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 戦略研究会

 中国の北極海進出と懸念事項   
-中国国産砕氷船、雪龍2号進水を機に考える-

(コラム122 2018/09/28)

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国産初の砕氷船進水
   2018年9月10日、上海の造船所で中国初となる国産砕氷船、雪流2号が進水した。来年前半にも北極圏や南極近海に投入される見通しで、中国が資源獲得を目指す極地での活動が強化されることになる1。雪竜2号の特徴は、船体強度がPC3基準に達しており2、前後双方向の砕氷が可能である点である。2−3ノットの速度で、厚さ02.メートルの雪をのせた厚さ1.5メートルの氷を連続で砕く能力を備えているとされ、世界で初めて船首・船尾双方向の砕氷技術を搭載した極地科学観測砕氷船と言われている3

  Shenzhen Daily, 2018-09-12
  出所:Shenzhen Daily, 2018-09-124

   中国の北極への関与については、拙稿「北極海の戦略的意義と中国の関与」及び「北極海における安全保障環境多国間制度」で論述したとおりであるが、近年、より積極的、かつ具体的になっている5
   例えば、2012年夏には中国極地研究センター所属の砕氷船雪龍が北極海以外の国としては初めて、北極海の中央海域を航行しアイスランドを訪問、その能力と関与姿勢を実力で示した6。2016年にはChina Oilfield Services Limited (“COSL” )所有の最新型海洋調査船 「HYSY 720」が、100日に及ぶバレンツ海での資源調査をロシアの石油会社の依頼で実施し、中国史上最北の記録を打ち立てるとともに、その能力を示した7

北極海沿岸国と中国
   これら中国の動きの中でも、特に安全保障の分野で懸念されるのが、ロシア、アイスランド及びグリーンランドに対する接近姿勢である。
   アイスランドとは2010年には通貨スワップ協定を締結し、2013年には中国と欧州国家との間では初となる自由貿易協定(FTA)を締結した8。2016年からはオーロラ観測施設の建設が中国極地研究所の出資で進められ、アイスランド・中国共同の研究が本年10月から始まる予定である9
   中国の北極海における投資は、2012年から17年7月までの間で892億ドル(約9兆8400億円)を超えており、「この地域全体の経済規模が約4500億ドルですから、5分の1の影響力を持っていることになります。主な投資先は交通、エネルギーのインフラ建設プロジェクトで、アイスランドとは自由貿易交渉も進められている。特にデンマーク領グリーンランドへの進出は目覚ましいものがあります」(中国ウオッチャー)との報道もある10

   グリーンランドに対する関与は、2014年に拙稿で指摘した頃からはるかに深化している。自治政府首都のヌーク(Nuuk)、ツーリズムの中心イルリサット(Ilulissat)、南部のカコトック( Qaqortoq)の3空港拡張工事への参加に関しては、本国デンマークや北極に最も近い軍事基地を設置している米国も警戒感を示してきた13。今月上旬、デンマーク政府は空港会社への更なる投資を決定し、実質的に中国企業排除の動きに出たものの、水産業その他の資源開発の分野における中国の関与は盛んである11。文化や観光でも今後、中国の影響は増しそうである。空港整備プロジェクトに含まれる南部カコトックにある学校に今年、孔子学院のクラスを開設する計画があり、中国から2人の中国語教師が派遣され中国語や中国文化を教えることとなっている。アイスランドでは最近の10年で10倍近くも中国人観光客が増えており、空港が整備されればグリーンランドでも伸びが大いに期待される13
   人口わずか5万6千人程度で、現状においては本国からの経済支援が不可欠なグリーンランドであるが、今回の空港問題でも自治政府内で内紛をもたらし、9月10日に連立政府が崩壊したばかりである14
   中国の経済支援・影響力行使により、グリーンランドが独立し、親中政権が誕生する事も懸念されている15

  氷上シルクロードと米軍基地、グリーンランドの飛行場計画(Mia Bennett)
  図1:氷上シルクロードと米軍基地、グリーンランドの飛行場計画(Mia Bennett)
  出所:Mia Bennett, Arctic Today

中国の北極政策
   北極海域への関与強化について、習近平主席は2017年7月のロシア訪問時、プーチン大統領と会談し、北極海航路開発における協力推進に合意し、氷上シルクロード構想を明らかにした。同年11月には北京を訪問したロシアのメドベージェフ首相と習主席が会談、「ロシアと共同で北極海航路の開発・利用協力を推進し、『氷上シルクロード』をつくり上げなければならない」と強調した16
   そして、2018年1月には、中国初の北極政策文書、「中国の北極政策」白書を公表した17。これに対し、「中国の海洋覇権の野望が北極海航路にまで及んでいることを隠さなくなった」18、といった、中国の北極進出に警鐘を鳴らす論調が数多く見られる一方19、白書の主眼は、こうした警戒を和らげつつ、自国の北極圏への関与を正当化することにあった、とする分析もある20。当事者の中国政府側は、「近年、一部メディアは「中国北極脅威論」の誇張に熱を上げ、北極への中国の関与にマイナスの影響を与えている。「中国北極脅威論」の一部は誤解によるものだ。「中国の北極政策」の発表以前、外部は疑念や懸念を抱く恐れがあった。このため白書は信頼を増進し、疑念を解消する重要な役割を果たす、と不安解消のための白書を公開したと説明している21
   中国の狙いが、政治的及び戦略的な影響圏の拡大にあるのか、経済権益にあるのか、はたまた平和的な科学的貢献に有るのかは不明である。しかし、その後の中国の行動や、北極海周辺国の反応からは疑念が去ったとは見えない。そのような状況で、今回の国産初の砕氷船雪龍号の進水は、中国の積極的関与姿勢が着実に進行中であることを明示したといえよう。

   気候変動、地温暖化の影響を最も受けるのは極地方であり、北極海が普通の海、となれば地政学的大変動となる。日本も北極海に関する世界的動向に対し、継続的に注意を払う必要がある。

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 石原敬浩)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人の ものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 『読売新聞』2018年9月12日; “China launches its first domestically built icebreaker !,”Arctic Portal NEWS, 13 September 2018.
2 船体強度や設備等などが一定基準に達している船に対し、その砕氷性能等を証明する公的な等級をアイスクラスと呼び、PC(Polar Class)3は「多年氷が一部混在した二年氷の中を通年航行する船」で、氷の厚さは参考値で2~3mとされている。海上自衛隊の砕氷艦しらせはPC2相当(最大5mの氷まで砕氷可)。日本海難防止協会『北極海航路ハンドブック』、2015年、24-25頁。
3 『人民網日本語版』2018年9月10日。
4 http://www.szdaily.com/content/2018-09/12/content_21078398.htm
5 石原敬浩「「北極海の戦略的意義と中国の関与」『海幹校戦略研究』2011年5月(1-1)≪リンク≫。;石原敬浩「北極海における安全保障環境と多国間制度」『海幹校戦略研究』2014 年6 月(4-1)≪リンク≫。
6 『日本経済新聞』2012年9月3日夕刊。;野澤和男「北極氷融解とロシア北方航路NSRの商業航路への期待」、http://www.jasnaoe.or.jp/k-senior/2013/130201-kaiyuu-nozawa-No19.pdf
7 “COSL wraps up Arctic seismic survey,” Offshore Energy Today.com , August 9, 2016、https://www.offshoreenergytoday.com/cosl-wraps-up-arctic-seismic-survey/
8 『日本経済新聞電子版』、2013年4月15日。
9 「中国網日本語版(チャイナネット)」2016年11月27日。;Mia Bennett,“The controversy over Greenland airports shows China isn’t fully welcome in the Arctic — yet. ANALYSIS: A move by Denmark to pay for upgrades to Greenland's airport infrastructure may have kept China out for now, but its influence in the Arctic will continue to grow.” Arctic Today, NEWS, September 13, 2018.
10 「中国、北極で資源強奪進行中 ドイツ華字メディア"南シナ海の今日は北極海の明日の姿“」@nifty. News, 2018年08月18日。
11 Erik Matzen, Tom Daly,“Greenland's courting of China for airport projects worries Denmark,” Reuters World News, March 23, 2018. 昨年訪中したグリーンランド自治政府首相以下の代表団が、中国の建設関連会社 China Communications Construction Co (CCCC) 及びBeijing Construction Engineering Group (BCEG)関係者と会談したとされている。
12 Mia Bennett,“The controversy over Greenland airports shows China isn’t fully welcome in the Arctic — yet. ANALYSIS” Arctic Today, NEWS, September 13, 2018.
13 「【世界を読む】世界最大の島グリーンランドに中国が接近…一帯一路は北極へ」『産経ニュース』2018年5月1日。
14 “A silk road through ice, China wants to be a polar power, It would like a bigger say in the Arctic,” The Economist, Apr 14th 2018. https://www.economist.com/china/2018/04/14/china-wants-to-be-a-polar-power;ジェイソン・レモン「グリーンランドの地下資源と北極圏の軍事拠点を狙う中国」『ニューズウェーク日本版』2018年9月11日。
15 『産経ニュース』2018年5月1日。
16 Li Yang ,“China, Russia to co-build‘Ice Silk Road,” Belt and Road Portal, 2017年7月7日 ;『産経ニュース』2017年11月2日。
17 「「中国の北極政策」、「中国は北極の脅威」に反論」人民網日本語版 2018年1月30日。
18 福島 香織「中国「北極シルクロード」の野望を読み解く」『日経ビジネス オンライン』2018年1月31日。
19 「中国 北極海でも「一帯一路」 権益拡大へ白書発表」『日経新聞電子版』2018年1月26日;「中国の北極白書 権益拡大の動きを警戒したい」『読売新聞』2018年2月13日。
20 山口 信治「中国の北極白書:第三のシルクロード構想と中ロ協調の可能性」『NIDS コメンタリー第 69 号』防衛研究所、2018年 2月。
21 「「中国の北極政策」、「中国は北極の脅威」に反論」『人民網日本語版』2018年1月30日。