受験生のために

人工衛星の世界

(システム工学群 航空宇宙工学科)

 

 人工衛星にまつわる話題をいくつか紹介したいとおもいます。まずは、やさしいクイズから…。

 

【なぜ落ちてこない?】

 人工衛星は、地球の引力を受けてもなぜ落ちてこない?

 よくあるクイズですが、皆さんならどう答えますか。いろいろな答えがありそうですが、次のはどうでしょう。

 図1で、地球の近くに衛星があって、Vという速度で飛んでいるとします。もしも地球の引力がなければ、衛星はいま飛んでいる方向へそのまま、まっすぐ飛び続けて、彼方へ去ってしまうでしょう。実際には地球が引力をおよぼして、衛星の飛ぶ方向を曲げようとします。ところが慣性の法則というものが働くので、飛ぶ方向は曲げられまいとふんばるし、引力はそれを曲げてやろうと働く。二つの働きが拮抗した結果、曲がり方が決まりますが、もし具合よく曲がってくれたなら、衛星は地球から飛び去らないで周りをぐるぐる回ることになります。

 なぜ落ちてこないのと問われたら、なぜ飛び去ってしまわないの、と問いかえすことで一つの答えがでました。

図1 引力の働き

 

【力のつりあい】

もう一歩すすんで、衛星が落ちてこないのは、引力と遠心力がつりあうから、という答えもありそうです。ただしこれは少し注意しないといけません。図2で、円軌道にある衛星を考えましょう。地球からの距離が一定なので、衛星に働く引力の強さは一定です。さて遠心力とは、上に述べた“曲げられまいとふんばる”働きの強さをあらわすもので、円軌道なら衛星に働く遠心力は一定です。つまり円軌道にある衛星には、一定な引力と、一定な遠心力が働いて、それがつりあう。いいかえると、力のつりあいがいつも成りたつのは、円軌道の場合に限ります。衛星が円軌道にあれば、たしかに落ちてきませんが、話が少しややこしくなりました。

図2 力のつりあい

 

【つりあいが崩れると…】

では、引力と遠心力のつりあいが崩れたらどうなるでしょう。図3で、円軌道にあった衛星がAに来たとき、後ろからひと押しして速さを増したとします。速さが増せば、衛星に働く遠心力が増える。それは、水で一杯にしたバケツを振りまわすとき、速く振りまわすほど水がこぼれにくいことからも分かるでしょう。すると力のつりあいが崩れて遠心力が勝つので、衛星は地球から離れる動きをともないながら、Bにむかう。そのとき衛星は高いところへ昇るので、位置エネルギーを得た分、運動エネルギーを失って速さが減っていく。すると遠心力も減って、やがて力のつりあいは引力が勝つほうに逆転して崩れる。なので、衛星は、こんどは地球に近づく動きをともないながら、BからAにむかうことになります。

こうしてできる軌道は、BのほうがAより高くなって、だ円になります。だ円の軌道とは、力のつりあいが逆転を繰り返しながら崩れている、ダイナミックな現象といえます。けれども衛星は一回りすると元のAにきちんと戻ってくるので、軌道は一定して不変な形をえがきます。これは考えると不思議で、まるで空間に固定した線路を走るかのようです。実は、そうなるのは、引力が距離の2乗きっかりに逆比例するからで、もしも引力が距離の2.01乗とか、1.99乗に逆比例するのであったなら、軌道の形は一定不変にならず、段々とずれ動いてしまうことが知られています。自然法則の奥深さのようなものを感じませんか?

図3 つりあいを崩す

 

働く衛星の軌道

 さてここまで、衛星と地球は理想化して考えました。現実には、地球はまんまるでなく凹凸があって、それが引力のあらわれ方に影響するし、ほかにも月の引力が働くなどして、衛星の軌道は時間がたつと次第に変わっていきます。軌道がひとりでに変わると、困る場合もあるし、都合よい場合もあります。人工衛星を働かせる軌道は、そういう変化の法則をよく調べて決めることが大切です。上手に軌道を選ぶと、軌道修正の燃料を節約して長く衛星を働かせることもできたりします。

 現在、地球をまわる軌道上では数多くの衛星が働いていますが、その数は増える一方です。おまけに、働き終わって不要になった衛星もたくさん軌道をまわり続けて、宇宙の混雑が心配されます。そういう中で働く衛星の安全を、これからは考えていかなければなりません。

 

【大きな衛星】

 もしも、ふだん使う携帯電話の基地局が、まるごと人工衛星になって上空にいて、いつでも通信を受け付けてくれるなら、地上で何が起きようと通信がとだえることはありません。そういう衛星ができたら、わが国にとって大きい助けになるでしょう。それには衛星とそのアンテナがもっと大きくなって、パワーも強くなる必要があります。今すぐは難しいかも知れませんが、遠からず技術が整うときが来るでしょう。

 もっと大きい衛星として、太陽発電衛星という考えがあります。巨大な太陽電池を軌道にのせて、発生した電力を電波で地上に送ろうという壮大なものです。地球上でエネルギー源が不足したとき、補う手段として提唱されてきましたが、いま、真剣に考える時が来ているのかも知れません。ただ、衛星がきわめて大きいので、不要な衛星などが流れてきて当たってしまう可能性があります。当たって穴があいたら修理するなど、支援環境を整えなければならないし、補給船を往き来させるような体制も必要になるでしょう。けれども数十年から百年単位で考えるなら、いつか実現しても不思議はありません。

 

【ではどのように?】

 人工衛星は色々な工夫をこらして作られます。ロケットで運び上げるには、できるだけ軽くしたいけれど、材料を節約すると全体が柔らかくなって、ゆらゆら振るえてしまう。それを上手にコントロールして、姿勢をきちんと保つようにします。宇宙では上下も前後もなく、そのなかで姿勢をコントロールするために様々なアイデアを動員します。熱の環境も重要で、太陽の光は衛星を容赦なく加熱するし、地球の陰で日光がこなくなれば急激に冷えてしまう。温度をうまく保つには、入射する熱と、放熱のバランスを調整するのですが、これはちょうど、地球の温度環境が微妙なバランスによって決まるのとよく似た図式にあります。ある意味、人工衛星は地球環境のミニチュアモデルともいえます。

 このように人工衛星は、様々な工夫がいっぱい詰まった技術の宝箱です。航空宇宙工学科では、そういう人工衛星に関する話題やテーマに触れることができます。宇宙に関心ある方、いかがですか。

 

【文責:航空宇宙工学科 教授 川瀬 成一郎】