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 米海大ナウ!

 武器分散コンセプト

(041 2016/01/26)

米海軍大学   客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐    下平   拓哉


   原子力空母を中心にそれを防護する複数の駆逐艦等からなる空母打撃群(Carrier Strike Group: CSG)を中心とした戦いから、これまでの発想を越えた新たなテクノロジーを駆使した新たな戦い方が今模索されています。その一つが「武器分散(Distributed Lethality)」コンセプトです。
   2015年1月、米太平洋艦隊水上部隊司令官のロウデン(Thomas Rowden)中将らが、米海大との共同研究を踏まえて発表しました。これまで海を制してきた米海軍が、台頭著しい中国の接近阻止・領域拒否(Anti-Access/Area Denial: A2/AD)能力によって大きな挑戦を受けつつあり、かつ厳しい予算の制約下にあって、中国の数に対抗することは非常に難しいため、発想の転換が強く求められたのです。

【筆者作成】 

   武器分散コンセプトでは、巡洋艦、駆逐艦、沿海域戦闘艦(LCS)、水陸両用艦艇、補給艦等すべての水上艦艇に攻撃能力を付与させ、各艦を分散させます。そして、任務に応じて必要時に最適な部隊を構成します(adaptive force packages: AFP)。そうすれば、敵も分散せざるを得なくなり、相互の連携のためには、各艦が有するミサイルやネットワークといったシステムの重要性がより高まることになります。
   それに伴って、米海軍では、高性能な新型長距離対艦ミサイルの開発や、海軍統合射撃管制対空システム(Naval Integrated Fire Control- Counter Air: NIFC-CA/ニフカ)といった、水上艦艇レーダー見通し線外の目標に対処するためのシステムも検討されています。
   また、米海軍を挙げて新たな戦い方が検討されています。2015年6月30日、米海軍は艦隊の戦闘能力向上のため、「海軍水上戦開発センター(Naval Surface and Mine Warfighting Development Center: SMWDC) を新設し、新たな戦術を練っています。米海大においても、武器分散コンセプトの下、戦術レベルの図上演習を3回にわたって検証してきました。厳しさを増すA2/AD環境下、様々な任務を達成していくためには、どのように海を制して、どのように海から戦力投射するかという 「制海と戦力投射のバランス」が重要です。そのためには、平素から「航行の自由(FON)」を確保し、海兵隊との連携を強化し、海から戦力投射できる攻撃型の水上部隊を構築する必要があると考えられています。
   一層厳しさを増す安全保障環境下、高度のテクノロジーを活用した「新たな戦い方」が日々検討されています。これもまさに、平素からの知的競争なのです。

【武器分散コンセプトに係る参考文献】
1 Thomas Rowden, Peter Gumataotao, and Peter Fanta, “Distributed Lethality,” Proceedings, Vol. 141/1/1, 343, January, 2015.
http://www.usni.org/magazines/proceedings/2015-01/distributed-lethality

2 An Interview with Vice Admiral Thomas Rowden, ‘We Are Headed in the Right Direction,’ Proceedings, Vol. 142/1/1, 355, January, 2016.
http://www.usni.org/magazines/proceedings/2016-01/we-are-headed-right-direction

3 Daniel L. Kuester, “‘Distributed Lethality’ concept gains focus at NWC,” U.S. Naval War College Public Affairs, October 29, 2015.
https://www.usnwc.edu/About/News/October-2015/-Distributed-Lethality--concept-gains-focus-at-NWC.aspx