卒業式典における内閣総理大臣訓示


安倍内閣総理大臣
 本日、防衛大学校を卒業される諸君に心から御祝を申し上げます。卒業、おめでとう。希望に燃えて巣立つ諸君の勇姿。この姿を前に、国防の最高指揮官として頼もしく思います。また、逞しく成長した諸君の姿。御家族の皆様には、その感慨はひとしおのことと思います。

 本年一月九日、防衛省が発足しました。諸君は、省移行後初めての防衛大学校の卒業生となります。また、私は、内閣総理大臣として初めて卒業式に出席しました。この卒業式には、そうした意味で、特別の感慨があります。

 近年の国際情勢は、依然として不透明・不確実な要素をはらんでいます。特に、アジア太平洋地域においては、北朝鮮による拉致問題・核開発・弾道ミサイルの発射を始め、複雑で多様な要因を背景とした地域紛争、大量破壊兵器の拡散等困難な諸課題が存在しています。このような安全保障環境の中、我が国の平和と独立、自由と民主主義を守り、そして国民の生命、身体、財産を守るためには、我が国の安全保障基盤の着実な整備を図るとともに、日米同盟を一層強化していく必要があります。 かかる情勢の下、防衛省は、発足しました。防衛省を、国防と安全保障の企画立案を担う政策官庁として位置付け、さらには、国防と国際社会の平和に取り組む我が国の姿勢を明確にすることができました。

 また、同省の設置は、我が国の民主主義国家としての成熟、そしてシビリアン・コントロールへの自信、さらには国際社会の中で平和と安定のために責任ある役割を担っていくという国家・国民の意志を内外に示すこととなりました。これにより、自衛隊員諸君もまた、様々な活動に、一層の誇りと自覚を持って、専念することができるようになったのです。

 諸君は、将来、自衛隊の幹部として様々な部署で活躍されることとなるわけであります。そうした諸君に、餞に次のことを申し上げたいと思います。

 それは、「思索し、決断する幹部であってほしい」ということであります。

 チャーチルは、その回顧録でこう述べています。
「慎重と自制を説く忠言が、いかに致命的危険の主因となり得るか、また、安全と平穏の生活を求めて採用された中道は、いかに災害の中心へ結びつくかを、われわれは知るであろう」

 ここには、チャーチル独特のレトリックもあるのでしょうが、チェンバレン内閣がとった宥和政策を始め第二次世界大戦に至る様々な事件を自らの体験に照らした上での含蓄ある表現だと思います。

 特に申し上げたいのは、諸君が将来直面するであろう「危機」に臨んでは、右と左とを足して二で割るような結論が、こうした状況に真に適合したものとはならないということであります。様々な情報を幅広く収集し、情勢を的確に分析し、時に応じて自らの信じるところに従って的確な決断をすることが必要となるのです。

 そして、このバックボーンとなるのは、広い視野と高い教養であります。この理念は、「広い視野を開き、科学的な思考力を養い、豊かな人間性を培うこと」との防衛大学校の教育方針に体現され、今日まで変わることなく受け継がれています。諸君には、幹部自衛官として、この輝かしい伝統を誇る防衛大学校において学んだ精神を正しく継承し、今後とも、努力を惜しまず文武両道、自ら研鑽を積まれることを切に望みます。また、高い規律と士気を保持し、「勇とは義しき事をなすことなり」との信念の下、世界の平和と安定という崇高な使命のために、任務を遂行することを期待します。

 諸外国からの留学生の皆様には、今回の留学で育まれた友情の絆を大切に、我が国との友好関係の架け橋となるよう、活躍されんことを希望します。

 終わりに、日頃から本校に対して多大の御協力と御支援を賜っております来賓の皆様に対し、この機会に心から感謝申し上げますとともに、五百籏頭学校長をはじめとする教職員の方々の御尽力に対して、深甚なる敬意を表し、私の訓示といたします。

    平成十九年三月十八日

               内閣総理大臣  安 倍 晋 三


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