海上自衛隊幹部学校

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 留学制度

留学生便り

オーストラリア国防大学 指揮幕僚課程

邑山 雅人(2佐 04幹候)

 

はじめに
   平成29年8月から約1年6か月間、私はオーストラリアのメルボルン及びキャンベラで留学する機会を頂きました。海上自衛隊入隊後、諸外国を訪れる機会は何度かありましたが、1年以上にわたる長期間、海外に在住することは私にとって初めての経験です。こちらでの滞在も約1年が経過しましたが、学業面のみならず、日本とは異なる文化及び生活習慣等に触れる貴重な経験を同地で数多く積むことができました。
   本稿では、これまでの私の経験をもとに、オーストラリアでの留学生活を紹介するとともに、今後留学を希望する海上自衛官に対して、留学生活全般のイメージを持ってもらうことを目的に論を進めていきたいと思います。そのため、以下では、私の在籍しているオーストラリア国防大学(Australian Defence College、ADC)の概要をはじめ、現地での生活や文化、また、私が留学先で得たこと等についても述べていきます。

1 履修課程の概要
   私は、平成29年8月からの約4か月間は、メルボルンに所在するDefence International Training Centre(DITC)にて、教育を受け、平成30年1月からは、キャンベラにあるADCで指揮幕僚課程(Australian Command and Staff Course)を履修しています。

(1)DITC
   DITCでは、オーストラリアの文化等を学習したのち、翌年以降のADCでの専門的教育を受けるための英語運用能力向上を主眼とした教育を受けます。
   入学後の約2週間は、オーストラリアの地理、歴史及び文化を含めた一般的社会知識やオーストラリア軍の組織、構成及び軍内での習慣やマナー等について教育が行われました。課程開始後の導入部分で、オーストラリアで生活していく際に必要とされる知識が付与される機会があり、海外から派遣された留学生が、より円滑に生活に順応できるように配慮されています。次に、英語能力の総合的向上を企図し、ディスカッション、ディベート、プレゼンテーション及びエッセイの作成について、教育が行われます。併せて、部内で実施されている英語試験を受験し、英語能力向上の程度を把握することができます。最後に、英語論文作成能力と学生間の討論で自らの考えを適切に表現するコミュニケーション能力の発展を目指した教育が行われます。
   このように、DITCでは約4か月の教育期間をとおして、海外からの留学生がオーストラリアで生活する上で不可欠な文化的、社会的知識を身につけるとともに、学生の総合的な英語能力を向上させ、翌年以降のADCでの学術的課題に対応できるよう、きめ細やかなカリキュラムが組まれています。
(2)ADC
   ADCでは、90分間の講義の内、概ね30分間が学生からの質疑応答に割り当てられています。そこでは、講義で示された教授の見解に対し学生側から質問がなされ、より発展的な議論が展開されます。毎回の講義で教授と学生間で活発な議論が展開され、双方向教育が行われていることが、ADCでの教育の特色の1つとして挙げられます。
   また、日本の大学学部教育でのゼミに相当するものが、ADCではシンジケートと呼ばれ、そこでの討論が、ADCでの教育の柱の1つとなっています。討論では、講義の内容を踏まえた多様な議論が展開されます。学生は、根拠に基づく主張を展開し、異なる主張をぶつけ合い、新たな視点を構築することが期待されており、毎回、刺激に満ちた議論が交わされます。
   さらに、ADCでは、様々な学校行事が学生主体で企画され、職員、学生及びその家族間の交流を図っています。先日行われたインターナショナルデーという催しでは、各国からの留学生が趣向を凝らした展示を行いましたが、私は妻とともに、寿司、団子、味噌汁といった日本料理を提供し、我が国の文化への理解向上に努めました。スポーツイベントやパーティ等の学校行事が学生主導で定期的に開催されるのも、ADCの特色となっています。

2 現地の生活の紹介
   海外に留学する場合、普段の生活を通して、日本とは異なる文化を経験できることが大きな魅力の1つです。これまでのオーストラリア留学中、メルボルンとキャンベラの2つの都市で生活してきましたが、そこで感じた点を紹介したいと思います。
(1)メルボルン
   メルボルンはシドニーに次ぐオーストラリア第2の都市です。同地には、メルボルン大学等の高等教育機関や、語学学校等が数多くあるため、街中には学生が多くみられます。各国からの移民が多い街でもあり、文化的多様性にあふれ、活気に満ちた都市です。
   メルボルンで生活していた間、オーストラリアと日本とのつながりを意識する機会が何度もありま した。まず、市内を走っている車両の多くは、日本車であることが大変印象に残っています。また、街中でも日本企業の広告を多数目にし、その存在感の大きさを直に感じ取ることができました。経済的存在感だけでなく、日本文化への関心も高いように思われます。街中では、日本料理店の数が非常に多く、また、葛飾北斎の展覧会が国立美術館で行われ、たくさんの人が訪れていました。メルボルンから日本へは航空便が毎日運行されていることも、日本との強い結びつきを示しています。
   海外留学をする際、留学先の外国文化を体験できることは大きな利点の1つです。それに加えて、日本経済や日本文化がどのように海外で評価されているかを実際に見聞きすることも、海外留学をして初めて体験することができることだと思います。
(2)キャンベラ
   DITCでの課程修業後、キャンベラに移動し、現在に至ります。キャンベラは、オーストラリアの首都であり、また、人工的に計画、設計された都市という特性から、メルボルンとは異なる文化に触れることができます。
   キャンベラでは、政府機関や公園等が計画的に建設され、道路も中心地から放射状に敷設されてお り、都市全体に整然とした雰囲気があります。他方、市内には、国立図書館、国立美術館及び国立博 物館等といった学術及び文化的施設も多くあり、オーストラリア文化、歴史及び芸術を広く理解することができます。キャンベラには自然も多く、いたるところに緑あふれる公園や遊歩道があり、晴れた日ともなれば、ジョギングやサイクリングを楽しむ家族連れ、犬の散歩をする人等を多く見かけます。文化施設が充実し、緑溢れるキャンベラは学業に集中するためには絶好の場所ということができます。

3 留学で得られるもの
   私は、約1年半に及ぶオーストラリアでの留学という大変貴重な機会を頂き、留学することでしか得られない経験を日々積んでいます。
   まず、留学期間を通じ、オーストラリアの軍人や文官及び各国から派遣された留学生と切磋琢磨し、多様なバックがラウンドを持つ学生との絆を築くことができます。同じ課程に在籍するオーストラリア人は、人格的に優れた方ばかりですし、学業面でも私が口述発表や論文の準備をする際は、英語表現等について有益な助言をくれたり、討論の場においても留学生の意見を十分に尊重する姿勢をもっています。また、学業面だけではなく、彼らは、慣れない土地で生活している留学生やその家族をいつも気にかけてくれます。オーストラリア人だけでなく、各国からの留学生との交流も非常に盛んです。今年は、私を含めて、24か国からの留学生計44名がADCに派遣されていますが、文化、国籍、言語及び人種だけでなく、軍種や階級も異なる多様なバックグラウンドを有する学生が、母国を離れ、約1年間、同じ学び舎で教育を受けるため、留学生間のつながりは非常に強く、かつ重要なものです。留学生同士の強固なつながりは、学生本人に止まらず、その家族も含んだものであり、家族ぐるみの交流を経験することができます。
   さらに、留学を通じ、日本がこれまで関与した戦争や日本が置かれている国際関係について、異なる視座から考察する機会を得ることもできます。これまで戦略論や戦史の講義を受講しましたが、我が国が関連した事例を扱ったものも多くあり、講義ごとに付与される専門家の論文を読み、また、課題論文を作成する中で、新たな知識や見解を得ることができました。これまでとは異なる考えを理解することは、物事を批判的、複合的に分析するために不可欠なことであり、留学を通じて、このような体験を多く積むことができます。
   留学を経験し、これまでと異なる環境で生活することは、改めて日本について考えを巡らせ、日本では、当然と思われたことや見過ごしていたことに気づくことにもつながります。オーストラリアに留学して私が交流を持った人の中には、日本文化に高い関心を持っている人や、日本を何度も訪れたことがある人がいます。彼らと日本について話す中で、日本にいればあまり意識しないかもしれない、我が国の歴史、伝統及び文化のすばらしさに、改めて気づくことができました。このような体験も日本から離れることで初めて可能になるのだと思います。

4 おわりに
   オーストラリアでの留学を通して、総合的な英語運用能力を向上させるとともに、学術的及び軍事的専門知識を深める十分な機会を得ることができ、また、これまで触れることがなかった文化に親しむこともできました。ADCでの修業により、オーストラリア人や各国からの留学生との交流を育むとともに、新たな知見を得ることは、留学を通じてはじめて得られると感じており、このような貴重な機会が得られたことに対し、これまで支援してくださった方に深く感謝申し上げる次第です。
   私の留学期間も、あと数か月になりましたが、学友たちとの研さんを通して、自己の能力向上に努めるとともに、オーストラリアをはじめとした諸外国の方との交流の中で、彼らの日本への理解を深めることにも貢献できるよう、努力を継続する決意です。留学を希望される方や関心を持っている方に、本稿が少しでも参考になれば幸いです。