海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ | English

HOME /米海大ナウ!/031

 米海大ナウ!

 「ニトログリセリン」アーネスト・キング提督 

(031 2015/12/03)

米海軍大学   客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐    下平   拓哉

   1878年11月23日は、アーネスト・キング(Ernest Joseph King)の誕生日です。

【米海大学生時代の写真】

   6人娘のひとりから、「海軍一気性が荒く、常に怒っている」と言われていたキングには、デスクワークと英国人とメディアが嫌い、大酒飲み、女癖が悪いなど様々な評判があります。しかし、その評判の真偽は別として、頭脳明晰で厳格かつ極めて有能、米海軍きっての戦略家と言われています。太平洋戦争中、海軍トップの海軍作戦部長と部隊を指揮するトップの艦隊司令長官を兼任した唯一の人で、太平洋の戦略的重要性を理解し、米海軍に勝利をもたらしました。
   キングは、オハイオ州ロレインに生まれ、父は、アイルランド系の移民で、水夫や鉄道修理工などをしていた貧しい生活をしていました。母方の父は造船所の木工職であり、キングは、現場で働く親を誇りにしていたと言われています。

   1901年に米海軍兵学校卒業。67人中4番。巡洋艦「シンシナティ」で日本へ寄港した際、鎌倉見物をしてスリに遭い、駅での切符購入においてもスリの事情を解してはもらえず、日本人にはよい印象を持っていなかったようです。
   米海大歴史学部長のハッテンドルフ(John B. Hattendorf)教授によれば、キングは知力に優れ、米海軍協会『プロシーディング』誌にも7本掲載され、自叙伝の他に、『太平洋戦争における米海軍(U.S. Navy at War 1941-1945)』という素晴らしい公式報告を書いており、これは海軍士官にとって必読の書だそうです。また、戦艦や空母の勤務のみならず、潜水艦や航空部隊の経験もあるため、現場について知悉していたようです。

【キングが米海大学生時代に提出した課題】

   クラスが3つ下のウィリアム・ハルゼー(William Frederick Halsey, Jr.) とともに、1933年に米海大を卒業しています。キングは、ニミッツ、ハルゼーとともに、太平洋戦争を戦いますが、この3人は米海軍史上4人しかいない5つ星の海軍元帥となっています。
   米海大には、キングが米海大学生時代に提出したレポート「戦略に係る国家政策の影響 (The Influence of The National Policy on The Strategy of A War) 」が残っています。そこには、次のようなことが記されています。
   「戦争をする際は、戦争の原因、戦争の目的、そして戦争の本質 を考える必要があり、それらは国家政策に基づかなければならない。」
     「軍隊にとって最も重要なことは、戦時に何も邪魔されずに、軍の機能を自由に発揮できることである。」
   「日本は仮想敵国であり、現状を変更するために米国に挑むであろう。」

    キングのレポートは、1930年代に軍事的に台頭する日本に大きな警戒観を抱いています。そして、米国の国益を守るためには、軍事力を最高度に発揮できるような国家政策と軍事戦略の関係の重要性を指摘しています。まさにクラウゼビッツが言う「戦争とは他の手段をもってする政治の延長」です。国家政策と軍事戦略の整合ができたのは、よく現場を知っていたからに違いないでしょう。そして戦時のリーダーには、強い意志と冷静な頭脳が必要なのでしょう。


【歴史学部長ハッテンドルフ教授が薦めるキングに関する名著】
1) Ernest J. King and Walter Muir Whitehill, Fleet Admiral King: A Naval Record, New York: W.W. Norton & Company, 1952.
2) Thomas B. Buell, Master of Sea Power: A Biography of Fleet Admiral Ernest J. King, Annapolis: Naval Institute Press, 1980.
3) Ernest J. King, U.S. Navy at War 1941-1945: Official Report to The Secretary of the Navy, Washington: United States Navy Department, 1946.
http://www.ibiblio.org/hyperwar/USN/USNatWar/
これは、キングが海軍長官に提出した太平洋戦争に関する公式報告であり、太平洋戦争を学ぶ上で非常に有益です。