本部長の群馬紀行
第34回 十石峠街道(その2)

 皆様、こんにちは。
 本年もあと一月となりました。

 

 現在、中学生を対象とした高等工科学校生徒の試験受付を行っていますので、たくさんの応募をお待ちしています。また、自衛官候補生(男子)については年間を通じて募集を行っていますが、来年1月31日(土)に試験を行いますので、こちらへの応募もお待ちしています。

 

 さて、群馬紀行第34回は、十石(じっこく)峠街道(その2)として、多野郡神流(かんな)町の史跡などをご紹介します。

 

 神流町は、前回ご紹介したかつての山中領のうち、中山郷(旧中里村)と下山郷(旧万場町)の範囲を占め、十石峠街道が通っており中里と万場に宿がありました。写真は、中里宿があった旧中里村の中心付近(神流町神ヶ原)で、左手の斜面を登った所に神流町立中里中学校があります。右後方に見える崖状の山は標高961mの「叶山」(かのうやま)で、石灰岩鉱山として採掘中であるため、標高は日々減少しているそうです。

 

 

 十石峠から上野村を横断する国道299号は中里中学校の先で神流川を渡り、志賀坂峠を越えて埼玉県秩父市方面に通じています。写真は、峠の手前の国道沿いにある「瀬林の漣痕」(せばやしのれんこん)と呼ばれる岸壁で、中生代(約1億年前)のこの地方が海に面していた頃、水深の浅い「流れの跡」が砂浜に残って化石となり、その後の地殻変動によって現在のような崖となって姿を現したものです。詳しい調査の結果、中生代に生息していた貝類などの痕跡の他、数種類の恐竜の足跡の痕跡が認められたことから、中里は一躍恐竜の里として脚光を浴び「化石発掘体験広場」や「恐竜センター」がオープンしました。

 

 

 国道299号と分かれた十石峠街道はここから国道462号となり、神流川に沿って神流町を横断して藤岡市方面に通じています。写真は、神流町魚尾(よのお)の神流川の真ん中に座っている「丸岩」呼ばれる奇岩で、周囲50m、高さは15mもあり、岩の上には水天宮が祀られています。魚尾の名の由来は、かつて日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が東征の途中、空腹と疲れで丸岩付近で休んでいた際、村人が献上した麦飯と鮎を大いに喜んで魚の尾まで食べ「この地を魚尾と称すべし」と言われた伝説によるものだそうです。

 

 

 元禄時代の1694年に実施された検地により、上州山中領とその南側の武州秩父領との間に「川切り(川境)」か「峰切り(山境)」かの国境論争が勃発し、双方の名主代表が幕府の評定所に訴えて争いましたが、1702年に山中領側の言い分が通って「上武国境は峰切り」と決定されました。その結果、神流川は山中領の中央を流れることとなりましたが、平地の少ない山中領にとってはまさに死活問題だったようです。写真は神流町役場付近の十石峠街道ですが、この辺りがかつて大いに賑わった万場宿で、創業350年の旅館などが当時の面影を残しています。

 

 

 万場宿の北側に位置し、藤岡市にまたがる「御荷鉾山」(みかぼやま)は、標高1,286mの西御荷鉾山、標高1,246mの東御荷鉾山、標高1,191mのオドケ山の総称で、前橋市内からも良く見える山です。その山容の美しさから「美顔」(みかお)とか、三山を合わせて「三株」(みかぶ)と呼ばれたことがその名の由来だそうです。写真は赤城山の南斜面にある道の駅「ふじみ」からの眺めですが、左のなだらかな山が東御荷鉾山、中央の鉢型の山が西御荷鉾山、右の尖った山がオドケ山で、左下に県庁が見えています。

 

 

 かつては麓からの登山でしたが、現在は万場宿から県道を経て山頂直下に「御荷鉾スーパー林道」が走っており、主峰の西御荷鉾山には林道の駐車場から30分程度で登ることができます。御荷鉾山は古くから信仰の山とされ、西御荷鉾山の山頂には不動明王の石像が祀られています。写真は5月に登った西御荷鉾山ですが、芝生の山頂からの眺めは抜群です。一方、東御荷鉾山は尾根伝いに約1時間20分ほどですが、狭い山頂は樹木に囲まれており眺めは今一つでした。

 

 

 西御荷鉾山の山頂南側直下の草原には、直径110mの丸に字幅10mの「大」の字が駆り出されています。これは今から350年前、流行していた疫病が御荷鉾不動尊に祈祷したとたんに収まったので、大願成就の記念に刈り出され、今も地元の人によって守られているものです。万場宿周辺は手前の山が迫っていて奥に位置する西御荷鉾山が見えにくいのですが、神流川を挟んで対岸の斜面から「大」の字を見ることができました。

 

 

 神流町を東西に流れる神流川は、水質の良さで「5年連続関東第1位」となった清流で、鮎の友釣りやヤマメ、イワナの渓流釣りなどの川遊びが盛んです。役場前の河原では、毎年4月下旬から5月上旬までの間、川に迫る山を利用して標高差100m、長さ200mのワイヤに吊るされた800匹の鯉のぼりが泳ぐ「鯉のぼり祭り」が開かれています。

 

 

 (参考図書等:神流町HP、「群馬県の歴史散歩」(山川出版社)、「上州の旧街道いま・昔」(山内種俊著)、「わが郷土奥多野」(上毛新聞社)、観光パンフレット、現地の説明板等)