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自 衛 隊 百 科
(1月放送内容)



テ−マ:安全保障に関する推薦図書(その2)

パ−ソナリティ−:

 自衛隊百科のコーナーです。このコーナーでは毎月1回東北防衛局の増田義一局長にお越しいただいてお話をいただいております。
 局長、今月もどうぞよろしくお願いいたします。


増田局長:

 よろしくお願いいたします。


パ−ソナリティ−:

 では早速ですが、本日はどのようなお話をいただけますでしょうか。


増田局長:

 今日はですね、安全保障に関する推薦図書(その2)ということで、前回に引き続きまして幾つかの図書を紹介したいと思います。前回はですね、有名な学者さんが書いたオーソドックスな本の中から、特に私が直接教えを受けた、すなわち面識のある先生方の書かれたものを4冊紹介させていただくということでですね、すでに2冊の紹介が終わりました。1つはジョセフ・ナイの「国際紛争」ともう1つはグレアム・アリソンの「決定の本質」だったわけですが、今日はですね、残りの2冊の紹介から始めたいと思います。


パ−ソナリティ−:

 はい、お願いいたします。

増田局長:
 まず最初は、トーマス・シェリングの「紛争の戦略」ですね、副題が「ゲーム理論のエッセンス」となっていますけれども、トーマス・シェリングはですね、東西冷戦におけるアメリカの核戦略に多きな影響を与えた人でですね、2005年にノーベル賞を受賞しました。受賞理由は、「ゲーム理論を通して紛争と協調の解明に寄与した」というものでした。この「紛争の戦略」という本は1960年に出版された本ですので、もう既に古典というふうになっています。私が昔留学した89年当時、シェリング教授は既に70歳を目前に控えたご高齢だったんですが、もうハーバード・ケネディスクールを退官するというので、私たちは最後の教え子となりました。日本には退官記念講演というのがよくありますけれども、こういうのがなくてですね、普通の授業をやって、最後の30分ぐらい使ってですね、シャンパンを空けて皆とお祝いをしたのを覚えています。ハーバード大学でも既にこの時30年ぐらい教鞭をとっていましたので、教え子のなかにはもうハーバードの教授にまでなっている人たちもいてですね、そういう人たちがお祝いに集まってきてですね、昔話を披露してくれたりしましたですね。その後ノーベル賞を受賞したわけですが、2005年に受賞しました。それはもう退官から15年も後のことでですね、シェリング教授は84歳になっていました。ノーベル賞というのはご存じだと思いますけれども、生存している方のみに授与されますので、死んでしまったらもらえないですね。ですから長生きしておられてよかったなとその時は思いましたですけれども、現在もお元気の様子でですね、この4月には91歳になられるというふうに聞いています。


パ−ソナリティ−:

 はい、それではそのシェリング教授の著書なんですが、「紛争の戦略」とはどういった内容のものなんでしょうか。


増田局長:

 「紛争の戦略」は、ゲーム理論の観点からですね、核抑止、限定戦争、奇襲攻撃、まあこういった安全保障にかかわることを扱っていますけれども、その他にもですね、交渉、コミットメント、約束、脅しなど普通の社会一般で行われていることも扱ってましてですね、安全保障の専門書というわけではないわけですね。そういう意味では、一般の方にも読みやすい本だと思います。安全保障に関しては、むしろ1966年に出版されましたArms and Influence という本がありましてですね、こちらの方をお薦めしたいと思うんですが、ただ残念ながら日本語訳が出版されていませんので、まあいい本ですので、そのうち私も時間ができたら、翻訳でもしたいなと思っています。


パ−ソナリティ−:

 はい分かりました。「紛争の戦略」というのはやっぱり私たちの日常生活にも関することをテーマに扱われているんですね。これはまた私たちも入り口が分かりやすく、入りやすそうなイメージの本だなと思いました。さて続いての本は。


増田局長:

 次はですね、サミュエル・ハンチントンの「軍人と国家」です。この本は私が生まれた年ですね、1957年に出版されましたので、随分古い本になってしまいましたけれども、政軍関係、すなわち政治と軍事の関係について書かれています。この本も古典と言って良いと思いますね。ハンチントンと言えばですね、「文明の衝突」という著書が非常に有名で、この「文明の衝突」が1996年に出版されたんですが、出版されたとき私が思ったのはですね、世界はもうグローバル化が進む中でですね、8大文明が衝突すると言うんですけれども、その8大文明がいったいどうやってその息を吹き返すのかなと思ったんですね、ずいぶん大胆なことを言うなあという感想を持ったのは私だけではないと思いますけれども、その後ですね、9・11テロとか、アフガン紛争、イラク戦争、こうゆうものが起きましてですね、ハンチントンの先見の明が立証された形になりましたですね。
ハンチントンはですね、ハーバード大学の政治学部の教授でしてですね、私が留学当時は「安全保障と防衛政策」という授業を教えていました。この人は、保守の方の人でですね、同じハーバードでも前回ご紹介しましたナイ教授ですね、この人はリベラルな人でこの人とちょっと違うわけですね。ハーバードというのは一般的にはリベラルな気風が特徴でありまして、大学があるボストン、マサチューセッツというところは、リベラルな民主党の牙城とまで言われているようなところなんですね。そういった意味ではこの人はハーバードでは異色な人なわけですね。残念ながら、ハンチントン教授はですね、3年前にお亡くなりになっています。


パ−ソナリティ−:

 それでは本日ですね、4冊のお薦めの本をご紹介いただいたんですけれども、
ジョセフ・ナイ教授の「国際紛争」という本、そしてグレアム・アリソンの「決定の本質」、そしてトーマス・シェリングの「紛争の戦略」、副題が「ゲーム理論のエッセンス」、そして4冊目がサミュエル・ハンチントンの「軍人と国家」、4冊ですね、ご紹介いただきましたので、是非お手にとってご覧頂きたいと思います。


増田局長:

 最後にですね、東日本大震災に関するものを1冊紹介させていただきたいと思います。須藤彰さんが書きました「東日本大震災 自衛隊救援活動日誌」副題が「東北地方太平洋沖地震の現場から」ですね。この著者の須藤さんはですね、陸上自衛隊東北方面総監部の政策補佐官をしている人です。この政策補佐官というポストにはですね、防衛省の本省から、いわゆるキャリア官僚が送り込まれていましてですね、東北方面総監を政策面で補佐するという仕事に就いているんですけれども、須藤さんは私どもの東北防衛局で毎週局議という会議をやっていますが、そちらにオブザーバーとして出席してもらっていますので、私もよく知っている人ですけれども、須藤さんは、自衛隊の機動力を活かしてですね、マスコミが入れないような現場も含めまして、自衛隊の救援活動の現場をくまなく見て回って日誌を書いたんですね。そしてこの日誌をですね、毎日防衛大臣に直接送ってですね、防衛大臣がこれに目を通しておられたわけですね。防衛大臣ですから、当然ながら自衛隊から組織的にですね、現場の情報というのが上がってくるんですが、それに加えてですね、この日誌もリアルに実情を知るツールとして目を通しておられたわけであります。被災者救援の現場で、隊員が何を思って、何をしていたかというのをですね、良く分かる日誌ですので、国民の皆さんにもぜひこれを読んでいただきたいということで、本として出版されることになったんですね。読みますと須藤さん独特のですね、平易かつ温もりのある文体で書いてありますので、ぜひ読んでいただきたいと思います。
以上が、私の独断と偏見で選びました安全保障に関する推薦図書でした。


パ−ソナリティ−:

 はい、最後にご紹介いただいた震災時の自衛隊の方々のご尽力はもちろん私たちも知っているんですけれども、またこの本で違う側面から震災のことについて、自衛隊の方々の活躍についても知ることが出来そうだなと思いました。本日も自衛隊百科のコーナーでは東北防衛局の増田義一局長にお越しいただいて推薦図書についてお話をお伺いしました。局長、今月もどうもありがとうございました。


増田局長:

 どうもありがとうございました。

推 薦 図 書 一 覧
@
防衛省『日本の防衛:防衛白書 平成23年版』ぎょうせい、2011年

A
朝雲新聞社編集局『防衛ハンドブック 平成23年版』朝雲新聞社、2011年

B
ジョセフ・S. ナイ、デイヴィッド・A. ウェルチ『国際紛争 : 理論と歴史』
田中明彦、 村田晃嗣 訳、有斐閣、2011年
Nye, Joseph S., Understanding Global Conflict and Cooperation: An
Introduction to Theory and History, 8th ed
. (Boston: Longman, 2011)
(参考)
ジョセフ・S. ナイ『スマート・パワー : 21世紀を支配する新しい力』
山岡洋一、藤島京子 訳、日本経済新聞出版社、2011年
Nye, Joseph S., The Future of Power (New York: Public Affairs, 2011)

C
グレアム・T.アリソン 『決定の本質 : キューバ・ミサイル危機の分析』
宮里政玄 訳、中央公論社、 1977年
Allison, Graham T., Essence of Decision: Explaining the Cuban Missile
Crisis,
(Little Brown 1971)


D
トーマス・シェリング 『紛争の戦略 : ゲーム理論のエッセンス 』
河野勝 監訳、勁草書房、2008年
Schelling, Thomas C., The Strategy of Conflict (Cambridge: Harvard
University Press, 1960)
(参考)

Schelling, Thomas C., Arms and Influence (New Haven: Yale University
Press, 1966)

E
サミュエル・ハンチントン『軍人と国家 上下』 市川良一 訳、原書房、1978年
Huntington, Samuel P., The Soldier and the State: The Theory and Politics of Civil-Military Relations (Belknap Press, 1957)
(参考)
サミュエル・ハンチントン 『文明の衝突』鈴木主税 訳、集英社、1998年
Huntington, Samuel P., The Clash of Civilizations and the Remaking of
World Order
(New York: Simon & Schuster, 1996)


F
須藤彰『東日本大震災自衛隊救援活動日誌 : 東北地方太平洋沖地震の現場から 』
扶桑社、2011年


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