海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ | English

HOME /米海大ナウ!/012

 米海大ナウ!

 冷戦後における米海軍の戦略:
下平1佐の執筆論文が日本安全保障・危機管理学会編『安全保障と危機管理』に掲載

(012 2015/07/22)

米海軍大学   客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐    下平   拓哉


   日本安全保障・危機管理学会が編集している『安全保障と危機管理』Vol. 32(2015年夏号)に、私の論文が掲載されました。 2015年3月13日、米海軍、海兵隊及び沿岸警備隊は新たな海洋戦略「21世紀の海軍力のための協力戦略(A Cooperative Strategy for 21stCentury Seapower)」を発表しました。これは、前回の2007年10月版を更新したものですが、これらの策定に関しては、 米海大図上演習部がその検証に当たるなど、米海大が大きな役割を果たしています。アジア太平洋地域において「リバランス」を掲げる米国と「積極的平和主義」を掲げる日本が協働して主導的役割を果たしてゆくためは、米海軍戦略の本質とその実態を正しく理解することが欠かせないでしょう。

 要 旨

   「冷戦後における米海軍の戦略-20年にわたる関与の実態-」
   イラク・アフガニスタン情勢の泥沼化、国際テロ活動の活発化、ロシアによるクリミア半島併合等、昨今の国際情勢は風雲急を告げている。アジア太平洋地域に目を転ずれば、東シナ海や南シナ海の海空域における中国の軍事的活動の急速な拡大や活発化が顕著である。米国は、2014年3月4日、『四年毎の国防計画の見直し(QDR2014)』において、このような安全保障環境を戦略的に不透明な情勢と評価した上で、「リバランス」を掲げ、地域的な友好関係を高めるために「選択的な関与」を進めることを明らかにした。
   なかでも米海軍は、長きにわたってアジア太平洋地域における海洋の安定に多大な貢献をしてきたが、その米海軍が現在採用している戦略は、海軍、海兵隊、沿岸警備隊が署名した「21世紀の海軍力のための協力戦略」である。米海軍は、この「協力戦略」に基づいて、リバランスしながら、アジア太平洋地域において「選択的な関与」をしているのである。
   一方、米国と強固な同盟関係にある日本は、2013年12月17日、初の「国家安全保障戦略」と「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱(25大綱)」及び「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)」を決定し、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を旗印に、グローバルな安全保障上の課題に対する戦略的アプローチとして、日米同盟と多国間協力の重要性を強調した。
   そして、日本の防衛の最前線を担う海上自衛隊は、これまで「関与と対処」を採用してきたが、今後「選択的な関与」を進める米国とともに日米同盟を一層強化していく上で、米海軍が採る「協力戦略」の本質を理解することが欠かせないのである。
   本稿は、アジア太平洋地域の安全保障において中心的な位置づけにある米海軍が、およそ20年前にソ連に代わって台頭する中国を予見して構築した関与戦略に着目し、その今日的意義を分析することによって、米海軍の「協力戦略」の本質を明らかにするとともに、冷戦後米海軍が発表してきた各種戦略文書を分析し、「関与」の本質の変化方向を明らかにした。
   「関与」の本質とは、「抑止」、「制海」、「戦力投射」、「前方展開」からなる海軍力の行使であり、これは今後とも継続される普遍的な海軍力の主要素と考えられる。しかしながら、2010年頃を境に、アジア太平洋地域における「関与」の本質も、より平時の活動に志向したものへと変化し、つまり「関与」の本質がより拡大化してきているのである。

【日本安全保障・危機管理学会 HP】
http://www.jssc.gr.jp/kikanshi.html