第15回国際士官候補生会議を終えて

−防大生と各国士官候補生が交流、将来の国際協力のスタート点に−

 

平成10年3月に第1回国際士官候補生会議(略称:ICC)を開催して以来、今回で15回目を迎え、参加国も第1回の12か国から環太平洋、欧州等の国々から16か国となりました。

2月28日(火)から始まった今年の会議は、防大生、各国士官候補生との討議に先立つ基調講演で、外交官の谷内正太郎元外務事務次官が講演を行いました。

谷内氏は、これからの国際秩序について、「冷戦時代の2極から崩壊後の米国の1極、そして多極構造となった今、経済の成長のみならずパワーバランスの中心もアジアに移った。今後将来に向かってアジアの影響力は益々強くなり、アジア太平洋地域の安全保障は、多角的多層的構造によって平和と安定が確保されている」と述べ、「アジアに位置する我が国は今、坂道を落ちていくのかもう一度大国の道を行くのかという分岐点に立っているが、その答えは、長期ビジョンと戦略的思考によって考えなければならない」と結びました。

 

 

ICCは、学生が中心となって企画、運営を行っている国際会議です。期間中は、積極的に国際的な視点から防衛に関する知識を深めるだけでなく、古都鎌倉や東京などの史跡研修を招へい士官候補生と共に行い、「防衛交流」、「国際交流」というICCの開催目的が達せられました。以下は、学生の実行委員長と討議責任者の感想です。

 

<学生実行委員長 稲生健太郎>

今年度の国際士官候補生会議では、16ヶ国から20名の海外士官候補生を招き防衛大学校学生との間で「これからの国際秩序を考える」という統一テーマの下、3つのセッションに分かれて討議を行いました。今年度は、討議の方式を例年とは変更し、招へい士官候補生には、3つのセッション全ての討議に参加してもらい、防大生が各国から参加した招へい士官候補生とより多く接する事が出来るようにしました。これにより、例年以上に活発な討議を行うことが出来たと考えています。一方、やはり討議が英語で行われることから討議への参加・聴講をする学生が少なく、このような中で如何に学生に興味を持たせるのかという難しさを感じました。

また、今回の会議では招へい士官候補生を迎える時点でいくつかの問題が発生し、外国人と接することの難しさ、日本人を相手に接するのとは違うこと、日本人の頭の中では外国人=アメリカ人となっている部分が多いということを改めて実感する良い機会となりました。この経験を、将来の自衛官としての勤務に活かしたいと思います。

 

  

 

<第1セッション議長 市川 倫々恵>

みなさんこんにちは。第15回ICCで第1セッション議長を務めました、市川倫々恵学生です。今までのICCでは、質問に対して正解を探るような議論の方式を取っていたのですが、今年は各国の背景事情による考え方や意見の違いを浮き彫りにさせるような議論を目指しました。内容は「経済と安全保障の相互作用」と題して、貧困とテロリズムの関係性、経済的相互依存と戦争について討論しました。歴史的・政治的・地理的・宗教的な違いを乗り越えて国際協力する事が現代では必要であり、そのためには相互にコミュニケーションをして信頼関係を築く事が不可欠であり、人の心に働きかける素地である若い世代への教育が重要であるという結論になりました。

防大生は時間の縛りが多く、事前勉強会を定期的に開くことが困難なことが多々ありました。しかし勉強会参加者の努力のおかげで、討議の中で国によって違う考え方を引き出せたことは議長として非常に喜びでした。今回のICCでは、本来の目的である国際感覚の醸成、国際間の信頼関係の構築に大いに貢献できたと思います。

現代の国際秩序は国家を超えた協力を必要としています。防大ならそのために必要なtechnology & knowledgeを養う環境と時間が整っています。ICCは防大や自衛隊の普段からの努力を証明する事ができる絶好のチャンスだと考えているので、これからもICCが発展するようにしていきたいと思います。

 

  

 

<第2セッション議長 甲斐 真由美>

みなさん、こんにちは。私が議長を務めた第2討議では、「民軍協力の未来像」というテーマを扱いました。「民軍協力」と一言で言っても、幅広い分野があります。その中でも今回は、「災害救援活動における民軍協力」に焦点を置きました。というのも、昨年3月に未曾有の大震災に見舞われた日本ですが、NGO、自衛隊や他国の軍隊の援助などもあり、一歩ずつ確実に復興の道を歩んでいます。その中で、民と軍の間にどのような協力があったのか、改善すべき事項はなかったのか、また、これから目指すべき民と軍の関係はどのようなものなのか、ということなどに関して認識を深めました。

討議準備の段階で大変だったことは、国ごとに「民軍協力」に対する考えが違うということでした。軍隊と民間が協力する体制が整っている国もあれば、すべて軍隊が行う国もあったり、災害救援活動は軍隊の任務ではない国もあったりと様々です。これらの国々の意見をどのようにまとめていくかを考えることは非常に難しいことでした。

 不安を胸に抱えたまま討議本番を迎えましたが、いざ討議が始まると、各国の意見の中にはある共通点が見られました。それは、「民軍協力」に関する教育の重要性です。これからの軍隊は、民との協力が不可欠となるでしょう。実際に「民軍協力」に関する教育が行われている国はいくつかあります。防大もその中の一つとなることを期待して、第2討議の成果とします。

 

  

 

<第3セッション議長 會田 初雄>

私が議長を務めた第3セッションでは「ソーシャルメディアの将来」というテーマで、アラブの春、SNS、サイバーテロなど今まさにホットな話題に関して議論を行いました。

勉強会は12月より始めました。英語能力やプレゼンテーション能力なども同時に身につけさせなければならなかったため、時間の無い中でいかに効率よく勉強させるかに重点を置きました。議長としてみんなを引っ張っていく中で上下級生を問わず多くの学生に協力してもらいました。その中で苦しい時に最も支えてくれたのは同期の3学年でした。同期の率先垂範が勉強会参加者を感化し、どの学生も熱心に勉強に取り組んでくれました。

ICC当日の議論ではとても活発に意見が飛び交いました。1日半にわたる議論を通して、各国の考え方の違いやその考えに至る国情、歴史的背景を知る事が出来ました。また、どの国の招へい士官も他国の意見を尊重しながら発言する姿を見て、今後お互いに共通認識を形成して何らかの合意形成を行える可能性を見出しました。

私にとってICCは第3セッションに関わった全学生で作った共同作品です。来年度は会議部部長として、つまり議長を総括する立場としてICCのさらなる発展に寄与していきたいと考えています。