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 戦略研究会

 「シーコントロール」概念というヒント

(コラム124 2018/10/26)

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   米海軍第2艦隊の復活とその意味

   8月24日、既に本年5月に発表済みだった米海軍の第2艦隊が7年ぶりに復活した1。同艦隊は、米海軍の艦隊総軍(U.S. Fleet Forces Command: USFF)に属しており、主な任務は、米東海岸及び北大西洋の艦艇・航空機・揚陸部隊の運用・管理に加え、偶発的な事象に対するNATO(北大西洋条約機構)を含めた統合作戦・共同作戦の計画・実施、とされている2。第2艦隊復活の背景としては、米国を取り巻く安全保障環境が挑戦的かつ複雑化しており、力の競争の時代へ回帰した今日、特に、北大西洋での対処が必要である、と指摘されている3。一般メディアは、北極海や北大西洋で活発化するロシア海軍に対抗するもの、とさらに踏み込んで評している4。創設式典において、リチャードソン(John Richardson)海軍作戦部長は、北大西洋における米国の海上優勢の維持(maintain America’s maritime superiority)の必要性について言及している。すなわち、第2艦隊が北大西洋における機動性と戦闘能力を高め、そして、北大西洋での海上優勢が米国の安全と繁栄をもたらす、というものである5
   これは、米国にとってのもう一つの外洋へのアクセスを担う米太平洋艦隊の取り組みとも相通ずる6。その取り組みとは、能力向上の重点を、海賊や武装集団に対処するローエンドな能力から海上戦闘を戦い抜くハイエンドな能力へと移行させるものである。米太平洋艦隊のこのような問題認識と新たな方向付けの源流は、当HPのコラム110「スウィフト前太平洋艦隊司令官が主導する取組について」も指摘しているように、1年前の指針にさかのぼることができる。その指針とは、2017年1月、米海軍太平洋艦隊水上部隊司令官(Commander, Naval Surface Force, U.S. Pacific Fleet)の『水上部隊戦略 -シーコントロールへの回帰-』(原題:Surface Force Strategy - Return to Sea Control - )である7。その中で強調されているのが、航行の自由を阻害する脅威に対し、必要な時と場所に水上部隊を展開して力を行使することにより、米国・同盟国の利益を確保する、ということである。
   これら2つのエピソード、すなわち、第2艦隊の復活と太平洋艦隊の新たな取り組みとを合わせて俯瞰すると、米海軍が太平洋及び大西洋で同様の情勢認識に立って海軍力のあり方を方向づけていることが理解できる。それは、端的に言うと、米海軍が両大洋におけるシーコントロール(sea control)の確保をねらいとしているということである。では、「シーコントロール」とは何か。以下、シーコントロールの意味について、概観する。

   「シーコントロール」という概念
   この「シーコントロール」という概念は、一般には馴染みが薄く、それよりもむしろ、「制海権」(command of the sea)の方が知られていると思われる。「制海権」は、19世紀末に米国の海軍史家マハン(Alfred T. Mahan)が古典的名著『海上権力史論』(原題:The Influence of Sea Power Upon History, 1660-1783)で取り上げた概念で、海洋の絶対的支配を意味すると理解されてきた8
   これに対し、「シーコントロール」という用語については、米海軍大学校長や第2艦隊(当時)司令官を歴任したターナー(Stansfield Turner)が、「制海権」との対比において既に1970年代半ばに言及している9。ターナーによれば、「制海権」は、科学技術の進歩等により、もはや大国でさえ実現不可能となった。そのため、必要な時と場所において海洋を主体的に利用できる「シーコントロール(制海)」が重要であると結論付けている10
   他方、2015年3月に米海軍が発表した“A Cooperative Strategy for 21st Century Seapower”からは、米海軍が今まで以上に同盟国、提携国との連携を重視している姿勢が読み取れる11。米国を取り巻く現在の安全保障環境について、米国と海を介して接する大国との力の競争と いった側面がより鮮明になりつつあるため、シーコントロールの確保が米国及び同盟国の安全保障に不可欠な前提条件として認められることであろう。つまり、米国が「シーコントロールへの回帰」を実現できるか否かは、国家主体の周辺脅威の動向、米国自身の資源配分の仕方、同盟国との協力の程度によるといえる。このため、米国の取り組みと同盟国の取り組みの組み合わせについて考えるにあたり、今後の米第2艦隊とNATOの双方の取り組みを観察していくことは日本にとっても有用だと考える。

   日本へのヒント
   日本に目を転じると、本年8月末に安倍首相は、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」を見直すために「安全保障と防衛力に関する懇談会」を開催した。8月29日の第1回会合において委員からは、国際環境について「諸外国では経済的利益だけでなく地政学的利益を追求することに積極的な動きがある」という指摘がなされている12。他方、海外からの視点としても、米国の東アジア安全保障研究者ヘギンバザム(Eric Heginbotham)とサミュエルズ(Richard Samuels)が連名で、国際関係の専門誌Foreign Affairsのホームページにおいて、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増していると指摘している13
   上述のとおり、米海軍が同盟国との連携強化を含めてシーコントロールの確保に力を入れていることと合わせて考えると、日本にとって、海上交通の安全確保においてはもちろんのこと、島嶼部の防衛や米軍の来援基盤の確保といった、日本周辺海域におけるシーコントロールの確保の重要性があらためて浮かび上がってきているといえよう。
   米第2艦隊とNATOがシーコントロールに係る協力をいかに進めていくかについて注視しつつ、日本周辺海域におけるシーコントロールの確保に向けて、海自と米海軍は更なる緊密な連携が求められることは必須である。

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 奥田哲也)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 戦力構成の維持及び近代化のため、米国防省の全体予算の削減方針により、2011年9月に艦隊総軍(U.S. Fleet Forces Command: USFF)に吸収合併された。
2 “CNO Announces Establishment of U.S. 2nd Fleet,” May 4, 2018, http://www.navy.mil/submit/display.asp?story_id=105453.
3 Ibid. 安全保障環境に関するこのような認識は、本年1月に発表された『米国国防戦略概要』(Summary of the 2018 National Defense Strategy of the United States of America)で述べられた内容と一致する。同戦略概要については、当HPのコラム096「2018米国国防戦略(National Defense Strategy)を概観する」を参照。
4 Sam LaGrone, “Navy Reestablishes U.S. 2nd Fleet to Face Russian Threat; Plan Calls for 250 Person” USNI NEWS, May 4, 2018.
5 “Navy Establishes U.S. 2nd Fleet, Vice Adm. Lewis Assumes Command,” August 23, 2018, https://www.navy.mil/submit/display.asp?story_id=106837
6 詳細は、当HPのコラム110「スウィフト前太平洋艦隊司令官が主導する取組について」を参照。
7 https://www.public.navy.mil/surfor/Documents/Surface_Forces_Strategy.pdf
8 世界的な植民地の獲得を通じた膨張傾向の時代にあって、「制海権」の概念が大いに注目された側面もある。
9 Geoffrey Till, Seapower, Routledge, 2013, p. 151.
10 Ibid., p. 150.
11 https://www.navy.mil/local/maritime/150227-CS21R-Final.pdf
12 「安全保障と防衛力に関する懇談会」(第1回会合)議事要旨、首相官邸HP。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/anzen_bouei2/dai1/gijiyousi.pdf
13 Eric Heginbotham and Richard Samuels, “A New Military Strategy for Japan,” snapshot, Foreign Affairs, July 16, 2018, https://www.foreignaffairs.com/articles/2018-07-16/new-military-strategy-japan