海上自衛隊幹部学校

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 戦略研究会

 マルチドメインによる海域の防衛

(コラム125 2018/11/01)

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   本年実施されたRIMPAC(Rim of the Pacific Exercise:環太平洋合同演習)2018では、初の試みとして地上部隊(米陸軍のマルチドメインタスクフォース(MDTF:Multi-Domain Task Force)及び陸自の地対艦ミサイル連隊)による地対艦ミサイルの実射訓練が行われた2。また、RIMPAC2018の連合任務部隊を統括するジョン・アレクサンダー米海軍第3艦隊司令官は、「(次回の)RIMPAC2020では、これを更に拡大する。(RIMPACは)海上演習であるが、我々海上兵力は、海上の作戦環境に関し、陸上兵力の支援を得ることとなった。」と述べている2

   RIMPAC2018での地上部隊の地対艦ミサイル実射訓練については、1年以上前の前年(2017年)5月に米国ハワイ州において行われたLANPACシンポジウム32017で、ハリー・ハリス太平洋軍司令官(当時)4が言及している。加えて、同司令官は「この(1年後のRIMPACでの地上部隊による)訓練は、『太平洋軍におけるマルチドメイン戦闘構想(Multi-Domain Battle Concept)』の重要な部分を成す。統合や連合により各軍種が互いの領域(Domains)において作戦を行う複雑な環境下において、陸軍の地上部隊には、艦船を撃沈し、ミサイルや航空機を撃墜することを私は望んでいる。」と述べており5、RIMPAC2018における注目の訓練になっていた。

   更に1年、時間をさかのぼると、ハリス司令官は2016年のLANPACシンポジウム2016におけるスピーチで、マルチドメイン戦闘構想について披露している。この中で、南北戦争において陸軍砲兵隊が沿岸で艦船に対する攻撃や対空戦闘を行ったこと等に触れ、「陸軍は、沿岸防衛等に復帰することを検討すべきである。海軍や空軍は、空母や航空基地等から陸上部隊支援のための地上への攻撃力の投射を行っているが、陸軍は地上から他の領域に力を投射するとともに、シームレスに領域を横断して作戦を遂行する時代が来ている。」と発言している6。このLANPACシンポジウム2016では、マルチドメインの戦闘や、戦域のほとんどが海洋である米太平洋陸軍にとって、どのように地上部隊を活用するのかについて大きく焦点が当てられた。

   マルチドメインの戦闘は、コラム1166で中矢が紹介しているとおり、「陸・海・空領域のみならず、宇宙・サイバー・電磁スペクトラム領域を含む全領域(Multiple domains)において優勢の糸口を創出するための能力の収れん」7である。米軍においてマルチドメイン戦闘がクローズアップされているのは、中矢が指摘するとおり、マルチドメインの脅威の蓋然性の高まりと危機感を米軍が強く意識している現れであるとともに、脅威への対応もマルチドメインで行うという米軍の方向性も示唆している。

   一方、ロバート・ブラウン米太平洋陸軍司令官が「最初は、マルチドメイン戦闘構想について、従来の統合運用(Joint Operations)と同様ではないかと思うかもしれない。これはある面では真実であり、(統合運用により)クロスドメイン(Cross-Domain)の効果を発揮するという点では、全く新しいことではない。」と論じている9ように、マルチドメイン戦闘構想を「統合運用(Joint Operations)を深化し、各軍種の能力を統合・一体化(Integration)した姿」と捉えることもできる。

   RIMPAC2018で行われた地上部隊による地対艦ミサイルの実射訓練(言い換えると、陸軍を含めた複数の領域での海上作戦環境の構築)は、マルチドメイン戦闘のごく一部分にすぎないが、多国籍間の演習で、米軍が数年来検討してきたマルチドメイン戦闘構想の一場面が示された点で画期的と言える。また、マルチドメイン戦闘構想を推進する上では、3つの主要分野(「組織と手順」、「技術革新」、「教育と訓練を通じた人の育成」)でのアプローチが必要10であり、一朝一夕で成し遂げられるものではないが、RIMPAC2018に関しては、まずは、できるところから演習等を積み重ねていくことの第一歩として評価できる。

   ここからは、自衛隊の運用について考える。このキーワードとしては、「統合」と「領域横断的(クロス・ドメイン)な防衛力」が挙げられる。

   「統合」については、コラム12311で岩村が概念と由来等について記しているが、ここでは、自衛隊の統合運用について触れる。統合運用の形態は、大臣の指揮下に統合任務部隊(JTF:Joint Task Force)12を組織して活動する場合と、協同して活動する場合13がある14

   防衛省は、平成31年度概算要求で、あらゆる事態において国民の命と平和な暮らしを守り抜くため、陸・海・空という従来の領域にとどまらず、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を横断的に活用した防衛力の構築が必要として、次表のとおり「領域横断的(クロス・ドメイン)な防衛力の強化」を予算要求している15












新領域の
能力強化
宇宙領域の能力強化
サイバー領域の能力強化
電磁波領域の能力強化
海空領域の
能力強化
航空領域の能力強化
海上領域の能力強化
スタンド・オフ火力の強化
太平洋側の島嶼部における防空態勢の強化
弾道・巡航ミサイル攻撃対処能力の強化
機動・展開能力の強化
運用基盤の
強 化
継戦能力・抗たん性の強化
輸送力の強化
指揮統制・情報通信体制の整備
装備品の可動率の向上
施設の機能強化
大規模災害
等への対応
災害対処拠点となる駐屯地・基地等の機能維持・強化
大規模・特殊災害等に対応する訓練等の実施
災害対処に資する装備品の取得等
機動・展開能力の強化

出所:防衛省『我が国の防衛と予算(平成31年度概算要求の概要)』を基に筆者作成

   現状として、自衛隊はマルチドメイン戦闘構想を採用していないが、前述のとおりマルチドメイン戦闘構想を「統合運用を深化し、各軍種の能力を統合・一体化した姿」と捉えれば、自衛隊の運用や「領域横断的(クロス・ドメイン)な防衛力」を考える上で、マルチドメイン戦闘構想の概念を適用することには意義がある16。領域横断的(クロス・ドメイン)な防衛力を強化するためには、予算要求しているような装備品の能力向上はもちろんのこと、いかに各自衛隊の能力を統合・一体化するかに焦点を当て、そのための組織や手順、指揮統制・情報通信体制といった面にまで、統合運用を深化させることが肝要である。

   次に、領域横断的(クロス・ドメイン)な防衛力の一例として、海域を防衛するための作戦(周辺海域の防衛17又は海上交通の安全確保18)の一部である対水上戦について、特に陸・海・空自協同の対艦攻撃を取り上げて考察する。

   対艦攻撃の手段として、我が国では、海自の潜水艦による魚雷のほか、陸・海・空自がそれぞれ対艦ミサイルを装備している19が、陸・海・空自の間では使用時期や用途あるいは意義が少しずつ異なる。陸自の地対艦ミサイルは、島嶼部を含む我が国領土への上陸侵攻兵力を洋上で阻止するために使用する。海自の対艦ミサイルは、侵攻兵力の撃破のみならず、海域を防衛するために必要な場合には、侵攻兵力以外の相手国の水上艦船の撃破にも使用する。空自の空対艦ミサイルは、陸・海自の作戦への支援としての位置付けと考えられる。攻撃する時期や位置に関しては、陸自は部隊の展開・配備先で待ち構えるのに対し、海・空自は、対艦ミサイルの発射母体(航空機や艦艇)が機動性を有するため、状況により、陸自の地対艦ミサイルの射程外の遠方での対応が可能であり、自衛隊全体で縦深性が確保されている。また、海・空自の航空機による空対艦ミサイル攻撃のためには、我の航空優勢20を確保した上で射程圏内まで航空機が進出しなければならず、この点で、相手国の水上艦船の行動を抑止する効果は一時的である。一方で、陸自の地対艦ミサイルは、機動性に劣るものの、一旦、部隊が展開・配備したならば、その場所から相手国の水上艦船に対し、常続的に近接等を抑止する効果を発揮することができ、展開・配備先周辺海域での海上優勢21の確保にも寄与する側面がある。

   このような陸・海・空自間の差異から、従来の対艦攻撃に関する統合運用は、侵攻兵力に対しては、海空の協同で対処した後、陸自が海空の支援を得て対処し、海域の防衛のためその他の水上艦船を撃破する場合は、空自の支援を得て海自が実施する形態であった。つまり、陸自の地対艦ミサイルは、その射程距離と発射装置の機動性から、専ら侵攻兵力の洋上阻止用の装備と位置付けられ、海域の防衛のための対艦ミサイル攻撃は、ほぼ海自と空自が担ってきた。

   今後は、対艦ミサイルの能力向上(射程延伸)により、陸・海・空自の対艦ミサイル射程圏の重複する海域が広くなることから、島嶼防衛(侵攻兵力の撃破)のみならず海域の防衛のための作戦についても、陸自の地対艦ミサイルが海・空自とともに役割を担うことが可能になる。また、陸・海・空自による海域の防衛は、各軍種の能力を統合・一体化し、統合運用を深化するという、マルチドメイン戦闘構想の観点からも望ましい姿である。

   今後は、対艦ミサイルの能力向上(射程延伸)により、陸・海・空自の対艦ミサイル射程圏の重複する海域が広くなることから、島嶼防衛(侵攻兵力の撃破)のみならず海域の防衛のための作戦についても、陸自の地対艦ミサイルが海・空自とともに役割を担うことが可能になる。また、陸・海・空自による海域の防衛は、各軍種の能力を統合・一体化し、統合運用を深化するという、マルチドメイン戦闘構想の観点からも望ましい姿である。

   陸自の能力向上した地対艦ミサイルについては、配備位置によっては相手国の水上艦船が主要海峡等を通過することに常続的に影響を及ぼし、海域の防衛にも寄与することが可能となる。部隊の展開・配備先の決定に当たっては、このことを考慮するとともに、陸・海・空自が協同で対艦ミサイル攻撃を行う際の手順等も更に統合・一体化を図る必要がある。

(海上自衛隊幹部学校運用教育研究部 作戦研究室 南薗 健一)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 STARS AND STRIPES “Army test-fires naval strike missile off Hawaii”, July 13, 2018 (https://www.stripes.com/news/army-test-fires-naval-strike-missile-off-hawaii-1.537468)
2 STARS AND STRIPES “RIMPAC begins without China but adds Army and Air Force firepower”, June 29, 2018 (https://www.stripes.com/news/rimpac-begins-without-china-but-adds-army-and-air-force-firepower-1.535333)
3 LANPAC(Land Forces Pacific:太平洋地域の地上軍)シンポジウム:米陸軍協会(Association of the United States Army)が主催し、毎年1回行っているアジア・太平洋地域の陸軍種のシンポジウム
4 太平洋軍(USPACOM:U.S. Pacific Command)は、全世界を6つの担当区域に分けた米軍の地域別統合軍の1つであり、概ね太平洋・インド洋(東側)方面を担当する。2018年5月30日に、司令官がハリー・ハリス海軍大将からフィリップ・デービッドソン海軍大将に交代するとともに、名称もインド太平洋軍(USINDOPACOM:U.S. Indo-Pacific Command)に変更された。
5 STARS AND STRIPES “Army to fire Navy missiles at next year’s Rim of the Pacific exercise”, May 25, 2017 (https://www.stripes.com/news/army-to-fire-navy-missiles-at-next-year-s-rim-of-the-pacific-exercise-1.470086). 発言の全文は次のとおり。U.S. Indo-Pacific Command ”Association of the United States Army LANPAC Symposium and Exposition” May 24, 2017 (http://www.pacom.mil/Media/Speeches-Testimony/Article/1193171/association-of-the-united-states-army-lanpac-symposium-and-exposition)
6 U.S. Indo-Pacific Command “LANPAC Symposium 2016: Role of Land Forces In Ensuring Access To Shared Domains” May 25, 2016 (http://www.pacom.mil/Media/Speeches-Testimony/Article/781889/lanpac-symposium-2016-role-of-land-forces-in-ensuring-access-to-shared-domains/)
7 中矢 潤「RIMPAC2018のマルチドメイン(Multi-Domain)化」について, 2018/07/20, (リンク
8 U.S.ARMY TRAINING AND DOCTRINE COMMAND “Multi-Domain Battle: Evolution of Combined Arms for the 21st Century”
9 Gen. Robert B. Brown, U.S. Army, “The Indo-Asia Pacific and the Multi-Domain Battle Concept”, MILITARY REVIEW, September-October 2017, p17. 転載記事は次のとおり。 (http://www.pacom.mil/Media/News/News-Article-View/Article/1125682/the-indo-asia-pacific-and-the-multi-domain-battle-concept)
10 Ibid, pp17-18
11 岩村研太郎「統合」について, 2018/10/2,(リンク
12 自衛隊法第22条第1項又は第2項に基づき、特定の任務を達成するために特別の部隊を編成し、又は隷属する指揮官以外の指揮官の一部指揮下に所要の部隊を置く場合であって、これらの部隊が陸・海・空自の部隊のいずれか2以上からなるものをいう。『平成30年版防衛白書』 311ページ
13 ある特定の共通の目的を達成するために、指揮関係にない2つ以上の自衛隊の部隊が相互に協力して活動を行うこと。
14 自衛隊の統合運用体制は、①統幕長が自衛隊の運用に関して軍事専門的観点から大臣を一元的に補佐、②自衛隊の運用に関する大臣の指揮は統幕長を通じて実施、③自衛隊の運用に関する大臣の命令は統幕長が執行、を基本としている。統合運用(統合任務部隊を組織する場合又は協同により活動する場合)はもとより、単一の自衛隊の部隊を運用して対処する場合であっても、②・③の自衛隊の運用に関する大臣の指揮命令は、統幕長を通じて行われる。『平成30年版防衛白書』 310~311ページ
15 防衛省『我が国の防衛と予算(平成31年度概算要求の概要)』(http://www.mod.go.jp/j/yosan/2019/gaisan.pdf
16 現状において、「マルチドメイン(Multi-Domain)」と「クロスドメイン(Cross-Domain)」との間に、我が国では明確な線引きや定義はない。
17 洋上における対処、沿岸海域における対処、主要な海峡における対処及び周辺海域の防空からなり、これら各種作戦の成果を積み重ねて敵の侵攻を阻止し、その戦力を撃破、消耗させることにより周辺海域を防衛する。『平成30年版防衛白書』340ページ
18 対水上戦、対潜戦、対空戦、対機雷戦などの各種戦を組み合わせて、哨戒(敵の奇襲を防ぐ、情報を収集するなどの目的をもって、ある特定地域を計画的に見回ること)、船舶の護衛、海峡・港湾の防備を実施するほか、航路帯(船舶を通航させるために設けられる比較的安全な海域)を設定して我が国の船舶等を直接護衛する。『平成30年版防衛白書』342ページ
19 陸自は地対艦誘導弾部隊、海自は護衛艦・ミサイル艇・潜水艦・哨戒機(P-1、P-3C)、空自は支援戦闘機(F-2)が対艦ミサイルを発射可能
20 わが航空部隊が敵から大なる妨害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態。『平成30年版防衛白書』 314ページ
21 海域において相手の海上戦力より優勢であり、相手方から大きな損害を受けることなく諸作戦を遂行できる状態。『平成30年版防衛白書』314ページ