海上自衛隊幹部学校

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 米海大ナウ!

 オペレーショナル・アートとドクトリン

(076 2016/08/26)

米海軍大学   客員教授
1等海佐    下平   拓哉

   なぜ、米海大では、ドクトリンだけではなく、オペレーショナル・アート(作戦術)を教えているのでしょうか。英国の著名な歴史学者マイケル・ハワード(Michael Eliot Howard)が、「すべての軍隊は、必ず間違ったドクトリンを持ったまま戦争を開始する」と語っているように、実はドクトリンとは間違いがある不完全なものであるからです。
   米国におけるオペレーショナル・アートに係る研究と実戦は、1812年の米英戦争に遡ります。戦間期(1919-1939)には、オペレーショナル・アートはまだ戦略と呼ばれていて、クラウゼビッツの影響を受けていました。そして、太平洋戦争における統合作戦、連合作戦の成功、核兵器の登場を経て、現在に至っています。
   海軍や陸軍といったそれぞれの軍種は、作戦環境も戦い方も異なり、独自の文化を形成しています。そして、作戦の最適化を図るために、過去の経験を踏まえて、独自のドクトリンを作るようになりました。また、特に太平洋戦争期から顕著となった科学技術の進展と作戦空間の広域化等により、軍種間、部隊間の連携の必要性が一層高まり、統合作戦のニーズとともに、統合ドクトリンが検討されるようになってきました。
   ドクトリンとは、現在の能力と兵力構成、そして長年にわたる原則と教訓に基づいて策定され、ある軍事組織に、共通の哲学(考え方)、共通の言語、共通の目的、努力の集中をもたらすものです。脅威の多様化、作戦環境の変化、科学技術の進展等を踏まえ、ドクトリンは、絶えず見直し改定することが適当と考えられていますが、それはなかなか容易なことではありません。
   したがって、現在のドクトリンの基礎をなすものとして、オペレーショナル・アートを理解することが極めて重要となります。オペレーショナル・アートとは、統合作戦ドクトリンJP3-0によれば、「指揮官・幕僚が、戦略や作戦を策定し、兵力を組織、配備するための批判的な考え方の適用」であり、統合作戦計画ドクトリンJP5-0によれば、「指揮官・幕僚の技量、知識、経験に支えられた創造的な考え方の適用」と微妙な違いがあります。これに対して、米海大統合軍事作戦(Joint Military Operations:JMO)部のベゴ(Milan Vego)教授は、「ある戦域における戦略的かつ作戦的目的を達成するため、主要な作戦の計画、準備、実施、維持に関する理論と実際(The theory and practice of planning, preparing, conducting and sustaining major operations and campaigns to accomplish operational or strategic objectives in a theater.)」と定義しており、ベゴ教授の定義はより明確かつ具体的に本質をついたものと評価されています。

【筆者作成】


   現代戦において勝利するためには、優れた戦略のみでは不十分となってきており、戦略と戦術の効果的な組み合わせが欠かせなくなってきていると言われています。オペレーショナル・アート 戦略目的を一連の戦術任務に結びつけることであり、つまり、戦略と戦術をつなぐものです。いくら素晴らしい戦術的勝利があっても、それが戦略目的の達成に寄与しなければ何の意味もなさないことは、太平洋戦争の海戦の多くが物語っています。

   JMOにおいては、現在ある統合ドクトリンに対して、歴史的教訓に基づいたベゴ教授の視点を提供し、学生と教授陣がその両者を批判的かつ創造的に考え、議論することによって、オペレーショナル・アートの本質に迫っていきます。なぜならば、現在の複雑性を増す安全保障問題を解く正しい鍵は、誰にも分らないからです。

(2016年8月2日記)