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 米海大ナウ!

 ミャンマーの戦略的重要性と日本のアプローチ
-インド・太平洋地域における新たな安全保障ダイヤモンド-
(その3) 下平1佐の執筆論文が日本戦略研究フォーラム季報『JFSS』に掲載

(062 2016/05/11)

米海軍大学   客員教授
1等海佐    下平   拓哉

   日本戦略研究フォーラム(JFSS)が編集している季報『JFSS』第68号(2016年4月)に、拙稿が掲載されました。本稿では、中国が推進する「海上シルクロード」構想を整理するとともに、インド・太平洋地域におけるミャンマーの戦略的重要性を分析し、サイクロン・ナルギスの教訓を検証することによって、ミャンマーに対する具体的な安全保障アプローチとしての「新たな安全保障ダイヤモンド」構想を明らかにしました。


要 旨

「ミャンマーの戦略的重要性と日本のアプローチ-インド・太平洋地域における新たな安全保障ダイヤモンド-」(その3)

新たな安全保障ダイヤモンド
   インド・太平洋地域における安全保障と経済的発展を考えていく上で、様々な協力関係を模索していくことが必要であるが、とりわけASEAN諸国との多国間協力による安定した地域秩序構築がますます重要である。なかでも、サイクロン・ナルギスの経験を経て、民政移管したミャンマーは、政治的にも経済的にも重要な移行期にあり、ミャンマーの政治的かつ経済的な成功は、地域秩序の安定に大きな影響を及ぼすことは疑いない。
   中国は、「一帯一路」構想をもって、ミャンマーに対して支援を継続していく準備ができているとされるが、より重要なことは、欧米諸国がミャンマーとの協力関係を深め、ミャンマーを国際社会の重要な一員として歓迎できるように、国内外における信頼関係を構築していくことである。
   その上で、日本が提唱している「安全保障ダイヤモンド」構想の意義はますます大きくなってきている。この構想の中核は、「民主主義、法の支配、人権尊重といった価値観外交」に重点をおき、「太平洋とインド洋をまたぐ航行の自由の守護者」として大きな責任を負うことである。これからは、インド・太平洋地域において、ASEAN諸国をはじめ多国間で協力しつつ、「安全保障と経済的発展のバランス」をとっていくことが重要である。なぜならば、ASEAN諸国の多くも、ミャンマーと同様に、中国と安全保障上の様々な問題を抱えながらも、経済的には協力関係にあるからである。
   今求められていることは、「安全保障ダイヤモンド」を真に輝かせるために、「安全保障と経済的発展のバランス」という目的を達成するための具体的な手段を示すことである。シン(Vikram Singh) 米国防次官補代理(南・東南アジア担当)やシェアー(David Shear)米国防次官補(アジア太平洋安全保障担当)が指摘するように、軍事政権から脱皮したばかりのミャンマーにとって必要なことは、民主主義を成熟させるとともに、国際社会における軍事力の役割と活用といった軍部へのアプローチである。
   したがって、「安全保障と経済的発展のバランス」といった目的を達成するための具体的な手段としては、「価値観外交」を進めるための政治・外交といった非軍事力の活用と「航行の自由の守護者」のための軍事力の活用、すなわち「非軍事力と軍事力のバランス」をとることである。
   そこでは、戦後70年間、平和国家の道を歩んできた日本の自衛隊が有する軍事的能力の活用が大きく期待できる。特に、インド・太平洋地域において悩まされ続けている自然災害への準備や対応を含む災害管理やアデン湾における海賊対処活動において得た多くの知見を最大限活用することである。日本の自衛隊が、ミャンマーに対して、インド・太平洋地域における安全保障と経済的発展のために、軍事的な能力構築と訓練を進めることは、同地域秩序の安定に直結するものである。
   これからのインド・太平洋地域においては、「安全保障と経済的発展のバランス」と「非軍事力と軍事力のバランス」の二つのバランスによって、「安全保障ダイヤモンド」を真に輝かせる必要がある。

(2016年5月7日記)

   【日本戦略研究フォーラム HP】
   http://www.jfss.gr.jp/kiho.htm