときは有り難かったですね。
  このビジョンを作るまでの経緯を限られた時間ではなかなか詳細にお話しすることはできませんので、先程申し上げた中間とりまとめを防衛省のHPからアクセスして興味のある方には是非ご覧頂きたいと思います。
 また、このビジョンの中身については、次回、当時私と共同で担当した防衛省の外園大臣官房技術監をお呼びし最新の状況も含めてご説明をしたいと思います。

パーソナリティー:
  はい、分かりました。
  今日は、齋藤東北防衛局長に、「戦闘機研究開発ビジョン(その1)」についてお伺いしました。 次回は防衛省から外園技術監をお呼びしまして齋藤局長とご一緒に、ビジョンの具体的な中身についてについて、幅広くお話を伺っていきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします。


齋藤局長:

 こちらこそよろしくお願いします。

 
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