学校長挨拶

防衛大学校長久保文明の写真

防衛大学校は、将来陸上・海上・航空各自衛隊の幹部自衛官となるべき者の教育訓練をつかさどるとともに、そのために必要な研究を行う防衛省の施設等機関です。それは「大学」であり、同時に「士官学校」です。昭和27年(1952年)に保安大学校が設立されましたが、昭和29年防衛大学校と改名され、翌昭和30年に現在の小原台に移転して今日に至っています。

本校は幹部自衛官となるべき者の養成という明確な使命を持って設立されていますので、学生の進路が多様である他の大学以上に、その目的に沿った形でカリキュラム、課外活動、大学生活が設計されています。

一般大学と共通の部分もあります。本校でも、教養教育・外国語・体育・専門科目の履修が求められていまして、幅広い教養と高度な専門性を身に付けることができます。幹部自衛官は何より幅広い教養と深い学識を備えていなければなりません。学問の基礎を学ぶとともに専門を深め、さらに古典を含めて大いに読書をしてもらうことは、他の大学と共通の課題と言えます。卒業生は学位授与機構の審査を経て、学士号を取得できます。

それに対して、以下は一般大学と異なる部分です。

学生は特別職の国家公務員であり、学生手当(給与)・期末手当(賞与)が支給されます。
 また、衣食住(被服、食事、寝具等)についても大学が貸与又は支給します。学費は徴収されません。

防衛大学校では、上で紹介した通常の大学での授業に加えて、防衛学科目を設置しています。防衛学とは、国防論、戦史、戦略、統率といった学問です。将来幹部自衛官となるべき学生に、幹部として求められる基礎的な科目を教育します。

さらに学生は自衛官としての基礎的な訓練を、4年間を通じて学内外で受けることになります。この中には遠泳・スキー・カッターなども含まれます。

校友会(クラブ)活動に関しては、運動部等への加入を原則としており、課業後は練習できる時間を確保しています。運動関係の施設はほぼ完全に整備されています。ここで、心身を鍛えるとともに、学年、大隊を越えた人間関係を構築し、指導力を身につけることができます。

本校は全寮制です。学生は学生舎と呼ばれる寮で生活し、集団生活に適応できる人間であることが求められています。それとともに、学生40-50人に1人の割合で指導教官が割り当てられています。イギリスのオックスフォード大学やケンブリッジ大学のカレッジも基本的に全寮制で、指導教官による徹底した少人数教育が行われていますが、防大の制度はこれとよく似ています。現在、日本国内を含め世界の多くの国を見ても、このような徹底した少人数教育を行っている大学はそれほど数多く存在しないのではないでしょうか。ちなみに、生活の場となるキャンパスは、富士山と東京湾の両方を望む高台に位置し、自然環境に恵まれた場所です。

本校はこのような仕組みを用意することによって、学生が単に学問を修めるだけでなく、人格、体力、規律ある生活態度、その中での指導力、そして全般的な人間力を培っていける環境を整えています。同時に、学生は真に理解し心を通じ合える友人を数多く得ることができます。他の大学ではしばしば、演習にも課外活動にも参加せず、大教室で講義を受け身で聞くだけの学生が存在し、とくに大学にあまり行かなくなってしまう学生の場合、友人もできないといった悩みを抱える場合が多数存在します。教員との接触も授業の場においてのみということも少なくないでしょう。本校においては、少人数教育のため教官との接触も多く、また4年間に及ぶ濃厚な付き合いの中で一生涯の親友を数多く得ることができます。

厳しい訓練もありますが、ともに励まし合って成し遂げた後の達成感は筆舌に尽くしがたいものがあります。その感動の頂点が、家族のみならず総理大臣・防衛大臣が列席する前で挙行される卒業式です。

防衛大学校には創設にかかわった吉田茂首相、槙智雄初代学校長らの思想や価値観が強く刻印されています。吉田首相は戦前の海軍・陸軍の対立を念頭において、陸・海が別個の士官学校を持つことに反対し、二者が一体となって幹部を養成することを強く主張しました。(空は遅れて発足)

戦前の軍指導者の軍事に偏った発想にも批判的でした。槇校長は、学生は「武人」である前に紳士(今であれば紳士淑女)でなければならないと考え、まさにオックスフォードやケンブリッジ的なリベラルアーツ(教養)教育と全寮制教育を重視しました。槇校長はさらに、学生に対して「民主制度に対して的確な理解」をもつことを求めました。

もちろん、創設以来70年近くが経とうとしていますので、様々な変化もあります。吉田首相は戦前の軍指導部には科学的発想が欠けていたと考えたため、本校は理工系の大学として発足しましたが、1970年代からは人文・社会系を加えた総合大学に変化しました。最初は学部レベルのみの教育機関でしたが、1960年代には早くも大学院修士課程に相当する理工学研究科を開講し、現在は理工学研究科と総合安全保障研究科それぞれに博士課程に相当するプログラムも擁しています。

また、防衛大学校は幹部自衛官となるべき者の教育訓練をつかさどるとともに、それに必要な研究を行う防衛省の研究機関としても重要な役割を果たしています。毎年約70名の女子学生が入校し、全学生の5%前後が海外からの留学生であるのも、創設期からみると巨大な変化です。

防大生も、全学生のおよそ10人に1人は卒業までに、米国の士官学校への留学をはじめとして1度は海外に出る機会を得ています。本校としては、キャンパスの外で武者修行する機会をさらに増やし、学生の視野を若い時から広げられるよう支援していく所存です。

言うまでもなく、自衛隊の使命は、国民の命と財産、領土、そして平和な暮らしを守ることです。災害派遣と国際平和協力も重要な使命として位置づけられています。防大生にもこれらの使命のために自分の人生を捧げる決意が求められます。国民の生活を守る幹部自衛官の養成という点では、本校の目的は設立以来いささかも変わっていません。

むしろ変化したのは国際環境と日本国民が自衛隊を見る目でしょう。遺憾ながら、我が国を取り巻く国際環境は近年急速に悪化しており、自衛隊の役割と自衛隊への期待はますます大きくなっています。

同時に、2011年の東日本大地震などでの災害派遣活動、海外での平和維持活動(PKO)や人道支援、あるいは最近の東京・大阪での新型コロナウイルスワクチンに係る自衛隊大規模接種センターの設置・運営などを含む長年の地道な活動を通じて、自衛隊に対する信頼と評価は着実に上昇しています。国民のために奉仕する人生を考える若者にとっては、ますますやりがいのある仕事になっていると確信しています。

防衛大学校は、これまでの実績に基づき、その中核的使命を果たしつつ、必要な変革を成し遂げながら、今後とも優れた幹部自衛官を送り出すことに一層邁進していく所存です。どうぞよろしくお願いいたします。

◇学校長挨拶(令和3年4月1日)

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