受験生のために

 地球海洋学科 宇宙惑星リモートセンシング分野 天文学部門

 --- 最先端の宇宙像に触れてみよう! ---

 

1 はじめに

防衛大学校を受験される皆さんは、大学校を卒業後、国防や国際貢献に関わる幹部自衛官として活躍することを将来の目標としていると思います。それと併せて、大学校で学ぶことができる学問や研究にも、興味を持っているものと信じます。ところで、世間的に十分な周知がなされていないことが残念ですが、防衛大学校の特徴の一つとして、非常に多彩な分野の授業や研究が行われていることが挙げられます。これは、防衛大学校の設立目標の一つである、(現代風に表現するならば)学際的な知見を幹部自衛官候補たる学生に教授するという大方針に則した、素晴らしい伝統であります。実際、私の専門である天文学に限ってみても、天文学の授業が必須科目とされ、惑星系から恒星、銀河、そして宇宙論までの講義を用意している大学は旧帝国大学クラスの大学くらいで、大きな私立大学でも、そこで教鞭をとる教官の専門に則した講義が用意されているのみの場合があります。受験生の皆さんは、防衛大学校への入学を志す際に、ぜひ、この学際的な知見を身につけるチャンスをものにするのだという、人間力の強化も念頭に置いていただきたいと思います。

 

2 地球海洋学科

私の専門とする天文学の研究室は、地球海洋学科に所属しています。地球海洋学科は、主に気象学や地震学、そして海洋学、それらに関わる音響工学など、我々の日本も当然の如くそこに存在する「地球」を学問の対象としています。さて、天文学は、宇宙自体や太陽系などの宇宙における構造の成り立ちを明らかにする学問です。つまり、天文学を深めていくと、より一層、かけがえのない地球の立ち位置を把握できるのです。これが、天文学研究室が地球海洋学科に所属している理由と思っています。

 

3 地球海洋学科での天文学

では、どのような研究が行われているか紹介したいと思います。目標は、宇宙における多様な構造の成り立ちを明らかにすることです。具体的には、銀河系や恒星の進化や形成過程の理解を深められるよう、研究を続けています。写真1に、恒星形成の現場写真を紹介します。恒星は、我々の天の川銀河においても、非常に拡散して存在している気体が自らの重力により収縮した結果として誕生します。特に、気体が密集したところでは水素分子が主成分である分子雲が形成されます。この分子雲の中で、新たに恒星が誕生しているのです。この写真は、大マゼラン雲のN11Bという領域です。もやもやした分子雲の中で明るく輝き出した生まれたての恒星が検出されています。天文学の研究室では、こういった気体の収縮過程の物理的そして化学的素過程の理解を深めるため、その原理を追求しようとしています。

File:Heic0411a.jpg

(写真1:ESAとNASA提供:我々の銀河系の隣にある大マゼラン雲「銀河」における恒星形成の現場。HSTにて撮影された。)

 

4 卒業研究テーマ

天文学の研究室では、どのような卒業研究ができるのでしょうか?2つほど紹介したいと思います。まず、昨年度の卒業生であるストキツア君(ルーマニアからの留学生)が行った、暗黒物質とブラックホールの関連についての研究を紹介します。我々の宇宙には、暗黒物質という、眼に見えない物質が満ち満ちています。それは、重力のみを介して検出できる未知の物質です。その存在は、図1に紹介するように、銀河の回転速度(重力とのバランスで決まる)が、期待以上に大きなことから明らかとなっています。ストキツア君はその正体がミニブラックホールであると仮定し、その素性の可能性を探りました。

          

(図1:縦軸は銀河の回転速度。横軸は銀河の中心からの距離。実線が現実の回転曲線、破線は暗黒物質が皆無である場合のモデル回転曲線。GNU Free Documentation License)

 

もうひとつは、堀口さん(本科4学年)が今年度行っている月面基地の窓に関しての研究です。月面基地は、NASAなどが真剣にその実現を狙っています(図2)。産業的にも、惑星科学的にも、月面望遠鏡という新たな天文学の可能性へ向けても、非常に有意義な施設となると期待されています。しかし、そこで学者や技術者が長期滞在するためには、人の心の安定も必要となり、そのためには、どうしても宇宙への窓が必要と思われます。しかし、月面は宇宙からの放射線で溢れており、窓のような薄い構造では、自体への害悪を遮蔽できません。堀口さんは、こういった困難を克服するためのアイディア(まだ秘密です)をまとめ上げつつあるところです。最終的な結論がまだ無いチャレンジングな研究テーマであり、教官である私も、結果をとても楽しみにしています。

File:Lunar base concept drawing s78 23252.jpg 

(図2:月面基地のイメージ図。NASA提供)

 

5 おわりに

地球海洋学科に属する天文学の研究室では、宇宙に関する基本的な学問に触れられるだけではなく、宇宙に関係した将来性のあるワクワクした研究テーマを用意し、学生の皆さんを待ちたいと思っています。新しいことにチャレンジしたい学生。学問を深めたい学生、その智により立派な幹部自衛官となりたい学生の進学を心より待っています。

 

(文責 地球海洋学科 准教授 釜谷 秀幸)