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 米海大ナウ!

 027 ミャンマーの戦略的重要性と日本のアプローチ
-インド・太平洋地域における新たな安全保障ダイヤモンド-
下平1佐の執筆論文が日本戦略研究フォーラム季報『JFSS』に掲載

(027 2015/11/16)

米海軍大学   客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐    下平   拓哉

   日本戦略研究フォーラム(JFSS)が編集している季報『JFSS』第66号(2015年10月)に、拙稿が掲載されました。JFSSは、発足以来、日本のあるべき姿を模索し、政治、経済、軍事、科学技術など広範かつ総合的な国家戦略研究を目的としたシンクタンクとして機能しています。


要 旨
「ミャンマーの戦略的重要性と日本のアプローチ-インド・太平洋地域における新たな安全保障ダイヤモンド-」

   2010年10月、クリントン(Hillary Rodham Clinton)前米国務長官は、ホノルル演説において、「インド・太平洋(Indo-Pacific)」という言葉を初めて使い、それ以降インド洋と太平洋を戦略的に融合した安全保障の議論が盛んになっている。この演説は、昨今の中国の活発な海洋進出を踏まえてのものであった。インド・太平洋地域における海洋をめぐる安全保障問題のなかでも、最近特に顕著なのがインドを包囲するかのような港湾を中心としたインフラ整備である。中国は、「真珠の首飾り」に象徴されるように、パキスタンのグワダル港、スリランカのハンバントタ港、バングラデシュのチッタゴン港、ミャンマーのティラワ港等における港湾の整備を進め、2013年10月にはより広範な経済圏構築を目指す「21世紀海上シルクロード(21世紀海上絲綢之路)」 構想を明らかにした。これに対してインドは、「ダイヤのネックレス」構想を掲げ、中国への対抗姿勢を明瞭している。
   中国とインドによる港湾をめぐるこの攻防は、単に経済上の問題のみに留まらず、安全保障上の問題でもある。港湾は、海洋への自由なアクセスを確保するための重要な要素の一つであり、それを平和的かつ持続的に確保していくためには、多国間の協力関係が重要な鍵となるであろう。
   インドのシン(Manmohan Singh)前首相が指摘するように、インド・太平洋地域及び世界の繁栄のためには、安定した海洋の安全保障が不可欠であり、そのためにはインド洋と太平洋のほぼ中間に位置する国の一つであるミャンマーに改めて注目する必要があるであろう。なぜならば、ミャンマーは、2011年 3月の民政移管後、中国への過度な依存から脱却し、平和と繁栄を目指すために欧米諸国との関係改善を図り始めているからである。また、ASEAN 諸国の中で唯一インドと陸上国境を接し、インフラの整備が進展すれば、同地域における経済的発展の中核となる可能性を秘めているからである。しかしながらその一方で、ミャンマーは、2011年5月に、中国と「全面的戦略協力パートナーシップ(全面战略合作伙伴关系)」を合意するなど、流動的な側面を残しているのもまた事実である。その中国は、米国の裏庭である中南米のニカラグアにおいて、太平洋と大西洋をつなぐ運河建設に着手したが、同じくインド洋と太平洋をつなぐ可能性がある地域として、マレー半島クラ地峡にも注目し始めている。その一部はミャンマー領であり、もし新たな運河建設が実現するようなことになれば、海上交通路に大きな変化が生じ、その安全保障上かつ経済上のインパクトは大きい。このように、ミャンマーの戦略的重要性は急速に高まってきているのである。
   2014年5月、ミャンマーは、ASEAN首脳会談で初めて議長国を務め、国際社会における責任ある立場へと一歩踏み出した。インド・太平洋地域における安全保障と経済的発展を考えていく上で、流動的なミャンマーを国際社会の責任ある立場に引きとどめておくことの重要性がこれまでになく高まってきている。そしてミャンマーに国際社会に対する認識を新たにさせた大きな契機となったのが、軍事政権下の2008年5月2日にミャンマーを直撃し、十万人以上の被害者を出したサイクロン・ナルギスの教訓である。なぜならば、被災当初は、人道的介入に警戒し国際社会の協力に応じなかったものの、最終的には受け入れているからである。
   日本にとって、インド・太平洋地域は、死活的に重要である。日本は「アジア民主主義安全保障ダイヤモンド」構想を掲げ、中東からインド洋、マラッカ海峡を経て西太平洋に至る地域における安全保障と経済的発展を確保するために、日本、米国、豪州、インドによる海洋権益保護のための「安全保障ダイヤモンド」の形成を明らかにした。同地域に依然大きな影響を有する米国とともに、日本が果たさなければならない役割は極めて大きい。今、日本に求められていることは、海洋権益保護のための「安全保障ダイヤモンド」を真に輝かせるための具体的な方策である。つまり、この「安全保障ダイヤモンド」を効果的に形成するため、いかに多国間の協力関係を強化し、海洋における安全保障を確保するかが問われており、その手掛かりとなる国が、国際社会へ踏み出したばかりで、かつ何よりも歴史的に親日なミャンマーなのである。それでは、インド・太平洋地域における海洋をめぐる安全保障を確保するために、日本がミャンマーに対して採るべき安全保障アプローチとは一体どのようなものであろうか。
   本稿では、インド・太平洋地域において、中国が推し進める「海上シルクロード」構想を整理し、同地域におけるミャンマーの戦略的重要性を踏まえた上で、サイクロン・ナルギスの教訓を検証し、同地域における安全保障と経済的発展を担保するため、ミャンマーに対する具体的な安全保障アプローチとしての「新たな安全保障ダイヤモンド」構想を明らかにした。

   【日本戦略研究フォーラム HP】
   http://www.jfss.gr.jp/kiho.htm