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自 衛 隊 百 科
(7月放送内容)



テ−マ:礼砲の由来

パ−ソナリティ−:

 自衛隊百科のコーナーです。このコーナーでは毎月1回東北防衛局の増田義一局長にお越しいただきお話をいただいております。
局長、今月もよろしくお願いいたします。


増田局長:

 よろしくお願いいたします。


パ−ソナリティ−:

 ではさっそくですが、今日はどのようなお話をいただけますでしょうか。


増田局長:

 もう夏休みの時期となりましたので、今日は、あまり難しくない豆知識的なことを話したいと思います。


パ−ソナリティ−:

 はい、よろしくお願いします。

増田局長:
 外国の賓客が東京国際空港などに到着したときなどに、礼砲をドーンドーンと撃ってお迎えするのを、テレビなどで見たことがある人も多いのではないかと思いますけれども、今日はその礼砲にかかわるお話をしたいと思います。


パ−ソナリティ−:

 はい、確かに見たことはあるんですけれども、詳しいことってなかなか知らないので、大変興味深いですね。


増田局長:

 大砲を持っていて実際にこれを撃つことができるのは、日本では自衛隊しかないわけですけれども、従って、陸上自衛隊の特科部隊が野戦砲を運んで行って空砲を撃つんですね。国際慣行に従って、撃つ数は賓客のグレードによって決められています。例えば、国家元首は21発、首相は19発、閣僚や大将は17発、中将は15発、少将は13発といった具合です。


パ−ソナリティ−:

 撃つ数まで国際的に決まっているというのは面白いですね。


増田局長:

 ここまでは良く知られている話であるんですけれども、以外と知られていないのは、礼砲は昼間、すなわち日の出から日没までの間しか撃たないということですね。従いまして、日没以降日の出までの暗い間はやらないというのが国際慣行です。実際に、日の出から日没までの間の昼間に東京国際空港に到着すれば礼砲を撃ちますけれども、日没以降に到着した場合は、相手が国賓だろうが国家元首だろうが、普通は撃たないものであります。


パ−ソナリティ−:

 それはなぜでしょうか。


増田局長:

 その理由は、礼砲の元々の由来を知れば理解できると思います。昔の帆船の時代まで遡りますけれども、昔の軍艦が外国の港に入港するときに空砲を撃っていたんですね。それが慣行となったわけですけれども、空砲を撃つことによって、自分は攻撃する意志がないんですよということを示すのができたんですね。何でそういうのが出来たかというと、大砲を装備した昔の軍艦が、船の横っ腹の小窓から沢山の大砲を突き出しているのを頭に描いてもらいたいと思います。この大砲から空砲をボンボンボンと撃ちますけれども、大砲を船内に引き戻さないでそのまま突き出したままにしておくんですけれども、それは、その大砲には次の弾が装填されていないことを表しています。なぜなら、次の弾を装填するためには、昔の大砲は先端から弾込めをしますので、一度大砲を船内に引っ込めて、大砲の先端から弾をもう一度込めて、そして大砲を小窓からもう一度突き出さなければいけないわけです。それをしないで空砲をドーンと撃った後に大砲を窓から出しっぱなしにしているということは、私には攻撃の意志はありません、弾を込めていないのですから、というところを入港するときに見せるわけです。従って、明るくなければ、大砲を船の中に引っ込めたのか引っ込めなかったのか見えませんよね。ですから、これは明るいときにやらなければ意味がないわけです。その慣例が、礼砲という儀礼になったわけですので、今の時代でも、礼砲というのは日の出から日没までの明るいときにしかやらないものであります。


パ−ソナリティ−:

 なるほど分かりました。とても面白いですね。


増田局長:

 面白いことに、今でも、外国軍艦が我が国を訪問するときにこの礼砲として空砲を撃ちますけれども、東京湾に入港する外国軍艦は、観音崎のところで礼砲を撃つのですが、今では大砲の弾は昔と違って大砲の先端から込めるのではなくて、根本のほうから込めるので、空砲を撃ったからといって、次に実弾を装填したかどうかは見えないんですね、わからないんですけれども。特に今は自動装填というふうになっておりますしね。しかし、国際慣行としてはこういうのが残っているわけです。


パ−ソナリティ−:

 形式だけは今も残っているんですね。


増田局長:

 今から十数年前の話なんですが、ある近隣国の国家元首が来日するときにですね、成田に日没後に到着するんですけれども、礼砲を撃って迎えてもらいたいということを外交ルートで要請してきたことがありました。私は防衛庁でこういった儀典関係を所掌する人事局の筆頭課の先任部員だったので、良く覚えているのですが。外務省はこの某近隣国のいってみれば非常識な要請なんですが、それに答えるべく、防衛庁に対して礼砲の実施を要請してきました。しかし、日没後の礼砲は国際慣行に反しますし、礼砲の実施要領を定めた防衛庁の大臣通達というのがあるんですが、それにもはっきりと礼砲は日の出から日没までと定められていますので、これに反することになります。そこで、外務省の要請に対して「国際慣例上日没後に礼砲を撃ったなど聞いたことがない。非常識だ。」と言って突き返したことがありました。


パ−ソナリティ−:

 それでどうなったのですか。


増田局長:

 相手方もそれでは引き下がりませんでですね、世界中の在外公館に調査訓令を打電して、日没後に礼砲を撃った前例があるかどうかこれを調べたんですね。その結果、過去にカナダで一例だけ前例があったということが判ったんです。


パ−ソナリティ−:

 そしてどうなったのですか。


増田局長:

 前例があることに外務省も意を強くしまして、再度強い要請がありました。最終的には、こちらも上層部に相談して、大臣通達の例外ということになりますので、結局大臣まで決裁をとって実施をしようということになりました。そのかわり、カナダの前例に従いまして、可搬式の照明を配備して、まるで昼間のように明るく照らして、それで礼砲を撃つということになりました。照明のリース代はもちろん外務省の予算で手当てすることになったんですけれどもね。


パ−ソナリティ−:

 そういう面白いお話もあるのですね。

増田局長:
 礼砲の由来から、最後はつまらない話になりましたけれども、今日はこんな話であります。

パ−ソナリティ−:
 なかなか裏話というのは聞くことが出来なかったので、大変興味深かったです。有難うございました。

増田局長:
 どうも有難うございました。



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