• 国歌「君が代」について

    (きみ)()  千代(ちよ)()()()  さざれ(いし)

    (いわほ)となりて  (こけ)のむすまで

     

     

    「君が代」の成り立ち

     明治3年に作られた礼式曲の初代「君が代」は、イギリス陸軍軍楽隊長J. W. フェントン (John William Fenton, 1831-1890) の作曲です。初演は、明治3年9月8日、東京・越中島における天覧練兵の際に、薩摩藩楽隊による演奏とされています。

    しかし、日本人の感性に合わなかったことから、明治9年に初代海軍軍楽隊長の長倉彦二(後中村(すけ)(つね)と改姓名)から「天皇陛下ヲ祝スル樂譜改訂ノ儀」と題する上申書が提出され、宮内省と改訂の方向で検討に入りました。

    その結果、新たに作り直されたのが現在の国歌「君が代」です。明治13年11月3日の天長節に、宮内省式部寮雅楽課によって宮城内で初演されました。この時点では、いわゆる国歌としての位置付けで取り扱ったのは、海軍省と宮内省のみでした。

     歌詞の選定および作曲者に関しては諸説あります。歌詞は『古今和歌集』所載の〝我が君は…〟で歌い出される「読み人知らず」の古歌とされています。作曲者は、宮内省楽部伶人の林廣守とされていました。しかし、現在では同じ伶人の東儀 (すえ)(よし)の作というのが一般的のようです。

     この「君が代」は、海軍軍楽隊のお雇い教師、ドイツ人のF. エッケルト (Franz Eckert, 1852-1916) によって吹奏楽用に編曲され、明治21年に海軍省から各条約国に「大日本禮式」(JAPANISCHE HYMNE)の題名で送付したとされています。調子は、フラット(♭)二つの変ロ調でした。

    明治26年8月12日の官報第337号に載った「祝日大祭日歌詞竝樂譜」の文部省告示は、次のとおりです。

     

    文部省告示第三號

    小學校ニ於テ祝日大祭日ノ儀式ヲ行フノ際唱歌用ニ供スル歌

    詞竝樂譜

    別册ノ通撰定ス

    明治二十六年八月十二日        文部大臣井上毅

     

     別冊には、「君が代」「勅語奉答」「一月一日」「元始祭」「紀元節」「(かん)(なめ)祭」「天長節」「(にい)(なめ)祭」の八曲が、楽譜付で載っています。解説には、「國歌君が代」と記述されていることからも、「君が代」は国歌として位置付けられていたことが確認できます。調子は、「大日本禮式」より一音高いハ調でした。

     

    「国旗国歌法」の制定

     前述のことから「君が代」は国歌として長らく演奏されてきましたが、法的に根拠がないということで、平成11年8月9日、「国旗及び国歌に関する法律」(国旗国歌法)が国会で成立、13日に公布(号外第156号)し、次のように即日施行されました。

     

    国旗及び国歌に関する法律をここに公布する。

         

    平成十一年八月十三日

    内閣総理大臣  小渕  恵三

    法律第百二十七号

    国旗及び国歌に関する法律

    (国旗)

    第一条  国旗は、日章旗とする。

      日章旗の制式は、別記第一のとおりとする。

    (国歌)

    第二条  国歌は、君が代とする。

      君が代の歌詞及び楽曲は、別記第二のとおりとする。

    (以下「略」)

     

     この別記第二として載っているハ調の「君が代」の楽譜には、テンポの指定、強弱記号はなく、本来6カ所あるべきスラーが付いていないなど、不完全なものでした。

     

    演奏の規定と慣例

     国歌として演奏されていた「君が代」は、大正元年8月9日「儀制ニ關スル海軍軍樂譜」の制定により、海軍では次のように定めていました。

     

    第一號  君カ代  天皇及皇族ニ對スル禮式及一月一日、紀元節、天長節、明治節ノ遙拜式竝ニ定時軍艦旗ヲ掲揚降下スルトキ

     

     海上自衛隊においては、昭和36年1月18日「儀礼曲の統一に関する通達」が制定され、その最初に次のように定めています。

     

    君が代(1)国旗又は自衛艦旗の掲揚降下の場合

    (2)諸儀式において儀式の執行者が必要と認める場合

     

     海軍の軍艦旗、海上自衛隊の国旗・自衛艦旗の掲揚降下とは、朝8時に掲揚し日没時に降下する、古くからある万国共通の慣習によるものです。

     音楽隊(軍楽隊)が乗り組んでいる艦が外国の港湾に停泊中は、自国の国歌で掲揚降下を行い、その後に訪問国の国歌を演奏することになっています。同所に他の外国軍艦が停泊している場合は、指揮官の序列により、それぞれの国歌を奏します。

     国際観艦式等で、多くの国の軍艦が集結している場合は、申し合わせにより省略することもあるようです。中南米の国歌のように、5分を超える長い国歌の国が多く集まると20~30分も掛かることがあるでしょう。

     

    テンポと演奏時間

     明治21年のフェントン編曲「大日本禮式」のテンポは =70と設定されています。大正元年の「儀制ニ關スル海軍軍樂譜」の別冊に定められた「海軍儀制曲總譜」の第1号「君が代」にはテンポ表示はなくLarghetto と速度標語が記載されています。

     明治26年8月12日の文部省告示「祝日大祭日歌詞竝樂譜」では =69になっています。これは、振り子式メトロノームのメモリに70はなく、69の次が72であることから、最も近い69にしたものと推察されます。

     海軍では信号ラッパで軍艦旗を掲揚降下する際は、ラッパ譜「君が代」を45秒で吹奏していました。同港湾に軍楽隊が乗り組んだ旗艦が停泊していた場合、演奏時間を同じにするために国歌も45秒で演奏していました。この際、テンポを =60で演奏すれば、1拍が1秒として11小節の国歌は44秒となり、終わりを少し伸ばせば45秒となります。このテンポに関しては、習慣的に実施していたようで、明文化された文書等は確認しておりません。

     リオデジャネイロ・オリンピックでは、日本選手が金メダルを取った際の表彰式の「君が代」は、1分20秒かかっていました。あまり遅すぎて、思い切って大声で歌えなかったと話題になりました。

     大相撲の千秋楽で歌われる国歌は、大勢の観衆が歌いやすいテンポで演奏されているようです。前奏を除いて、50数秒位の演奏のテンポ設定が、適当ではないかと思われます。あまり遅すぎますと間が持たず、途中で飛び出して歌う人が必ず出ます。

     千秋楽の際は〝国歌斉唱!音楽隊の前奏に引き続き、ご唱和ください〟と場内放送があります。音楽隊は、初めの2小節を前奏として演奏しますが、これがなければ多くの人が一斉に歌い出すことは無理でしょう。

     いずれにしましても、大勢で歌う時、国旗を掲揚降下する時など、その場の雰囲気に最も合う適当なテンポの設定が必要でしょう。

     

    国歌「君が代」の楽譜

     国歌「君が代」の吹奏楽譜は、昭和17年末には「バンドの友社」「管樂研究會」「共益バンド樂譜」(吹奏樂譜、喇叭鼓隊譜、鼓笛隊譜)「愛國バンド樂譜」「タナベバンド樂譜」と、多くの楽譜出版社から販売されていました。

     戦後も、その流れをくむ出版社、あるいは新たな出版社から何種類か出版されていますが、公式に認められた編曲の楽譜はないと言えましょう。

     ここに添付する国歌「君が代」は、東京音楽隊が保有する「海軍儀制曲總譜」記載の楽譜を基に、現在の編成に合わせて編曲したものです。

     海上自衛隊は、国旗又は自衛艦旗の掲揚降下および諸儀式で、この楽譜を使用して演奏しています。

     

    文:谷村政次郎(第11代東京音楽隊長)

     

    東京音楽隊の演奏と使用楽譜をダウンロードできます。

    ご自由にご利用ください。

     

     

    国歌「君が代」-演奏-(指揮:2等海佐 樋口好雄)

    ・歌唱付き(歌唱:1等海曹 川上良司)

    ・吹奏(前奏あり)

    ・吹奏(前奏なし)

     

    国歌「君が代」-楽譜-

    ・スコア

    ・パート譜

     

    右クリック→「対象をファイルに保存」で保存できます。

     



    谷村政次郎(たにむら・まさじろう)
    昭和13年8月10日 東京都渋谷区生まれ。
    昭和32年8月 海上自衛隊東京音楽隊に入隊
    昭和48年7月 3等海尉(第6期部内幹部候補生)
    練習艦隊、佐世保、横須賀の音楽隊長を経て平成3年12月第11代東京音楽隊長に就任
    平成6年8月 2等海佐で退官
      退官後は、吹奏楽・軍楽隊等に関して、レコード・CDの解説、軍事関係誌、吹奏楽誌等に執筆。戦前の吹奏楽曲の楽譜を発掘し録音。ニューグローブ『世界音楽大事典』(講談社)の「国歌」の項を担当。NHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」の軍楽隊関係を考証。
    著書 『行進曲「軍艦」百年の航跡ー日本吹奏楽史に輝く「軍艦マーチ」の真実を求めてー』(大村書店)、『日比谷公園音楽堂のプログラムー日本吹奏楽史に輝く軍楽隊の記録ー』(つくばね舎)、『海の軍歌と禮式曲―帝國海軍の音樂遺産と海上自衛隊―』(出版協同社)

     

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