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 戦略研究会

 「統合」について

(コラム123 2018/10/02)

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   現在、自衛隊の任務を迅速かつ効果的に遂行するため、防衛省・自衛隊は、陸・海・空自を一体的に運用する統合運用体制をとっている。また、現下の安全保障環境も踏まえ、統合運用機能の強化に取り組んでいる1。こうした中、今年4月、防衛省が陸海空自衛隊の運用を常時一元的に指揮する「統合司令部」の創設に向けた最終調整に入ったと報道された。その理由として、東日本大震災では、当時の統幕長が半分以上の時間を首相官邸への報告や米軍との調整に割かれ、部隊運用から目を離さざるを得ない場面が多かったと言われる2。このように、統合運用に対する関心が高まっている今、改めて「統合」の概念と由来について振り返っておきたい。
   防衛用語の「統合」は、「同一国家に属する二以上の軍種またはそれらの部隊等が、ある特定の目的達成のために協力することをいう。この際、指揮関係により単一指揮官による場合と、そうではない場合(協同という)があり、広義では両者を、狭義では前者のみを指す3」。一方、一般的に統合とは「二つ以上のものを一つに統べ合わせること」を指すが、この「統べる」には「個々の物を一つにする、別々のものをまとめる」のほか、「支配する、管轄する」との意味が含まれる4。  防衛用語の「統合」に対応する英語は、”Joint”が最も一般的であろう。一方、戦前の英国では、米国の”Joint”に相当する用語として”Combined”が用いられていた5。研究社の『新英和大辞典』第五版によれば、それぞれ以下のような意味が最初に記載されている6

   Joint:接合箇所、継ぎ目、合わせ目、目地、接点
   Combined:結合した、連合の、協力した

   2018年8月に改訂された米統合軍の用語集DOD Dictionary of Military and Associated Termsによれば、”Joint”は以下のように定義されている7

   Joint:Connotes activities, operations, organizations, etc., in which elements of two or more Military Departments participate.

   なお、”Combined”は以下のように国をまたいだ「連合」の意味で用いられており、”Joint”と使い方が区別されている8

   Combined : A term identifying two or more forces or agencies of two or more allies operating together.

   いずれも「二以上の主体の連接」という意味が強い。一方、他にも英語には、”Integration”、”Unification”といった用語があり、これらは組織的な一体化の意味が強い。『新英和大辞典』第五版では、それぞれ以下の意味が最初に記載されている9

   Integration : 完全(体)にすること、集成、統合、完成
   Combined:Unification : 統一(状態)、単一化、合一

   とある10。”Unification”の項目はないが、以下の記載がある11

   Unified command:A command with a broad continuing mission under a single commander and
   composed of significant assigned components of two or more Military Departments

   やはり、組織の一体化を意味している。
   なお、米国の統合参謀本部は”Joint Chief of Staff ”、地域別・機能別の統合軍司令部は”Unified Combatant command”と、日本語訳では同じ言葉であっても、組織によってそれぞれ用語が使い分けられている。
   それでは、日本の「統合」という防衛用語はどこからきたのか。戦前は、”Joint”は主に「協同」または「連合」と訳されていた。陸軍の「統帥綱領」では、軍種間の「協同」と他国との「連合」は区別されていたが 、実際の使い分けは曖昧であった13。昭和12(1937)、20(1945)年に陸軍主導で行われた研究では、「統合」という用語が従来の”Joint”(協同、連合)と異なる、組織的な”Integration”の意味で用いられていたことが確認できる14。このため、海軍側は陸軍の動きを「陸軍が自分達の作戦に都合のよいようにしたいという下心から発したもの15」と見ており、提案に消極的であった。こうした姿勢の背景として「海軍軍人のどこかに、陸軍に吸収合併されることへの危惧があった16」とされる。
   明治前半の日本では、本土で外敵を迎え撃つ守勢的な国防戦略が主流で、海軍不要あるいは軽視の主張も珍しくなかった17。陸軍部内で攻勢的な国防思想が台頭するにつれ、海軍の必要性は認識されていくが18、国防機構は陸主海従の体制にあった19。こうした陸主海従型の”Integration”に海軍は強く反発し、国防における海軍の決定力を強調する主張を展開した。海軍大臣の山本権兵衛は、明治32(1899)年の戦時大本営条例の改正意見では「我海軍退嬰的姿勢ヲ取ルニ至リ始メテ陸海軍協同作戦ノ機会ヲ生スヘキ」こと等を理由に、陸海対等の国防機構への移行を強く求めた20。また、海軍の用兵思想に大きな影響を与えた佐藤鐡太郎は、明治35(1902)年出版の『帝国国防論』で「若シ第一線ノ軍備ニシテ既ニ充実スルトキハ仮令第二線第三線ノ備厳ナラスト雖モ復タ克ク国防実ヲ挙ケ21」と主張した。こうした主張は日露戦争までの海軍拡張の根拠となり、日清・日露戦争の勝利の一因となった22
   一方、行き過ぎた艦隊決戦主義は従来の”Joint”をも阻害する副作用を生じた。第一次世界大戦中のガリポリ上陸作戦の戦訓を受けて、戦間期には日本でも上陸作戦研究が盛んになり、大正13(1924)年には陸軍が「上陸及上陸防御作戦綱要案」を編纂した23。ところが、昭和2(1927)年に陸海軍共通の「上陸作戦綱要草案」に更新された際、「上陸防禦」が削除された。この理由は「『上陸防御作戦』は海上権の喪失した暁に現出するものである24」との海軍の主張によるものと言われる。一方、本草案を解説した当時の海軍大学校の講義録には、連合艦隊の「存亡ハ直ニ国軍ノ勝敗ヲ意味ス(中略)連合艦隊ハ常ニ最善ノ準備ト万全ノ姿勢ヲ以テ乾坤一擲ノ決戦ニ備ヘサルヘカラサル25」と、艦隊決戦優先の考え方が記されている。また、昭和15(1940)年の東部軍管区特別防空演習では、「敵機を一機たりとも本土に入れさせない。そのために、海軍は海の護りを行なっている。空襲必至との考えは、海軍の侮辱である26」と発言した海軍軍人がいたとされる。これらは明治期の山本権兵衛、佐藤鐡太郎の主張と本質的に同じ論理である。

   このような海軍側の姿勢に対して、「全期間を通じて、陸海軍特に海軍は統合(筆者注: ”Joint”、”Integration”双方の意味を含む)に非積極的であった27」とする批判もある。しかし、明治以来の陸軍からの”Integration”の要求が海軍の警戒心を引き起こし、機能面での”Joint”の阻害につながり、陸軍による更なる”Integration”の要求を招く、という悪循環の構造が生じていたことが、問題の本質であろう。先述の「統合」の提案に限らず、例えば戦間期の航空省設置問題や空軍独立問題を巡り、海軍が消極的な姿勢を取った背景には、同様に陸軍本位の要求や、”Integration”の「形」から始めようとする陸軍に対する不信感があった28こうした相互不信が高じた結果、機能面で似通った陸海両軍の航空部隊、他軍種の専門領域に大きく食い込んだ大規模な陸軍船舶部隊・海軍陸戦隊に象徴されるように、あたかも別々に”Integration”された二つの軍というべき、非効率な体制に陥った。
   戦後は戦時中の反省を踏まえ、”Unified Combatant command”の機能を持つ「一軍方式」の機構を目指す動きもあったが、陸主海従型の”Integration”に対する警戒は払拭されず、米国の統合参謀本部に倣った統合幕僚会議が設けられたに留まった29。すなわち、そこに指揮の一元化はなく、”Unified Combatant command”の機能を欠いていた。以後、統合幕僚会議の権限は順次強化され、平成18(2006)年に統合幕僚長を長とする統合幕僚監部が発足し、現在に至る30。統合幕僚監部は、部隊運用に責任を持つフォース・ユーザーの系統に属する31。そして、自衛隊に対する大臣の指揮は、統合幕僚長を通じて行い、自衛隊に対する大臣の命令は、統合幕僚長が執行する体制にある32。一方、米国の指揮系統では、国防長官と統合軍の間に統合参謀本部議長を介する体制にはなっていない33。仮に報道のように、統合幕僚監部と別に統合司令部が創設されたとすれば、米軍のように”Joint Chief of Staff ”、”Unified Combatant command”の二つの機能を組織的に分離し、それぞれの役割に専念する態勢になるのかもしれない。
   他方で、組織の一元化が必ずしも良い結果を生む訳ではない。例えば、1960年代におけるカナダ軍は、”Integration”または”Unification”と呼称される軍の「統合」が試みられた34。この動機は財政的・行政的な条件の改善・効率化であったと言われる35。改革は「経済的効率化」「国防本部(NDHQ)機能の改善」の面では成果を挙げた反面、陸海空軍の三軍を完全に単一の「カナダ軍」に統一し、共通の制服を着用させる1968年の試みは、かえって「帰属意識」「忠誠心」「士気」の低下をもたらしたと批判されている36。行き過ぎた ”Integration”の追求は、軍の能力を阻害するおそれがある。
   そもそも各軍種が独立していることは、それぞれが高い専門性を求められていることに起因する。例えば、「空軍の主たる組織の存在理由は(中略)『制空権の獲得』37」であり、これが戦間期~第二次世界大戦後にかけての世界的な空軍独立に繋がった。批判はあるが、米宇宙軍の再度の独立が提唱されているのも38、その一例であろう。我が国の防衛上真に重要なのは、過去の歴史にが示すとおり、「統合」「協同」の「名」や「形」に固執して組織の統一あるいは分立・新編など、組織ありきの議論を進めることではなく、共通の目的達成のため、各自衛隊がそれぞれの専門性を活かしつつ有機的に連携し、運用面で「実」を挙げられる態勢作りのための議論である。

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦史統率研究室 岩村研太郎)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人の ものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 『平成30年版防衛白書』311頁。
2 統合司令部を創設、防衛省、最終調整へ 自衛隊を常時・一元指揮」産経ニュース、2018年4月25日、www.sankei.com/politics/news/180425/plt1804250003-n2.html.
3 防衛学会編『国防用語辞典』朝雲新聞社、1980年、250-251頁、真邉正行編『防衛用語辞典』国書刊行会、2000年、327-328頁。
4 新村出編『広辞苑』第4版、岩波書店、1991年。
5 戦間期英国の統合の規範は” Manual of Combined Naval and Military Operations ”である。この改訂・発達の経緯は、K J. Clifford, Amphibious Warfare Development in Britain and America, Edgewood, 1981, pp. 30-72参照。
6 小稲義男編『新英和大辞典』第五版、研究社、1980年、424、1140頁。
7 DOD Dictionary of Military and Associated Terms, August 2018, p. 123,www.jcs.mil/Portals/36/Documents/Doctrine/pubs/dictionary.pdf?ver=2018-09-06-102155-910.なお、本資料は頻繁に更新されている。
8 Ibid, p. 43.
9 小稲義男編『新英和大辞典』第五版、1097、2308頁。
10 DOD Dictionary of Military and Associated Terms, August 2018, p. 115.
11 Ibid, p. 240.
12 「陸海軍協同作戦」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C13071272600、「連合軍の作戦」JACAR:C13071272700。
13 田尻昌次『上陸作戦戦史類例集』陸軍運輸部将校集会所、1932年、7-8頁では、米国のJoint Action of the Army and the Navy Operations, 1927を「米陸海軍協同作戦指針」、作戦の一形態である”Joint Overseas Movement”を「連合渡洋運動」と翻訳。
14 「AB統合ニ関スル研究結果報告」JACAR:C12120345000、「陸海軍ノ統合ニ関スル件 昭和20年3月3日」JACAR:C14061065300。
15 海上自衛隊幹部学校編『高木少将講話集』海上自衛隊幹部学校、1984年、344頁。
16 田中宏巳『横須賀鎮守府』有隣新書、2017年、12頁。
17 同上;山中木公男「明治時代のわが国防の概念について」『防衛大学校紀要 人文・社会科学編』第29号、1974年9月;原剛『明治期国土防衛史』錦正社、2002年、4、20、194-198頁。
18 山本四郎「小川又次稿『清国征討策案』(一八八七)について」『日本史研究』第75号、1964年11月;大山梓編『山縣有朋意見書』原書房、1966年、196-200頁。
19 明治期における陸海軍の対立については、例えば野村實「近代化途上における日本陸海軍の対立」『政治経済史学』第247号、1986年11月;熊谷光久「明治期陸海軍の対立」『政治経済史学』第277号、1989年5月;同「陸主海従思想への海軍の対抗-海軍参謀本部設置問題を中心に-」『政治経済史学』第495号、2007年11月;和泉洋一郎「統合の史的考察(一)」『陸戦研究』通巻第669号、2009年6月参照。
20 陸軍省編『明治軍事史 下』原書房、1966年復刻、1057頁。
21 佐藤鐡太郎『帝国国防論』水交会、1902年、104頁。
22 平野龍二『日清・日露戦争における政略と戦略-「海洋限定戦争」と陸海軍の協同-』千倉書房、2015年、308頁。
23 「上陸及上陸防禦作戦綱要案送附の件」JACAR:C3022691500(第1画像目)。綱要案の現物は確認されていないが、「9、上陸作戦」JACAR:C14020239900及び、「上陸作戦 大正13.1」(防衛省防衛研究所所蔵)収録の資料「海岸防禦」から概要を知ることができる。
24 靖国偕行文庫所蔵の櫻井省三「日本軍上陸作戦に関する史的綜合観察」復員局調整、1950年の中表紙に貼られた、櫻井省三自筆のメモによる。
25 三井海軍大佐「上陸作戦(海陸協同作戦)ニ於ケル諸要務」『戦務第二部(作戦要務)講義摘要』(海幹校資料課所蔵)2-3頁。
26 防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書 本土防空作戦』朝雲新聞社、1968年、66頁。
27 和泉洋一郎「統合の史的考察(三)」『陸戦研究』通巻第672号、2009年9月、69頁。
28 高橋秀幸『空軍独立と組織のイノベーション-旧軍ではなぜ独立できなかったのか-』芙蓉書房出版、2008年、51-84頁;磯部巌「航空省設置に対する陸海軍の確執」『防衛学研究』第22号、1999年12月、74-79頁。
29 高橋秀幸「自衛隊創始期の統合:統合幕僚会議設置に航空自衛隊創設が及ぼした影響-旧軍からの継続性を踏まえて-」『防衛研究所紀要』第19巻第2号、2017年3月、141、146頁;永澤勲雄「自衛力再建期における組織の一元化の問題について-『一軍式』か『三軍均衡方式』かの問題を中心として-」『防衛大学校紀要 社会科学分冊』第93輯、2006年9月、104-116頁;鈴木滋「自衛隊の統合運用-統合幕僚組織の機能強化をめぐる経緯を中心に-」『レファレンス』平成18年7月号、127-128頁。
30 鈴木「自衛隊の統合運用」125-141頁。
31 『平成30年版防衛白書』312頁。
32 同上、310-312頁。
33 JP-1 Doctrine for Armed Forces of the United States, July 2017, pp. Ⅱ-9-Ⅱ-10.
34 The Loyal Education Regiment Military Museum, Integration and Unification of the Canadian Armed Forces:7 July 1964-1 Feb 1968, www.lermuseum.org/1946-to-present/1957-1964/integration-and-unification-of-the-canadian-armed-forces7-july-1964-1-feb-1968.
35 志鳥學修「統合運用の意義」『国際安全保障』第34巻第4号、2007年3月、16頁。
36 同上、19-20頁。
37 高橋『空軍独立と組織のイノベーション』49頁。
38 「『米宇宙軍』2020年までに創設を 副大統領が表明」CNN.co.jp, 2018年8月10日、www.cnn.co.jp/usa/35123863.html