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 米海大ナウ!

 High-Velocity Edge:イブニング・レクチャー

(059 2016/04/22)

米海軍大学   客員教授
1等海佐    下平   拓哉

   米海大においては、学際的なアプローチを重視しており、様々な分野のエクスパートを招いて授業終了後の夕刻に、「イブニング・レクチャー」を実施しています。これまで、世界的ベストセラー『大国の興亡』で有名な英国の歴史学者ポール・ケネディや米通商代表のロバート・ゼーリック、ジョン・マケイン連邦上院議員、元東アジア・太平洋担当国務次官補で北朝鮮問題の六者会合において米首席代表を務めたクリストファー・ヒル等が招かれています。イブニング・レクチャーは、地元市民にも開放されており、大半は後日You Tubeでも見ることができます。
   2016年4月7日に実施されたイブニング・レクチャーの講師は、マサチューセッツ工科大(MIT)のスティーブン・スピア(Steven J. Spear)教授でした。着実な成長を遂げているトヨタを研究対象に、目的達成のための組織活性化を「高速優位(High-Velocity Edge)」の理論によって導いたベストセラー・ビジネス書『High-Velocity Edge』(2009)で、昨今一躍注目を浴びている学者です。
   ハイブリッド車に代表されるように、トヨタのイノベーションは留まる所を知りません。しかし、トヨタの強さと言われるトヨタ生産方式の完全な体現は難しいことから、スピア教授は、トヨタ社員のトレーニング方式が非常に重要な位置を占めていることに着目しました。


   スピア教授の主張するHigh-Velocityな組織とは、常に業界のトップを走り続け、フォロワーが追いつくときには、すでに次のフェーズに進んでいる状態を維持しています。そして、その組織においても、問題というものは当然生起するものであり、その問題に対して対策を講じることこそが重要なのです。そうすれば、同様の問題に再度遭遇することを回避することができるからです。具体的には、次のようなステップが紹介されました。

   (1) 問題点を明らかにする。
   (2) 問題点を解決する。
   (3) 周りの第3者にそれを教える。
   (4) これらを繰り返す。
        そこでは、リーダーシップ(指揮官)が重要な位置を占める。

   このHigh-Velocityに注目したのが、米海軍です。 2016年1月5日、米海軍のトップである海軍作戦部長ジョン・リチャードソン(John M. Richardson)大将は、「海上優勢を維持するための構想(A Design for Maintaining Maritime Superiority)」を発表しました。そこで掲げた4つの努力の一つに「戦闘」「海軍チームの強化」「パートナーシップの構築」と並んで、「知的能力の加速(HighVelocity Learning at every level)」が示され、戦闘能力の効率化のため、個人、チーム、組織といった海軍のあらゆるレベルにおいて知的能力を加速し、組織を最適化することが強調されています。そして、問題点を明らかにするために、過去の事例を学ぶことから始めることを示しています。
   スピア教授が、問題点を明らかにする第1のステップも、問題点を解決する第2のステップも、それぞれ24時間というスパンを示していたことは注目すべきことでしょう。問題点は解決しなければならないのであって、逃避せずに立ち向かわなければならないのです。また、いたずらに時間をかけることは、実は問題点からの逃避であり忌避しなければならないことであり、それよりもこのステップを繰り返すことが大きな意味を有し、そしてこれを決定づけるリーダシップが大きなウエイトを占めているのです。

   【米海大イブニング・レクチャー】
   https://www.usnwc.edu/Events/ELS.aspx

   【スティーブン・スピア教授のHP】
   http://www.thehighvelocityedge.com/

   【米海軍作戦部長:海上優勢を維持するための構想】
   http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/navcol/2016/039.html

(2016年4月10日記)