海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ |  English

HOME / 戦略研究会 / コラム / コラム127

 戦略研究会

 防衛生産・技術基盤の維持・強化について

(コラム127 2018/11/26)

*******

   11月1日、平成30年度以降の護衛艦(新艦艇)1のうち、初年度調達分2隻の建造契約が三菱重工業と締結されたとの報道があった。この新艦艇は、新しいコンセプトの護衛艦であり、また、契約相手方(建造所)の選定方法も新たな契約方式により選定されたものである。この新しい選定方法に変更した背景に防衛生産・技術基盤の維持・強化の必要性があり、この機会に日本の防衛生産・技術基盤をめぐる背景及び現状について簡単に整理してみる。
   防衛省・自衛隊は防衛装備品の製造能力を全く有しておらず、その全てを民間企業に依存している。一方、民間企業においては、近年の防衛装備品の高度化・複雑化等により生産価格が上昇するとともに、その維持・整備経費の増大が自衛隊の調達数量の減少を招き、防衛装備関連の仕事量が減少するなど防衛生産・技術基盤が脆弱化しつつある。
   防衛生産・技術基盤の維持・強化は、以下の三つの点において重要である。
①国内で防衛装備品を取得し、維持・整備等の自衛隊の運用を支える基盤を保持することによる
   他国に影響され難い日本の安全保障の主体性の確保
②防衛装備品を国内でも開発が可能といった一定の技術基盤を保持することによる価格交渉や
   共同開発といったオプションが広がるといった交渉力(バーゲニング・パワー)の向上
③防衛技術と民生技術のデュアル・ユース2化の進展に伴い、民生技術の防衛技術への積極活用
   と最新の防衛技術開発で得られた成果を民生技術に転用することによる産業全般への技術波及
   効果
   これらは、かなり以前から日本経済連合会の提言3や自由民主党からの提言4などで指摘されており、防衛省としても各種の提言や議論を踏まえて防衛生産・技術基盤戦略5を平成26年に策定しているが、この中で防衛生産基盤の維持・強化のための各種の施策について筆者が着目する二つのポイントについて取り上げる。
   一つ目のポイントは、契約制度等の改善である。従来は防衛装備品といえども一般の公共事業と同様に競争入札を基本として装備品を取得していた。これだと複数の企業が競争入札にて過度の価格競争を繰り返すことにより、落札企業は利益の減少、一方落札できなかった企業は人員の再配置や設備の稼働率の低下を招くこととなり、防衛生産・技術基盤の弱体化が生じることとなる。艦艇建造基盤と一口に言っても艦艇の建造は単に造船所だけの問題ではなく、護衛艦の建造を例にとると概ね2,500社ともいわれる関連企業が支えており、そこには大手企業から町工場までが含まれている。その中の比較的小規模な企業は、そこでしか作れない「オンリーワン」の技術を有している場合も多く、防衛省からの受注機会の減少により、設備の保持や技術の伝承が困難となり、撤退や倒産といった事例も出てきている。このため、防衛装備庁は新艦艇については、新たな企画提案契約方式を採用し契約相手方(建造所)を選定した。この方式は公募により企画提案を募り、維持整備管理能力等も含めた総合的な評価を行い、その評価が最も高かった企業を主事業者、2番目に高かった企業を下請負者として決定し、この2社により毎年複数隻を建造していくものである。
   二つ目のポイントは、研究開発に関する点である。近年の急速な情報通信技術の発達に伴う防衛装備品のスマート化6、ネットワーク化7、無人化といった技術動向を踏まえた研究開発には、重点分野を明確化した中長期的な研究開発ビジョンを官民で共有し、民間企業が長期的視点に立った設備投資や人員配置などを可能とする環境の整備が必要となる。また、最近の軍事技術と民生技術のボーダーレス化、デュアル・ユース化の進展に伴い、大学や研究機関との連携を一層強化していく必要もある。このため、防衛省は先進的な民生技術についての基礎研究を公募・委託することにより、ここで得られた研究成果を将来の防衛省の研究開発に応用するとともに、委託先の民間企業や大学においては民生分野での応用ができるようにするため、安全保障技術推進制度としてファンディング(競争的資金)8制度を導入している。これは防衛省としては全く新しい制度として平成27年度から開始したものであり、その後も順次助成規模を拡充して実施している。
   ここまで防衛生産・技術基盤の維持・強化のための新しい二つの取組みについて簡単に紹介したが、例えば米国での国防高等研究計画局(DARPA)9が革新的で新しい技術分野に行っている研究助成制度に非常に多くの大学や研究機関等が参加している現状を見るに、日本の場合はまだまだ欧米諸国に比べると産学官の連携が十分とは言えない状況にある。
   安全保障の主体性の確保やバーゲニング・パワーの向上のためには、現在の制度の更なる改革や新しい制度を今後も積極的に取り入れることが必要である。具体的には、経済産業省との連携強化や内閣府(総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)10)が取り組んでいる府省横断型の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)11や革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)12といった政府全体としての産学官・関連府省が一体となった取組みとの連携を積極的に推進していくことが必要と思われる。
   先に一つ目のポイントで示したように一度防衛生産・技術基盤を失ってしまうと、その基盤を再構築することは極めて困難であり、再構築するためには非常に長い歳月と多大な経費を必要とすることとなる。防衛生産・技術基盤の維持・強化の重要性をよく認識し、限られた予算の効果的・効率的な使用に留意しつつ、政府全体として今後も様々な施策を推進していく必要がある。

(幹部学校運用教育研究部 ロジスティクス研究室 塩﨑 直)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省・海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

--------------------------------------------------------------
1 新艦艇:周辺海域の防衛や海上交通の安全確保及び国際平和活動等を機動的に実施し得るよう、多様な任務への対応能力の向上と船体のコンパクト化を両立させた新たな護衛艦。
2 民生用にも防衛用にもどちらにも使うことができる。
3 わが国の防衛産業政策確立に向けた提言:日本経済連合会(2009年7月14日)
4 わが国の防衛生産・技術基盤を如何にすべきか~防衛省・新戦略への提言~:自由民主党政務調査会
5 防衛生産・技術基盤戦略~防衛力と積極的平和主義を支える基盤の強化に向けて~:防衛省(平成26年6月)
6 スマート化:情報通信技術を駆使した情報収集と、コンピュータによる高度な制御・処理能力を有すること。
7 ネットワーク化:複数、異種の装備システムがデータリンク等を介して有機的に連携すること。
8 ファンディング(競争的資金):資源配分主体が、広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む複数の者による科学的・技術的観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者等に配分する研究開発資金。
9 米国国防高等研究計画局:DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)は、米国防省の内部部局の一つで1958年に設立され、6つの研究室と上級技術職20名、プログラムマネージャー(PM)約100名で構成される。独自の研究所は持たず、PMが技術課題を設定し、革新的アイデアを持つ研究者・技術者に対して、公募、審査、契約、助成を行う。
10 CSTI:内閣府に設置され内閣総理大臣を議長として14人の議員で構成され、科学技術・イノベーション政策推進のための司令塔として、わが国全体の科学技術を俯瞰し、総合的かつ基本的な政策の企画立案及び総合調整を行う。
11 SIP:CSITが司令機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために創設されたプログラム。
12 ImPACT:実現すれば産業や社会のあり方に大きな変革をもたらす革新的な科学技術イノベーションの創出を目指し、ハイリスク・ハイインパクトな挑戦的研究開発を推進することを目的として創設されたプログラム。