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 米海大ナウ!

総合試験と個人論文発表

(036 2016/01/13)

米海軍大学   客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐    下平   拓哉

   「統合軍事作戦(Joint Military Operations:JMO)」のブロック3を終了し、JMOの総復習となるブロック4のキャップストンと呼ばれる実際的な演習を前に、総合試験と個人論文発表があります。

【総合試験】

   JMOは、4つのブロックに分かれていますが、ブロック1では、「複雑な問題(Complicated)」を解くためのオペレーショナル・アート。ブロック2が、統合作戦計画策定要領(JOPP)等の計画の立て方。ブロック3が、JOPPでは対応が困難な「複合的な問題(Complex)」。そして、ブロック4が、主として「複合的な問題(Complex)」に関する実際的な演習です。
   総合試験は、ブロック4のキャップストンに先立って、オペレーショナル・アートの適応と限界、「複雑な問題(Complicated)」と「複合的な問題(Complex)」の違い等、これまでJMOで履修したすべてを検します。オペレーショナル・アートは、大規模な戦争や通常戦には非常によく適応しますが、昨今の「ハイブリッド戦」には限界があると言われています。そして、現在直面している安全保障上の問題点を、履修したJMOの知識を基に、学生各位に新たなアプローチを提言させるといった斬新な試験です。

【オフサイトでの個人論文発表会】

   次に、個人論文は、自己の主張を論理的に展開する手段として重要視されています。まず、JMOの開始時に自己の経験と関心領域を踏まえ、環境、経済、政治、軍事、国際関係、安全保障/法執行、教育/保健、インフラストラクチャ―、社会/文化、産業、情報といった11つの研究視角から1つを選定します。そして、オペレーショナル・アートを駆使して、修士レベルのエッセイを作成します。個人論文指導は、指導教授が指定され、約13週間のJMO期間中を通じて実施されます。最低限2回の指導機会が設定されていますが、指導を受けている頻度は学生によってかなりの開きがあります。個人論文提出前に、約10分のプレゼンテーションの機会が設けられ、学生及び教授陣から様々な質問を受けますが、論文の出来とは別に、誰もが非常に自信をもって発表しているのが、日本との大きな違いでしょう。論理的に自己の主張を組み立て、説得力ある文章にまとめる。そして様々な反論を予期し論理的に答えていくプロセスは至難であり、不断の努力が欠かせません。採点及び評価は、修士の学位がかかっていますので、もちろん厳格かつ詳細に規定されています。面白いことは、非常にできた学生に対しては、「これはもう教えることができるレベルだな」と評価していることでしょう。確かに、学問は知ったつもりになりやすく、私自身も実際にJMOで教える立場に立って、日々冷や汗の連続です。
   多くのことを実際に読み、学び、自己の考えをまとめ、論理的に主張し、議論し、反論に堪えられるものでなければ、およそ教えることはできず、かつ教えて初めて気付くことも多く、学問の深さを痛感しています。しかしながら、日本の安全保障に係る学問は、実務者として逃げるわけにはいきません。
   それにしても、米国の学生は、実に自信をもって発表し、活発な質疑応答が大好きなようです。国際社会においては、このような活発な議論ができるスキルは欠かせません。

【米海大ライティング・センター発行のライティング/スタイル・ガイド】
https://www.usnwc.edu/getattachment/a57e8a60-1b8d-42a7-83bb-d1c8e4767806/NWC-Pocket-Writing-and-Style-Guide-2012.aspx

   これは、「シカゴ・マニュアル・スタイル(The Chicago Manual of Style)」を簡便にまとめたもので、修士レベルの論文を書く際に非常に有益な研究論文執筆マニュアルです。