受験生のために

情報工学科ロボット工学研究室紹介

〜 ロボット車両最前線 〜

1 はじめに

アメリカ合衆国では、 DARPA (防衛高等研究計画局)の主催で2004年、2005年とロ ボット車両によるレース Grand Challenge が開催されました。テレビ等でご覧 になったことがある方もいるかもしれません。 100万ドルの賞金獲得が懸けられ、200km 以上の砂漠のコースを人の 助けなしに10時間以内でトップで走破することが条件となっています。 「人の助けなし」というのは、遠隔操作も許されないことを意味しており、 予期しない場面に出くわしたら自分で打開策を見つけて進まなければなりません。 このような能力は「自律」と呼ばれ、実はとても難かしいのです。 宇宙探査や人型ロボットなど最先端で活躍している ロボット達も、まだまだ人間の判断に依存している部分が多いのです。

Grand Challenge 2004 では残念ながら1台も完走できませんでしたが、 1年後に開催された Grand Challenge 2005 では5台のロボット車両が見事完走 しました。右の写真は、優勝した Stanford 大学の "Stanley" がスタートしたと ころです(著者撮影)。 2007年11月には市街地を模したコースで他の交通がある中、交通法規 を遵守して目的地に到達する Urban Challenge が企画されています(DARPA Grand Challenge ホーム ページ )。 目的達成のためには様々な技術を高度にまとめ上げる総合力が求められますが、 Grand Challenge で証明されているようにコンテスト形式はこのような技術発展 の大きな促進力となります。 チャールズ・リンドバーグが成し遂げた大西洋単独無着陸飛行の偉業の背景にも 「オルティーグ賞」という巨額の賞金が懸っていたことは皆さんご存じでしょうか。

2 GPSロボットカー学生コンテスト参加

日本国内でも2006年11月に自律車両によるコンテスト「GPS ロボットカー学生コ ンテスト」が開催され、当研究室の学生も参加の機会を得ることができました。 日本航海学会 GPS/GNSS 研究会が GPS 技術の促進を目的として主催したもの です。GPS とは人工衛星を利用した位置を計測する技術で、カーナビゲーションに 応用されているので、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。 コンテストの規模としては DARPA Grand Challenge の 1/2000 の走行距離であり、 砂漠のような荒地ではなく均らされた平地のコースですが、 GPS 座標で与えら れた点(ウェイポイント)を通過してゆくという基本的なルールは Grand Challenge と同様です。精密さという点ではより厳しいものとなっています。 図のテニスコート4面分の平地にウェイポイントと呼ばれる点が6点置かれ、 競技大会前日に GPS 座標が伝えられます。ウェイポイントから2m以内で一時停 止すると得点になり、限られた時間内での合計点で競います。 詳細についてはコンテストホームペー ジをご覧ください。

左の写真は、当研究室が競技に参加した車両です。後ろのほうに大きな黄色い箱が突 き立っていますが、これが GPS受信機です。この GPS 受信機は、もう1台の受信 機を地面に固定しておき互いに通信させることで 2〜3cm の精度が得られる高性 能なものです。車体は、コンテストの規則である 40cm × 40cm の制限に収まる よう、各部品全て手作りとなっています。 車両の中央部には、ワンチップマイコンが搭載され、そのプログラムによって GPS信号を処理したり車両の運動を制御したりします。 大会本番まで実際の座標で走行することはできませんから、どんな座標が与えら れても確実に動くようなプログラムを作る必要があります。 実際に使ってみると高精度な GPS 装置であっても常に 2〜3 cm の精度が得ら れるわけではなく、突如として数 m の大きな誤差信号が混入することがわかり ました。そのため、不測の事態にも安定して走行できるよう、毎日夜遅くまでプ ログラムの修正と走行実験の繰り返しが続きました。

大会本番は東京海洋大学越中島キャンパスのテニスコートで行われました。 この日は晴天に恵まれ、衛星の受信状況も良好です。ロボット車両には 一度も走ったことのない GPS の座標が入力されていますが、何度練習を重ねても 本当にうまく走るのか本番はとても心配になります。 座標が入力されたロボット車両に対して人間ができることはスタートボタンを押 すことだけ。ボタンを押すタイミングは、制限時間の中であればいつでもかまわ ないことになっているので、受信状況のモニタとのにらみ合いを続け、最も受信 状況の良い条件でスタートボタンを押しました。ここから先はもう祈る他ありま せん。 幸にも、GPSの受信状況はこれまで練習走行したどの場合よりも良好な状態が得 られ、極めて安定した走行を達成することができました。その結果、6個すべて のウェイポイントを制覇して、優勝することができました。 期待通りにゴールに戻って来た時の感動は格別のものでした。 右の写真は、チョークで描かれた半径2mのウェイポイントの円の中央に ロボット車両が一時停止している様子です。 動画も用意しましたので、ぜひご覧ください。

3 おわりに

近年はテレビや各種イベントで様々なロボットが登場しています。エンターテイ メントや教育としてのコンテストだけでなく、今後は今回ご紹介したような 実用化を意識したコンテストが増えていくことが考えられます。様々な技術が 一同に集結して発揮される光景は今後のロボットの実用化を占うものになる かもしれません。ぜひ注目してみてください。

(文責:情報工学科 教授 滝田好宏、助教 伊達 央)