防衛省・東北防衛局がおくる日本の防衛Q&A
(3月放送内容)



テ−マ:東日本大震災における教訓と課題B
      住民の避難行動における課題と教訓

パ−ソナリティ−:

本日は、前回に引き続き、平成23年3月11日の東日本大震災時、岩手県の災害対策本部支援室において、指揮統括の中心的役割を果たされ、また、その際の体験を基にした東日本大震災津波岩手県防災危機管理監の150日の著者でもあります岩手県防災危機管理監の越野修三さんをお迎えして、東日本大震災における教訓と課題をテーマとした、東北防衛局長中村吉利局長との対談をお送りいたします。それでは、越野防災危機管理監、そして、中村局長、よろしくお願いします。


中村局長:

はい。よろしくお願いします。前回は、岩手県としての災害対応を中心に行いました。 私、岩手県の対応のなかで非常に印象に残っている一つは、通常青森県に所在している第9師団、その師団長以下の災害派遣部隊司令部が岩手県庁内におかれたという点なんです。これを、顔の見えるつきあいのできる越野さんのようなお立場の方がいればこそと思います。実は、自衛隊を退職後、自治体の防災関係に携わる人はここのところ増えてきていて、都道府県レベルではかなりの数になっているんですけれども、市町村レベルではまだ多くありません。今後、こういった点がどうあるべきかも検討課題と思います。


越野防災危機管理監:

そうですよね。自衛隊の職員は、大規模災害とか突発事案などにおいては、普通のルーチンでできない業務が発生するわけです。そういう場合、なかなか対応できません。そのような事態に対応できる職員を訓練なんかで育成するということになりますと、かなり時間を要するわけなんですね。そういう意味からも、市町村においてもですね、即戦力としての自衛隊のOBを採用するということは非常に意義あることだと思いますので、大いに期待しております。


中村局長:

はい。確かに、即戦力として自衛官OBをもっと活用するというのは、非常に有意義な施策だろうと思います。さて、行政から住民の対応のほうに目を向けたお話を、今日はうかがいたいと思います。警察庁の資料によりますと、岩手県では今回の震災で亡くなられた方4671名、行方不明の方1194名となっていまして、改めて被害の大きさを実感します。このような被害の多くは、津波関連でしょうから、やはり、住民の津波からの避難行動に多くの課題と教訓があるように思います。このあたりから、お聞きしたいと思います。


越野防災危機管理監:

そうですね。岩手県では沿岸市町村460箇所の指定避難所がありました。そのうちの84箇所が津波の浸水を受けて、多くの方が避難所に避難しながら亡くなっているというふうに、そうゆう事実があります。これは、やはり被害想定の考え方だとか、それから、ハザードマップのあり方に問題があったのではないかなというふうに思っています。また、避難所の選定のしかたもちょっとやっぱり問題があったということで、今、県ではこれを見直していかなければいけないなぁというふうに思っています。さらには、要援護者を救助しようとして亡くなった消防団の方、あるいは民生委員の方が結構おりまして、三陸地域では昔から「津波てんでんこ」という言い伝えがあるんですが、それと全く逆の行動をとって亡くなったという方が数多くいらっしゃる。どうしても、これは目の前に助けを求めている人がいれば、人情的にはそれを助けざるを得ないというそうゆう現実があります。したがって、この要援護者の犠牲者、あるいはそれを助けに行った人が犠牲にならない抜本的な対策というのは、そういう方たちはもうそこに住んではいけない。いわゆる、助けに行かなくても良いような環境づくりというのが大切だなぁ とこういう風に思っています。それと、もう一つ、今回犠牲になった理由として、住民の避難意識これが低下していたんではないのかなぁと、こういう事例が多々みられます。例えば、平成22年2月28日にチリ津波がありました。岩手県でも3メートルの大津波警報が発令されまして、沿岸市町村は避難指示を出しましたけれども、このときの避難率が、避難所への避難率が9.5パーセント、かなり低かったんです。そういう、何でこんなに低いんだろうということで、後日アンケート調査をやったところ、やはり60パーセントは避難しておりましたけれども、約40パーセントの人はやっぱり避難しておりませんでした。なぜ、避難しなかったのかというふうに、理由を聞いてみますと、ほとんどの人が防潮堤があるから大丈夫だと、あるいは、自分の家は高台にあるから大丈夫だとか、そういうような根拠のない自己判断によるものがほとんどだったわけなんです。 この震災でも、最初の気象庁が発表したのは3メートルの大津波警報だったわけなんですね。したがって、このチリ津波の経験もあるでしょう。今度も、やっぱり大丈夫なんじゃないのかなぁと、そういうふうに思った人はかなりいたと思うんですね。そんなことで、逃げ遅れて亡くなったという方が結構あると思います。 現に、震災後に釜石市でアンケート調査をやりましたら、あんだけ揺れた地震であったにもかかわらず、あるいは、行政から避難指示を出して避難を促したにもかかわらず、やっぱり40パーセントの人は逃げていなかったんです。そういうことがあって、やっぱり、この、意識の低下ということが考えられると思っております。


中村局長:

はい。ありがとうございます。意識の低下が避難行動に影響したというようなお話だったかと思いますけれども、そうした意識の低下といったようなものはどうして発生しているのかといった点を若干うかがいたいと思います。


越野防災危機管理監:

そうなんですよね。人間誰でも「正常化の偏見」、これは災害心理学でいうと「正常化の偏見」というようなことで呼ばれているんですが、そういう心理特性というのは持っています。これはですね、異常を認知しても、正常と解釈しようとする傾向なんですが、例えば、ここで火災警報機が鳴ったとしても、すぐには逃げないですよね。そういうのを、故障かと思ったり、実際に煙なんかを見ないとすぐは逃げないと、そういうような傾向というのは誰にでもあると思うんです。それと、自分に都合悪いような情報を得た場合、それを無視したり、過小評価するというような特性も持っています。ですから、この40パーセントの人は「正常化の偏見」という心理的なメカニズムが働いて、すぐには逃げなかったんだと、こういうふうに思っております。そして、たぶん、防潮堤があるから大丈夫だとか、以前にも大丈夫だとか、隣の人も逃げていない、こういうような自分を正当化するための理由を考えるわけなんです。で、津波が襲ってきたときには、もう、逃げ遅れて、津波の被害を受けてしまった。こんな感じじゃなかったのかなぁというふうに考えています。


中村局長:

はい。こういった非常事態では、やはり、自分を正当化したりすることなく、決められた手順に従って避難していくということが重要であるということだろうと思います。今日、大体お時間となってまいりました。本日は、住民の避難行動における課題と教訓を中心にうかがいました。他方で、岩手県の事前の取り組みのなかには、今回の震災でも成果を挙げた例もあると聞いています。次回は、そういった点をうかがった後に、今後の震災に際しての被害をできるだけ少なくするというためには、一人一人が何をしなければならないかなどについて、うかがいたいと思います。越野さん、今日もどうもありがとうございました。


越野防災危機管理監:
 どうもありがとうございました。

パ−ソナリティ−:
 本日は、岩手県防災危機管理監の越野修三さんをお迎えして、東日本大震災における教訓と課題をテーマとした、中村吉利局長との対談をお送りしました。次回も引き続き、越野防災危機管理監と、中村局長の対談をお送りします。
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