中国の第2海軍：LOO（ルー）

（064　2016/06/28）

米海軍大学   客員教授
１等海佐    下平   拓哉

   米海大は、大学院レベルの授業を実施しているために、少人数によるセミナーが基本です。しかしながら、セミナーにおける重要なテーマの開始に伴って実施されるレクチャーの他に、わずかな合間時間を使って様々なレクチャーも実施されています。毎週木曜12:00の「8ベル・レクチャー」や授業終了後の夕刻に実施される「イブニング・レクチャー」、そして、「ルー」と言われているLOO(Lectures of Opportunity) もその一つです。これは、午前の授業終了後の昼食時間に実施されており、各学部や各地域研究グループらが調整して、米海大内外から様々なエキスパートを招いて計画的に実施されています。これまで、MIT大のリチャード・サミュエルズ(Richard Samuels)教授や外交問題評議会(CFR)のシーラ・スミス(Sheila A. Smith)氏などが実施しています。
   今回紹介するのは、先般実施された中国海事研究所(CMSI)の新進気鋭の研究者ライアン・マーチンソン(Ryan Martinson)氏の発表です。マーチンソン氏は、中国の沿岸警備隊に相当する中国海警局研究の第一人者であり、中国海警局を第2の海軍と称しています。2013年3月、国家海洋局の海監、漁業局の漁政、辺防管理局の海警、緝私局(税関)の海関が、国家海洋局の中国海警局に整理統合されました。中国は、2015年5月26日発表の国防白書『中国の軍事戦略』において、「積極的防御戦略」を推進することを明らかにしましたが、マーチンソン氏によれば、中国は「権利維持(rights protection)」と「安定維持(stability maintenance)」のバランスを考えた政策を採っていると分析しています。前者は、東シナ海や南シナ海等における中国の主権を侵すいかなる行動も容認しないというもので、後者は、他国と協調することにより地域の安定を図るというものです。そして、そのバランスを採る上で重要なファクターが、中国海軍、そして第2海軍である中国海警局であり、両者の協力関係が強化されていると分析しています。
   これからの中国の海洋におけるパワーを判断するためには、中国海軍、中国海警局、そして海上民兵(Maritime Militia)の3つのアクターの研究が必要です。そしてこの問題は、軍事(Military)と非軍事(Non-Military)の協力問題でもあり、平時(Peacetime)と戦時(War)に係るグレーゾーンといった問題にもつながっているのです。

(2016年5月20日記)

【マーチンソン氏の主な業績】
Ryan D. Martinson, “China’s Second Navy,” Proceedings, Vol. 141/4/1, 346, April 2015.
http://www.usni.org/magazines/proceedings/2015-04-0/chinas-second-navy

               ,“Here Comes China’s Great White Fleet,” The National Interest, October 1, 2014.
http://nationalinterest.org/feature/here-comes-china%E2%80%99s-great-white-fleet-11383

               ,“A Salt Water Perspective on China’s New Military Strategy,” Realcleardefence, June 2, 2015.
http://www.realcleardefense.com/articles/2015/06/02/
a_salt_water_perspective_on_chinas_new_military_strategy_107997.html

               ,“China’s Great Balancing Act Unholds: Enforcing Maritime Rights vs. Stability,” The National Interest, September 11, 2015.
http://nationalinterest.org/feature/chinas-great-balancing-act-unfolds-enforcing-maritime-rights-13821